「そろそろ時間だな」
机の上のデジタル時計で時間を確認し、ナーヴギアを被り、ベッドに横になる。
デジダル時計が3:59から4:00になったその瞬間―――――
「リンクスタート」
その言葉を唱え俺は暗闇の世界に飛ぶ。
直後、目の前に『βテストのデータを使用しますか?』
と、画面が現れた。
迷わずに『YES』を選択する。
そして、虹色のリングをくぐり俺は降り立つ。
「戻ってきた」
そう、戻ってきたのだ。
ここに。
巨大浮遊城≪アインクラッド≫に。
ソードアート・オンラインに。
「さて、ユウキは来るまでにまだ時間が掛かるかな」
「あの~すみません」
その時、誰かに声を掛けられ振り向く。
声を掛けて来たのは女性だった。
その姿が何処となくユウキと似た雰囲気があった。
「もしかしてユウキか?」
「やっぱり雫だ!」
ユウキはにこっと笑ってそう言った。
「見てすぐにわかったよ!雫と似た雰囲気だったし」
「そうか。俺も一目でユウキだって思ったよ。それと、俺の此処での名前はレインだからそう呼んでくれ」
「レイン?」
「そう。本名は一応個人情報だから、なるべくは出さない方がいいんだ」
「そうなんだ。知らなかったから、普通にユウキって入れちゃった」
「マジか……まぁ、ユウキなんて名前珍しくも無いだろうし大丈夫だろう。それにしても」
俺はユウキの姿を見て言う。
「見た目まで似せるなんてな」
「そう言うレインだって見た目殆ど似てるじゃん。髪と目の色とか、身長とかは違うけど」
「別にいいだろ。ゲームの中でくらい、憧れの姿になりたいんだ」
俺はアルビノで生まれた時から髪が白く、目が赤く、肌が白い。
幸い、今の治療技術のお陰で何不自由なく生活できていたが、小学校では俺の外見が皆と違うことから苛めてくる奴がいた。
そんな俺にユウキは「綺麗な髪と目だよ」と言ってくれた。
そのお陰で、俺は自分の姿を嫌いにならずに済んだ。
それでも、やっぱり普通の色の髪や目に憧れはある。
身長も、クラスで俺は小さい方だから高いのに憧れてる。
「それより、武器屋に行こう。そこで知り合いと待ち合わせしてるんだ」
「知り合い?」
「一緒にβテストに参加した人。歳は俺たちより上だけど、良い人だよ」
ユウキにそう言って、武器屋に向かう。
すると店内には既にその人がいた。
「キリトさん、久しぶりです」
「おお、レイン!久しぶり」
いかにもイケメンと言った感じの人が俺に向かって笑い掛けて来る。
「はい、オフ会以来ですね」
互いに握手をして再会を喜ぶ。
「あ、キリトさん、紹介しますね。コイツ、俺のリアルの幼馴染のユウキです」
「こんにちは!ユウキです!よろしくね!」
ユウキは凄いフレンドリーに手をキリトさんに差し出して言う。
「おい、ユウキ!キリトさんは年上だぞ!」
「別に気にしてないよ。キリトだ。よろしくな、ユウキ」
キリトさんはユウキの握手に応じてそう言う。
「おーい、キリト!武器決めたぜ!」
すると奥からバンダナを付けたイケメンな男性が来る。
「あれ?キリト、そちらさんは?」
「ああ、紹介する。俺と同じβテスターでフレンドのレインと、そのフレンドのユウキ。レイン、ユウキ。コイツはクライン。さっき知り合って、分け合って戦いのレクチャーをすることになった」
「キリトのフレンドか!俺はクライン!よろしくな!」
「あ、はい。レインです。よろしくお願いします、クラインさん」
「ユウキだよ!よろしくね、クライン!」
クラインさんとの挨拶を終えると、俺とユウキは武器を選ぶ。
俺はβの時から使ってる曲刀。
ユウキは「やっぱ剣ならこういうのだよね!」と言って、普通の片手剣を選んだ。
すると、キリトさんが思いついた様な顔になる。
「レイン、曲刀のレクチャーをクラインに頼むよ。クラインもお前と同じ曲刀だし」
「いいですよ。その代り、ユウキの方のレクチャー頼めますか?ユウキもキリトさんと同じ片手剣なんで」
「げ……!……わかったよ。教える」
キリトさんはこう言っては何だが、人と関わるのがかなり下手だ。
本当はクラインさんの頼みも断りたかっただろうけど、クラインさんにぐいぐい押されて、引き受けたんだろう。
ユウキのフレンドリーさなら、キリトさんもすぐに打ち解けてくれるだろう。
そして、俺たちは各々の武器を手に、装備を整え、草原へと向かった。
「うおおおおおおおっ!!?」
クラインさんがフレンジ―・ボアと言う、雑魚モンスターに突進され、仰向けに倒れる。
「ま……股座が………!」
股間を抑え、蹲るクラインさん。
「クラインさん、痛みはないはすですよ」
「………あ、そっか」
SAOの中では痛みと言ったモノは感じない。
「大事なのはモーションです。モーションを起こしてソードスキルを発動、後はシステムが命中させてくれますから」
曲刀を抜き、構えを取ると、システムがスキルを認証し、ソードスキルが発動する。
曲刀スキルの《リーバー》がフレンジーボアの身体を切り裂き、HPを大幅に削る。
「モーションって言われても、イマイチ良く分かんねぇな……」
「例えるなら、剣に力を込めて、ここだ!って所で一気に力を解放するような感じです。それにモーションを頭の中で思い浮べて重ねると分かりやすいですよ」
「力を解放……モーションを重ねるか……」
クラインさんはそう呟くと、《リーバー》の構えを取り、腰を落とす。
そして―――――
「せやああああああ!!」
《リーバー》が発動した。
ソードスキルはフレンジーボアに直撃し、残りのHPを全て削る。
そして、俺とクラインさんに経験値とコル(SAO内での通貨)、そして、今の戦闘で手に入れたアイテムが目の前に現れたウィンドウに表示される。
「よ……よっしゃああああああああ!!」
「初勝利おめでとうございます」
「おう!レインの教え方、凄っげぇー分かりやすかったぜ!ありがとな!」
クラインさんはそう言って、嬉しそうに曲刀を振る。
「でも、フレンジーボアを倒した位で喜んでたらいけませんよ。あれ、RPGで言うと、スライムクラスのモンスターですから」
「す、スライムクラス!?俺はてっきり中ボスぐらいかと……」
何処の世界に、中ボスをスタート地点から出だ直ぐに配置する人がいるんですか…………
「おーい!レイーン!」
すると、ユウキが片手剣を手に持ち、走って来る。
「いやぁー、ユウキは凄いよ」
キリトさんが笑って言う。
「たった一回ソードスキルの発動を見せただけで、もうスキルを物にした。後はモンスターを狩りまくりだ」
「へっへーん!もうレベル3になったよ!」
片手剣を持った手を腰に当て、もう片方の手でピースサインをするユウキ。
「凄いな、ユウキ。俺も負けてられないな」
「よっしゃ!それじゃ、誰が一番多くモンスターを狩れるか勝負と行こうぜ!」
クラインさんがそう言い、ユウキは笑顔で剣を構える。
「まったく……」
キリトさんはそう言って、頭を掻き、片手剣を抜く。
俺も曲刀を抜き、モンスターへと斬り掛かった。
その後、夕方になるまで俺達はモンスターを狩りまくり、気が付けば、俺のレベルは5になっていた。
時刻は17時13分。
俺たちは草原にしゃがんで休憩をしていた。
「しっかし、信じらんねぇよな。ここがゲームの世界だなんてよ」
クラインさんが夕焼けの空を見て言う。
「本当だよね!こんなのが作れるなんて、本当に茅場って人は天才だよ!」
クラインさんに賛成する様にユウキも言う。
「ユウキちゃんの言う通りだ。マジこの時代に生まれて良かったよ」
「大げさな奴だな」
「だって初のフルダイブ体験だぜ!」
「てことは、ナーヴギア用のゲームもSAOが初めてなんですか?」
「どっちかって言うと、SAOの為にナーヴギアも揃えたって感じかな。一万人限定の初回ロットを手に入れれたのは、我ながらにラッキーだった。ま、そんな中でも、βテストに当選したキリトとレインはその十倍ラッキーだけどな」
「そうだ、レイン、キリト。βテストの時はどこまで行けたの?」
ユウキの質問に、キリトさんは上空、もといアインクラッド城を見上げて言う。
「二ヶ月で八層」
「でも、今度は一ヶ月も掛けない」
「ああ、一週間で第一層をクリアしてやるさ」
俺とキリトさんはそう言って、笑う。
「テメーら……相当ハマってんな」
「二人とも、子供みたい」
「正直、βテスト期間は、寝ても覚めてもSAOのことばかり考えてた」
「この世界は仮想だけど、現実よりもずっと生きてるって感じがある」
「この剣一本でどこまで行けるような気がしてな………さて、狩りを続けるか?」
「おうよ!……って言いたいところだけど、腹が減ってな………一度落ちるわ」
「この世界の食事は空腹感が紛れるだけですからね」
「実は、17時30分にピザの配達予約してんだ。じゃ、また後でな」
クラインさんはそう言って立ち上がる。
「そうだ!この後、別のゲームで知り合った奴等と会う約束してんだけど、よかったら会わないか?」
クラインさんがそう言うと、キリトさんは少し暗い表情をする。
「あ……いや、別に無理にとは言わねぇよ。その内、紹介する機会もあるだろうしさ」
「ああ……すまない」
「謝ることはねぇって!良い講師。紹介してくれたありがとよ!このお礼は、いつか精神的にな」
キリトさんの肩を叩き、クラインさんは手を差し出す。
「これからもよろしくな」
「……ああ」
そして、二人は握手をした。
「レインもありがとな!教え方、中々に様になってたぜ!」
「俺で良ければいつでも」
「おう!ユウキちゃんも、またな!」
「うん!またね!」
クラインさんは右腕を振り、ログアウトをしようとする。
「あれ?」
「ん?どうした?」
「いや……ログアウトボタンがねぇーんだよ」
「は?何言ってんだ?ちゃんと底の方に………」
キリトさんもウィンドウを操作し、確認するが、その手を止める。
まさかと思い、俺も調べると、確かにメニューの中に《ログアウト》のボタンがなかった。
「ユウキ、そっちはどうだ?」
「こっちにもないよ」
「バグか?いや、ログアウトが出来ないなんて、今後の運営に関わるぞ……クライン、GMコールしてみてくれ」
「もうしてるって!だけど、全然反応がねぇんだよ。他にログアウトできる方法ってあったっけ?」
「…………いや、ない。プレイヤーがログアウトするには、メニューを操作する以外には」
俺達の周りに嫌な空気が流れる。
「そうだ!ナーヴギアを頭から外しちまえば!」
「無理だ。俺達は現実の体は動かせない。ナーヴギアが、身体を動かす信号を全て、遮断してる。外に居る誰かが、外さない限りは………」
「そんな!俺一人暮らしだぜ!誰もいねぇよ!」
俺は家に母さんがいるし、弟と妹もいる。
ユウキも病院からログインしてるはずだから、看護師か医師の誰かが気付いてくれるはずだ。
「キリトさん、家に家族は?」
「母さんと妹がいるから、晩飯の時には気付いてもらえるだろうけど………おかしいと思わないか?」
「確かに……変ですよね」
「変って、そりゃバグなんだし、変に決まってるだろ?」
「言っただろ。こんなバグ、今後の運営に大きな支障が出る」
「…言われてみりゃ確かに」
「普通ならサーバーを一時停止して、プライヤーを全員ログアウトさせるはずなのに………運営からのアナウンス一つ無いなんて」
キリトさんがそう言った瞬間、突然鐘のような音が鳴り響いた。
突然のことに驚いていると、体が鮮やかなブルーの光に包まれた。
これは、場所移動アイテムによる転移だ。
βテストの時に体験したからわかったが、誰もも転移アイテムは使ってないし、そもそも第一層では手に入ることも無い。
なら、これは運営側による強制転移だ。
でも、アナウンスもなしにするか?
転移が終わるとそこは《始まりの町》にいた。
他にも、たくさんのプレイヤーたちが集まっていた。
やっぱり、他にもログアウトボタンが無いプレイヤーがいたか。
もしかしたら、全プレイヤーが集まっているかもしれない。
数秒経ち、周りがざわつき始めた。
徐々にそれが苛立ち変わり始めた頃、空に【System Announcement】の文字が浮かびあがった。
ようやく、運営側からのアナウンスが始まる。
ほっとし、肩の力を抜いた。
しかし、夕焼けに染まった空の一部がどろりと垂れ下がり、空中でとどまった。
そして、そのどろりとした塊が形を変え20メートルはある人間の形になった。
形はSAOに出てくるGMの恰好をしている。
だか、そのGMのローブの中に顏は無く、袖の中には腕も無い。
肉体自体がない。
とりあえずGMのアバターの恰好だけを用意しただけみたいだ。
アナウンスの為に用意したのか。
だが、アナウンスの為にGMのアバターなんているのか?
GMの両手がゆっくりと揚がり口を開いた。
『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ』
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』