リクエストスペシャル。今回はDies iraeとのコラボですが...はっきり言いましょう。タブーです。余りにもタブーな内容です。
店員が絶対にしない事を自発的にやります。彼が散々皮肉って、嫌っている行為をします。こんな事をするのは店員じゃねぇと思うかもしれません。外道、クソやろう、吐き気を催す邪悪と感じる人もいるかもしれません。なんでトラウマになっているであろう行動を行えるの? 作者は考え無しなの? と指摘する人もいるかもしれません。矛盾設定もいくつかあるかもしれません。
それでもよろしいという方はお楽しみください。後悔を置いて来てから。
悪魔店員。
彼が自分勝手に動く事があり得るだろうか?
多くの人は、彼を悪と思う。そして多くの人は悪は自分勝手に動く存在だと思う。故に最強の悪魔である彼はそういうものなのだと勝手に思い込む。
だが、彼を知る者からしてみればとんでもない。彼は昔から、誰かに頼まれて初めて動くタイプだ。意外にも体面を守り、意外にも真面目で、意外にも...嫌、これはご存知の通りか。忠実だ。
故に、彼が復讐を除き極めて個人的な理由で動く事は、彼を知る者からすれば極めて...
「マリィ...もとい、貴方がマルグリット・ブルセイユですね?」
そう、極めて珍しい...というか前例が皆無に近い。しかも、無垢なる少女を完全に消滅させようと完全な戦闘体勢に入っているのは今までに無し。それ程までの異常事態が
〜SP66 時読みの魔眼〜
正体を現し、ヤツは一人の少女に対し右手で消そうと近付く。本気だ。一瞬で消し飛ばそうと殺意をむき出しにしている。少女はその殺意に気付いていない。仮に気付いたとしても逃げないだろう。当たる距離にまで歩み寄った彼はゆっくりと右手を上げて──
──頬に、一筋の赤い線が走った。振り下ろそうとした右腕を止め、赤い線に触れる。視線を斜め後ろに映すと一人の男がいた。
「おやおや、傍観者気質の貴方が触角とは言えやって来るとは...そんなに消えたいのですか?」
メルクリウスは激怒した。それと同時に目の前の男が何者なのかを理解した。自分らにとって天敵とも言える存在。自らが若き頃から存在する最悪だ。どうあがけばいい? 勝ち目などない。だが、それでも彼は愛する者の為に、悪魔に一撃を加えていた。かすり傷程度とも言える一撃を。
「それとも...私から、彼女を守ろうとでも? 一匹の蟻が恐竜に敵うと思っているのでしょうか?」
一瞬であった。メルクリウスの手足に無数の杭が突き刺さり、縄が雁字搦めに彼を縛る。
ユダのゆりかご、と我々が呼ぶ拷問器具の原典。杭で開けられた穴からその者の力を無理矢理引き摺り出し、縄で縛られた者の力の流れをぐちゃぐちゃに阻害する、悪魔の七つ道具の一つ。流石に彼を殺すのは少々時間が経たないと無理だが、動きを止めるには充分だ。
「そこで見ていると──」
最後まで言えなかった。背中に二つ大きな魔法を食らったから。
尚も無傷のまま、下手人であろう二人の方へと振り返る。
「鬱陶しい。聖遺物に自滅因子か...そうまでしてこの少女を守りたいのですか?」
片方には魔術、もう片方にはユダのゆりかごを発動させて動きを止める。速すぎるそれは次の魔術を使わせる間すら持たせない。本来ならばそのまま追撃して3人にトドメを刺す事も可能だが、敢えて放置する。消すのはただ一人。そこの小さな少女──
──不意に抱かれた。新手ではなく、消すべき少女に抱かれた。確か、彼女は触れたものの首を吹き飛ばす能力を持っている。だが無意味だ。そんなものが通用する訳がない。故に口を開き一言。
「残念でしたねぇ。そんなもので私は──」
少女の目を見た。この目はずっと昔、遠い昔に見た目だ。自分を殺す為じゃない。純粋無垢な少女はそんなものはなから持ち合わせていないという事に気付くのが遅かった。
「っっっ!!」
人間の姿に戻った彼は、抱いている両腕を優しく振り払い杭と縄と魔術を仕舞う。そして、その場を消える。
最も自分勝手で、最も利己的で、最も店員らしくない事件は、一人の少女によって終わったのだった。
そう、終わったのだった。
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右目の魔眼は、自分が関与しない未来を見通すことが出来る。あくまで可能性として考えられる未来であるが。それ越しに店員はある未来を見た。故に、誰にも依頼されていないにも関わらず店員は引き金の一つである無垢な少女をこの世から消そうと動いてしまった。
「何をした...一体何をした...?」
嗚呼、これじゃあまるであの日の様じゃないか。
「私は何をした!! 私は! 何をしようとしていた!!」
自分が誰よりも憎んでいた、神の様ではないか。
「あと少しだった...あと少しで私は忠告を破ろうとした!! 何故私はこんな事をした!!」
自分勝手で、相手の事も考えず、世界の為、平和の為と動く、最も無自覚な殺害者。
「ジル...私は...私は...」
いくら傷付けても変わらない。もしも彼女がそうしなかったら止まれなかったから。その事実は彼に重くのし掛かる。
だが、それでも彼は──
「...」
彼は、今日も店を営もうとする
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...
店員はその魔眼をもってどんな未来を見たかって? 語り部の俺ですら言えない代物さ。ヤツが動くのも頷ける...地獄以上の、最上級の絶望を表す言葉がないのが恨めしい。それ程の未来さ。
あの少女がそれを引き起こす風には見えない? ああそうとも、
恐らく、悪魔が消えて、遠くなった未来に現れるだろう。正面からは、誰も太刀打ち出来ない。出来る存在は遠い昔に消えてるだろうから。全能の神なぞ吹けば飛ぶ。それをも倒せる存在だとしてもだ。
だが、一人だけ、一つだけ希望はある。たった一人の他人だけが、唯一の誰かがそれに勝ちうるかもしれない。
まるで、遠い昔の物語として語り継がれた、終幕。
悪魔店員と一人の仙人の戦いの様に──