悪魔の店   作:執筆使い

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リクエストスペシャル。今回はまたもや僕のヒーローアカデミアから、とある人気キャラとのコラボです。
ぶっちゃけ原作を知らない私ですので、口調や設定が矛盾している可能性があります。それでも良いという方はどうぞごゆるりとお楽しみください。



...オリジン設定的なものありです。割と今更ですが。




リクエストスペシャル『英雄殺し』

 

 

 

 

 

ここはバーテン【デザイア】。多くのヴィランがお忍びで来る場所であるが、基本的に開いている事はない。

 

 

 

滅多に開店しない場所にて、一人のヴィランがお客様として来店する...

 

 

 

 

 

 

〜SP59 原典〜

 

 

「何をお望みで?」

 

 

「酔いたい気分だ」

 

 

客の名前は英雄殺し(ステイン)。どうやら、この店に入るのは初めてではないらしい。店員も、客も、どっちも慣れた風に振る舞う。カンパリをブラッドオレンジで割ったもの。彼はいつもこの酒を頼む。何度も頼まれたので、今ではこのようにたった二言で、赤い血色の液体が入ったグラスを差し出すのだった。

 

 

一口飲むと広がる独特の苦味。()()()()()()()に似た味である事からも彼は気に入っている。しかしどうやら今日はいつもと違う様だ。本来であればもう少し飲み終えるのに時間がかかるのに、すぐさま飲み干す。

 

 

「...その様子では、随分と不機嫌な事でもありましたか?」

 

 

店員は、笑顔でグラスに注ぎながらそう言った。それが少し癪に触ったのだろう。殺気立てるステイン。

だが、一般市民に斬りかかるなぞ彼がする筈もなく、ましてや店内の私闘禁止という看板のルールを破るつもりもなく、静かに手にかけようとした刀から離し、はぁ、とため息を吐きながら口を開いた。

 

 

「...3人だ」

 

 

「貴方が、今日執行した数ですか?」

 

 

「ああ...今日だけで3人だ。今までも数えれば...この世界には贋物(ニセモノ)が多すぎる」

 

 

贋物。それは一人の例外を除きこの街、否、この世界に存在する全てのヒーローに対してステインが吐き捨てた評価である。

 

腐っている。廃っている、世界の象徴であるヒーローそのものが。故に誰かが正さねば、血に染まらなければ...そう言った一人の男が、走り出したのは今となっては昔の話だ。

 

 

「...英雄というのは、軽はずみなものではない。かといって冷酷なものでもない。強固で、無我なものでないとならない...それでいて、守るものでなくてはならない...ああいえ、貴方の信念とは少し違いますが、昔そんなことを言った英雄がいたのを思い出しましてねぇ。貴方の話を聞いて」

 

 

店員はポツリと、そんなことを呟いた。すぐさま訂正を入れて、話を終えようとする。だが、どうやら彼の言う英雄に興味を持ったらしい。仕方がないと肩をすぼめて店員は話す。

 

 

「遠い昔、遥か遠い昔。彼は正義を胸に人々に希望を与えていた。時にキセキという名の希望を、時に誘惑という試練を、2つを持った英雄でした...理由なんてありません。ただ、考えるよりも先にそうしていました。ああでも、少しだけ、助けられた人々や試練を達成した者達の充実した表情が好きだったらしいですが」

 

 

「...まるでおとぎ話の様だな」

 

 

「英雄というのは、そういう者でしょう?」

 

 

「何が言いたい?」

 

 

「その英雄がちょっと前に店に来ましてね...こう言ったんですよ」

 

 

人々は、今はまだ弱い。平和の象徴に頼らざるを得ない程、それでいて完全に綺麗な訳でもない。けれど、もう少し経った後に、1つの灯火が受け継がれるだろう。

 

小さく、弱く、未熟で無知な灯火だが、受け継がれたそれはひたすら前に進もうとしている。先の炎が前に立ち背中で希望を見せるのであれば、今の炎は後ろから1番後ろから追い上げ、そして転びそうな人や、倒れそうな人に手を差し伸べ、何も見返りを求めずにこう言う。

 

 

大丈夫、僕が来た──と。

 

 

新しい火が燃え広がろうとしている。ひょっとしたら、贋物だらけのこの世界に何か変化が起こるかもしれない。

 

 

「と、ね。彼は笑いながらそう言いましたよ」

 

 

「...ここはヴィランが飲みに来る場所だ」

 

 

「だからと言って英雄が来ないから嘘だという理由には、まぁ...もしかしたら英雄の皮を被ったヴィランかもしれませんが。嘘か本当かどちらかと言われれば、本当寄りの話ですがねぇ。ひょっとしたら」

 

 

つまり嘘も交じった話だということか。そう内心毒を吐きながら最後の一杯を飲み干しつつステインは席を立つ。

 

 

「...ならば、俺は引き続き贋物を殺し続けるだけだだけだ」

 

 

そう言って、少し赤くなった顔を冷まし、勘定を置いて店を後にする。

 

 

「その、小さな英雄が現れるまで」

 

 

ドアを開ける寸前に吐いた言葉。その言葉に対しての答えか、それとも職務を全うしただけなのか。店員は、誠にありがとうございます、と一言だけ添えたのだった。

 

 

...............................

 

.......................

 

.............

 

 

数世紀も昔の話、個性と普通は大規模な戦いがあった。そんな大規模な戦いの中で二人の兄弟が生まれ育った。何でも出来る兄と、何一つ普通である弟。

 

 

我儘で悪を振り回す兄に、弟は無力ながらも止めようとした。何度も、何度も。

 

 

癪に触ったのか、憐憫を感じたのか、それとも自分が持っていないそれに憧れたのか...兄は一つの個性を捨て渡した。そして、一人の英雄が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

長い時が流れた。結局、兄を止められず、弟は息も絶え絶えに死に向かっていた。そんな時、一人の悪魔が笑顔を浮かべながら現れました。

 

 

 

 

──貴方が依頼すれば、私の手で貴方の兄を悪から引き摺り下ろし、止めてみせましょう。今も消えそうな命と引き換えに

 

 

 

そこまで聞いて、弟は自分の死期を悟った。否、ずっと前から知っていたのかもしれない。だから笑みを浮かべながら、掠れた声で願った。

 

 

 

──兄を止めないでくれ。手を出さないでくれ。見守って欲しい。灯火と、僕の...憧れ...た.........に...を

 

 

 

悪魔は了承した。そして、何世紀も、時折この世界に来ては灯火の行方と次代の英雄を見届けた。勿論兄も....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて...次が来るまで此処は店仕舞いにしましょう。此処の銭湯とやらは良い気分でしたので名残惜しいですがねぇ」

 

 

 

 

そう言って、デザイアごとバーテンの店員は消えるのだった...

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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