さぁ...時が来た。この地獄の様な物語の結末は、悪が、英雄に倒されるのだ。
彼は、それ以上の存在がいない程の悪であり、全ての敵だ。憎悪、敵意、まさに的確な言葉じゃあないか...!
闇の帝王が、生き残った男の子に倒される様に
十尾の人柱力と化したうちはの青年が、木の葉の英雄に止められる様に
人王が、只人に敗北する様に
彼は、どうしようもない....
...嫌、最後だから、敢えて言おう。彼は紛れもなく、それでいて誰よりも、多くを救った英雄だ。彼が戦うべき悪が、世界そのものだった。ただ、それだけなのに、悪と見なされた正義の味方だった...だから、悲しい。
抵抗する程度の
これだけ聞けば、ちょっと変わった、何処にでもある変哲のない能力だ。だが、店員は彼と初めて会った時、
気が付いていたのだ。アレが、自分にとって最も効く奴である事を。故に、あの時彼は余裕顔で避けたのだ。
強大で、決して叶わない悪がいるならば。その不可能をぶち破る能力。
例えどんなに格上だろうと、その力の前では0とはならず、ほんの微かでも機が出来る。
最強の悪が立ちはだかるならば、その能力は最も強くなろう。
誰よりも未熟故に可能性が生まれる。あらゆる不可能を可能にした不完全がそこにはいた。
彼の名前は、詩堂 善(しどう ぜん)...英雄である。
カランとなるは彼の音
コロンとなるは彼の音
少女は悪魔に聞きます
悪魔は何でも答えます
嗚呼、彼女はどういったお客様でしたか...?
〜こうして、悪魔は...〜
ボロボロになった木々。所々抉れている地面。周囲に人が居ない場だったとはいえ、被害が大きい。
血塗れで、ボロボロで、立つ事すらやっとな程ダメージを受けた店員は、腰を落とし座り込んで、目の前の少年に目線を向けて口を開く。
「ゼェ...やはり、睨んだ通りでしたよ...私はどうやら貴方とは頗る相性が悪い」
少年も、同様にボロボロだった。幸いなのは、死んで居ない事と、トドメを刺す気が店員には無いという事か。
「昔の話だ...正義が見出せなかったそいつは誰よりも人間に敬意を持っていた。間違っていようと、困難であろうと、前に進み続ける。無知故に単純なのだろうが、それでも、そいつにとっては敬意を示す相手だった...神を裏切る程に」
もう、視界もぼやけ始めた。
「一人の少女に出会った。どの人間より輝いていた。そいつにとってはかけがえのない存在だった。だが、身勝手な神々と、理不尽な世界の理、裏切った他の人間達が、彼女を殺した」
赤く染まり始めた。
「死んだ訳じゃない...もっと残酷な...世界そのものから消え去る。助けられなかった。だから私は...」
嗚呼、駄目だ。まだ、もう少し。
「...わかったでしょう? 貴方が冥界そのものを敵に回した様に、私は世界そのものを敵に回した。理を歪めようが、誰にも理解されなくても、周りの全てが消えていっても、私は身を焦がしながら走った」
せめて、これだけでも...
「ただ一つの違いは...嫌、もういい。私は貴方に負けた。貴方の命懸けで食い下がったこの戦いは、私の勝敗を決定付けたのです」
「全く...実に、最悪で引き伸ばしが多くて...」
男は正体を現す
「どう動くべきかわからなく予測不可能で...」
男は答える
「...」
そこには
「
一人の悪魔が笑っていた。
仙人見習いは、魔術によって元いた世界に戻される。店員は、魔力を高める。
仙人見習いに使わなかったその力で、最期の戦いに赴く。
数にして3。嘗て悪魔と共にいた者達。自分を除き、凡そ勝てる要素のない存在ら。弟子として育て、同門として切磋琢磨し、相棒として振り回した彼等。
「さぁ...始めようか...物語の終幕を」
欠けた黒い翼をはためかせ、二度と生やさない白い翼に焦がれ、男は...ジャッカル・D・グレイは本当の姿を見せるのだった。
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....................
............
『Zzz...Zzzz...』
-バタン!!-
「ほら、朝ですよ! ザイ!! いつまで寝ているんですか!!」
『Z...はっ! すいません、ご主人様! 今起き...』
そこまで言って、気付いた。幻聴が聞こえるのはこれで何度目だろうか。虚しさが空間を埋め尽くす。助手の側にいた店員は、今は居ない。
結論から言って、暫く経ったにも関わらず世界は未だ傷跡が残っている。悪魔がほぼ全ての神を消滅させたのと、彼の部下が多くの世界を破壊したからだ。
『...』
それでも人は前に進んでいた。最初は、挫けて弱さを見せ、傷つけ合って、欲望を剥き出していた。未だにそれはある。だけれど、それでも彼等は前に進んでいた。
『...わかっていたのですか? 神がいなくても、万能な存在がいなくても...』
──貴方がいなくても──
『...どうしてそんなに人が...』
少女の片手には、本が一冊在る。黒く汚れた本は、彼女に読むか読むまいか迷わせている。
少し昔、一人の宝石商から願いを叶える宝石を貰った。それに願ったのは会話した時、自分の
『これを読めば...貴方は僕の元へ戻るのですか?』
そんな訳がない。寧ろ、読めば彼がいない事を認めてしまう。そんな事実が彼女を今まで戸惑わせていた。
『答えて...答えて下さい...』
答える訳がない。でも、彼だったら...
──ザイ、貴方は本当に...相変わらずですねぇ
『! 何処かにいるんですか!?』
ふと、そんな声が聞こえた。気がした。濡らした頰を拭って、周囲を見渡す。だが、誰もいないこの場所に人影などある筈もなく...
『...』
けれど、彼女は、彼が声をかけたのだと思った。だから、震えながらも彼女はその本を開く。魔法がかけられているのだろう、ページ数の割に、分厚くはない。読み上げるのだった。
此処は誰もいない花畑。少女は一人、彼の物語を読み上げ始める。
〜昔、昔...〜
君が、どう思っても私は止めない。憎んでも、希望を抱いても、それが君の在り方だから。
今から読み上げるだろう物語は、私にとって幸せで、悲しい、希望を願った思い出だ。
もう一度言おう。
この物語を読み終えて、悲しまないで、とは言わない。憎まないで、とは言わない。私が君に言いたい言葉はただ一つ。
幸せになりなさい。
The end...
...or, to be continued?
こうして、
世界は、傷だらけとなりましたとさ。悪魔も、本当の願いが叶わず、それでも未来を託していった。だが...まぁ、ハッピーエンドじゃあありません。寧ろ、普通ではあるが、バッドエンド寄りですよ。ですから...そうですね...あなた方はどちらを選びますか?
一つは、このまま、この物語を終わらせる事。
あなた方がする事はただ単に、本を閉じ、別の物語を読むのに耽る。そうして欲しいというか感想は要りません。読まなければいい話ですから。別に何のデメリットもあなた方にはありません。
もう一つは、このまま読み続ける事。
少しだけ戻し、ハッピーエンドに終わる話が読める。終わり方は、
直接的なデメリットはありません。俺...嫌、私は通りすがりの語り部。
ただ、読者の皆様に、より良い物語を提供するのが私の役目ですから...では。