スカンジナビア王国海軍艦隊は、ユーラシア連邦海軍西方艦隊の来援に士気が上がると同時に、一部…特に旗艦を引き継いだ巡洋艦ストックホルムのウィリー・バーン大佐らは困惑した。
それは、彼らの認識として、ユーラシア連邦は地球連合の構成国の一つであり、大西洋連邦とは協力関係にあると認識していたからだ。
だが、バーン大佐らも軍人であり、状況的にそれは現在気にすることでは無いとその疑問を呑み込みつつ、ユーラシア連邦西方艦隊の乱入に混乱する大西洋連邦艦隊の隙を突いて包囲を突破する事に成功する。
しかし、現状のスカンジナビア王国海軍艦隊は損傷艦が多く、とてもでは無いが大西洋連邦の追撃部隊を振り切ることは不可能であり、また、目的地であるリクセント公国へたどり着いたとしても、東アジア共和国艦隊と戦うだけの戦力を残していなかった。
そんな艦隊の有様を見てバーン大佐は悔しげに拳を握りしめる。
「……ここまでの損害を被っては、リクセント救援どころではないではないか………」
彼は、無意識に口に出してしまった言葉に、自分を殴りつけたくなる。
だが、現状はそれを許さない……包囲を突破したとはいえ、戦闘は続いているのだから。
今現在、包囲を突破した彼らスカンジナビア王国海軍艦隊は、ユーラシア連邦西方艦隊の第3戦隊旗艦であるミサイル駆逐艦グムラク以下、駆逐艦3隻フリゲート艦3隻の計六隻に守られるように、彼らの後方に下げられていた。
「…ユーラシア連邦が味方になるなんてな…」
バーン大佐が、自分たちスカンジナビア王国海軍艦隊を守るように展開するユーラシア連邦西方艦隊第3戦隊の姿を眺めながら呟く。
ユーラシア連邦西方艦隊第3戦隊と、大西洋連邦海軍艦隊は暫くの間、睨み合いを続ける。
大西洋連邦海軍艦隊も、スカンジナビア王国海軍艦隊との戦闘で多数の弾薬を消費し、ミサイルなどの弾薬に不安があったのだ。
対して、グムラク以下ユーラシア連邦西方艦隊第3戦隊は、単純に数の上で現状不利であるために、下手に攻撃を加えてしまうと先の奇襲のような状況とは異なり、数の力で負けると予想できたため、攻撃を躊躇っていた。
駆逐艦グムラクの艦橋で、大西洋連邦艦隊を睨みつける壮年の男…彼が駆逐艦グムラク艦長兼ユーラシア連邦海軍西方艦隊第3戦隊司令、エルロス・スコラトビッチ中佐である。
「…大西洋連邦海軍の質は大分下がったようだな…混乱からの立ち直りがかつての姿からは程遠い……」
「そうですな……かつての彼らなら、直ぐに立て直していたに違いないでしょうが……しかしあの数は厄介です」
彼の副官の言葉に、黙って頷く
睨み合いから数十分ほどが立ち、ついにその時が来た。
オペレーターが声を上げる。
「艦長!西方艦隊本隊より入電!『コレヨリ大西洋連邦海軍艦隊ニ対シ攻撃ヲ開始ス、本隊ノ合流ト同時ニ ミサイル戦を開始ス!準備セヨ』です!」
「……了解だ、本隊の合図を待ち攻撃を開始する……全艦へ伝達、全対艦ミサイルの発射準備及び照準…スカンジナビア艦隊へも同様に伝達……ミサイル発射態勢を整えよ!」
「了解!伝達します!」
ー
ユーラシア、スカンジナビア王国海軍艦隊が動き始めるのを大西洋連邦海軍艦隊も気が付いた。
「奴ら一体何を企んでいる?」
「司令!ユーラシア連邦西方艦隊本隊が迫っているのを確認しました!」
「……そうか…奴ら本隊と示し合わせて同時に攻撃を仕掛けてくる腹積もりだな?そうはさせん……各空母に命令!敵本隊へ向け、現状発進可能な艦載機部隊を用い攻撃を開始せよ!」
「了解!」
そして、大西洋連邦の空母部隊から百数十機を越す大規模な艦載機部隊が発進していく。
ー
大西洋連邦が艦載機部隊を発進させたのは、すぐにユーラシア連邦西方艦隊も察知した。
攻撃目標が西方艦隊本隊であることも、その艦載機部隊の進路から予想できた。
ユーラシア連邦西方艦隊旗艦 空母サーボヤの艦橋で、オペレーターから報告を聞いていた細身の痩せすぎにも見える男性…西方艦隊司令長官 ロイチェフ・カルタロス中将はその報告を聞きながら内心でほくそ笑む…。
「参謀長…連中は大きなミスを犯したな?」
「は、連中は
「そうだな……では、まずは
「は!」
空母サーボヤの飛行甲板に、エレベーターでせり上がってくるゼブラカラーに塗られた戦闘機…YF32シュヴェールト戦闘機が出撃の時を迎えようとしている。
YF32シュヴェールト…ユーラシア連邦最新鋭戦闘機であり、後に重力下に置いては、あの日本の62式戦闘機・隼とも互角以上に渡り合える傑作機であると評価されることになるゼブラカラーの新鋭戦闘機が、老練なベテラン搭乗員を乗せ、その力を発揮する時を待つ。
『システムオールグリーン!第51戦闘航空団第1戦闘飛行隊 ズィルバー隊 発進命令出ました!発艦して下さい!』
「ズィルバー隊 ズィルバー1、ディトリッヒ・ケラーマン中佐。出撃する!」
隊長機が飛び立つとそれに続いて他の機も次々と発艦していく。
ズィルバー隊の全ての機体が発艦すると、次の隊も発艦を始める。
その部隊も普通ではない。
赤黒い塗装のシュヴェールト戦闘機が発艦する。
彼らはユーラシア連邦海軍第51戦闘航空団第2戦闘飛行隊 シュトリゴン隊である。
ズィルバー隊とシュトリゴン隊、合わせて24機の最早災害レベルの暴力が、大西洋連邦海軍航空部隊を襲った。
ユーラシア連邦西方艦隊本隊を攻撃に向かっていた大西洋連邦戦闘機隊に悲劇が襲いかかる。
「…空戦の仕方をご教授しよう……諸君!私について来い!!!」
ズィルバー隊が隊長機を先頭に、敵戦闘機隊へと斜め上空から突入する。
そして、タイミングを合わせシュトリゴン隊がそれに続く。
大西洋連邦戦闘機隊にとってそれは悪夢だった。
『当たらない!バカな!ギャァ!!!』
『敵機後方!助けっ!!!?』
『いやだ!死にたくない!死にたくない!あぎゃ!?』
『…い、いやだ!こんな所で死ねるか!お、俺は逃げ…グゲっ!?』
どんなにミサイルを撃ってもかわされ、どれだけ回避運動をとっても撃ち落とされる。
数で勝るはずなのに、手も足も出ずに蹂躙されていく友軍…士気は崩壊寸前だった。
-
『更に敵機撃墜!歯ごたえがない相手だ…』
「油断するなシュトリゴン4…奴ら数だけは多い…とそろそろ弾薬がやばい…ズィルバー隊も一旦帰投するみたいだしこちらも一旦帰投する、あとは例の部隊が片付けるだろ…」
そう言って、ユーラシアの戦闘機隊は弾薬欠乏が近くなり帰投した。
100を超えた大西洋連邦戦闘機隊は、最終的に24機にまで減らされ、撤退しようとする。
だが…ユーラシア連邦は逃がさない。
鬼畜と言ってもいいくらいに手を抜いてくれなかった。
撤退しようとする24機におそいかかったのは、4機の人型兵器…正式名 YAM001 ガーリオン…日本政府の要請で、イスルギ重工がユーラシア連邦の開発企業に協力する形で完成した、ユーラシア連邦初のMSである。
そして、その戦闘力は凄まじく、24機の大西洋連邦戦闘機隊は瞬く間に壊滅し、無事に帰れた機は一機も居なかった……。
ー
大西洋連邦戦闘機隊壊滅と同時刻…ユーラシア連邦西方艦隊本隊が第3戦隊並びにスカンジナビア王国海軍艦隊に合流し、同時にサーボヤから戦闘爆撃機12機が発進…航空戦力の激減した大西洋連邦艦隊へ向かう。
「全艦へ伝達…イージス艦は敵艦隊上空の直掩機へミサイル攻撃を開始せよ!NJに対してはこの地域が影響の少ない地域で助かったな……さて…イージス艦の対空攻撃完了と同時に、全艦…対艦ミサイル発射せよ!」
「イージス艦ミサイル発射完了!司令!」
「よし、全艦へ…傲慢な大西洋連邦の連中の横っ面にぶちかましてやれ!!!対艦ミサイル全弾発射!!!続いて戦闘爆撃機隊は、艦隊のミサイル発射5秒後に攻撃開始せよ!」
ユーラシア連邦西方艦隊と、スカンジナビア王国海軍艦隊残存艦から合わせて50発以上の対艦ミサイルが発射され、大西洋連邦艦隊へ向かっていく。
しかも、ユーラシア連邦の対艦ミサイルは普通の対艦ミサイルより倍近く速い。
5秒後、戦闘機隊からも対艦ミサイルが大西洋連邦の艦隊めがけ放たれる。
直掩戦闘機隊がユーラシア連邦の戦闘爆撃機隊を妨害しようとするものの
、直前のイージス艦からの長射程の対空攻撃で被害を受けまともな迎撃が出来なかったのだ。
ー
大西洋連邦の艦隊は、必死に対艦ミサイルを迎撃しようとするが、先のスカンジナビア王国海軍艦隊との戦闘などもあって迎撃ミサイル等の弾薬が尽きてしまい、次々と撃沈されていく。
「敵ミサイル接近!迎撃できません!!!艦長!」
「衝撃に備えよ!!!」
ミサイルの一発が大西洋連邦の艦隊旗艦へと吸い込まれるように直撃し、旗艦は真っ二つに折れ、大西洋の海へと引きずりこまれていく。
このミサイル攻撃に大西洋連邦艦隊は甚大な被害を受け、壊滅してしまう。
最終的に、大西洋連邦艦隊は残存艦8隻が残るだけであった。
ー
「司令!大西洋連邦艦隊、残存艦隊が撤退していきます…追いますか?」
ユーラシア連邦西方艦隊司令長官のカルタロス中将はオペレーターの問い掛けに首を横に降り、口を開く。
「追撃はしない……それよりやる事があるだろう……全艦へ、海上の漂流者救助にかかれ、敵味方の別なく救助せよ!」
カルタロス中将の命令により、海域の漂流者の救助が行われ、救助された者たちはスカンジナビア王国海軍の損傷を受けた艦艇に分乗させてスカンジナビア王国へと移送され、ユーラシア連邦西方艦隊とスカンジナビア王国海軍の損傷の少ない艦は連合艦隊を組み、リクセント公国へと向かうのだった。
『カルタロス中将…同行できないことが残念です…後をお願いします…』
モニター越しに、スカンジナビア王国海軍艦隊の臨時指揮官を務めて居たウィリー・バーン大佐がそう言って敬礼する。
「任せてくれ、バーン大佐…リクセント公国は我がユーラシア連邦西方艦隊と、あなたが残してくれたスカンジナビア王国海軍の残存艦隊で必ず救ってみせる。約束しよう!」
カルタロス中将もそう言いながら答礼し、通信を切る。
「よし…機関始動!!!リクセント公国へと進路を取れ!」
「了解!!!」
リクセント公国へと進路をとる空母サーボヤの艦橋から、スカンジナビア王国へ帰る傷つきぼろぼろになったスカンジナビア王国の巡洋艦ストックホルムが見えた。
カルタロス中将は再度、その巡洋艦ストックホルムへ向け敬礼しその姿を見送った。