でも私は彼の『我輩』が気に入らないので彼には『私』でいてもらいます。よかったら皆さんも時間があるときに一度英語版を読んで見てはどうでしょうか。全ては読まなくても自分の好きなシーンだけとか、一部だけでいいので自分で訳してみてください。色々と新しい発見があって楽しいですよ。
長くなってしまいましたが、すみません、やっと第8話です↓↓
ホグワーツという場所は、何かの特殊な魔法でも掛かっているのかと錯覚するくらいに時間が経つのが早い。それほどまでに充実し、退屈など微塵も感じさせない素晴らしい場所だ。
授業のほとんどの内容は予習で知っていることばかりではあったが、家族以外の誰かと一緒に何かをするというのは楽しい。ハリーもロンも、勉強には少し苦労していたので談話室でその日の範囲を復習したり、2人の可笑しな間違いに一緒になって笑ったり、これまでにないくらいに毎日がキラキラと輝いて見えた。
そうしてあれよこれよと言ううちに、気が付けば入学から2週間が経とうとしていた。最近、クィディッチの予選が近付くにつれ頻繁にオリバー・ウッドがチェイサーとシーカーがいないと喚いているのを聞いてやっと日にちの感覚を思い出したのだ。
そして今日は金曜日。記念すべき、初魔法薬学の授業である。正直憂鬱でしかない。
セブルス・スネイプがハリーをジェームズに重ねているのは知っている。だとすれば私はどうだろう?母によく似たこの顔と、シリウスから受け継いだこの瞳。彼は私もシリウスに重ねて拒絶するのだろうか。
原作を知り、彼の一途な想いと悲運を知る私には彼を嫌う理由などあるはずもなく、むしろ好きな部類なのだ。けれど私はこの目と名前で、何の釈明もなく彼から嫌われてしまうのだろうか。
人知れず、不安な思いが胸を締め付ける。
「───ねぇ、本当にここであってるの?」
ロンが隣で囁いた。ここは地下、魔法薬学の授業が行われる牢屋のような部屋の前に来ていた。確かに教室とは思えない趣味の悪さだが、魔法薬を多少なり知っていればこの立地は納得できる。それの完成品そのものや使われる材料には乾燥や熱、極稀に光に弱いものがあるのだ。その点、地下牢というのはそのどれもカバーできるので魔法薬学の授業をするに持って来いというわけなのだ。
「あってるわ。アンジェリーナが教えてくれたから大丈夫よ」
そう言いながら牢の鉄扉に手を掛ければ、それはすぐに私たちに道をあけた。暗く、ホグワーツのどこよりも寒い教室には、壁際にびっしりと並べられたホルマリン漬けの動物たち以外誰もいない。
そっと恐る恐る教室に足を踏み入れる。コツコツという足音が、不気味なほど大きく反響した。
「…不気味だね」
ハリーが言う。その通りだ。この教室は良くないものでも出てきそうな、そんな想像を掻き立てる。
「そうね……悪霊でも出てきそうだわ」
ロンが冗談は止めてくれよ、と抗議をしたので謝り、席に座った。ところが座ってから、この席はまずかったと後悔した。
1番前だったのだ。こんなところ、嫌でも目立つ。ましてや隣にはハリー・ポッターだ。セブルスが嫌なことを思い出さないことだけを祈り、席については諦めた。
しばらくすると、やっと教室に辿り着けた他の生徒たちがぞろぞろと教室に入ってきた。私、ハリー、ロンと並んで座っていた四人掛けの長机の私の隣に、ハーマイオニーが腰掛けた。
「ハイ、ハーマイオニー」
「ハイ、ジーナ。初めての魔法薬学ね。私、とっても楽しみだわ!」
彼女は興奮気味に言った。確かに今の彼女はとても楽しそうだが、もうすぐそれも踏み躙られるんだろうなと思うと、なんだか微妙な気分になった。
「そうね」
徐々に教室を埋める生徒の数は増え、陰気な教室は活気付いて心なしかほんの少し温かくなった気がした。
しかし唐突に、またこの教室を冷たい空気が走り、ねっとりとした、決して明瞭とは言えない声が地下室に響く。
「──静かに」
その瞬間、この部屋全体が水を打ったように静まり返った。
地下牢の後ろの入口から黒いマントを翻しながら彼はつかつかと前の教卓へと早足で歩き去っていく。風に乗って僅かに、特殊な薬品の匂いがした。
「出席を取る」
自分の名前を名乗りもせず、彼はまずスリザリンから名前を読み上げ(はっきりと良い返事をしてみせたドラコ・マルフォイにきっちり1点与えていた)、次にグリフィンドールの生徒の名前を読み上げる。
「───レジーナ・ブラック」
「はい」
憎々しげなその声ははっきりと、シリウスと、それから私の姓への嫌悪を表していた。胃が、居心地悪く少し下がるのを感じた。
しかしすぐに彼は何もなかったかのように続きの名前を読み上げていく。
「──ああ、さよう」
ハリーの名前のところで止まった。変わらずねっとりとした猫撫で声だ。
「ハリー・ポッター。我らが新しい───スターだ」
ドラコとその取り巻きたちがクスクスと冷かし笑いをした。思わずそちらを睨みつけ、黙らせる。
たかだか私の睨みだけで萎縮するとは、彼らはまるで女子のようだと顔をしかめた。本人を前にはっきりとは悪口を言わず、影で嗤う。1番嫌いなタイプだ。
「ロナルド・ウィーズリー」
ロンの名前が呼ばれやっと出席を取り終わると、彼は教室を見渡した。暗く冷たい、虚ろな目だ。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
魔法と科学。本来ならば相容れないその単語を使うあたりに、彼の魔法薬に対する愛情が見て取れた。
生徒たちは(ネビルやシェーマスさえも)スネイプの土気色の、決して顔色がいいとは言えないその顔を凝視していた。
「この教室の中では呪文を唱え、杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかも知れん。沸々と沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力………諸君がこの見事さを真に理解るとは期待しておらん。私が教えるのは、名声を瓶に詰め、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である───ただし、私がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだマシであればの話だが」
呟くような演説の後は、その余韻だけを残して教室は静まり返った。ぶーん、と静けさに耳が鳴った。
スネイプは教室の前を1往復し、戻ってきた途端に「ポッター!」と呼んだ。
隣でハリーが身構えるのを感じた。
「アスデフォルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
ハリーはロンと顔を合わせるが、残念ながら2人とも答えを持ちあわせてはいなかった。ハリーの反対隣でハーマイオニーの手が高々と天を突いた。
「わかりません」
スネイプはせせら笑った。
「───有名なだけではどうにもならんらしいな」
彼はハーマイオニーを無視した。思わず彼女の太ももを叩き、手を下ろすようアイコンタクトを取ろうとしたが彼女は石像のようにスネイプを見つめたままだった。
彼は続ける。
「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、どこを探すかね?」
彼はまた意地悪く口角を吊り上げた。ハーマイオニーの手が更に伸びた。
「わかりません」
視界の端でドラコたちが腹を捩って笑っている。
「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな?ポッター」
ハリーはひたすらに彼の冷たい目を見つめていた。最早睨みつけていると言っても過言ではないほどに強い視線だった。
この問答は酷いものだ。ハリーでなくても、この教室の中で正確に質問に答えられる人間は少ないだろう。
「ポッター。モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」
ついにハーマイオニーが立ち上がった。私ももう我慢はできずそのローブを引っ張って座らせようと試みたが、彼女は決して座らなかった。
「座りなさい、ハーマイオニー!」
そう囁いても彼女はスネイプを見つめたままだった。
「わかりません」
ハリーは落ち着いた口調でそう言ったが、その言葉の裏にははっきりとした苛立ちが見え隠れしていた。ハーマイオニーはまだ無言でスネイプを睨みつけるように見つめ、手を突き上げていた。
そこでついに、私は「ああ、もう!」と口を開いてしまった。
「先生、ハリーにだけその質問をするのは不公平です!」
スネイプは片眉を吊り上げ、ハーマイオニーは驚いてこちらを見た。もう手を上げることすら忘れている。
「私は他の生徒にも同様の質問をするべきだと思いますが。それとも、先生はハリー以外の全員がこの質問に満点の答えを返すことができると?それとも彼に個人的な恨みでもあるのでしょうか?」
彼の眉間に深いシワが刻まれるのを見た。当然のように、気分を害したようだった。
「───なら、ブラック。君は、今までの質問に1つでも答えられるのかね?」
「もちろんです」
ドラコはついに笑うのを止め、ひーひー言いながらも私とスネイプを見つめた。クラス中が見守っていた。
「アスデフォルとニガヨモギは合わせるととても強力な眠り薬となり、あまりに強力過ぎるため服用を間違えれば死んだように一生眠り続けてしまうことから『生ける屍の水薬』と呼ばれています。
次にベゾアール石とはヤギの胃に出来る結石のことで、大抵の毒に対する解毒剤になります。更に服用方法は喉から押し込むだけとかなり簡単です。探す場所は、普遍的に答えるならヤギの胃と言うべきでしょうが、私ならホグワーツの魔法薬学の教室の戸棚を探してみます。
最後にモンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトとも言いますが、一般的な認識としては『トリカブト』のことです。……如何でしょうか?」
一気に捲くし立て、スネイプの黒い目を見つめて首を傾げて見せた。彼もまさか私が全てを答えられるとは思わなかったらしく、一瞬フリーズしていた。
「───ブラックの言う通りだ。諸君、何故今のを全てノートに書取らんのだ?」
教室は一斉にごそごそと羽ペンと羊皮紙を取り出す音に包まれた。いつの間にか席についていたハーマイオニーは私に賞賛の眼差しを送っていた。
「すごいわ、ジーナ。私、たぶんあんなに完璧には答えられないわ」
「そうかしら?あなたならきっと、私より完璧にできるわよ」
生憎ながら、私はテストで良い点は取っても授業態度は気にしないつもりだ。最低限、席に座って黒板を(ぼんやりと)見て話を聞く(フリ)という動作はするだろうが、手を挙げて発表したり先生にアピールしたりなんてことはしない。
将来的にハーマイオニーの方が確実に、そういう部分を伸ばしていくだろう。
「そんなことないわよ」
ハーマイオニーは私と小声で会話を進めつつ、綺麗にノートにさっきのことを書き込んでいた。反対隣でハリーとロンが必死で私の言った内容を思い出そうとしていたが思い出せていなかったので助け舟を出した。
「───ブラック。君はノートは取らないのかね?」
スネイプは蔑むような目で私を見ていた。私もその目を見つめ返せば、彼の目が忌々しげに細められた。
「必要ありません」
教室がざわめいた。
「どうしてそう言える」
彼の黒い目はまだ私を映し、眉間には深くシワが刻まれていた。
「先程先生もご覧になったように、全て理解しているからに他なりませんが、何か問題はありますか?」
シェーマスが小声で感心したように声を上げた。スネイプの眉間のシワが更に深くなり、ぴくりと動いた。
「───その生意気な態度に、グリフィンドール1点減点」
「どうしてですか?」
ハリーが立ち上がった。
「ジーナは『何か問題はありますか』って尋ねただけでしょう?どこが生意気なんですか?」
2人の間には既に完全な敵対関係が結ばれていた。
「──全てだ。グリフィンドール2点減点」
その顔も、名前も、その全てが。
スネイプのその答えにクラスの半分、つまりグリフィンドール生から批判が飛んだ。
不公平だとか、最低だとか、依怙贔屓だとか。
そんなことを口々に喚けば当然得点は引かれるばかりなわけで。さらにはこんな状態でまともに授業ができるわけもなく、ようやく授業が終わる頃にはグリフィンドールは合計27点もの点を失っていた。
その後、ハリーは憤慨しながらもハグリッドの元へと行った。ただ、私も誘われたのだが気分が乗らず、柔らかく断った。
寮へと帰る道を1人歩きながらスネイプの黒い瞳を思い返した。暗い、闇色のインクをぶちまけたようなはっきりとした嫌悪。例えそれがまだ子どもだった頃のシリウスとジェームズによることだったとしても、一人の『ハリー・ポッターに登場しているキャラクター』として彼を好いていた私自身に向けられるその視線はあまりにも重すぎた。
翌日からもう、授業のことは学校中に広まっていた。しかし大切な部分だけが伝わらず、ハリーが詰問されていたことも私がそれに抗議したこともなかったことのように扱われ、ただ、私が授業中唐突にスネイプを批判し、生意気な態度を取ったように広まっていったのだ。
元々、スネイプが嫌われていたのでグリフィンドール内では『勇気ある1年生』として扱われたが、スリザリンは違った。全容を知ってか知らずか、完全に私を敵と見なしていた。当然良い事があるはずもなく、スリザリン生と廊下ですれ違えば後指を指され時には実際に手を出されたりもした。
「気にすることはない。今度何かされたらすぐに僕に言いたまえ。それ相応の対応をするよ」
朝一番、時間が早すぎて誰もいない談話室の暖炉の前で、暖かく揺れるその火を眺めているとパーシーが声を掛けてきた。胸には監督生のバッジが光っていた。
「……ええ、ありがとう、パーシー。でもいいの、ああいうのは構えば構うだけ面白がるんだもの。放っておけばいつかきっと飽きて次のターゲットを探すでしょうし」
「ああ…そうだね。あの連中は確かにそうだ。でもまぁ、もし堪えきれなかったりしたらいつでも相談に乗るよ」
彼は優しく言う。ロンとよく似た赤い髪が暖炉を透かして揺らめいた。
「ありがとう」
レジーナに地の文でセブルスと呼ばせるかスネイプと呼ばれせるかで迷いました。結局スネイプです。
パーシーの出番少なかったですね
あまりにも少なかったのでここで突っ込みました笑
コメントや評価、お気に入り等、いつもありがとうございます。
本日、誤字報告がありました。
「基」は「もとい」と読みますが、「元」ではなく変換の間違いでした。本来は「もとい」ですので修正しておきます。ちなみに言い間違い等を即座に言い直すという意味になります。
間違った漢字のまま気付かず投稿してしまい、申し訳ありませんでした。ご報告ありがとうございます。