少し...店員から見ればほんの少しばかり昔の話です。
カランと鳴るはドアの音
コロンとなるはベルの音
悪魔の店には何でもあります
お客様の願いや要望を必ず叶えて差し上げます
果てさて、今日のお客様は?
〜ep75 ヒロシマ〜
妙に同じ事を願う客が多い。日本に来て暫く経ったある日、私はそんな事を考えていた。
「ふむ...皆一様に腹を空かせている...或いは...」
当時の私は、余り外の世界に出たりはしなかった。ある日界に私が着る服の所為なのか、皆私をまるで敵を見るかの様な目で睨んでくるからだ。此処に来る客も、余程切羽詰まった状況でなければ利用すらしない。
「...死にかけの状態で、万歳と言いながら私に殺される事を望む...成る程」
似た経験を幾つか体験した事のある私は、すぐにこれが何なのかがわかった。日本に来る前に、何度も、何度も体験したものだ。
..............まぁ、気が付いたところで私には関係ない。とうの昔から私は第三者。戦いを止めさせる願いと、それに見合った報酬(勘違いされるのだがあくまで道具売りが無料なだけである。依頼は別) でもくれない限りは動きはしない。
「さて...しかしこれでは鬱陶しい事この上ない...どうも私が異国のスパイだと思われている様ですねぇ...彼等は」
仕方ない、少しの間離れるとしよう。広島辺りに。
「さて...距離にして800...大丈夫ですか? ザイ」
...どうやら大丈夫みたいだ。流石と言ったところか。
..................................
....................
..........
「...ここまでしますか」
其処で私が見たものは、地獄だった。否...地獄というのも生温いかもしれない...結構な耐性を持つ助手でさえ、目を背けている。無念だった...苦しかった...そんなものでは表せない程歪んでしまった魂が其処らに漂っている。
ーーオトウサン...オカアサン...
ーーアツイ...アツイヨ...
ーータスケテ...セメテコノコダケデモ...
ーーミズ...イタイ...アツイ...クルシイ...
「...」
確かに、民間の者を襲う事だってある。だがそれはあくまで追いかける兵が其処に隠れてたから見つける為、もしくは両陣営の戦いに巻き込まれてしまった為である。
...これは最早戦いでも何でもない。明らかに関係ない者を「殺す」だけのつもりでやっている。
「...人の造りしものはここまで来て...人そのものは此処まで堕ちてしまった。とでも言うべきですか...」
この時出た言葉は、無論私が言うべきセリフではない。私が言えたセリフではない。私だって時には作り出したもの、依頼された内容によってはそうなる事だってある。
「...何故使った? ...何故此処で使ったんだ! 彼等が何をした!! 戦いに出てない...関係のない彼等に何故使ったんだ!!!」
それでも、私は言わずには居られなかった。その様子を見て、助手は驚いていた。無理もない...私がこうやって本来の口調で叫ぶのは.........そう考えると私も彼女同様まだまだ未熟だ。感情を表に出すなど...悪魔失格だ。
「反吐がでる...自分にも...人間にも...」
所詮私は第三者。こんな事を言ったところで何も変わらないだろう。永遠に...
..................................
....................
..........
「...あれから何十年経ちましたかねぇ」
男はドームの前に立っている。
今日は休日、商売は助手に任せていた。
「...もみじ饅頭は美味しいですね〜、わざわざ此処まで来た甲斐がありますよ」
男が何のために此処へ来たのか? それはわからない。
「さて...帰りますか...」
男は正体を現す
「...気の毒でしたねぇ。本当に」
男は答える
「残念ですが、今日は休日です...なのでこれぐらいしか出来ませんが」
悪魔は白いポピーを供える
「寝付きには最適ですよ...では」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...