特にコメントや評価を糧にしてますので今までそれらを書いてくださった方、本当にありがとうございます。
お気に入りにしてくださっている方もありがとうございます。
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地図を頼りにハリーのいるその教室に辿り着いたとき、彼は部屋の真ん中に置かれた鏡の前でマントを脱いで、両手をついて食い入るように鏡を見つめていた。
白い月の光が生む影も相まって、その横顔はまるで泣いているようにも見える。
地図上で教室の入り口を塞ぐようにして立っているダンブルドアの文字を見、彼に見つからないように私は教室の外からその様子を見ていた。
ハリーはずっとそうしていた。大きな鏡の端から端まで深く見つめ、フィルチの近付いてくる物音を聞いて時間の感覚を取り戻す頃にはもう半時も経っていた。
床に折り重なっていた銀色のマントを拾い上げ、ハリーはもう一度鏡を見ると「また来るからね」と呟き、音を立てないようにそっと教室を出ていった。
だが、いつまで経ってもフィルチは現れない。
不思議に思い地図を見れば、フィルチは遠い廊下を歩いていた。ダンブルドアがハリーを帰らせるためにやったのだろうか。遠退いていくハリーの点とは対照的に、その点はまだそこにある。彼はこちらを向いていた。
ハリーが曲がり角を曲がって見えなくなったとき、唐突に、私の被っている透明マントがふわりと浮いた。
「こんな夜更けにベッドを抜け出すとは、感心せんのう」
朗らかな声と共にマントはするすると飛んで、ちょうどダンブルドアがいる辺りの空中で静止した。彼は自身に掛けていた目くらまし術を解き、姿を現した。真っ直ぐに私を見つめている。
はじめからバレていたんだろう。諦めて地図をポケットに突っ込み、私も彼に倣って術を解いた。さあ、と血の気が引くような感覚が脳天から垂れていく。
「こんばんは、先生」
そうして、まるで街で偶然出会っただけのような挨拶をした。彼も同じように微笑んで挨拶を返した。
「こんばんは、レジーナ」
彼は手にしたマントの織り目を確かめるように手を動かしながら続けた。
「1年生らしからぬ素晴らしい目くらまし術じゃ。お父上からかの?」
明るいブルーの瞳がきらりと光る。
「いえ、独学です。父の古い教科書や資料本を参考にしました」
彼はほう、と感心したように声をあげ、その動きに合わせて長い髭を束ねている紐の先についたビーズが月明かりに輝いた。
「なんと、独学と。君はお母上の方によく似たようじゃ。しかし…夜中にベッドを抜け出すところは、もしかしたら、お父上に似てしまったのかも知れんのう」
特に責める様子もなく世間話をするような調子でそんなことを言い、彼はただ微笑むままだ。
「すみません、ハリーが出ていくのが見えたもので。今年は何かと物騒ですし、彼を一人にするのは危ないと思いました」
肩を竦めて言えば、彼は優しく首を横に振った。
「それは君もじゃよ、レジーナ。君も彼と同じ、1年生じゃ。いくら目くらまし術を上手く使えようとも、それは変わらぬ」
諭すような口調だが、目だけは好奇心の旺盛な子どものようにメガネの奥でキラキラと輝いている。
「…すみません、少し図に乗っていたのかも知れません」
そう言うと、ダンブルドア先生は朗らかに笑った。何故今、笑ったのか。この人と話しているとなんだか調子が狂う。
「そうは言っておらんよ。少々図に乗ることは良いことじゃ。そうすることで可能性が見えてくるものもある。じゃが今は、危険なものは危険なのじゃよ。君の思っている通り、今年は少々物騒じゃ。それはハリーだけでなく、君にも振りかかるやも知れんのじゃよ」
今、彼が心配しているのは私か、それとも私の能力か。
そんなことが脳裏を過った。
あの予見に登場しているくらいなのだから(それにあの神様のことだ)私のこれはそれなりに重要な役目を負っているのだろう。ならば、闇の帝王の死を信じていない彼にとって私の能力はハリーと同じくらい、否、もしかするとそれ以上に欠かすことのできないものであるはずだ。
大切にされたいとか、そういうことではない。悲観的になっているわけでもなく、ただ、自嘲的にそう思ったのだ。
「…気を付けます」
「そうしてくれるとありがたいのう。ではレジーナ、これは君に返そう」
彼は手にしていた透明マントを差し出した。月の光に鈍く乱反射するそれは、ハリーのものとは明らかに違う。
「いいのですか?没収は…」
「いいのじゃよ。君のお父上が悩みに悩んで選ばれた折角のクリスマスプレゼントじゃ」
何故それを知っているのか疑問に思ったが、この人のことだ。シリウスから、ハグリッドから、リーマスから、なんて数多くの情報網があるのだからそれくらい知っていても不思議はない。
「ありがとうございます」
にこにこと微笑む彼からマントを受け取れば、彼はハリーが帰って行った方を指し示した。
「さあ、もう夜も更けておる。早くベッドに戻りなさい」