悪魔の店   作:執筆使い

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※攻殻機動隊とのコラボです。悪魔の店要素も機動隊要素もないので、そういうのが許せる人だけお楽しみください。





リクエストスペシャル『行き着いた先』

 

 

 

 

消えてしまったものを戻す事は出来ない。

 

 

だけど死んだものの記録を残すことはできる。

 

 

移すことも、作る事も。

 

 

あの世へ向かった魂を、まだ輪廻の輪に入っていないそれを無理やり現世に呼び戻して生き返らせるという事も出来る。

 

 

だが、魂も消えてしまったものをこの世に戻す事は不可能とされている。

 

 

...ああ、よくある漫画のハッピーエンドでのアレ、か。

 

 

仮面ライダー...ビルドだったか?

 

 

例えばあの世界であれば...よく似た世界を新たに作り出しただけであり、消えてしまったものを完全に元通りにしたわけではない。

 

 

他もしかり、消えてしまったものを誰も呼び戻せていないのだ。

 

 

ただ単によく似たものを一から作り直すか、あの世へ向かった魂を戻すかのどちらか。

 

 

何故ならまだ誰も、消えてしまったものが何処にあるのかはわからないからだ。

 

 

私ですら知らない。だけど確かに、何処かに存在する筈だ。

 

 

それを見つける事。例えそれが手の届かぬものであっても。

 

 

それこそが私が今もこうしている理由なのだよ───

 

 

 

 

 

 

 

───ザイ。

 

 

 

 

 

 

〜SP77 手を伸ばした先〜

 

 

 

そこは砂漠地帯。ある一点を除いて一面に広がる砂模様を夜空に多数に光る星が照らしていた。幻想的な空は何もない地上よりも明るく、見れば思わず魅了するであろう景色だ。

 

 

ある一点にて行商をしている男は訪れた気配を察し、客人が来た時の定型句を口にする。

 

 

「おー、いらっしゃい、いらっしゃい。何か見ていくかい? ...ああ、違う違う。敬語にするのを忘れていた。何せ商売をするのは日が浅いんですよね。俺、いや私の所にこんなにすぐ来るとは思っても見ませんでした」

 

 

「なら、安心すると良いわ。私はお客様ではないから、貴方が商人である必要はないのよ」

 

 

そう言って、銃を突きつけられる男。彼は笑みを浮かべつつも両手を上げて目の前の女性に無抵抗の意を示す。笑みを浮かべているのは死というものを全く恐れていないが故か。彼は敬語をやめて飄々とした態度で喋りを続ける。

 

 

「そうか...とはいえ私としては、折角の商売日和だから、こんなにも綺麗な貴女にサービスの一つでもしたいものだがね」

 

 

「賄賂かしら?」

 

 

「純粋な善意だよ」

 

 

そう言って取り出したのはコップと、そこに注がれたであろう暖かいコーヒー。女性は警戒を緩めはしないが、銃を下ろして地面に腰掛け、商人と同じ目線になってからコーヒーを頂く。

 

 

「味見した事がないから自信はないが、美味しい筈だ。そういうのを選んだから」

 

 

「...ええ、確かに美味しいわ」

 

 

パチン、と指を鳴らし男は景色を変える。流石に地面に座らせるのは忍びないと思ったのだろう。女性は喫茶店の椅子に腰かかっていた。

 

 

「こんなものか? いやすまない。こういうのに合う店というのがどういうのか決められていなくてね。わかってはいるのだが...」

 

 

「はぐらかす男は嫌われるわよ。親切を行なったとしてもね」

 

 

「...私を捕まえに来たのかな? 公安の少佐殿」

 

 

沈黙。それは肯定の意であることぐらい、人間でない商人も承知である。だからこそ観念した様子で男は口を開いた。

 

 

「最近起こっている失踪者及び意識不明の重体者が続出。それだけだったら君らも動かなかっただろう。現に、政府の重役が被害者に入るまでは動かなかったのだから。明日は我が身と思った人間のなんともわかりやすいものか」

 

 

「何者かしら? 貴方は」

 

 

「ん、あー...何者、か。そうだな───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何に見える?」

 

 

顔にノイズが走る。ブレてしまった男前は、やがて真っ黒になり何も見えない霧の様になった。

 

 

「そう...それが...」

 

 

「そう...これが私の素顔さ」

 

 

そう言って、男は人差し指を立てる。表情が読み取れなくなった故の配慮であろう。代わりに彼は身振り手振りと声だけで女性に語りかけた。

 

 

「一つ、昔話をしよう。おとぎ話の様な実話だ」

 

 

「...」

 

 

「かつて全ての世界を壊そうとした悪魔がいた。誰にも勝てない様な強大で孤独な悪魔さ。そいつは自分の願いの為に道具と共に多くの世界を壊滅させた。まぁ、最終的に女神と獣と死神によって...あぁ、あと人間? というか仙人というか、によってすんでんところで阻止され文字通り消え去った」

 

 

荒唐無稽な話だろう。現に無機質なその言葉に彼女──草薙素子は頭では疑っていた。だがノイズ混じりのその声を聞き、嘘を言ってる風には思えなかった。例えるなら、懺悔室にて罪人の言葉を聞く神父みたく、頭でなく心で聞いているかのよう。

 

 

「だが、彼はある程度予期してたのだろう。保険を用意していた。それが私だ。君らにもわかりやすくいうなら、ゲームのセーブデータといったところか」

 

 

「つまり今はローディングの真っ最中、という事?」

 

 

彼女の言葉に少し動きと喋りを止める男。それがノイズが走ったが故のラグだったのか、少しばかり思考したから間が空いたのかはわからない。だけどすぐに彼は喋りを再び始めた。

 

 

「ああ、そうだな。私は悪魔としてこの世に蘇ろうとしたのだよ。生贄と魂を餌に」

 

 

「でも阻止された」

 

 

「いや、君が来る前にもうやめてね。今やってるのも、人質とかの解放作業」

 

 

「...どうしてかしら?」

 

 

 

 

 

男は、静かに言った。

 

 

「理由は二つ。私が、悪魔店員ではないとわかったから。自我というものかな。彼を理解すればするほど遠く離れる感覚に襲われる。

もう一つ...私が悪魔店員ではないから。彼の物語はとうの昔に終わった。ハッピーエンドとしてだ。本人らの了承無しに駄作を作る気はない」

 

 

顔だけにあったノイズが広がり始める。体全体に、部屋全体に。これから何が起こるのか察した女性は席を立って、悲しげな目でノイズの中心を見つめた。

 

 

「怖くはないの?」

 

 

「...そうさな。こういうのを名残惜しいというべきか。それとも怖いというべきか。私は生まれてすらいないから、君以外の外の要素を見たり触ったり喋ったり出来ないという点に対してだ」

 

 

故に、彼女は最後の質問を投げかける。

 

 

「もしも貴方がこの世に生まれたら。どうなるの? 悪魔でもなく、貴方自身として」

 

 

「...」

 

 

男は、答える。

 

 

..................................

 

....................

 

............

 

 

 

──罪深いその身体(こころ)は、地獄の業火に焼かれ続けるだろう。だが、それでも天国(物語の終わり)を憧れるよ

 

 

「オペラ座の怪人、ね」

 

 

女性は頭を抱えながら外の空気を吸う。

 

 

「残酷なものだわ。赤ん坊ですら出来る事は猿真似しかない。生まれてすらいない彼には、詩的な引用(猿真似)しかなかった」

 

 

身振り手振りを思い出す。

 

 

「ああいうのを見ると、生きて欲しいと願ってしまう。残酷ね。本当」

 

 

現実の空は、地上よりも暗い。皆誰も見上げたりはしない。地上の光が、人々に星を忘れさせたから...

 

 

 

 







キャラ紹介
【生まれない男(通称;ノイズマン)】
作中でも述べられた通り、悪魔店員が残した自らの復活装置(セーブデータ)。早い話がゴーストリバース。ただし彼には人格といったものがなく、あくまで記録しかない為性格や口調といったものが存在しない。紳士的にも、乱暴にも、残酷にも、慈悲的にもなれる存在。尚、もしも店員として現実世界に顕現させる場合、少なくとも一つの宇宙を犠牲にしなければならない。まどろっこしい方法を最初から行なっている辺り、彼は自らの役割に関して乗り気ではなかった模様である(ナンバーワンよりもむしろ、オンリーワンを望んでいた...?)




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