ー月がきれいだね、ジャック
ー...ああ、そうだな
カランと鳴るはドアの音
コロンと鳴るはベルの音
悪魔の店には何でもあります
お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます
はてさて、今日のお客様は?
~ep65 綺麗な月~
「本日はどういったご用件ですか?お客様」
「例え身が滅んでもいい...永遠に会えなくなることになってもいい...あいつらに復讐できる力をくれ...!!」
「.........良いのですか?折角生かされた命を無駄にして」
「...もし俺が地獄に落ちたら、あの子に伝言をしてくれ。『ごめん』って一言」
悪魔は正体を現す
「調子に乗るな...私はそういった『魂を得られそうにない上に、見ていて反吐が出る依頼』が大嫌いなんですよ」
「...の癖に...悪魔の癖に人間に説教すんじゃねぇよ!! 言っとくがな...お前が何と言おうと俺は一切引かねぇ...絶対にな!!」
「...ああそうですか。だったらわかりました。何を言っても無駄な様ですから」
Side C
ー綺麗なお月様ね...
ーああそうだな、〇〇。こんなに綺麗なのを見るのは生まれて初めてだ
幼馴染とは仲が良く、つい最近はまともに顔を見れないほどだった...けれど身分というのがどうしようもない壁として存在していて、俺と彼女は政略結婚の四文字によって引き離された。
それだけならばまだいい。自分は平民の生まれだから、彼女の家の為だ、俺がしゃしゃり出ても迷惑をかけるだけだ、と諦めが付いていたのだから。
彼女が数年後、無残な死体となって路上に捨てられているのを見るまでは
私は怒りと共に疑問が浮かび上がり、死を覚悟で彼女の結婚相手である領主の館へと直談判した。
曰く、彼女は俺の事を忘れることが出来ず、その様を見た領主が無残にも殺し、顔も見たくないという理由で自分の家の近くに捨てたという事。どうせあと、10人以上は妻がいるから、別に一人減った所で何の感情も抱かないという事。
俺は激怒した。激怒して、襲いかかった。だけど相手は領主。何人もの護衛に半殺しにされた後、彼女と同様に路上へと捨てられた。
その時だ...悪魔に出会ったのは
奴は噂とは違い、まるで人間の様に俺に対して接してきた。確かにそうだ、アイツはそんな事を望んじゃいない。だがな、お前が言えたことじゃないだろ...何で悲しそうな顔で俺を否定すんだよ...
「悪魔の癖に人間に説教すんじゃねぇよ!!」
俺の事を...あいつの事を何も知らないくせに...!!
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屋根は崩れ、室内は血で真っ赤に染まっていた。怪物と化した男は復讐を果たしたのち、ボロボロと体が崩れ始めている。
「...終わったな」
月明かりが自分を照らしていることに気が付いて、男は空を見上げる。
「そうか...今日は満月だったな...」
ポタッ ポタッ
「なぁ...月がきれいだな...〇〇」
灰が雫と混じって、少しばかり泥になって地面に落ちる。
「...本当は、あの時」
言いたかった言葉は告白。けれど結局言えることが出来なくて...後悔していた。
本当の心は否定。だけど身分の二文字を前に諦めてしまい...後悔していた。
一時の復讐。全てを終えたのちは虚しくて...
「愛してるって...」
崩れ落ちた砂の体。それは少しばかり雫の混じった山となって...
月明かりが照らし、きらり、きらりと輝いていた
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ー天使は誰だって救えんだろ...奇跡を使って命一つ救えんだろ...だったら教えろよ!俺の大切なものを救う方法を...なぁどうすんだよ...どうすりゃいいんだよ!!
悪魔が思い浮かべる情景は、崩れ落ちた宮殿に俯いている一人の天使
「...未だに私はこたえられない。失い空いてしまったものを完全に満たす方法を...」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...