バーカボンボン、と。リクエストスペシャル。今回は誰もが知るあのおじさんが出て来ます。
ぶっちゃけ原作はあまり知らないので、期待はしないで下さい。口調や設定も、わりかしいい加減ですので...
※ほぼセリフだけ&短め注意。嫌な方はブラウザバックを
誰だって好きな食べ物。それはケーキ。子供も、大人も、悪魔だって、甘いケーキを食べたいと思っている。
馬鹿になってもいい。全てを理解して、上達してしまったからこそ、二度とそのケーキを食べられない。
嗚呼、あのケーキが食べたい。二度と食べられない、あのケーキに今日も焦がれるのさ...
〜SP58 これが、良いのだ〜
「どうですか? ケーキのお味は?」
「う〜ん、美味しいのだ。やっぱりケーキは甘くて、美味しいから大好きなのだ」
ケーキを食べる客の笑顔を見ているにも関わらず、店員は少しばかり陰った笑みを浮かべる。それに気付いたのか気付いていないのか、腹巻をした男はじっと店員の顔を見る。
「食べたいのだ? このケーキ」
「ああ、いえいえ、私が食べたいのは...ケーキはケーキでも二度と食べられなくて、それでいてきっと世界一美味しいであろうケーキです」
世界一美味しいケーキ、というフレーズを聞いて食べている途中だというのにすぐさま店員の話に夢中に耳を傾ける。まるで子供の様な無邪気さだ。嘗ての天才が、手放して得たであろうその表情に店員は苦笑しながらも話を続ける。
「ずっと昔、ずーっと昔に出したケーキです」
「どの位昔なのだ?」
「お客様が生まれるずっと、ずーっと、物凄くずーっと昔です」
「どんなケーキなのだ?」
「...下手糞そのもの、ぐちゃぐちゃで、調味料すら間違え、味見をしなくとも失敗とわかるケーキでした」
「不味そうなのか?」
「ええ...」
店員は、その時の事を思い出す。
──ジャック。ケーキありがとう
食べた筈だ。なのに...
「でも、
「...そのケーキを作れないのか?」
「ええ。今となっては、二度と作れません。ましてや、私はあの時味見すらしなかった。再現なんてできる筈もない。食べる事なんて...」
「だったら、思い出の中で食べればいいのだ」
馬鹿らしい、子供みたいな一言。その言葉に珍しくも店員はきょとんとした。
「思い出の中で、味見をすれば良いのだ。儂も、今日食べたケーキや、今まで食べたケーキを思い出で食べていっぱい美味しく感じてるのだ」
アホらしい。だが、それが答えか。全てを知った頭脳を捨てた男は自分にそう言ったのか。思わず心からも、表情からも笑みを浮かべた。
「成る程、その通りですねぇ。思い出には、確かにケーキがある。はっは、これは一本取られました」
「ケーキを食べるのか?」
「ええ、ちょっと、思い出の中で、食べてみるとしましょう。彼女は怒るかもしれませんが」
悪魔は笑い出す。
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「嗚呼、
思えば、彼女は最初のお客様で、自分に店の営み方を教えてくれた。初歩的な事と、少し美味しいだけの料理の腕前を教えてくれた。笑顔、お客様の笑顔が大事だって、それを見て自分達も笑顔になるのが、店を営む人の生きがいなんだって教えてくれた。
「彼女に笑顔を齎し、いつのまにかあの日の悪魔にも笑顔を齎し始めてたあのケーキ」
彼にはもう作る事が出来ない。汚れすぎた。ばい菌だらけの両腕だ、そんなんじゃあ誰も笑顔に出来ないだろう。
「いつか、もう一度...」
それでも、たった一人が笑顔になるのだったら。戻って来るのだったら。幾らでも彼は、あの日のじゃない、完璧なケーキを作り続けよう。
「さぁ、続けましょうか。商いを」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...