ハリー・ポッターと半純血の予見者   作:ななじぃ

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ジーナにとってはヤな日。考えても見てください、自分の大嫌いな食材で埋められた食卓を━━━笑笑
私なら願い下げですね、納豆だらけの食卓なんて。納豆嫌いです。ネバネバで臭いがもう…笑





第14話 ハロウィーン

その日、私はパンプキンパイを焼く、むせ返るような甘い匂いで目を覚ました。寝起きは最悪だった。

 

朝食も最悪だ。普段通りの朝食のメニューに加え、テーブルには大きなパンプキンパイ、頭上には伝統的な、カブをくり抜いて作られたジャック・オー・ランタンと、如何にもそれらしいかぼちゃのそれがぷかぷかと浮かんでいた。

 

そう、ハロウィーンだ。

 

人生でこれ以上ないほどに不愉快なイベント。食卓がパンプキンで溢れかえる日だ。

 

私のあまりの不機嫌さに、ロンもハリーも、さらには普段なら「空気?何それオイシイの?」状態のシェーマスでさえ、私にはハロウィーン及び、かぼちゃの話題は振らなかった。 

 

 

 

そんな不機嫌な昼食前、午前最後の授業、『妖精の魔法』の授業中にそれは始まった。

 

フリットウィック先生が実習をすると言い出したのだ。否、言い出すだけならよかった。2人ずつでペアにならせたのだ。

 

即ち、ハーマイオニーとロンのペアである。

 

後ろの席に座っていた2人は酷かった。私は早々に羽を飛ばし、グリフィンドールに3点もらった上でネビルに正しい杖の振り方と発音、イメージを教えていたので余計に2人の声が聞こえたのだ。

 

「ウィンガディアム レヴィオサー!!」

 

色々と間違っているロンが苛々と杖を振り回している。途端にハーマイオニーの尖った声が飛んだ。

 

「ロン、杖の振り方が乱暴過ぎるわ。こうよ、ヒューンヒョイ。今までの授業でずっとやって来たでしょう?それに、そもそも呪文の発音が間違ってるわ。ウィン・ガー・ディアム レヴィ・オーサよ。『ガー』の音を長く伸ばすのと『オーサ』の発音をはっきりさせなくちゃ」

 

言っていることはともかく、どうにも、言い方が言い方だ。気が短い上にハーマイオニーと組まされて気が立っているロンならすぐにカチンと来るだろう。

 

一方で私の指示を聞いて少し自信を付けたネビルが杖を振ると、机の上の白い羽は僅かにぴくりと動いたが、依然机に張り付いたままだった。何か杖の振り方や呪文の発音が間違っているというわけではなかったが、ネビルには自信が足りない。不安過ぎてそれが呪文の効力にも表れていた。

 

「あとほんの少しね、ネビル。もっと自信を持って。あなたならできるわ」

 

にっこりと微笑み彼を励ます間にも、後ろのペアからは怒声が飛んでいた。

 

「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ!」

 

続いてハーマイオニーの自慢気で自信たっぷりな声が聞こえた。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」

 

私の位置からは見えないが、恐らく白い羽は宙に浮いたのだろう。みんなの席の前で出来栄えを見ていた先生が拍手をして叫んだ。

 

「おーッ、よく出来ました!皆さん、よく見てください!ミス・ブラックに続きミス・グレンジャーもやりました!」

 

 

 

 

その後、他に誰も羽を浮かせられた者はおらず、それがさらにロンの機嫌を悪化させた。

 

ネビルは…うん、動くんだけどね。

 

どうも自信が足りないというか、浮かせてやる!って気が足りない。どうか浮いてくださいお願いしますって感じがしてならないのだ。

 

昼食後の、次の授業に向かう人で溢れかえった廊下の人混みを掻き分け進みながら、ロンが酷い悪態を吐いた。

 

「━━だから、ジーナ以外の誰もあいつには我慢できないんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ」

 

「ロン!」

 

窘めようと名前を呼んだその瞬間、誰かが私の肩にぶつかり、急いで追い越して行った。ふわふわの栗色の髪が目に映る。ハーマイオニーだ。追い越して行った横顔には涙が見えた。最近、彼女の泣き顔ばかり見ている気がする。

 

「今の、聞こえたみたい」

 

ハリーが言った。

 

「それがどうした?」

 

ロンが言った。いい気味だとでも思っているのか、その声には嘲りの色が浮かんでいた。あまりの身勝手さについにカチンと来た。

 

「それがどうした、ですって?今まであなたたちで解決するべきと思って見てたけど、もう限界!ロン、あなたって最低よ!彼女の気持ちも考えてあげてられないの?」

 

「そんなの、僕の知ったこっちゃないよ。第一、彼女だって君以外に誰も友だちがいないことくらい気がついているだろう?」

 

原作のときからこの時のロンは嫌なやつだと思っていたが、いざ目の前にするとここまで腹が立つとは。

 

ロンの前に立ちはだかり、睨みつけた。最早怒りを通り越して呆れしかなかった。

 

「本当、最低な人。呆れたわ。あなたなんて下衆にもなれないわ」

 

そう吐き捨て、くるりと踵を返してハーマイオニーを追いかけた。

 

後ろでロンが何かを呟く声が聞こえた気がしたが振り返らず、彼女の栗色の髪を探した。だが見つからない。こんなに人がいるのだ。見つかる方が奇跡だ。仕方なく廊下の隅に隠れ、授業が始まって人気がなくなるのを待った。

 

チャイムが鳴り皆が教室に収まった頃、またハーマイオニーを探すため廊下を歩き始めた。ロンもハリーも、居なくなっていた。

 

時折授業中の教室の前を通れば、中からは授業を進める声が聞こえた。

 

どれだけ探してもハーマイオニーの声も気配も、彼女を見つける手掛かりすらどこにもない。ダメ元で覗いてみた女子トイレにも、彼女はいなかった。

 

どうしたものか……。

 

ふと立ち止まり頭を抱えていると、前触れ無く、女子寮が頭に浮かんだ。

 

今はまだ授業中。授業はまだあと2時間はあるから、少なくとも3時間近くは誰も寮には戻らない。きっとそうだ。彼女は寮に戻ったのだ。

 

すぐさま寮に戻る階段を駆け上がり、廊下を走り抜けて抜け道を通って肖像画を目指した。

 

「豚の鼻!」

 

「まあ!まだ授業中よ、どうしたの?」

 

到着するなり息も整えず合言葉を言うと婦人は片眉を吊り上げた。

 

「どうもしないわ!いいから、豚の鼻!」

 

婦人は明らかに腑に落ちないようだが渋々、扉を開けてくれた。中に入るなり、またダッシュだ。階段を駆け上がり、女子寮の手前から3番目の扉を乱暴に開け放った。

 

ハーマイオニーはいた。

 

自分のベッドで、教科書さえ放り出して彼女は両目を赤く泣き腫らしていた。

 

「ジ、ジーナ…!?」

 

彼女は私を見るとシーツを引き寄せて、顔を隠した。痛々しいその痕はくっきりと残っている。

 

「ま、まだ授業中のはずじゃ……」

 

「授業なんて知らないわ」

 

「でも……」

 

弱々しい声。深く考えずに彼女を抱き締めた。彼女の肩がビクリと揺れる。私は何も言わなかった。何か言うべきなんだろうけど、言葉はどうにも見つからなくて、抱き締める以外に何も思いつかなかった。

 

「ごめんね、ハーマイオニー」

 

こうなるのをわかっていた。私は早くトロールが来て、ハーマイオニーとあの二人が仲良くなればいいと思っていたのだ。だがそれは間違いだ。ここは原作じゃない。私なら3人の仲介役をできたはずだ。私を通して3人のわだかまりを無くすことだって可能だったかも知れない。

 

でも私はそれを試しさえせずに、後で仲良くなるのを知っていたばかりに3人の仲を放置して、ハーマイオニーを傷付けた。確かに原作でだってハーマイオニーは傷付いた。けどそれは仲介役が居なかったからに過ぎない。仕方のないことだと言えなくもないことだったのだ。

 

私は彼女に酷いことをした。わかっていながら、未来を変えようとはしなかった。

 

ハーマイオニーは嗚咽を漏らした。

 

1人は寂しい。頼るところも頼り方もわからなくて、1人だったのだ。友だちのようだけど、私はきっと、本当の意味ではそうじゃなかった。寄り添うことをしなかった。

 

私の肩が、温かい何かで濡れた。

 

 

 

 

もうどれくらいこのままだっただろう。2分か、5分か、それとも10分も経っただろうか。ハーマイオニーはそっと離れた。まだ少し泣いていたけれど、彼女は涙を拭いながら私に礼を言った。

 

「そんな、私は何もしてないのに━━━━」

 

「っ…違う、傍に居てくれたわ。授業を放り出してまで、私を探してくれた」

 

その言葉が、胸に痛かった。

 

「私はもう大丈夫だから、次の授業はちゃんと、出席してくれない?ほら、私、目が腫れちゃってるから人前には出たくないの」

 

泣き笑いでそんなことを言いながら、ハーマイオニーは私を押した。

 

一人にして━━━暗に言われた気がした。

 

「…わかったわ。じゃあ、授業が終わったら夕食、もって来るわね」

 

「ありがとう、ジーナ」

 

床に散らばっているいくつかの教科書を拾い上げ、部屋を出た途端、授業終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

教室に行くと既にハリーとロンはそこにいて、なんとなく席は近くだったものの、互いに口を利かず、見えない薄い壁を築いたままだった。

 

結局残り2時間も同じように過ごして、ハーマイオニーのために夕食を取りに厨房に行こうとすると、ふとラベンダーとパーバティの会話が耳に入ってきた。

 

「ハーマイオニー、授業にいなかったけど、今トイレで泣いてるんだって」

 

「そうなの?何かあったのかしら」

 

トイレ?!女子寮にいるはずじゃ…

 

2人に詳しく尋ねもせず、1番近くのトイレに走り出した。

 

息を切らせて辿り着いたトイレに、ハーマイオニーの声は聞こえない。誰かがいる気配もなかった。手が震え、気持ちだけが焦っていく。

 

私がいることで、どう未来が変わっているのかわからないのだ。大して未来に干渉したことはないが、まだわからない。

 

トロールがいる場所も、来るタイミングもわからない上に、ちゃんとそれを倒せるかどうかもわからないのだ。予見も、第三者のいない今、役には立たない。

 

冷静になれ、と己を叱咤し深呼吸をした。

 

何もわからないのなら、今は違う視点で見るべきだ。原作のトロールは地下に出る。もし今、ハーマイオニーがトイレにいることがこの世界が最低限原作に沿おうとしていることから来ているのなら恐らく、彼女の居場所もそれに準じているはず。

 

1番近い、地下室近くのトイレは、どこにある?

 

グリフィンの石像近くのトイレが思い浮かんだ。きっとあそこだ。

 

すぐさま走り出した。そのトイレは、すぐ近くにあった。その扉にはいつもなら刺さっていないはずの鍵。後でこの鍵を使ってハリーたちがトロールをこのトイレに閉じ込める。

 

迷わずその鍵を引き抜き、ポケットに入れた。

 

━━━もしかしたらこの世界は本当に原作に沿おうとしているのだろうか。だったらこれから私が、将来的にヴォルデモートなり闇の魔法使いなりの犠牲になる人たちを救おうとするのも、この世界では無駄な足掻きではないのか━━━?

 

一抹の不安が胸を過った。

 

否、違う。あの時確かに神は『好きにしてくれて構わない』と言った。自由に未来は変えられるということも言ったはずだ。あの状況下で嘘を吐くとも思えない━━━ああ、もう…今はこんなことを考えても無駄だ。

 

脳内を黒く埋めようとしていた考えを振り払い、じめじめとあまり清潔とは言えないトイレに耳を澄ませた。奥の個室から、すすり泣くハーマイオニーの声が聞こえる。

 

「━━━ハーマイオニー?」

 

「っ…!ジーナ…!」

 

彼女の泣きそうな鼻声がトイレに響いた。

 

「ハーマイオニー、どうしてこんなところにいるの?出て来れる?」

 

鍵の閉まった個室に話しかければ、僅かな沈黙の後、カチャリと軽い音を立てて鍵は開いた。中にいたハーマイオニーはやっぱり泣き腫らした酷い顔をしていた。

 

次の瞬間、私はハーマイオニーのふわふわの髪の毛に包まれていた。抱きついてきたのだ。清潔なシャンプーの香りが鼻腔を満たす。

 

「━━━貴女が行ってしまってから、私、顔を洗おうと思ったの。ロンにも、ちゃんと謝ろうと思って……下りてきたらピーブズが廊下にいて、それで、ひ、酷いことばっかり、並べ立てるから…私━━━」

 

ガラガラガラ……

 

重い何かを引き摺る音がした。続いてドスン、ドスンと内臓に響く足音が地面を揺らす。気が付けば酷い臭いがトイレを満たしていた。

 

「何?この臭い━━━!?」

 

臭いの元を見上げ、言葉を失った。既に『それ』は城内に入り込んでいた。

 

背は4m。汚い、鈍い灰色の肌に岩石のようにゴツゴツとした巨体、禿げた頭は異様に小さく、短い脚は木の幹ほど太い。腕が異常に長く、手にした巨大な棍棒は床に着き、引き摺っていて歩く度にガラガラと音を立てている。

 

バタンっ!とトロールの背後の扉が勢い良く閉まった。ハリーとロンだ。だが鍵は私のポケットにある。完全には閉まっていなかった。

 

トロールはのろのろとした動作で閉まった扉を見、そしてまた私たちに向き直る。卑しい、小さな黒い目が私とハーマイオニーの姿を捉え、トロールは棍棒を振り上げた。その刹那ハーマイオニーは甲高い、引き攣った悲鳴を上げた。

 

「避けて!!」

 

棍棒が振り下ろされる。ハーマイオニーを突き飛ばし、杖を抜き去りながら横っ飛びにそれを避けた。先程まで私たちが立っていた床は棍棒で叩き割られ、粉々になったタイルが無惨に散乱している。

 

ハリーとロンがドアを開け、突入してきた。二人とも青い顔をしている。

 

トロールはまた棍棒を振り上げた。標的は、壁際で縮み上がっているハーマイオニーだ。その足で洗面台を次々となぎ倒しながら、彼女に近付いて行く。

 

「こっちに惹きつけろ!」

 

ハリーが喚き、近くに落ちていた蛇口を拾って投げつけた。私も杖をトロールに向ける。

 

「アクアメンディ!グレイシアス!!」

 

振り抜いた杖の先から飛び出した大量の水は空中で凍てついた。瞬間的にトロールの注意がこちらに逸れる。

 

「エクスパルソ!オパグノ!」

 

さらにそれを爆破し氷の刃と変えた。それらは次々にトロールを襲い突き刺さる。

 

だが皮膚の厚いトロールには全くと言っていいほど効いていない。針でも刺したようにトロールはそれらを見、そして私を見た。

 

振り上げた棍棒はそのままに、トロールはふらふらとこちらに向かってくる。どうやら標的はハーマイオニーから私に変わったらしい。

 

「「ジーナ!!」」

 

ハリーとロンが同時に叫び、トロールに瓦礫を投げつけた。今度は彼らの方を向く。

 

「待ちなさい!インカーセラス!」

 

トロールの太い脚に向け呪文を放った。飛び出した縄は幾重にも堅くその両脚を縛り上げる。トロールはバランスを失った。棍棒を振り上げたままそれはハリーの方に倒れかかる。

 

「ハリー!」

 

杖を取り出したはいいものの、どうしていいかわからずにいたロンはハッとして杖を振り上げた。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!」

 

ハーマイオニーにアドバイスを貰ったばかりの、覚えたての呪文。その間にハリーは後退った。

 

高く掲げられたままの棍棒はトロールの手をするりと抜けたかと思えば、ぐるりと反転して、今にも倒れようとする持ち主の脳天目掛けて落下した。ボクッと鈍い音が響いく。トロールは白目を向いてそのまま、ドォンと凄まじい音を立ててうつ伏せに倒れた。

 

━━━━終わった。

 

ハリーはトロールを見つめ、ロンも杖を振り上げた格好のまま突っ立って、自分が倒したトロールをボーッと見ていた。

 

ハーマイオニーがトイレの隅から出てきて、やっと口を利いた。

 

「これ、死んだの?」

 

「いや、ノックアウトされただけだと思う」

 

ハリーは答えながら、トロールに突き刺さっている氷の刃を観察した。

 

「まったく、ジーナ、君って本当に何でも知ってるよね。どんな魔法を使ったの?」

 

「アクアメンディで水を出して、グレイシアスで凍らせてエクスパルソで爆破して、オパグノでそれらに襲わせただけよ」

 

あまりにも唐突なことで考えずにやったため頭の中で順を追いながら言った。ロンは挙げていた腕を下ろし呆れたように言う。

 

「それを咄嗟に思いつくことが凄いよ」

 

「本当━━━私なんてただ怯えることしかできなかったのに」

 

ハーマイオニーがトロールを憎々しげに見つめてそう言った途端、急にまた入り口の方からバタンと音がして、バタバタとたくさんの足音が近付いて来た。

 

4人は顔を上げた。どんなに大騒動だったか、必死だった4人は気付かなかったが、物が壊れる音やトロールの声、倒れた時の地響きを階下の誰かが聞きつけたに違いない。

 

マクゴナガル先生が走ってきていた。そのすぐ後にスネイプ、その次はクィレルだ。

 

クィレルは倒れたトロールを一目見た途端、ひーひーと弱々しい声を上げ胸を押さえて地べたにへたりこんだ。臭い芝居だ。

 

スネイプはトロールの醜い顔を覗き込み、そして皮膚に浅く突き刺さっている溶けかけの氷を見てすぐさま私を見た。マクゴナガル先生は激怒していた。噛み締めた唇は蒼白だ。

 

「一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか」

 

冷静だが、隠し切れない怒りが滲んでいる。

 

「殺されなかったのは運が良かったのでしょう。しかし寮にいるべきあなた方が、どうしてここにいるんですか」

 

スネイプの目が鋭くハリーを睨み、そして私を睨んだ。

 

視界の端でハーマイオニーが小さく手を挙げた。

 

「マクゴナガル先生、聞いてください━━━3人とも、私を探しに来たんです」

 

「「ハーマイオニー/ミス・グレンジャー!!」」

 

私と先生が同時に声を上げた。

 

「私が、トロールを探しに来たんです。私……私、一人でやっつけられると思いました━━━あの、本で読んでトロールについては色んなことを知っていたので」

 

苦しい虚言だった。だがロンには響いている。彼は驚きのあまり杖を取り落とし、トイレ内にはカラカラという寂しい音が響いた。

 

「もしこの3人が私を見つけてくれなかったら、私、今頃死んでいました。ハリーはトロールの気を惹いてくれ、ジーナは氷の刃でトロールを攻撃し、縄で縛って動きを封じてくれ、ロンは棍棒でノックアウトしてくれました。3人とも、誰かを呼びに行く時間がなかったんです。3人が来てくれたときには、私、もう殺される寸前で……」

 

ハリーもロンも、その通りです、という顔を装ったので私もそれに従った。現状、最善策としてハーマイオニーに甘えるしかない自分が不甲斐ない。

 

「そういうことでしたか……」

 

マクゴナガル先生は難しい顔で4人をじっと見た。

 

「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことをしたか、わかっていますね?たった1人で野生のトロールを捕まえようなんて、どうしてそんなことを考えたんです?」

 

ハーマイオニーは項垂れた。誰も、何も言わない。ロンはいつになく真剣な眼差しでハーマイオニーを見ていた。

 

「グレンジャー、グリフィンドールから5点減点です。あなたには失望しました。………怪我がないのならグリフィンドール塔に帰った方が良いでしょう。生徒たちがさっき中断したパーティの続きをやっています」

 

先生の言葉に従い、ハーマイオニーは名残惜しそうに私たちを見てから去っていった。

 

マクゴナガル先生は今度は私たちに向き直った。

 

「先程も言いましたが、あなたたちは運が良かった」

 

ロンが私を見た。

 

「しかし大人のトロールと対決できる1年生はそうざらに居ません」

 

今度はハリーが私を見た。

 

「1人5点ずつあげましょう。ダンブルドア先生にご報告しておきます。今日は帰ってよろしい」

 

3人で顔を見合わせ、そして一切笑わないように真面目くさった顔をして揃ってトイレから出ようとしたとき、私だけマクゴナガル先生に呼び止められた。

 

「━━ミス・ブラック、貴女は少し残ってください」

 

胃がガクン、と1段下がった気がした。ハリーとロンは心配そうに私を見るが、私は彼らに頷いて、大丈夫だと暗に伝えた。

 

「…クィレル教授、ダンブルドア先生を呼んできていただけますか?」

 

「は、は、はい!い、今すぐ、よ、呼んで来ます」

 

吃りのクィレルはへたっていた床から何とか立ち上がり、よたよたと走って行った。

 

マクゴナガル先生はぐるりと私に向き直る。

 

「貴女は、今夜ここにトロールが来ることを知っていた、そうですね?」

 

どうして先生は予見のことを知っているのか。疑問に思ったが少し考えればわかることだった。彼女も不死鳥の騎士団の団員、更には事前にダンブルドアから知らされている可能性が高いメンバーの一人だ。

 

「…いいえ」

 

恐らく、クィレルにダンブルドアを呼びに行かせたのはこの為か。彼は団員ではない。

 

スネイプがふん、と鼻を鳴らした。

 

「わかっていたはずです。でなければ貴女がここに来た理由がありません。貴女は宴の席にはいなかったでしょう」

 

「…そうですね、すみません」

 

マクゴナガル先生は溜息を吐いた。

 

「まったく…わかっていたのなら何故私たちに教えなかったのです?貴女は確かに並の11歳ではありえない魔法力と予見の力を持っていますが、まだ経験の浅い子どもなのですよ?」

 

マクゴナガル先生の後ろでスネイプが意地悪く目を細め、私を見下ろした。

 

「今回のことをシリウスに伝えることはしませんが、次貴女が何か危険な行為をした場合、遠慮なく報告させていただきます。いいですね?」

 

「そんな……どうしてですか?私はただの一生徒でしょう?」

 

「そうするよう彼とダンブルドア先生に頼まれたからです。いいですね?」

 

シリウスに関しては十中八九親バカから来ることだろうが、ダンブルドアは恐らく違う。『半純血の予見者』が絡んでいることは火を見るよりも明らかだ。

 

「はい…」

 

「ではブラック、解ったなら貴女も寮に戻りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

「豚の鼻」の合言葉で談話室に入ると、そこは人でごった返していた。

 

どこから持ってきたのか、たくさんのご馳走の乗った皿が、テーブルやら暖炉の上やら、様々な場所に置かれて、さらには部屋の真ん中の人だかりの中心にはウィーズリーの双子が陣取って何やら芸を披露していた。

 

そんな騒がしい部屋の中で、グループから離れて3人がご馳走も食べず仲良く談笑していた。ハリー、ロン、そしてハーマイオニーだ。

 

「あ、ジーナが帰って来たよ」

 

私に気付いたハリーがそう言うのが聞こえた。

 

「ただいま」

 

笑って言った。

 

3人も「おかえり」と笑い、そして4人で揃って急いで食べ物を取りに行った。3人はパンプキンは1つも入っていない私の皿を笑ったが、私はいつになく上機嫌だった。

 

今年のハロウィーンは、人生の中でこの上ないほどに幸せなハロウィーンだ。

 

 

 

 

 




今更ですけど、ジーナについてトンデモナイことが発覚。

ジーナの本名は『レジーナ・ブラック』ですが、『レジーナ』を名前として使用するのはアメリカ辺り、イギリスの英語では『レジーナ』とは女王に対する敬称で、『〜女王』という意味。

やらかしたぁあああああああ!!!!

直訳したら『黒い女王様』。この上なく悪そう。わぁあああ…どうしよう…



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