練馬駐屯地から出動した陸自部隊は、市民団体に包囲されて身動き出来ない状態となっていた。
駐屯地を取り囲む市民団体を排除するために、駐屯地警備の部隊がゴム弾を大量に消費し、更に増え続ける市民団体への対処も迫られた駐屯地司令(第1師団副師団長兼務)の判断により、ゴム弾は駐屯地警備の部隊に優先配備されたのである。
その為に、彼らが実弾のみしか駐屯地から持ち出せなかった事も一因となり、進路を妨害する市民団体への対処に苦慮する羽目になっていた。
閃光弾を使用したり、部隊指揮官の判断で上空へ向け威嚇射撃をするなどし、ある程度は前へ進むものの、逆上した市民団体がさらに行動をエスカレートさせ、車両から降りて対処に当たる自衛隊員たちと揉み合いになるなど、状況は悪化していく。
そんな状況において、自衛隊員の1人が金槌で顔面を強打され、倒されてしまう。
そこに更に、金属バットを持った男が倒れた自衛隊員に追い打ちをかける。
その光景を見た指揮官は、命令した。
「負傷した隊員を救助せよ、正当防衛射撃始め!!!責任は私が取る!!!」
その命令に隊員達は一瞬理解が遅れたが、再度指揮官から「撃て!」と命じられ、直後に指揮官が倒れた隊員をリンチする市民団体に向け拳銃を発砲する。
「う、うわぁああああああ!!!」
1人の隊員が指揮官に続き叫びながら射撃し始めたのを皮切りに隊員達も射撃を始める。
「う、うわぁ!!!」
「撃ってきやがった!!!人殺しぃぃ!!!」
「ぎゃあ!!!」
「逃げろ!!!」
市民団体はまさか自衛隊員が撃って来るとは想定していなかった様子で、叫び、喚き、逃げ惑う。
隊員達は市民団体が離れたところを素早く負傷した隊員を救助し、態勢を立て直す。
車両数台に負傷した隊員と、射撃を受け負傷した市民団体の人間を収容させ、病院へと移送させる。
警視庁特装団のMSと、応援の警官隊が到着したのはその直後であった。
新宿駅の武装集団が制圧されたとの情報が入り、警官隊らと合流した陸自部隊は、目標を皇居救援に切り替え、急ぎ移動を開始する。
この時、市民団体の死傷者は40人強に登ったが、世論が彼らに同情することは無かった。
救助された自衛隊員は、両目の視力を失い、右耳の聴力まで失うという後遺症を負う事となったことで、むしろ世論は市民団体よりも自衛隊員に同情したのである。
そして、首相官邸でも動きがあった。
首相官邸にはSATの部隊が既に一度突入し、制圧を試みていたが失敗。
逆に壊滅し、生き残った隊員が人質にされてしまっていた。
そして、首相官邸を包囲する警官隊と、立て籠もる武装集団との睨み合いとなり、事態が膠着していた。
そんな状況下であるそこに、数機の自衛隊ヘリが到着する。
上空で待機するヘリ部隊の指揮官から警官隊の指揮をとる内藤 浩二警視正へと通信が入る。
「私は現場の指揮を執っている警視庁の内藤です。要件は?」
内藤が無線越しに尋ねると、少し間を置いて返答があった。
『私は陸上自衛隊の只の三等陸佐です。これから我々は首相官邸への突入を開始するので、内部の情報を教えていただきたい』
通信機越しに聞こえてくる声は酷く無機質で、一切感情を読み取ることが出来なかった。
内藤はそんな存在に若干の気後れを感じつつ、手元の資料を見ながら現在までの情報を伝える。
そして、酷く無機質な礼の言葉を聞いて少し間を置いてから自衛隊のヘリに目線を移すと、今まさにヘリからロープを使い官邸の屋上へ降下するマスクで顔を隠した自衛隊員達の姿を目の当たりにする。
屋上にも武装集団の一部が居たが、彼らは何かをする前に制圧されていた。
そして、建物の中からの銃声が聞こえてくる。
内藤は何が起こっているのか理解が追いつかなかった。
程なくして首相官邸の正面玄関から、人質となっていたSAT隊員達と共に、拘束した武装集団の構成員を連行する自衛隊員達が姿を現した。
内藤は自分たちではどうしようも出来なかった無力感と、膠着した状況を打破してくれた自衛隊の部隊に、それと同じくらいの畏敬の念を抱く。
「私が、陸上自衛隊特殊作戦群の只の三等陸佐です」
「…私は警視庁の内藤です。貴方方のおかげで状況を打開することが出来ました。感謝します」
「いや、それはこちらの台詞だ。貴方方警察が、武装集団の構成などの情報を教えてくれなければ、こんなにスムーズに制圧出来なかった。こちらの方こそ感謝する」
言葉を交わした二人の指揮官は、片方はマスクをしていて表情は読めないが、それでも友好的に硬い握手を交わすのであった。
同時刻、日本教育連合組織委員会本部に監禁されている、七瀬内務大臣を救出するための作戦が実行に移される。
こちらに派遣されていたSAT部隊は、地上と屋上からビル内へ突入して制圧を開始。そして、支援として派遣された特装団第三中隊第二小隊は、それに先駆け、ビルの正門で警官隊を威嚇している武装集団のトラックの排除を開始した。
トラックの武装集団構成員は、機銃で近づいてくる特装団を攻撃するが、機動性に圧倒され、一機に気を取られる内に他の機から攻撃されて制圧される。
そして、ビル内へといよいよSAT部隊が突入を開始した。
実のところ、このビルに立て籠もる武装集団は、一番規模の小さい集団であり、SAT部隊に数人の死者が出たものの、十数分の戦闘で制圧が完了、七瀬内務大臣の救出に成功する。
ことここにいたり、一番規模の大きい集団である皇居の武装集団を制圧するため、各所の部隊が行動を開始した。
防衛省を襲撃した武装集団は、警戒していた警務隊ならびに陸上自衛隊の救援部隊により早々に排除され、皇居から救出された皇族が一時的に避難している状況となり、市民団体も流石に戦闘後に、よりによって陛下がいるところへ向けて抗議行動はしなかったようである。(しなかったというか、しに行こうとしたら一般人が団体を囲んだ)
そして、皇居前で最後の戦闘が始まる。
皇宮警察も、多数の犠牲者を出しながら未だに侵入を許しておらず、応援の警官隊らもよく健闘していた。
しかし、既に限界も近く、武装集団の使うトラックから浴びせられる機銃の脅威もあり、苦戦を強いられていた。
しかも皇居の武装集団は、どこから入手したのか
既に皇居へ応援に来た特装団の機体にも被害が出ており、一機が大破し残りの3機は対MS誘導弾の脅威のため、下がらざるを得なかった。
「…このままじゃやられる。どうすれば良い…」
皇宮警察の指揮官がそう呟き、武装集団を睨みつける。
すると、突然武装集団のトラックが爆発した。
「な、何が起こった!?」
指揮官が理解する間もなく、武装集団のトラックは瞬く間に全て破壊され、武装集団も混乱する姿が見て取れる。
すると、近くのビルの陰から緑のまだら模様の服を着た集団が視界の片隅に映る。
「あれは……まさか」
指揮官の呟きに僅かに喜びの感情が混ざる。
武装集団もその姿に気づき、対応しようとするが、その隙を逃すほど皇宮警察は甘くない。
そして隙を伺っていた特装団の部隊も行動に移り、別方向から現れた特装団の別働隊と連携し、ロケット弾などを持った武装集団を集中的に制圧し、皇宮警察も救援の陸自部隊や警官隊と共に、武装集団へと攻撃に出た。
戦闘は30分にも及び、武装集団は近くのビルの中や建物の影に逃げ込み激しく抵抗したが、最終的に自衛隊の追加の増援や警察の応援が到着した事で戦意を喪失、生き残った全員が拘束された。
こうして、東京での動乱は幕を閉じたのである。
この事件の直後、東京湾にて一隻の貨物船が無許可で航行しているとの情報を得た海上保安庁は、偶然にも東京湾内で、最終航海を途中で中断していた巡視船つしまに対処を命じ、その貨物船の拿捕に成功、その結果がこの後の出来事に大きく関わって来ることに、この時誰もが予想していなかった。
この一連の動乱での被害。
警察官
118名死亡
62名負傷
パトカー12台大破
装甲車3台大破
皇宮警察
12名死亡
21名負傷
自衛隊
4名負傷
武装集団
81名死亡
34名負傷
28名拘束
市民団体
48名死亡
51名負傷
389名拘束
590名指名手配
一般人
14名死亡
28名負傷
2名行方不明
来月は転職に伴い色々忙しいので、更新できなかったらすいません。
一応次回は息抜きも兼ねて感想にもあったネットの反応とかやりたいと考えてます。