リクエストスペシャル。本日はモータルコンバットから、あのキャラクターが登場します。それに伴い舞台とあるものがいつもと全く違うので予めご了承下さい。
因みに今回のタイトルの由来は、仮に店員が格ゲーに登場した場合の戦闘bgm(イメージ)を自分なりに探した結果、見つけた楽曲のタイトルそのままです。滅茶苦茶良い曲(店員及び今回の話に合っているかどうかは置いといて)なので、よう◯べで検索して一度聞いてみる事をオススメします。
ある店...といっても我々読者がいつも文字の上で読み上げる様な、静かで大人しめな店ではなく寧ろその真逆。多くの人が飲み叫び騒ぎの、神経質な者がこの場にいれば数秒でノイローゼになるであろう所謂下品な酒場は、多くの悪が集まっていた。
「そんでよ、命乞いする良い子ちゃんの目ん玉をこう! ブスッてな!! ギャハハはははは!!」
「俺なんか腹わたぶちまけさせて、そのわたでソーセージにして食っちまったよ!!」
「テメェらわかってねぇなぁ...良い顔した女に詰め込むのが1番に決まってるだろう。デケェもの、長ぇもの、武器に弾に鈍器、色んなものをひたすら詰め込んでヒィヒィ言ってる女の顔の格別な事さ!!」
会話は物騒。カタギではとてもとても入り込む事など出来ない話のオンパレードである。
「あん? テメェ何ガン垂れてんだ?」
「そっちこそジロジロ見てんじゃねぇよホモ野郎。あぁ?」
雰囲気は一触即発。選りすぐりの悪どもが今日は特に集まっているのだ。少しでも間違いが起これば、この場一帯は血の海になる事が容易に想像できる。
悪党が2人睨み合って顔面を押し合いへし合いしている丁度その時、1人の客が店主に注文をしていた。
「何になさいますか? お客様」
「...酒。そうだな、アブサンが良い。俺の好物なんでな」
丁寧口調で話す
「やはりか。このシャオ・カーンの目を誤魔化せると思ったか?」
ドアが乱暴に開かれ、そんな台詞が店内を響いたのは数秒した後であった。
〜SP75 支配〜
先程まで騒がしかった酒場は、沈黙に包まれていた。
シャオ・カーン
その名によるものと、入ってきたものの残虐極まりない覇気故にだ。此処で下手に動けば、何をされるかわかったものじゃない。何せ魔界の支配者へと上り詰める程の男で、その治世と性質は無残冷酷最悪とまで、騒がしかった面々もドン引きした程だ。
外道とはいえ支配者たる彼が何故この彼等にとっては辺鄙な酒場に来たのか? 疑問符を頭の中で浮かべる。だが、次の言葉でその疑問も吹っ飛ぶ事となった。
「居るのはわかっているぞ、神殺しの悪魔。わざわざこんな場所で待ち構えるとは、随分と趣味が悪い」
確かにそう言った。誰もがその単語を聞き恐怖に満ちた冷や汗を流す。やることなす事耳に新しい。ある時は最強と呼ばれた神の軍団を滅ぼし、難攻不落と呼ばれた独裁されし世界を破壊、そして今──この世で最も強大で領域外の悪そのものに対して唯一小競り合いを仕出かすなど、最早狂っているを通り越して逆に清々しい。そんな...
「...」
店主は構わず酒の準備をしている。それを見て、シャオ・カーンはカウンター席の方へとズンズンと歩み寄る。進行に立ち塞がっていた面々も、まるで大名行列の様に道を譲りその場を伏せる。ゆっくりと、ゆっくりと近付く。その間に店主は棚から先ほど頂いた注文通り、アブサンを取り出す。
「お、待ってました。俺の大好物──」
黒いフードの男の頭が熊の様に大きい手に鷲掴みにされてカウンターテーブルに顔面を叩きつけられるのと、悪魔の酒が出されたのはほぼ同時の事だった。
「もう一度、わかりやすく言ってやる。いつまで惚けているつもりだ? ジャッカル・D・グレイ」
シャオ・カーンは最後通告を、
と、同時に吹き飛ばされた。真っ直ぐに来た道を帰るように、先程のお返しと言わんばかりに、拳一発を腹に加えた。その衝撃でフードが取れる。黒の荒いヘアスタイルに、左耳には眼帯、トレードマークである黒い片翼は仕舞っているのだろう。だがその雰囲気と手配書もしくは実際に見た人相が余りに一致している。そもそもあの魔界の支配者をワンパンでぶっ飛ばしてる時点で本人だ。故に、大名行列を作っていた面々は先程の残虐さはどこ吹く風、より一層の恐怖に怯えていた。
「俺の酒を邪魔すんじゃねぇよ...殺すぞ」
しかも、よりによって彼は物凄いイライラしていた。毎度の如く胃痛をもたらす奴から逃げ延びて束の間の休憩を挟もうと思った矢先にこれなのだ。ブチ切れ一歩手前の若かりし悪魔を宥める者などこの場にはいない。
出されたグラスを取り一気に全部飲み干した後、店主に勘定を出す。
「悪ぃな。迷惑かけた」
「いえいえ、長年店を営んでいれば、この様な事慣れっこですよ」
「そうか。じゃあ、もう一つ謝るが。多分外が暫く煩くなるが、良いか?」
「構いませんよ。実は私、貴方の大ファンなのですから」
「........そうか」
そんな短い会話を交わした後、神殺しの悪魔は空いた道を通って歩く。一歩踏み出すごとに、面々からさまざまな目線を感じていた。恐怖、畏敬、憎悪、無力感、etc...血のないレッドカーペットを一通り歩いて、正面のドアを開けて外へ出た。
見上げると、数多の魔族が居た。魔界の赤い空を覆い尽くす無数の黒い点があった。
「さっきぶっ飛ばしたのは、クローンだな? 通りで軽い訳だ。カーン」
「ジャッカル。どうだ、この空の風景は! 嘗ての主から奪い取ったこの軍団は! それだけじゃない。既に多くの悪共は我が軍団に加わった。後は貴様だけだ! 貴様の知る、神の殺し方と神々すら容易く殺せる部下ども、そしてそれを束ねる手腕と、我々の戦力と数が揃えば全て支配できる。貴様らが小競り合いしているあの災厄すら目じゃない最強の領域が出来上がる。悪い話じゃないだろう?」
男は眼帯を外す。
「支配なんざ、最強なんざ、俺は興味がねぇんだよ。テメェの作り出す風景なんざ見たくもねぇ!!」
男は答える。
「それはつまり、貴様の首を我々に差し出すっていう意味だな!!」
悪魔は笑い出す。
「テメェら全員、俺一人で充分って意味だよ!!」
後にジャッカル・D・グレイの悪名の一つとして刻まれるこの戦いは、三日三晩続いたとされる。
絶対的独裁者シャオ・カーン率いる数十万の軍勢に対し、神殺しの悪魔ただ一人。絶望的な数の差を物ともせず、無数の傷に塗れようとも戦場を突き抜ける若き悪魔。死者はゼロ。周囲の被害は酒場含め一切無し。
だが、彼の全身に刻まれた無数の修羅の傷と、支配者が負った一つの傷の凄惨さがその戦いの全てを物語っていた。
悪にすら縛られぬ修羅
今もなお残っている傷の鮮明な記憶と戦いを書き記した者は、そう語り継いでいったという...
読者の皆様、明けましておめでとうございます! 今年もどうぞよろしくお願いします!!