戦闘描写……強敵ですね
第二十話・低軌道会戦(前編)
地球連合宇宙軍 第10艦隊司令 グリーン・ワイアット中将は、自身の乗艦である第10艦隊旗艦 アガメムノン級戦艦バーミンガムの艦橋にて、午後のティータイムを楽しんでいた。
「うむ、このアールグレイの香り、そして深い味わい……やはり英国紳士たるもの、紅茶は必需品だな…そうは思わないか?少佐」
ワイアットに話を振られ、傍でワイアットが淹れてくれた紅茶を飲んでいた女性が、紅茶を飲む手をとめ、話を振ってきた上官に顔を向けた。
「確かに、閣下の淹れてくれた紅茶はとても美味しいですが…閣下が私の秘蔵の紅茶プリンを食べたのは忘れませんよ?」
彼女はワイアットの参謀で、大のスイーツ好きであり、クール、毒舌で有名であったが、ワイアットはそんな彼女を気に入っていた。
「…レディーをもてなすのは紳士たるもの、当然のこと、ただ少佐…いい加減機嫌を直してくれんかね?かわいい顔が台無しだ」
「こんなところでナンパですか?奥さんに言いつけますよ?」
「ははは、それは勘弁してほしいな…と、そろそろか…」
「はい、既に戦闘は始まっている様です」
「紳士として、客人をもてなそうではないか…」
そう言ってワイアットは紅茶を飲み干すと、ティーセットを参謀が片付けるのを確認し、立ち上がった。
「閣下、全艦への通信回線、準備完了しました。どうぞ」
「うむ、諸君、私は皆も知っての通り、この艦隊の司令であるワイアット中将である、昨今、我が地球連合は次々とザフトに敗れ、連戦連敗であるのは諸君も知っての通りだ。
一昨日、アークエンジェルとの合流を目指していた第8艦隊の先遣隊も壊滅したとの連絡もあったばかりだ。 アークエンジェルは先遣隊が敵を引きつけている間に離脱に成功したとの連絡もあった。 諸君、地球連合…いや、そも軍人、軍とは何かをもう一度考えてもらいたい。
かつて、英国を始めとし、中世の貴族たちは、外敵から領民と土地を守る為に自ら軍を率いて戦った。
軍とは何か…盾である、軍とは何か…剣である、軍とは何か…守護者である…その守護者は…負け犬にも劣る駄犬に成り下がっている。
負けに負け、気概すら失いつつある……諸君、諸君もそうなりたいか? 」
「「否!!!」」
「諸君は駄犬と同列か⁉︎」
「「否!!!!」」
「ならば喜べ、今日、私は英国貴族として、紳士として、諸君に勝利という名の美酒を振る舞おう」
「「おおおおおおおぉぉぉ!!!」」
演説が終わると、艦隊の士気は最高潮に達し、ワイアット率いる艦隊は速力を上げ、低軌道上で繰り広げられる激闘に身を投じるのだった。
ーー
時間を遡ること、二日、アークエンジェルは第8艦隊の先遣隊との合流を目指し、航行していた。
ただ、この時点で、アークエンジェルは史実と大きく違う点があった。
史実では載っていたはずの人物、ラクス・クラインが乗っていなかったのである。
彼らはアルテミスがザフトに襲われた際、限られた時間でアルテミスの兵達が出来る限りの物資をアークエンジェルに運び込んでいてくれた為に、ユニウス7で墓荒らしをせずに先遣隊と合流出来るところであったが、それにより、ラクス・クラインの脱出艇を見つけることもなかったのである。
そして、いざ合流というところでザフトに襲われ、先遣部隊は壊滅…一機だけ脱出艇が射出されたが、それすらザフトに拿捕されてしまう。
しかし、その壊滅した先遣部隊は、アークエンジェルが戦場を離れるまでの時間を何とか稼ぐ事に成功し、ここでもまた史実と違う点が生まれていた。
アークエンジェルの艦長室で、一人の少女が、艦長に詰め寄っていた。
「何で!どうしてパパの艦を助けてくれなかったの⁉︎ねえ!何とかいってよ!!!」
少女に詰め寄られている艦長…マリューは険しい表情で、少女の激情を受け止めていたが、それに割って入ったのがムウである。
「何よ!邪魔しないで!!!」
「いいからちょっと落ち着けって!お嬢ちゃんが幾ら言っても結果は変わらないんだよ、アークエンジェルが介入しても無理だったんだ」
「何よ…それ?…ふざけないでよ!あの子、あの子がいたらザフト何て簡単に……っ!」
唐突に、艦長室にパン!という音が鳴り響いた。
少女が自分が叩かれたと理解するのに時間はかからなかった。
「…え?」
マリューは、少女の頰を叩いた体制のまま息を整えると、少女を真っ直ぐに見据える。
「私…を叩いたの?パパにだってぶたれた事ないのに…」
「ええ…ぶったわ、確かに…私は先遣隊を見捨てる決断をしました。でもね、それはそうしなければ成らなかったから…それに、貴女が言ったあの子…キラ君の事だと思うけど、キラ君一人で戦っても勝てたと言う確証はないわ…それどころかキラ君が逆にやられるかもしれない、それにこの艦も危険に晒される…私は艦長として、艦と、乗員、そして避難民の生命を守る為に決断しなくては成らなかったの。
それとも、貴女にキラ君や他の人達の命を背負う覚悟はあったの?」
「……そ、れは…」
少女が項垂れ、目には涙が溢れていた。
「責めてるんじゃないの、それが普通よ……しばらく、貴女は休みなさい、ナタル…お願い出来るかしら?」
「了解です、艦長」
マリューは少女に出来るだけ優しく声をかけ、副長に少女を休ませる為に連れて行かせた。
「……まあ、仕方ないさ、いずれ嬢ちゃんも分かる時が来る」
「そうだと…良いわ……」
ムウの言葉に、マリューは疲れ切った声で返答するのだった…。
そういう出来事もありながら、何とかアークエンジェルは第8艦隊との合流を果たす。
ーー
時系列は、第10艦隊が到着する少し前、アークエンジェルが第8艦隊と合流した少し後から始まる。
第8艦隊はアークエンジェルとの合流を果たし、アークエンジェルに協力していた民間人の除隊手続きを終えた。
ただ、マリューやナタルは、第8艦隊司令のハルバートンから激しく叱責を受けることとなったが、最後には二人とも精神的に成長したのをハルバートンは感じ取り、それ以上追求はされることはなかった。
そして、それから暫くして、事態は急変した。
ザフト軍クルーゼ隊が奇襲攻撃を仕掛けてきたのである。
この時のクルーゼ隊の戦力は以下の通り
まず、旗艦としてナスカ級ヴェサリウス以下、ローラシア級ガモフ、ツィーグラー、ガルバーニ、ウィザードの五隻。史実よりも戦力が強化された艦隊であり、MSの数も多く、苦戦が予想された。
そして、戦闘が始まる。
「くそ、こんな時に!全艦密集陣形!コンバットボックスを形成し迎撃態勢、MA隊は全機発進し敵MSを迎撃しろ!」
「敵MSにデュエル、バスター、ブリッツ、イージスを確認!」
「何だと⁉︎……っ!」
「閣下、NJにより艦隊の通信に障害が発生、誘導システムダウン!」
「……弾幕を展開し敵を寄せ付けるな!」
第8艦隊は戦闘が始まった直後から苦戦を強いられる。
MSに対し、MA隊は必死に攻撃を仕掛けるが、圧倒的に性能が勝るMSに対してはMA隊は無力に近く、次々と堕とされていく。
「第3小隊壊滅!第2、第4小隊通信途絶!MA隊被害甚大です‼︎」
「Xナンバー、艦隊に接近!直掩隊が迎撃中!」
ーー
正に蹂躙である、第8艦隊の迎撃部隊を突破したXナンバーは、艦隊の直掩隊に攻撃されるが、それは正に蹂躙、直掩隊は厳しい戦いを強いられた。
『イヤッフー!数だけは多いぜ‼︎』
バスターの攻撃に撃ち抜かれ、
『堕ちろ!!』
デュエルのビームサーベルに切り裂かれ、
『うおぉぉ!』
イージスのスキュラに貫かれ、直掩隊は恐怖した。
『いやだ!死にたくなーーっ!』
『チクショーー!好き勝手やりやがる‼︎堕ちろよ!当たったのに何で堕ちーーっブッ』
『母さん!うわぁ!!!』
次々と堕とされていく直掩隊のMA、然し彼らはそれでも向かっていく。
『良い加減しつこいんだよ!!!』
『まだ来る⁉︎』
然し、それも長くは続かなかった。
戦場では、数多の叫びが生まれ、直掩隊は遂に、Xナンバーに突破されてしまう。
そして、Xナンバーが艦隊に取り付き、それを先鋒として次々と迎撃ラインを突破したMSが艦隊へと取り付き、攻撃を始めた。
更に、数隻のローラシア級がアークエンジェルを撃沈するために艦隊へと突入してきていた。
無論、第8艦隊の艦艇も黙っていたわけではない、戦艦同士のビームの撃ち合いとなるが、MSの迎撃と両方せねば成らず、損害を増やしていった。
「クセルクセス、サザンクロス、前に出ます!」
「セレウゴス、アンティゴノス轟沈!カサンドロス戦闘不能、後退します!」
「艦隊損害率3割を超えます!閣下!!!」
「……っくそぅ」
ハルバートンは余りの損害に唇を噛む、NJにより艦隊の連携が上手く行かないのに加え、この戦力差である。
数では優っていても、性能が違いすぎるのだ。
知将ハルバートン、ザフトにもその名を知られた名将は、自身の開発したMSにより苦境に立たされていた。
「閣下、アークエンジェルより通信です」
「繋げ」
『閣下、アークエンジェルはこれより、降下シークエンスに移りたいと考えます。許可を」
「自分らだけ逃げるつもりか!!!」
副官が叫ぶが、ハルバートンはそれを目で制す。
『敵の狙いは本艦です!このままでは艦隊は壊滅します!!!閣下…』
「……相変わらず、無茶な奴だな君は。良いだろう、許可する。
送り狼は通さんぞ…それと、絶対に此方を援護しようなんて考えるな、降下に集中するんだ。良いな?」
『部下は、上官に似るものですから……了解しました』
「アークエンジェル、降下開始!」
『はい!』
アークエンジェルが降下を始めるのを確認したハルバートンは直ぐに艦隊に次の指示を出した。
「メネラオスより艦隊全艦へ、ハルバートンだ。我が艦隊はこれよりアークエンジェル降下、援護防衛戦に移行する。体制を立て直せ!かの艦は明日の戦局のために必要な艦である!」
ハルバートンは副官へと目を向け、更に命じた。
「避難民のシャトルを脱出させろ!」
「閣下⁉︎」
「このままでは避難民の安全は確保できなくなる…急げ!」
直ぐ後、メネラオスよりシャトルが射出された。
「……厳しい戦況だが、やるしかない」
ハルバートンが静かに呟いた時である。
第8艦隊と激しい砲撃戦を演じていたローラシア級の一隻が突如、斜後方からの砲撃で艦橋を撃ち抜かれて轟沈したのは…。
「なに?」
「…か、閣下!友軍です!味方が来てくれました!」
「友軍より入電、“我、第10艦隊、遅れ馳せながら、紳士として、晩餐会への参加を許可されたし”です!」
「……ワイアット中将……返信、“我、第8艦隊…晩餐会への参加を心より歓迎する”だ」
「了解しました!」
第10艦隊到着、かくして戦いは佳境へと向かう。
感想お待ちしてます。
ちなみに、ラクスはザフトのクルーゼ隊以外の艦に拾われました。
完結も見えてきたので、今後についてアンケートを実施します。
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destinyルートへ行く
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宇宙戦艦ルートへ行く
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連載停止中のほかの作品を続き書けや
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新連載しつつゆっくり続きでOK
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徳田くんのR18