「もう5月半ばか、早いな」
入学してからはや1か月が経ち、満開に咲いていた桜も散っていた。
「七海はまだ来てないか?」
放課後に入りいつもの噴水広場に着いたのだが七海の姿がなかった。少し待つことにした日向は広場にあるベンチに寝転び瞼を閉じる。
––––あいつ才能がないだせ。
––––金を出せば入れると思ってるよ。
––––親も馬鹿だよな。
––––そこまで成功したいの〜?
「ッ⁉︎」
目を開けベンチから身体を飛び上げる。
「嫌な夢を見た」
希望ヶ峰学園の予備学科として入学してから言われ続けて来た妬みの数々が悪夢の様に夢に出てくる。
「はぁ〜タダでさえ今も時折言われ続けてるのに、夢にまで出てくるなよ」
胸糞が悪くなった気持ちを鎮める為に目をつぶり胸を掴む。すると横から誰がぶつかって来た。
「七海」
誰が肩にぶつかって来たのか目を開け見ると、ゲームをしながら顔を肩に埋めている七海だった。
「ぷはーッ‼︎」
「またゲームしながら歩いてたのか七海」
「あっ、日向くん」
「また足を躓かせて転ぶぞ?」
「ん〜そんなつもりはなかったんだけど。私ゲームをやるといつの間にか歩いてたりするんだよね〜」
これを聞いて苦笑いする。これは実際に見ていたから知ってるんだが、七海は一度ゲームに集中すると周りが見えなくなり、いつの間にか歩いてたりする事があるのだ。苦笑いしていると、日向は七海がやっていたゲーム画面を目にする。
「それって『ギャラオメガ』か?」
小さい頃に発売された人気上位のシューティングゲーム。 ゲーム内容は単純に出てくる敵を撃ち落とすだけなのだがこれが中々面白い。
「知ってるのッ⁉︎こんな古いゲーム!」
このゲームの事を知っていたのを知ると七海は凄い勢いで詰め寄って来た。
「あ、あぁ。昔父さんに買って貰って今も時折やってるよ。結構面白いよな」
「だよね!名作だよね〜ッ!超〜名作だよねッ‼︎」
顔と顔がぶつかりそうな距離まで近づけてくる。
(七海って、こんな表情もするんだ)
初めて見せる嬉しそうな顔ではしゃぐ七海の姿に一瞬戸惑うが、こんな一面の七海を知れて良かったと思った。
「ねぇ!今度一緒にプレイしよ!」
「あぁ、今度持って来るから一緒にやろう」
「約束だよ!」
小指を立てて差し出す。七海の意図を理解し日向も小指を立て七海を小指と混じわせ指切りげんまんする。
「あぁッ!いたいた!」
「「ん?」」
横から女性の声が聞こえてくる。振り向いて見ると、エプロン姿の女性となぜかその女性に引きづられている太めの男子が近づいてきた。
「貴女が七海さんね!」
「あなたは?」
「私は新しくクラスの副担任になった雪染 ちさ(ゆきぞめ ちさ)‼︎貴女を迎えに来たの。クラスの皆が待ってるわ」
「えっ、でも」
「俺のことは気にしなくていいよ。七海は先生と一緒にクラスに戻りな」
「うん」
「ごめんね。七海さんを連れて行って」
「それは構いませんよ。でもそれよりあれ」
「あれ?」
「「あっ!」」
日向が指差す方向に向いて見ると、太めの男子が忍び足でこの場を立ち去ろうとする姿を目にする。雪染と太めの男子の目が合う。太めの男子はその身体に似合わない走りを見せ逃走を図った。
「あぁッ⁉︎こら待ちなさいぃいいいいッ‼︎」
「嫌だぁあああああああッ‼︎僕は逃げ切ってアニメの再放送を見るだ。って、何ドス投げつけて来てるんですか⁉︎」
「大丈夫!逃げられないように邪魔するだけで絶対に当てないから!」
「そうゆう問題じゃないですよ⁉︎」
それでも逃げようと逃げる太めの男子だが、捕まるのは時間の問題だと日向は思った。
「は、はは。本科の人って色んな意味で凄いな。・・・なぁ、七海」
「なに?日向くん」
「七海は本科に入って、色んな人から嫌な事を言われたりした事はあるか?」
予備学科の生徒で言われているならば、本科の生徒はもっと酷い事を言われているに違いない。そんな中でも七海は平気でいられるのか知りたかった。
「ん〜多分あったかな」
「辛くはなかったか?」
「辛くはないけど。私は本科に入って後悔はないよ。だって自分の意思で入った事だから」
「(自分の意思で入ったからか。そうだよな、自分の意思でこの学園に来たんだ。どんなに言われ続けても入った事は後悔してはいけない)ありがとう七海。お陰で少し気持ちが楽になったよ」
「そう?」
「お待たせーッ!七海さん!」
すると先程この場から逃走した太めの男子を追い掛けに行った雪染が、太めの男子を縄で縛り上げて戻ってくる。
「じゃあ行きましょか七海さん」
「はい先生。日向くんまた明日ね」
「あぁ、また明日」
俺は手を振りながら七海が見えなくなるまで見送った。七海もそれに応えて手を振りながら先生たちと共に本科の校舎に向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
薄暗い会議室。その会議室に円卓の机の席に座る人たちがいた。
「さて、今日の議題を始める」
「そうですな。そろそろあのプロジェクトを始めて良い頃合いでは?」
「資金も集まって来ましたし。構わないじゃないのでは」
「確かに資金も集まってプロジェクトに取り掛かることは可能です。後の問題はこのプロジェクトに必要な被験者だけ事です」
「その点は大丈夫です」
男の机の上にある資料に今回のプロジェクトに必要な被験者が書かれていた。
「抜かりを入れるなよ」
「わかってますとも。このプロジェクトがどれほど重要なのか」
「そうだ。このプロジェクトが成功すれば誕生するのだ。世界の『希望』が我々の手によって生まれるのだ」
男達は不敵な笑みを浮かべながら資料を見つめる。その資料には一人の男の名前が記されていた。
––––予備学科の生徒、日向 創と記されていた。
暗躍する評議会の人たち。プロジェクトの被験者に狙われた日向。
このまま日向は評議会の連中に堕ちてしまうのか。