ダンガンロンパ 繋がり   作:オンリー

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第7話 不屈の闘志

 町から離れた場所にある校舎。そこは3年前に封鎖され、今は廃墟と化し誰も近寄らなくなっている。しかし、そんな誰も近寄らなくなった場所だからこそ、七海を拉致した彼らにとっては隠れ家にはもってこいの場所であった。

 

「ん・・・ぅ・・・」

 

「おっ、ボス、こいつ目を覚ましましたぜ」

 

 小さなうめき声と共に目を開ける。ぼやける意識の中で少しずつ思考を取り戻し始める。

 

「ここはどこ?」

 

 体を起こし周りを見渡すと知らない男性が目の前にいるのと見知らぬ場所にいた。確か自分は家を出て学校に向かっていた途中で意識を失った所までしか記憶になかった。

 

「おはようございます。七海 千秋さん」

 

 困惑する七海に他の人とは違う白服の制服を着た一人の男が前に立つ。

 

「あ、あなたは誰?どうして私の名前を」

 

「これは失礼しました。名前を教えたい所なんですが、私の立場上話す訳にはいかないんです。申し訳ありません。ですが何故あなたがここにいるのかはお答えすることができます。あなたは––––誘拐されたんです。私達の手によって」

 

「えっ」

 

「私達はどうしてもあなたの父親が開発しているプログラムが欲しいのです。その為にあなたにはプログラム提供まで人質になって頂きます。私はこの後予定がありますのでこれにて失礼。お前等は見張りに付いて他の者達は所定の位置にいろ」

 

 リーダーの男は二人を部屋に残し、他の者達を連れて部屋から出て行った。七海は自分が誘拐されたと言われたがまだその実感がなく、ただ呆然としていた。

 

「なぁ、こいつ良い体してるよなぁ。ちょっと味わりたてえな」

 

 男は服の上からでもわかる七海の豊かな胸に生唾を飲み込む。

 

「んなことしたらボスがうるせぇぞ」

 

「なぁ〜に。どうせこいつは商品の一人になるんだ。ちょっとぐらい味見したって問題はねぇーよ」

 

「それもそうだな」

 

 二人は舐めるように七海に視線を這わせる。

 

「よし、じゃあどっちが先に味わうかじゃんけんで決めるか」

 

 七海は二人がじゃんけんをする姿が見る。

 

(私、この人たちに犯されるのかな)

 

 困惑する七海でも二人の会話を聞いていれば、自分がこれからどうなるのか想像ができた。

 

(もう皆に会えないのかな)

 

 頭の中にクラスメートの顔が浮かび、家族、剣崎、鷹村たちなど親しい人たちの顔が頭によぎっていく。

 

「おしっ!じゃあ俺から先にやらせて貰うぜ」

 

 じゃんけんに負けた方の男は舌打ちをうって部屋の出入り口に行き、勝った方の男は荒れた息遣いをしながらゆっくりと歩み寄り七海を押し倒す。

 

(こんなの嫌だよ)

 

 先程まで感じなかった恐怖が込み上げられてくる。何とか逃げ出そうと試みるが、体の上に乗られ、両手を片手で封じられ、非力な七海では男を退かす事は出来ずに身動きが取れないでいた。男は空いている手で七海の制服のボタンを外していく。

 

(日向くん)

 

 瞳を閉じた七海は日向の顔が浮かぶ。

 

(助けて・・・日向くん)

 

 閉じた瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

 

「やっぱりデケェ胸してんなぁ。何食ったらこんなにデカくなんだろうな。さぁ〜て美味しく頂くとしますか。って、何だよ。これからって所で邪魔するなよ」

 

 制服を脱がし、窮屈そうにする締めつける豊満な胸を解き放つ為にブラを剥ごうと手にしようとした時、誰かが背中を叩いてくるので中断する。男は仲間が何か用があるのだろうと思い振り返る。

 

「なっ⁉︎お前は誰・・・」

 

 男は振り返って見た者が仲間じゃないと発覚すると叫び声を上げようとする。だが男は叫び声を上げずにゆっくりと七海の体から離れ落ちる様に床に倒れ込んだ。

 

「待たせたな」

 

 声を掛けられ七海は閉じた瞳を開かせる。そこにいた優しく微笑んでこちらを見る者、自分がよく知る人物。

 

「助けに来たぜ、七海」

 

 自分が助けを求めた人。日向の姿があった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「結構な数がいるな」

 

 クルルの案内で七海が監禁されている目的地に到着した日向。草むらから廃墟の校舎を覗いて見ると、校舎の周りに多数の人たちが警備していた。

 

「七海がここにいる事は間違いないな。クルル、何か武器をこっちに転送してくれ」

 

 通信機越しからクルルに武器を要求する。数秒後、小型スプレー缶が現れる。

 

「・・・おい、クルル。一応聞くけどこれはなんだ?」

 

『俺様が開発した催眠ガスだぜ。超即効性で少しでも嗅げば一瞬でお寝んねする優れ物だぜ〜』

 

「そうか。そんな優れ物を送ってくれてありがとう。だけどさ、たった1本でこの状況をどう乗り切れば良いんだよッ⁉︎幾ら超即効性で、嗅げば眠らせられると言っても無茶だろ!」

 

 クルルの発明はどれも優れ物なのは知っているが、たった1本だけで七海救出するのは難易度が高過ぎる。武器があれば七海救出がスムーズに行くと期待していたのだが思惑が大きく外れ、日向は焦っていた。

 

『仕方ねえだろ〜他の武器はメンテナンス中で使えないだ。創がすぐに使いこなせて、有効なのはそれしかないんだ」

 

「くっ、無いよりはマシだがかなりきついな」

 

『くっくっくっ、心配するな。既に最も最短かつ安全なルートは検索してあるから、お前さんは俺の指示に従えば目標まで辿りつけるさ』

 

「頼むぞマジで」

 

 日向はスプレー缶を懐にしまい、クルルの案内に従って行動する。日向は警備する者たちの目を警戒しながら、警備が薄い校舎の裏側に移動する。

 

『そこから入って廊下を歩いて行くと突き当たりを右に曲がり、奥に進んだ先の部屋に監禁されてる』

 

「わかった」

 

 日向は扉の前に立つ男が離れるのを確認すると素早く扉を開け、校舎の中に入り扉を静かに閉める。

 

「ふぅ〜ここからが正念場だ」

 

 一息入れて日向は衣擦れや靴の足音を最小限に抑える歩法、ナンバを使用し、手と足を一緒に前に出し、ゆっくりと歩き出す。

 

『待ちな!今そこを多人数が通る。隠れな』

 

 突き当たりを右に曲がり、真っ直ぐに進んで行くとクルルから通信で敵の察知を知らされ、物陰に隠れ身を隠す。多人数が歩いて行くのを見ると冷や汗をかく。何とかバレずに済んだ日向は物陰から飛び出し、行動を開始する。

 

「七海ッ!」

 

 部屋の前まで辿り着いた日向は呆然として座り込んでいる七海を発見する。部屋の中には見張りは二人だけなのを確認すると日向は懐にしまった催眠ガスを取り出す。そしてゆっくり忍び寄り出入り口に立つ男に近づき、催眠ガスを男の顔に浴びせた。

 

(凄いな。少し嗅いだだけで寝ちゃったよ)

 

 ガスを吸った男は力尽きる様に眠り込む。日向は音を立てない様に眠らせた男をゆっくりと床に寝かす。

 

(さて次はあいつだな)

 

 日向は青筋を浮かばせながら、七海の上にまたがっている男に近寄る。男は日向が近づいて来ているとも知らずに上機嫌で七海の制服を脱がしていた。男に近づいた日向は男の肩をトントンと叩く。男はそれに気付いて背後を振り返る。

 

「なっ⁉︎お前は誰・・・」

 

 仲間ではなかった事を驚いた男は叫び声を上げようとする。だが日向は男が叫び声を上げる前に催眠ガスを嗅がせる。ガスをもろに受けた男は七海の上から離れる様に床に倒れ込む。

 

「待たせたな」

 

 瞳を閉じている七海に優しく声を掛ける。七海は瞳を開けるのを見た日向は優しく微笑む。

 

「助けに来たぜ、七海」

 

 目の前に日向がいる事に驚愕する七海は日向に問い掛ける。

 

「日向くん」

 

「あぁ、俺だ」

 

 七海の答えに頷いて返した日向に、七海は視界を涙で歪ませ、日向の胸に飛び込む。

 

「怖かった」

 

「大丈夫。ここにいる」

 

 急に胸に飛び込まれて驚いた日向だったが、七海を優しく抱き締め、子供をあやす様に髪を撫でる。

 

「怖かったよッ!」

 

 日向の体に力強く抱き締め涙を流す七海。他の警備をしていた者がいつ来るかわからない状況の中ではあまりこの場に留まってはいられなかったが、日向は今はただ涙する七海が落ち着くまでそっとしていた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「もう大丈夫か?」

 

「うん」

 

 10分が経つと泣き止み落ち着きを取り出す七海。日向は七海から顔を逸らし、七海に外された制服のボタンを戻してもらう様に頼む。七海の下着姿を見るのは色々いけないと思ったから。七海も制服のボタンを外された事を思い出し、頬を赤くして日向から体を隠す様にしながら制服を着直す。

 

「もう良いか」

 

「大丈夫・・・だと思う」

 

「そ、そうか。なら早くここから出よう。いつ他の奴等が来るかわからないからな」

 

「そうだね」

 

 日向と七海は床から立ち上がり、埃を払う。

 

「床に置いてあるのって日向くんの?」

 

 床に置いて小型スプレーを指差す。

 

「ん?あぁ、そうだ。それのお陰でさっきの二人を眠らせられたんだ」

 

 七海を抱き締めていた時に床に置いおいた催眠ガス。これが無かったら七海を助ける事は困難だっただろう。クルルには感謝しなければいけないな。

 

「私が拾うね」

 

 そっと催眠ガスのスプレーに手を伸ばす。

 

「ッ!それに触るな七海⁉︎」

 

 突然、怒号を上げ出す日向に七海は体をビクッ!とさせる。

 

「七海ッ!」

 

 日向は動揺している七海を左手で突き飛ばす。何がなんなのかわからない七海は体を突き飛ばされ床に倒れ込む。そして七海が床に倒れたと同時に銃声が鳴り響く。

 

「がぁっ⁉︎」

 

 七海を突き飛ばした左腕と床の催眠ガスが撃ち抜かれる。スプレーは頑丈に出来ていた為に中のガスが漏れる事はなかったが、左腕を撃ち抜かれた日向は激痛を走らせる。

 

「日向くんッ⁉︎」

 

「くぅっ!」

 

 撃たれた左腕を押さえ込む日向を見た七海は、血相を変えて日向に近寄る。

 

「おやおや、痛そうですね」

 

「お、お前は」

 

 振り返ると出入り口の前に多数の部下を背後につけ、銃をこちらに向ける男が立っていた。

 

「いや〜どうも胸騒ぎがしましてね。来て見て正解でした。しかし、こんなネズミが紛れ込んでいたとは驚きましたよ」

 

(チッ、催眠ガスのスプレーは離れた場所に飛ばされてる。逃げ場もない。どうしたもんか)

 

 日向は七海を自分の背中に隠し、この絶体絶命の状況からどう切り抜けるか模索する。

 

「あんた、警察のくせに何で誘拐なんてしてんだよ」

 

「おや、私の事をご存知とは驚きました。ご褒美に質問に答えて上げましょう。私は七海 千秋さんの父親が開発しているプログラムが欲しいのですよ。その為に七海さんには餌になってもらって頂きます」

 

「それが警察のする事かよ」

 

「ではこちらも質問させて貰いましょうか。先程あなたは七海さんを突き飛ばしましたが、死角からどうやって私達の存在を知ったんですか?」

 

 こちらの存在を知られないように足音を立てずに近づいたにも関わらず、この男は背後の攻撃を察知した。

 

「さっきまで臭いがしなかったが、僅かに火薬の臭いがした」

 

「それで我々が背後にいるとわかったと、恐れ入る」

 

「最後の質問だ。仮に七海の父親がお前等にプログラムを渡したら、七海を解放するのか?」

 

「ん?する訳ないじゃないですか。七海さんにはウチで扱う商品の一人になって貰うんですから」

 

 商品と言う言葉の意味を悟った七海は、自分のこれから起こるであろう未来を想像し体を震えさせる。

 

「七海さんはきっと良い商品になる筈です。それとこれは私からの提案なんですが、あなた、ウチで働きませんか?この場所まで誰にも見つからず来られた実績は素晴らしい。もし私の部下になるならあなたの安全は保証しましょう」

 

 七海を見捨ててこちらに来るか、七海を庇って命を落とすか、二つの選択を与える。

 

「あなたは馬鹿ではないはず。ここでどちらを選ぶのが最善かわかる筈だ。さぁ、私の部下になりなさい」

 

 男は日向に手を差し伸べる。日向は瞼を閉じる。そして再び目を開けると日向はゆっくりと前に歩き出す。男が差し出した手を日向は掴もう––––とはせずに右手で弾き飛ばす。

 

「これは何の真似です」

 

「わからないか。ならハッキリと言葉で伝えてやる。七海を傷つけようとする奴の下につくなんて俺は御免だ」

 

「そうですか。あなたがそれを選ぶのであるなら、ここで死んでもらいます」

 

 背後の部下が銃を日向に向けて構え始める。

 

「だが、楽に殺したのでは私の気が収まりません」

 

 表情には出してはいないが、男は日向に手を弾かれた事に怒りを感じている。

 

「そこでゲームをしましょう。これから私とあなたとの一騎打ちをします。もしあなたが勝てば七海さんと共に解放しましょう」

 

「・・・そのゲームに乗らせてもらう」

 

「宜しい。ルールは簡単、相手を殺すか、気絶させれば勝ちです」

 

「わかった」

 

 日向は上着を撃たれた左腕に強く巻きつける。

 

「日向くん」

 

「心配するな七海。絶対に助けるから」

 

「あっ、一つ言い忘れてました。君にはちょっとしたハンデを受けてもらう」

 

 男は懐から銃を取り出し、日向の両足に発砲する。両足からは鮮血が飛び散り、男の白服に血が飛び掛かる。

 

「ぐぅッ⁉︎」

 

「日向くんッ⁉︎」

 

「来るんじゃない七海!」

 

 駆け寄ろうとする七海を一喝し、静止させる。日向はこれ以上の出血は危険だと判断し、制服の袖を破り撃たれた左腕と両足を縛り付け、止血する。

 

(くっ、やっぱり縛っても血が出てくる。マズイな、長引くと意識が保てなくなる)

 

 日向は一歩前に出ようする。だが日向は前に進まなかった。いや、進められなかった。背後から抱きつかれ身動きが取れなかったからだ。

 

「七海?」

 

「行っちゃダメ。行ったら死んじゃうよ」

 

 涙声で必死に止める七海。今、行ったら死ぬのは目に見えているから。

 

「・・・七海」

 

 日向は背後を振り向き七海の顔を隠す様に胸に抱き締め、ボソボソと呟く。

 

「行ってくる」

 

 話を終えた日向は七海に背を向け、男の前まで歩み寄る。

 

「別れ話は終わったのかな?なら、始めるとしようか」

 

 男は銃を懐の中に戻すと構えを取る。

 

「久しぶりにボスの闘いが見れるぜ。鮮血の鬼と呼ばれたボスの闘いが」

 

「鮮血の鬼?それって何ですか?」

 

「何だ、お前知らないのか?ボスが何でいつも白服の服を着てると思う?それはな、相手の血から浴びた血で自分の服に赤く染める為だ。ボスはそうやって相手の血を自分の服に浴びせて行く内に、その呼び名ができたんだよ。おっ、始めるぜ!」

 

 先に仕掛けたのは男の方。男は日向の足を狙い定め、集中的に蹴りつける。両足を負傷していた日向にはその蹴りを避ける事はできず、苦悶の表情を浮かべて痛みに耐えていた。日向は痛みを堪えながら負傷していない右で男のボディを殴ろとする。

 

「おっと、危ない!」

 

「チッ⁉︎」

 

 だが男は日向の拳を軽やかに背後に飛び、回避する。男はヒットアンドアウェイで攻撃しては背後に逃げの繰り返しで日向をどんどん痛めつけていく。

 

「ハハハッ!粋がってた割には大した事ねぇな!」

 

「ボス!もっとそのガキをいたぶって下さい!」

 

 部下からの申し出を受けた男は、次に日向の顔、時折ボディにとバリエーションを増やし殴る、蹴るを猛烈な勢いで攻める。日向の顔は血だらけになり、片目は腫れ上がり、体中が男にボロボロにされていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 殴る、蹴るの一方的な暴行を始めて既に30分が経過していた。流石の男もずっと休まずに攻めていたからか、息を切らし始めていた。

 

(まさかこんなに頑丈だとは思いませんでしたよ。予想よりも長引いてしまった)

 

 出血量も考えれば、もう倒れてもおかしくはない。なのに、目の前に立つ少年は力強くその場を立っていた事に男は少なからず驚いていた。

 

(倒れるのも時間の問題ですが、これ以上長引くと交渉の時間に差し支えてしまう。もう気は晴れましたし、ここで終わりにしますか)

 

 男はこれ以上は時間の無駄だと判断し、懐にしまった銃を取り出し、銃口を日向に向ける。

 

「よくその体で立っていられた、と褒めて置きましょう。ですが、これ以上は時間の無駄。あなたにはもう消えてもらいます」

 

「・・・そうだな。これ以上は時間の無駄だな」

 

 ボロボロな体で意識も朦朧としているにも関わらず、日向は不敵な笑みを浮かべる。

 

「伏せろっ!七海!」

 

 叫び声を上げると七海は床に身を伏せる。すると部屋の屋根が突如、爆発し、屋根が吹き飛ぶ。

 

「な、なんだ一体ッ⁉︎」

 

 男とその部下たちも突然の爆発の事態に混乱し、慌てふためく。すると床に小さな玉が投げ込まれる。床に落ちた玉は煙を放つ。

 

(目くらましっ!一体誰がこんな事を)

 

「ぐぁッ⁉︎」

 

「ぎゃあぁぁぁぁッ⁉︎」

 

「ッ⁉︎どうした!」

 

 煙で視界が見えない中、部下の叫び声が続々と聞こえてくるのに焦った男は銃を構えながら周りを警戒する。煙が晴れていくと、そこには床に倒れ伏せている部下たちの姿があった。いや––––もう一人いた。部下たちの倒れる横に忍び装束の服を着た男が小刀を持って立っていた。

 

「部下は死んではござらん。峰打ちでござる」

 

「来てくれたか––––ドロロ」

 

「遅れて申し訳ない、創殿」

 

 男は日向に気を向けた隙をつき、ドロロと呼ぶ男に銃口を向け、発砲しようとする。だが男が発砲する前に別の場所から発砲音を響かせ、男の銃を手を傷つけずに、手から弾き飛ばす。

 

「お前も来てくれたのか、ギロロ!」

 

 日向は発砲音が聞こえたとする屋根の上に目を向ける。破壊された屋根の上には一人、両手に銃を手にし、こちらを伺う者がいた。

 

「どうした創、そんなにボロボロになって。腕が落ちたんじゃないか?」

 

「へっ、お前こそ随分来るのが遅かったじゃないか。でも来てくれて助かったよ」

 

「こ、これはどう言うことだ」

 

 日向の発した言葉を耳にした男は疑問を持ち、尋ねる。

 

「まるでこの状況がわかっていた言い分に聞こえますが」

 

 日向は男の質問に笑みを浮かべて、七海との会話を思い出し様にして語り出す。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「七海、これから俺が言う事を黙って聞いてくれ」

 

 日向は七海の耳元で小さな声で話す。

 

「今さっきクルルから通信があった。内容はもう時期、援軍が到着する。それを聞いて俺は援軍が来るまでの間、あいつとの決闘に応じて、こちらに目を向けさせ時間を稼ぐ。俺はあいつの攻撃を全部受けるつもりでやるから、七海は黙って見ていてくれ」

 

「ッ⁉︎」

 

 七海はその作戦に反対しようと声を上げようとするが、先程の日向の言いつけに喉まで出かかった言葉を飲み込む。

 

「合図を送るから、七海は床に伏せてくれ」

 

 七海は唇を噛み締めながらも頷いて返事をした。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「そして今に至る訳だ」

 

 話の全てを聞いた男は汗を滲ませ、表情には出してはいないが内心でこの状況に焦りを感じていた。

 

(くそッ⁉︎この男一人だけとは思ってはいなかったが、まさかこんな隠し球があったとは)

 

 たった一人で乗り込むとは思わなかった男は他にも仲間がいる可能性を考えていた。だがこれほどの戦力を持った者が仲間にいるとは予想していなかった。

 

「確かにこれは予想外ですね。ですがここまでです!私の部下はまだ200人います。今の爆発でこちらに向かっているはず。そうなればあなたたちなどあっという間に殲滅させられます」

 

「その部下とやらは既に対処済みだ」

 

 屋根の上にいたギロロが男に告げる。すると男はギロロに食って掛かる。

 

「嘘をつくな!200人を二人だけで始末されるほど私の部下は弱くはないっ!」

 

「誰が二人と言った?」

 

 ギロロは自身の通信機を皆に聞こえる様にして、通信を始める。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「オラ、どうしたぁああああああッ!もう俺様にかかって来る奴はいないのか!」

 

「鷹村さん、声がデカ過ぎます」

 

 雄叫びを上げる鷹村の周りには何十人の男たちが倒れていた。

 

「あぁ、こっちはもう終わったぜ。多分千堂の方も終わっているはずだ」

 

「ん?誰に話してんだ木村」

 

「ギロロの奴にこっちの現状を伝えてるんだ。どうやら向こうの方も上手く事が進んでいるらしい」

 

「そうか、なら終わったら創の奴になんか奢って貰わないとな」

 

「そうだな。じゃあその本人に会いに行くとしますか。鷹村さん!創の所に行きますよっ‼︎」

 

「誰か俺様の相手しろぉおおおおおおッ!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ば、バカな」

 

「そう言う訳だ。部下もやられたんだ、もう大人しく観念したらどうだ?」

 

「・・・ぷっ、アハハハハハハハハッ‼︎」

 

 顔を下に俯かせ観念したかと思ったら、突如男は気が狂った様に笑い出す。

 

「まさか、こんな事態になるとは思いませんでしたよ。ですが」

 

 カチッ、とスイッチが押される音が聞こえる。

 

「あなた達にも私と一緒に消えてもらいます」

 

 男の手にはいつの間にか何かの起動スイッチが握られていた。

 

「今爆弾の起動スイッチを押しました。5分もすれば半径5㎞の範囲が火の海になるでしょう」

 

「なっ⁉︎それじゃあお前も巻き添えになるだろ!それにその範囲だと、町の人たちも巻き添えになる!お前それでも警察かよッ⁉︎」

 

 日向は叫び声を上げ、男のした事を咎める。半径が5㎞となれば、どれだけの被害になるか計り知れない。

 

「良いですね〜その絶望に満ちた顔。私や市民の命など問題ではありません。寧ろ絶望が広がればあの方も喜んでくれるでしょう」

 

 その男の表情は狂気に満ちていた。本当にこの男は自分の命など捨てても構わないと思っている。

 

「くそッ⁉︎一体どうしたら」

 

 クルルに頼んで爆弾のある位置を探してもらうか。だがもし、ここから5分以上かかる場所に爆弾を隠されていたら終わりだ。

 

「それでもやるしかない!クルル、今すぐに爆弾のある場所を・・・」

 

「その必要はないで」

 

 通信をしようとした時、男の背後から聞き覚えのある声がする。見るとそこには千堂と剣崎がいた。

 

「千堂さんっ!それに剣崎!」

 

「悪い日向!来るのが遅くなった」

 

「そんな事はどうでもいい。それよりも必要はないってどうゆう意味ですか?」

 

「こうゆう意味や」

 

 千堂は手にしていたトランクケースを掲げる。

 

「そ、それは私が設置していた爆弾!何故それを持っている!それはすぐには見つからない場所に隠したんだぞ!」

 

「ワイが見つけたんやない。この男が見つけたんや」

 

 二人の背後から一人の男が笑顔で出てくる。

 

「やぁ、七海さん」

 

「狛枝くん!」

 

 現れたのは七海と同じクラスに所属する狛枝。

 

「お前が爆弾を見つけたと言うのかッ⁉︎」

 

「えぇ、偶々見つけてね。でも開けた時はびっくりしたよ。まさか爆弾があるなんてね」

 

「くっ!だが見つけても爆弾の解除が出来なければ同じことだ」

 

「それならこの男が解除しとる。だから爆発なんてしないで」

 

「な、んだと」

 

 男は呆然としてふらふらと背後を歩いていく。部下も全員やられ、切り札の爆弾までも不発になってしまった。この状況ではもう自分に勝ち目がないと流石の男も悟る。

 

「もうあんたの終わりだ」

 

「・・・そうですね。これはもう私の負けですね。でも」

 

 ポケットに手を入れ、ナイフを取り出す。

 

「あなただけは死んでもらいます!」

 

 例え自分が捕まったとしても、この状況を作った目の前の男だけは始末しなければならない。男はナイフを力強く握り締め、日向に向かって走り出す。

 

「日向くん!」

 

「日向!」

 

 七海と剣崎は日向の名を叫ぶ。出血で今にも倒れそうな日向に致命傷を与えられたら、本当に死んでしまう。七海と剣崎は日向の下へ駆け出そうとするが、七海はいつの間にかいたドロロに、剣崎は千堂に止められてしまう。

 

 二人は止めるドロロと千堂を振り払おうとする。だが二人の顔を見て動けなくなる。威圧からではない。日向が危険にも関わらず、二人とも安心した表情をしていたからだ。

 

「お前はやってはいけない事をした」

 

 日向は朦朧とする意識の中で、歯を食いしばり、足の痛みを堪えながら両足に力を込める。日向は地面を蹴り上げ、一気にナイフを持って向かって来る男の間合いに近づく。男はあっという間に懐に飛び込んだ日向に驚愕した。

 

 

 日向は下半身を強く支え腰を勢いよく回転させ、右拳を男の顔に殴りつける。遠心力を加わった日向の拳をまともにもらった男は宙を舞い、1回転、2回転と体を回転させられ、地面に叩きつけられた。

 

「お前は七海に手を出したことだ」

 

 意識のない男に聞こえてはいないが、日向は上から見下ろしながら男のした罪を告げる。

 

「さ、すが、に、もう限界か、な」

 

 朦朧とする意識を保てなくなった日向は糸が切れた様に地面に倒れる。七海と剣崎の声が聞こえた様な気がしたが、日向はそのまま意識を失った。




今回は過去最大の長さになり、投稿が遅れてしまいました。次からは出来るだけ早く作る様にしようと思います。

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