「ハリーはどこ?彼にも謝りたいの」
言うと、ロンはなんとも微妙な顔をした。
「あー、うん。部屋にいるよ、でも……」
ロンはそこで言葉を切った。代わりにパーシーが後を継いだ。
「誰にも会いたくないそうだ。僕たちも拒絶されてしまった」
「まさか」
フレッドが言った。
「喧嘩してるジーナにならともかく、それはお門違いだろう?」
ハリーを非難するような声が上がる。
「僕もそう思ったけど…ハリーも色々あるだろ?ほら…」
親のこと、とか。
ひどく言い難そうにロンは口籠る。実際、言い難いことだ。ロンは愛してくれる親も温かな家族も持っていて、ハリーはそのどちらも持っていない。その原因に直接関係はないにしても、後ろめたい気持ちはできてしまう。
「そんなこと、気にしてなんていられないわ」
レジーナの言葉にロンは「え?」と聞き返した。
「そんな言い方はないだろう、ジーナ」
咎めるようにパーシーが言う。
「言い方はどうかと思うけど、ジーナの言う通りだぜ?今のハリーはちょっと──感情的すぎる」
ジョージが言った。
「いくらハリーが拒絶しているとしても今行かなきゃ、結局後で気まずくなってきっとお互いにもっと謝り辛くなるわ」
そう言ってレジーナが男子寮の方へ向おうとすると「ちょっと、」とロンが手を伸ばしかける。
「大丈夫、ちゃんと謝るわ」
レジーナはにっこりと笑って階段に足をかける。
階段を登って、渡り廊下のすぐ向かい側のドアにハリー・ポッターの名前が金文字で掲げられている。扉の向こうからは何の音も聞こえない。じっとしているだけなのか、それとも眠ってしまったのか。レジーナはそっと扉の前に立ち、小さく2回、ノックした。
「…放っといてくれって言っただろ」
ぶすくれた声がした。
「ハリー、私よ」
少しの沈黙の後、ハリーは「君の話なら聞かないよ」と言った。
「そう、なら聞き流してね」
レジーナはそう言って扉を背に座りこんだ。
「私、予見の力があるって前に言ったわよね。それでね、貴方がちゃんと"鏡離れ"できるって知ってたのよ。でもあなたが鏡に心を奪われてる姿を見て少し、怖くなったの」
「過去の文献でたくさんの人があの鏡に心を奪われて廃人になったのを知ってたから……もちろんあなたのことを信じてなかったわけじゃない。でも私の予見は河の水が水底の小石に当たって跳ね上がるように、ほんの少しのことで、水底の小さな小石程度のもので、簡単に未来が変わってしまう」
半分は嘘で、もう半分は本当だ。
相変わらず返事はなく、レジーナはぎゅっと自分の膝を抱きしめた。
「……私ね、母が死んだって言ったでしょ。あいつの呪いを受けて……。母はとても勇敢な人だったそうよ。それに私と同じ予見者。私の力は母譲りなの。母はレイブンクローの出身で、学生時代は父やあなたのお父様たちと一緒にイタズラの知恵を絞ったそうよ。当時は『ポッターとブラックもだけど、そこにローレンスが一緒になるとろくなことにならない』ってマクゴナガル先生に言われて3人揃って問題児だったそうよ」
「ほんとに?」
少し驚いたような彼の声が聞こえた。
「ええ、もしよかったら今度、私の父に会ってあげてくれないかしら。きっと喜んで昔話を聞かせてくれるわ……もしかしたら、卒業アルバムの写真を譲ってくれるかも」
謝ろうと思って来たのに、私は一体何を話しているんだろう。
レジーナは小さく溜息を吐いた。
「……ごめんなさいハリー。私きっと上手に仲直りできないわ。ねぇハリー、こんなときはどうすればいいの?」
「そんなの……僕だってわからないよ。僕じゃダドリーと喧嘩にすらならないもの。一度だって喧嘩になんてなったことないよ」
ハリーは少し困ったように言うので、レジーナはクスリと笑った。
「お互い様ね。……こうしない?一斉の声でドアを開けて、同時に謝るの。これで今までのことはナシ。どう?」
「いいよ」
すぐにハリーは返事をしてくれた。
「オーケー。3.2.1の合図で開けてね」
「うん」
レジーナは立ち上がり、スカートの裾をはたいて扉の方に向かい合った。
「それじゃあ……3.2.1」
ゆっくりとカウントするとロックを外す音がして、そっと扉が開かれた。ハリーと目があった瞬間、レジーナは深く頭を下げた。彼もほぼ同時に頭を下げるのを感じた。
「あなたも辛いのに、何も考えずに否定してごめんなさい」
「心配してくれてたのに怒ったりしてごめんね」
レジーナは顔をあげ、にっこり笑って言った。
「じゃあ、仲直りのハグね」
ハリーもにっこりした。
「仲直りだね」
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「なーんか、拍子抜けだよな」
談話室の暖炉を囲み、双子が持ってきた屋敷妖精特製ケーキやクッキーをつまみながらジョージが拗ねたように言った。部屋の中には先の大乱闘の影がまだちらほらと見える。
「どうして?」
「だってさ、僕らがあんなに手こずったのにレジーナが行ったらすーぐ降りて来たんだぜ?ハリーのやつ」
フレッドまで少し納得行かないように言うのでレジーナはクスクスと笑う。
「ふふ、愛の力かしら?」
「「まさか!」」
「ちょっと!」
2人だけでなくハリーも揃って言った途端、「うるさいぞ!」とパーシーの声が飛んだ。ロンはゲラゲラと笑っている。
「君たち、仲が良いのは良いことだが自習はしているのか?フレッドとジョージは課題も終わっていないだろう!それにロンも!」
男子寮方から出てきたパーシーが怒鳴る。フレッドはパーシーから見えないようにこちらを向いて舌を出して「うげぇ」という顔をしてみせた。ロンはヒーヒー言いながらフレッドと同じようにハリーと顔を見合わせて「うげぇ」と言っていた。
「いいだろ、パーシー!まだ休みならあるんだから放っといてくれよ」
ジョージはクッキーに手を伸ばしながら言った。
「ダメだ!そう言って去年も結局僕がお前たちの課題を見なくちゃならなかったんだ!今年からはもう御免だぞ!」
「そう言って優しいお兄さまは毎年見てくれるんだよな」
「なッ……」
レジーナはくすくすと笑った。
「仲が良いのね」
「「ご冗談を!!」」
「滅多なことを言わないでくれ、レジーナ!第一仲が良ければこんな不毛な言い争いはしないだろう!」
シンクロする双子に、そっくりな顔で驚いたように声を上げるパーシー。仲が良い以外に何と言えばいいのだ。
「喧嘩するほどなんとやら、よ」
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