2022年11月
肌寒くなってきたこの時期、俺は手に大きな荷物を抱えある場所へと向かっていた。
俺が向かっているのは病院だ。
病院の中へと入り、受付で許可書を発行してもらい、お目当ての病室へと向かう。
扉の前に立ち、数回ノックする。
『はーい!どうぞー!』
部屋の中から元気な声が聞こえ、俺は病室の中へと入る。
「雫!いらっしゃーい!」
「よぉ、ユウキ」
病室のベッドの上で笑顔を浮かべる少女の名前は紺野木綿季。
俺の大切な幼馴染だ。
ユウキとは物心が付いた時から一緒にいた。
子供の頃から俺とユウキは何処に行くにも常に一緒で一日の殆どを一緒に過ごしていた。
俺にとってユウキは大切な幼馴染であると同時に、家族の様な存在だった。
だからだろう。
ユウキがHIVキャリアだと知られた時、俺はユウキを必死に守った。
ユウキを悪く言う奴は大人でも殴りかかり、ユウキを苛める奴は相手がユウキに謝るまでとことん殴った。
ユウキの辛さと頑張りはずっと傍で見続けた俺が誰よりも知っていた。
だからこそ、ユウキを悪く言う奴等が許せなかった。
だが、現実は残酷だった。
ユウキを含むユウキの家族たちにAIDSが発症した。
そして、ユウキの両親と双子のお姉さんが亡くなった。
ユウキの両親は二年前に、お姉さんはその一年後に亡くなった。
あの時のユウキの泣き顔は今でも忘れてない。
そして、俺は心の中でうっすらとあることを考えていた。
ユウキが死んでしまうのではないかと。
ユウキに生きてて欲しい。
毎日毎日信じたこともない神様に俺は祈り続け、神社にも出向いた。
ユウキを助けてくれ。
ユウキを死なせないでくれ。
ユウキをあの世に連れて行かないでくれ。
思いつく限り俺は祈り続けた。
そして、奇跡は起きた。
カナダに住む白人の骨髄に、AIDSに耐性を持った骨髄が見つかったのだ。
幸いなことにその人は骨髄バンクにドナー登録をされていて、すぐにその人の骨髄は日本に送られ、ユウキは骨髄移植を行った。
その結果、ユウキのAIDSは完治し、それに伴ってHIVも完治した。
ユウキが死ぬことは無くなった。
それを聞いた瞬間、俺は思わずユウキを抱きしめて泣いた。
そして、ユウキは今俺の目の前で元気よく昼飯を平らげていた。
「急いで食べると喉に詰まるぞ」
「ふぁって、おいふぃいんだふぉん(だって、美味しいんだもん)」
「飲み込んでから喋ろよ」
俺の忠告を無視し、ユウキは昼飯を全て平らげると手を合わせてごちそうさまをした。
「で、雫!あれは手に入ったの!?」
「ああ、これだろ」
興奮するユウキに俺は持ってきた袋からヘルメットの様なものを取り出す。
「うわ~!これがナーヴギアか!」
ナーヴギアとは、頭にかぶって使うゲームハードで、VRゲームで使うものだ。
これを使い、脳にダイレクトに情報を与え、仮想世界を生み出し、そこで、遊ぶことが出来る。
もっとも、ナーヴギアで使えるゲームはつまらないものが多い。
だが、もうすぐそんな時代も終わる。
何故なら、ナーヴギアの開発者でもある茅場晶彦さんが、SAOと言うVRMMORPGを開発したのだ。
SAOのPVを見て、俺はこのゲームがしたいと思った。
それはユウキも同じだったらしく、二人でβテストにまで応募した。
まぁ、受かったのは俺だけで、ユウキは落ちたが。
「雫はβテストやったんだよね。どうだった?」
「凄いとしか言いようがないな。ユウキもやれば分かるぜ」
「明日のサービス開始が楽しみだな~」
ユウキは嬉しそうにナーヴギアを抱きしめる。
「これがSAOのソフトな。サービス開始時間は明日の午後一時からだから遅れるなよ」
「分かった。じゃあ、明日は向うでね!」
「ああ、じゃまた明日な」
笑顔で手を振るユウキに手を振り返し、病室を出る。
さて、明日が楽しみだな。