折角の夏なので今回は趣向をほんの少し変えて、作者が実際に体験した怖い話でもしておこうと思います(多分あんま怖くないかも知れませんが...そこはご愛嬌で)
「さて、最近お客様が来ませんねぇ...」
男は少しばかり退屈そうに紅茶を淹れている
「そうですねぇ...
淹れた紅茶を静かに揺らしながら男は笑い出す
「それは、田んぼが見渡す限りに存在し、少し離れた場所に緑で生い茂った山が在る田舎での出来事でした...」
~ep83 数え年~
俺がソレに出会ったのは二度存在する。ソレ、っていう表現をしたのは一目見て生き物じゃないとわかってしまったからだ。
一度目は本当に小さい頃(けれど記憶には鮮明に残っている思い出)、祖母の家に家族で止まりに行った時の事だった。当時の俺は本当に人見知りで、それでいて好奇心が服を着て歩いたような子供だった。初めて来る場所に大いに興味が湧き、初めて出会う人たちにちょっとばかりの怖さがあった。だから俺は暇さえあれば親や祖母に内緒で少し離れた人気のない山に行った(その際汚れて帰ってきたことに関して聞かれたが、田んぼで遊んでたと言って誤魔化してた)
特に遊びのアイディアがなかった俺がそこでやってたことと言えば精々が木登り。遊び中に木にとまったセミなどを取ろうと思ったが流石にそこまで野生児じゃなかったので素手じゃ無理で毎回失敗する。
「ちぇ、やっぱ無理か...ん?」
悔しがって木に寄り掛かってブツブツ文句を言ってた時、俺はソレに出会った。
「イ...サイ...二...サイ」
「...」
背丈は俺ぐらいの...女の子? そんな人が居たら普通君は誰だいとか、どうしてこんな所にいるんだとか、何をやってるのとか、言うだろうが
「サン...サイ...ヨン...サイ...」
当時の俺は出来なかった。別に人見知り故の緊張ではない、だけどソレに関わってはいけないって何故か...そう思ってしまった。
「ゴ...サイ...ロク...サイ...ナナサイ...ナナサイ?」
「!?」
俺は逃げた。ソレの言葉が俺に対する質問だとわかった瞬間、とにかく逃げた。
逃げて逃げて逃げて...もう何が何だか分からなくなったころに祖母の家にたどり着いていた。
「ハァ...ハァ...誰なの...?」
俺は今日の事を家族に話した。家族は勝手に一人で山に行った事で叱って、祖母は別の事で俺を叱った。
今思えばこの時、洗いざらい言わなかったら俺はきっと死んでいたのだろう。あくまで今思えば、だ。感覚的にはわかっても俺にはソレの具体的な恐怖は知らなかったのでそのあとの話もピンとこなかった。だから家族が俺の代わりに祖母の話を聞いた(最初は半信半疑の様子だったが、祖母の表情などを見てただならないことだというのを察したらしい)
曰く、遠い昔この辺では生贄という文化が存在してた。理由はソレを鎮めるため。ソレが何なのかは誰も知らなかった...だけれど皆は【数え年】と呼んでいた。そう呼ばれてた所以は、人を見かけたソレが数え年(昔の年齢の数え方、0歳という言い方が存在せず代わりに一歳から数える)を数えていくことからだとか。だけれどある日、たまたま通りかかった旅人の高僧がソレを山に2度と出られぬよう閉じ込めたらしい。
じゃあ大丈夫じゃないか。とも行かなかった...というのも祖母曰く、自分を追って山から降りて来ようとしているらしい(理由は不明。恐らく俺が知らない所で封印を解いてしまった可能性がある)
そこからの行動は早かった。祖母はすぐさま村の皆にこの事を話して、色々な準備に取り掛かっていた。そして
「明日はすぐさま帰んなさい」
ただ一言、家族は祖母の言葉の通りに動いた。当然ながら向こうで一体何があったのかはわからない。その後、唯一わかったのは無事に事が済んだという連絡が来た事だけだった。
...これが1度目。2度目はそれから大分時が経った頃だ。背丈も大分大人に近付き、あの頃の人見知りでやんちゃな素振りはなりを潜めていた頃、祖母が死んだという連絡が来て再びあの場所へと戻って来ることとなった。正直山で出会った時のあの光景がトラウマとなって、2度とあの場所へと戻りたくないという気持ちがあったが...だからと言って来ないのは無粋だと思い、そんな気持ちを押し殺して来た。
「ーーーー」
「ーーーー」
祖母が死んだという悲しみはある。だけどどうしてもあの事が頭から離れない。ブツブツ聞こえる話し声やお経も頭に入って来なくて、多分俺は青ざめていたんだと思う。兎に角帰りたい一心だったが、生憎通夜がある。
何故か俺はソレが来ることがわかっている気がした。思い込みだと思いたかったが何故か否定できない...
怖い...怖い...怖い...徐々に大きくなっていく恐怖に俺は時間すらも忘れて、ひたすら無心になる様勤めた。
やっと葬式が終わり、祖母の家に戻った俺は自分から進んで遺品整理をしようとした。普段こういったのは面倒だから張り切ってやらないタイプではあるが、その日だけはどうしても気を紛らわしたかったんだと思う。兎に角一生懸命にやった。
「ああもう...駄目だ!!」
だがそれは逆効果...個室の整理をしていた際に疲れが溜まっていたせいか、つい油断してしまい泥の様に眠ってしまったのだ...
イ...サイ
二...サイ
サン...サイ
「...ぅん、これは...!?」
オマエハ...
ゴ...サイ...ロクサイ...
ナナサイ? キュウ...ジュウ...
ジュウイチ...ジュウニ...
「ジュウサンジュウシジュウゴジュウロクジュウナナ...ジュウナナサイ!!」
瞬間、俺は首を閉められていた。暗闇でよく見えないが確かな感触だけは覚えている。振りほどこうにも体が一切動かない。
「ズット...ッタ......エガ...ルノ...ズッ......ッタ」
ソレは言葉を喋っていたが、それを聞く余裕なんてなかった。
「イ...ショ...ワ...シト...ッ...ョ二...」
薄れていった。何もかも...これが死ぬって感覚なのだろうかって思った。嫌に長くて...あまりに長くて...周りがゆっくりとなっている感じで...
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それからどうなったか?...目が覚めたのは俺の予想とは裏腹に先程まで整理をしていた個室だった。助かったのか、それともあれは全部夢だったのかはわからない。通夜を終え、遺品整理を済ませた俺たちはすぐさま電車で帰った。
「ひょっとしたらお婆ちゃんが守ってくれたのかもな...」
「あら? どうしたの〇〇?」
「あ、嫌、なんでも無いよ。母さん」
その出来事については話していない。もう2度とあの場所へ行く事がないかから。それにしても本当に疲れてしまったし、子供の頃の元気さは残ってない事を痛感した。まるで重いものを乗せたかの様に背中が重い...やっぱり色々な事があったから疲れが溜まっているのだろう。
未だにそのつかれが取れないのだから。
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「以上が私の話す怖い話でございます。もしあなた方も、田舎へ来たら人気の無い場所には行かない方が良いかも知れません」
悪魔は笑い出す
「つかれたら、一巻の終わりですからねぇ」
今日も彼は店を営む
ありとあらゆる商品が並ぶ悪魔の店を営む...