カランと鳴るはドアの音
コロンと鳴るはベルの音
悪魔の店には何でもあります
お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます
はてさて、今日のお客様は?
~ep64 綿の記憶~
「さて...時間はありませんのでさっさと済ませて下さい。幾ら私とて魂を宿らせて動かすのは骨が折れますので」
ボロボロの風体をした人間は、コクッとゆっくり頷いた
Side C
主人との出会いは、あの人が幼かった頃だった。始めはおずおずと...次に少し微笑み...そして幸せそうに私と遊んでいた。
一度、私が大怪我を負った時があった。主人は大泣きしてしまい、動くことさえできなかった私は心の中であたふたしてた。そんな時は決まって主人の親が編んで直してくれた。
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時が経ち、私はぼろくなってしまった。古びた体と心で私はいつか捨てられてしまうのではないかと心配していた。だけどそれは杞憂に終わった
__いつまでも友達だよ!
主人は本当に私を大事に扱ってくれた。私はいつの間にか、心に温かいものが出来ていることに気が付いた。そしてこれが幸せだという事に後になって分かった
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「どうして...どうしてよ!?」
この日の主人は悲しんでいた。私に当たっていた。私は傷ついた。それでも彼女の感情は収まることはない。
何度も、何度も、私は傷ついた。私はいつの間にか雨にぬれていて
「ふむ...成る程...これはこれは...あの本同様という事ですか」
気が付くと私は彼に出会った
Side
どうして...何で...私は兎に角悲しんでしまった。親が死んでしまった事を全てあの子に当たってしまい、捨ててしまった。
私は後悔した。どうしようもなく...訳が分からなくなり、様々な黒いものが自分の内を駆け巡っていた。
ドンッッッ!!
ドンッッッ!!
「な、何?!」
音がする方...窓を見てみるとボロボロの人がそこには居た。いきなりの事でびっくりして、私は後ずさりした。
見覚えがある。私がずっと肌身離さず持っていたものだから。証拠と呼べるものは無かったけど確信していた。
「ごめんね...ごめんね...」
ガシャン!!
きっと、私は恨みを果たす為に殺されるのだろう。でもいい。私は酷いことをしたのだから。
「...さ、よう、なら」
彼がその言葉を発した瞬間、私は闇に包まれた。温かく...心地よい闇...
「あ、りが、とう」
抱きしめられていることに気が付いたのはしばらくしてからだった
「...え?どうして...わたしは」
「幸せを分けてくれて、ありがとう、」
「でも、私は」
「今度は、私が分け与える番。また昔みたいに...」
「嫌...嫌よ...」
「だ、いじょうぶ。いつも、いるよ」
ボロボロと涙が零れ落ちる
ボロボロと綿が崩れ落ちる
「ずっと、ずっと」
いっしょだよ
「あ、ああ...ぁぁぁぁぁぁ...ごめんね...ごめん...ね...」
私は、一生忘れない温かさと、一生忘れない出来事を胸に生きてく。もう...涙は流さない。
それがあの子との約束だから
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「はぁ...だからこの手の依頼は大嫌いなのですよ」
悪魔は魂片手に愚痴る
「面倒な上に、見たくないものまで見せられる。おかげで」
悪魔は湿っている床を指さす
「雨漏りが出来てしまった」
今日も彼は店を営む
絶対に傷一つつかない悪魔の店を営む...