第伍話
「はあっ、はあっ」
薄暗い森の中でユーノ・スクライアは負傷している右手をかばいながら周囲を警戒する。
そこへ、黒い何かが土煙をあげて襲いかかった。
「っ!ジュエルシード、封印!」
ユーノは赤い宝石を翳し魔方陣を作り封印使用とするが一歩のところで失敗してしまう。
「…逃がし…ちゃった…。追いかけ…なくちゃ…」
ユーノはそう言うと膝から崩れ落ちた。
「はは、やっぱりレクトさん達に頼めばよかったかな?」
ユーノはそう後悔するがすぐにその事を振り払った。
【誰か…僕の声を聞いて…、力を貸して…。魔法の…力を…】
ユーノはそう念話をすると回復のためにフェレットの姿になって意識を手放した。
「ユーノは見つかったか?」
「いえ…。索摘にも…かかりません…」
とあるビルの屋上。そこで人避けの結界を張り索摘を行っていたエリン・マーガレットの言葉にレクトは軽く息をつく。
レクト隊チームΩはあの後直ぐに地球へ入って索摘を行っていたがユーノどころかジュエルシードすら見つけられていなかった。
「アズサとラグナがいないのが響いているな」
レクトは苦虫を噛み潰したような顔で言う。アズサ・カンナギとラグナ・グランツフォードは先の輸送艦襲撃の際に重症をおい現在療養中であった。そのためチームΩは半分の四名のみであった。
「仕方がない。取り合えずエリンはこのまま索摘を続けて何か見つけたら報告しろ。俺は街で情報収集だ」
「…了解…」
レクトはその場を後にするとマサムネとシルフィアのもとに向かった。
現在二人にはジュエルシードの探索を行ってもらっている。ジュエルシードは発動しなければ普通の石ころと変わらないためエリンの索摘に引っ掛からない。そのため二人には歩いて探してもらっている。
レクトは取り合えず先に見つけたマサムネに話しかける。
「マサムネ」
「ん?どうした隊長?」
マサムネはレクトの登場に多少驚きながら答えた。
「先程輸送船より連絡があってな。アズサは峠を越えたそうだ」
「お、そうなのか?それならさっさとジュエルシードを見つけてお見舞いに行ってやりますよ」
「期待している。それと輸送船を襲ったやつの襲撃があるかもしれないから注意するように」
「了解!」
マサムネは威勢良く返事をした。
レクトはそれを見届けるとシルフィアを探しにその場を後にした。
シルフィアを見つけたレクトは話しかけた。
「シルフィア」
「どうしましたか隊長?」
「気になることがあってな。腰を落ち着けて話がしたい」
「それならあそこの喫茶店で話しませんか?」
シルフィアの指差す方向には【翠屋】と書かれた看板の喫茶店があった。
「分かった」
レクトはそれに同意して店の中に入る。
「いらっしゃいませ」
マスターらしき男性がレクト達に挨拶をする。レクト達は空いている席に座りメニューを見ながら念話で会話をする。
『先程マサムネには話したがアズサは峠を越えたそうだ。しかしラグナの方はかなり厳しい状態らしい』
『そうなのですか…』
『輸送船も含めて今も本局やナカジマ三佐と連絡がとれない。このままだと助かる可能性へ低い』
『それで隊長はエリンを向かわせたいと?』
『ああ、その通りだ。あいつは後方支援タイプだから回復魔法は使える。しかしそうするとユーノの捜索が難航する。何もなければいいが何かあってからでは遅いからな』
『私個人としてはラグナのもとへ向かわせるべきかと。ユーノの捜索は私たちでもできますが回復魔法は私たちでも使えませんから』
『…そうか』
『それに、隊長はそのように方針を固めているのではないですか?』
『…まぁな。ただシルフィアの意見は聞いておく必要はあると思ってな。マサムネは仲間思いだからな。必ずエリンを送ろうとしてその分たくさん行動するようになるだろうしな』
『そうですね』
「ご注文はお決まりになりましたか?」
ちょうどそこへマスターらしき男性が注文の確認に来た。
「俺はコーヒーで」
「私はコーヒーにシュークリームをお願いします」
「畏まりました」
そう言って厨房へと向かう男性を見るレクト。
『…隊長?』
『…あいつ、かなり鍛えているな。押さえているのか気はそんなに感じないが魔法で強化していなければ俺より身体能力は高いかもしれん』
『そうですね。たかが管理外世界と侮っているところがありましたがそれは改めなければ行けませんね』
『どの世界にも規格外は存在しているからな』
「お待たせしましたご注文の品になります」
そのような会話をしていると注文の乗ったトレイを持って近くに来ていた。
レクトとシルフィアは受け取りそれぞれ飲み始める。
「ほう、中々旨いな」
「ええ、最高です」
レクトとシルフィアはそのコーヒーの旨さに舌を巻いていた。
「隊長、このシュークリームも美味しいですよ」
「ほう、少しもらえるか?」
シルフィアは少しシュークリームをちぎりレクトの口に持っていく。
「はい、あーん」
「あーん」
それを普通に加えるレクト。端から見るとバカップルにしか見えない光景である。
「ふむ、最高に美味しいな」
レクトとシルフィアはその後コーヒーとシュークリームを味わって一時を過ごした。