ソーマとの任務も無事に終わった翌日、ソーマを除く第1部隊の1年生はペイラー・サカキの研究室に放課後呼ばれていた。
「今から何するんだろうな~。」
コウタが呟くと、
「さあ?サカキ博士からの任務とか?」
ハジメがそれに答えた。しかしアイリが
「でも、任務なら私たちではなくて、リンドウさんに直接言うんじゃないんでしょうか?リンドウさんは隊長ですし。」
と返してきたので、ハジメは
「確かにそうだな。となると…。」
「単に説教されるとかそういうオチじゃない?」
ハジメが考えているとリューズが話だした。
「でもよ、説教される覚えはねぇぞ?」
ハヤトがぼやくと、リューズは
「アンタさぁ…、ついこの間あんだけ暴れたこと忘れたの?」
そう呆れたようにぼやいた。
「なんだそれ?ハヤトは何をやったんだ?」
コウタがリューズに尋ねた。
「コイツね、この前屋上で大勢の不良相手に大暴れしたのよ。しかも全員薙ぎ倒しちゃったし。」
リューズがそう言うとハヤトは少しだけ嫌そうな顔をして
「あぁ…、あの時のか。あれはお前のせいだろうが。お前が屋上に行かなきゃあんなことにはならなかったんだよ。」
そうハヤトがぼやくとリューズは
「良いじゃない、別に。あの日は天気良かったんだし。にしても、アンタってなんであんなに強いの?なんか習ってたの?」
その問いに、
「まあ、色々あったんだよ。」
と、ハヤトがボカしたのでコウタが
「そんなに喧嘩強いのか?だったらなんか俺にも教えてくれよ。」
と聞くと、ハヤトは、
「…そんなに知りたいなら体に直接叩き込んで教えてやろうか、コウタ?」
そう言ってコウタを睨み付けるとコウタは
「全力ですいませんでした。」
と、すぐさま土下座して謝った。そんなやり取りをしていると、サカキ博士が研究室に入ってきた。
「やあ、遅くなってすまないね。さて、見たところ全員集まっているようだね。」
サカキ博士がそう言うと、ハジメは、
「サカキ博士、俺たちはどうしてここに呼ばれたんですか?」
「いい質問だね、ハジメ君。君達は、この間任務で学校を公欠しただろう?ちょうどその日に私の講義があってね、普段なら、学校の講堂を使う所なんだが、今年は、珍しく君達以外に公欠の生徒がいなくてね。特別にここでやることになったんだ。」
サカキ博士がそう言うと、今度はアイリが、
「ソーマさんはここに来なくて大丈夫なんでしょうか?」
「ソーマかい?彼はすでに講義を受けたことがあるからね。ここに来なくても大丈夫なんだ。」
「なるほど。分かりました。」
最後にリューズが質問をした。
「では、今回の講義は一体何の講義をするんですか?」
「今回の講義かい?」
リューズの質問にサカキ博士は口許に薄く笑みを浮かべつつ答えた。
「今回の講義は…、アラガミについてだよ。」
「いきなりだけど…君達は、アラガミってどんな存在だと思う?」
サカキ博士からの問いに、アイリは、
「えぇ~と…、人類の天敵、ですか?。」
と、おそるおそる答えた。
「その通りだね。他に挙げるならば、『絶対の捕食者』、『世界を破壊するもの』といった所だね。これらは、認識としては間違ってない。むしろ、目の前にある事象を素直に捉えていると言えるだろうね。」
アイリからの返答を受け、サカキ博士が補足した。
「では、何故どうやってアラガミは発生したのかって考えたことはあるかい?」
今度はリューズが答えた。
「いえ。授業ではある日突然現れたとしか聞いていません。」
「そうだね。君たちも知ってのようにアラガミはある日突然現れて、爆発的に増殖した。
そう、まるで進化の過程をすっとばしたかのようにね。」
「ふぁぁぁぁ~…。なあなあ、この抗議ってなんか意味あんのかな?」
サカキ博士がこんなことを言っていると、コウタが、アクビをしながらリューズに話し掛けてきた。
「コウタ、真面目に聞きなさいよ。」
「だってさ、ハジメは寝てるし、ハヤトも聞いてるのか怪しいし。」
そう言われて、2人の方を見ると、ハジメは俯いて眠っているし、ハヤトは一見するとちゃんと聞いてるように見えるが、理解してないのが見てとれる。
(コイツらは…‼)
リューズが呆れていると、コウタは、
「それに、アラガミの存在意義なんてどうでもよくね?」
「そうかね?」
「エッ⁉」
いつの間にかサカキ博士が、コウタの脇に回っていた。そしてコウタに指を突きつけて言った。
「アラガミには脳がない。心臓も、脊髄すら有りはしない。私たち人間は頭や胸を吹き飛ばせば死んでしまうけど、アラガミはそんなことでは倒れない。アラガミは考え、捕食を行う1個の単細胞生物『オラクル細胞』の集まり…。」
「アイツら、単細胞だったのか⁉」
ハヤトが声を上げた。
「知らなかったの⁉」
そしてリューズがツッコミを入れた。
「いや、だってよ、アイツらあんなに色んな形してんのに単細胞だってか?信じらんねーよ。」
「集まりだって言ってるでしょ。別に細胞1個で全部賄ってる訳じゃないのよ。」
「な、なるほどな…。」
ハヤトの解釈にリューズがツッコミをいれてハヤトが納得したところで、榊博士が、再び話し出した。
「そう、アラガミは群体であってそれ自体が数万、数十万の生物の集まりなのさ。そして、その強固でしなやかな細胞結合は既存の通常兵器ではまったく破壊できないんだ。じゃあ、君達はアラガミをどうすれば倒せるんだろうね?コウタ君?」
サカキ博士からの突然コウタに訊ねた。
「えぇ~と、それは…神機でとにかく切ったり、撃ったり…。」
「そう、結論から言えば同じオラクル細胞が埋め込まれた生体武器『神機』を使って、アラガミのオラクル細胞結合を断ち切るしかない。だがそれによって霧散した細胞群もやがては再集合して新たな個体を形成するだろう。」
「それじゃあいたちごっこじゃない…。」
リューズが呟いた。
「彼らの行動を司る指令細胞群『コア』を摘出するのが最善だけどこれがなかなか困難な作業なんだよね。」
「そんな…。」
今度はアイリが呟いた。
「神機をもってしても我々には決定打がない。いつしか人々は、この絶対の存在をここ極東地域の八百万の神々にたとえて『アラガミ』と呼ぶようになったのさ。」
「八百万の神々か…。」
リューズが呟くと、周りもそれに伴って頷いた。
「さて、今日の講義はここまでだ。今日教えたことはノルンのデータベースに乗っているから、後で確認しておいてくれ。明日の放課後も講義をするから今日と同じ時間に集まるように。」
サカキ博士がそう言って講義を、締め括った。
そして
「ハジメ起きなさい。」
「…ん?終わったのか…?」
帰る前にリューズがハジメを起こして、皆で部屋を出た。
講義が終わった頃には夕御飯の時間になっており、全員で食堂に向かった。そして食堂で各々が夕御飯を盛ると1つのテーブルに集まり今日の講義について話を始めた。
「で、今日の講義は何の話をしたんだ?」
ハジメが周りに聞いた。
「…やっぱり聞いてなかったのね…。」
リューズがぼやいた。
「仕方ないじゃん。話難しくてすごい眠たかったし。」
「難しかったってそれほどでもないでしょ。」
「リューズは分かったのか?」
「大体はわかったわよ。ていうか、ハヤトも分かってなかったの⁉寝ないで聞いてたじゃない。」
「あんな話わかる方がスゲーよ。俺は、アラガミが、単細胞の集まりだってのしか分からなかった。」
「あんたの方がよっぽど単細胞ね…。」
「何だと…‼」
「落ち着けよ、ハヤト。ここで暴れたら追い出されるぞ。」
「ちっ…。」
コウタになだめられたハヤトが一応落ち着いた所でアイリが提案した。
「でしたら、今ここで今日の講義の復習をしましょうよ。そうすればちゃんと覚えられますよ。」
「いい提案ね、アイリちゃん。どうせコウタもろくに覚えてないだろうし、いっそ3人まとめて復習授業よ‼」
アイリからの提案にリューズが同調したところでコウタがツッコミをいれた。
「3人まとめてって俺もかよ‼」
「じゃあ、コウタは講義の内容どれだけ覚えているのよ。」
「…まあ、俺も、そんなには…覚えてないけどよ…。」
「やっぱりそうじゃない‼」
「やっぱり3人まとめてやるしかないですね。」
こうなってしまっては男子3人に勝ち目はない。しぶしぶといった様子で男子3人が受けるのかと思いきや、唐突にハヤトが立ち上がった。
「なっ⁉ハヤト、お前このタイミングで逃げるのか、ズルいぞ‼」
コウタが引き留めようとするとハヤトが呆れた調子で言った
「逃げねーよ。長引きそうだから前もっておかわりしに行くんだよ。」
「あれだけ食ってまだ食うのか⁉食い過ぎじゃねぇのか?」
「そうかぁ?むしろ普段より少ない方だぞ、今日は。」
「そんな話いいから、行くならさっさと行きなさい‼」
「ハイハイ…。」
リューズがハヤトを急かすとハヤトはブラブラと食堂の人混みに消えていった。
「まったく…、呑気過ぎるでしょ…。明日もきっとこんな感じなのかしら…。」
リューズがタメ息をついた。
(こんな男どもで大丈夫かしら。)
リューズの中に不安がよぎる。実際、いまいち頼れないコウタに、寝てばかりのハジメ、単細胞のハヤトとくれば、不安になるのも無理はない。そんなリューズの不安も知らずに、ハジメとコウタは呑気に話している。こんな調子ではおそらくだが、せっかくの復習授業もダメになるだろう。そんなことを考えつつハヤトが来るのを待った。それから少ししてハヤトが来たが、大盛りになったのトレーを見てリューズはもう一度大きなタメ息をつき半ばあきらめた感じで、男子3人に今日の講義の復習を始めるのだった…。
「君達はアーコロジーという言葉を知っているかい?」
翌日の放課後、再びソーマを除く第1部隊の1年生がペイラーの研究室に集まり、講義を行っていた。今回はソファーの前のモニターに映像が映っていた。
(((『ペイラー・サカキのなぜなに講座』って何なんだ?)))
モニターにはデフォルメされたオウガテイルと、サカキ博士が映っており、アニメでもやるのかと思ってしまう。眠そうなコウタ、すでに眠っているハジメ以外の3人は昨日とは違う講義の雰囲気に僅かだが戸惑っていた。そんな中でハヤトが
「あ、あーころじー?何なんすか、それ?」
と、周りの思いを代弁した。すると、画面が切り替わり、極東支部を映したであろう画像が出てきた。
「アーコロジーとは、『それ単体で生産、消費活動を行える自己完結した建物』を指す言葉でね。そう、実はアナグラを中心としたフェンリル支部は一種のアーコロジーだと言えるんだ。これって、極端な話、ある支部を除いた全てのフェンリル組織が滅んでも、残った支部は単独で生産、消費活動を行い、今まで通り生き残ることが可能ってことなんだよ。」
「なるほどね。」
リューズが頷いた。そして画面が切り替わり、別の画像が出てきた。
「アナグラは地下に向かって食料や神機、各種物資の生産を行うプラントがあり、外周部には、対アラガミ装甲壁や、キミたち優秀な神機使いをはじめとした、強固な防衛能力もある。それがフェンリル支部であり、人類を守るために最適化されたアーコロジーなんだよ。」
「そいつは、スゲーな。」
ハヤトが感心したように呟いた。
「ただそこにも問題はあって、それは収納可能な人口に限りがあることなんだ。君たちも知っているとおり、この極東支部の周囲には広大な外部居住区が形成されている。しかし彼らすべてを収容するだけの規模はまだこの支部にもない。外周部に対アラガミ装甲壁を巡らすことが今できる最大限の対処策なんだ。」
「…それだけで足りるのかな。現に装甲は頻繁に突破されているんじゃ…。」
コウタがポツリと呟いた。確かにニュース等を見ると装甲壁を突破されたという内容のニュースをよくみる。
「だからそのためにゴッドイーターの防衛班も配備されている…。いや、すまない。コウタ君のご家族は外部居住区にいるんだったね。軽装な物言いを許してくれ。」
「いえ、俺はただ…。」
「コウタさん…。」
コウタがまた呟いた。そんなコウタの様子を見たアイリが心配そうに呟いた。
「本当はアナグラを地下に向けて拡大して内部居住区を増やす計画もあったんだけどね…。」
「でも、その計画をより安全で完璧にしたのが『エイジス計画』なんだよね!」
「「「エイジス計画?」」」
突然コウタが食いついた。どうやら、彼はこの計画に何かしらの希望を見いだしているようだ。
「そうだね。現状、極東支部の地下プラントの多くの資源リソースはエイジス建設に割り当てられているんだ。…その話はまた今度にしようか。」
サカキ博士が何か話してくれるかと期待してみたがその話はまた今度になってしまった。
そして、今日の講義の復習授業ということで、全員で食堂に集まった。
「なるほど。つまり支部が1つでも残っていれば、どうにかなるってことなんだな。」
ハジメが納得したように頷きながら言った。彼は今日も熟睡しており講義はさっぱり聞いていない。
「極端に言ってしまえばそうなるわね。ていうかちゃんと起きてなさいよ。これは大事な講義なのよ。」
リューズが、ハジメに軽く説教をする。
「大丈夫でしょ、たぶんだけど。それよりも俺は『エイジス計画』ってのに興味あるな。」
ハジメがあっけらかんとした調子で言った。リューズはそんなハジメを見て色んな不安にかられた。
「俺も気になったな。エイジス計画ってのは一体何なんだ?コウタ?」
ハヤトもハジメに同調し、コウタに尋ねた。
「エイジス計画ってのはさ、旧日本海海溝近郊だったかに巨大なアーコロジーを造る計画なんだ。これの規模は全人類が収容出来るくらいの規模らしいんだよ。」
「全人類が収容できる規模⁉どんだけ巨大な建物なんだよ…。」
ハヤトが目を丸くして言った。確かにコウタの話が本当ならば凄いことだ。現在も人口は緩やかにだが減少傾向にある。それなのに支部の内部居住区どころか外部居住区にも住めない人たちは多い。だが、この計画が成功すれば、人類を当面の全滅の危機から救うことができる上、ゴッドイーターの仕事もエイジスの維持と周辺アラガミの駆除という任務になり、負担はだいぶ軽減される。
「もし、それが実現したらとても素晴らしい事ですね。」
「だろ‼アイリもそう思うよな。だからさ、俺はエイジス計画の成就のために頑張ろうと思うんだ。そうすれば母さんもノゾミも安心して暮らせるからな‼」
(なるほどね。コウタもやるじゃない。)
どうやら、コウタなりに色んなことを考えているらしい。リューズはコウタを内心で少しは見直した。
「それがエイジス計画か…。確かに凄いな。」
ハジメが感心したように言った。
「俺らもなんか協力ができればいいんだがな…。」
ハヤトも興味を持っているようだ。みんなどうやらエイジス計画に何かしらの希望を見出だしたようだ。
「じゃあ、もっと強くならないとね。そうすればきっとエイジス建設に関わる任務が回ってくるハズよね。」
「そうだな。よーし、これからの任務も頑張っていくぜ‼」
コウタが声を上げた。こういうときに彼の性格は頼もしい。
だが、この時はまだ分からなかった。この計画がある大きな計画の隠れ蓑であるということを、そして自分達がこの計画と真っ向から対立するということを、まだこの時は知らなかった。
「まあ、まずは今日の講義の復習授業ね。」
「勉強は大事ですからね。」
「「「ハイ…。」」」
そんなことは露知らず、リューズたちは今日も講義の復習に精を出すのだった…。
~次回予告~
hayato
「そういえばよ、この学校の物資はどっからきてんだ?」
RyoZU
「極東支部の資源リソースの一部が回されているはずよ。ていうか授業でやったハズよね?」
hayato
「忘れた」
kouta
「やったけか?」
hazime
「授業は大体寝ちゃうから、覚えてないな。」
air
「皆さん…。ちゃんと授業は受けましょうよ?そんな調子で大丈夫ですか?」
hayato・hazime・kouta
「「「大丈夫だ。問題ない。」」」
RyoZU
「そんなわけないでしょ‼」
hazime
「てなわけで、次回は『デート~怪しい関係~(仮)』こうご期待下さい。」
air
「今回は次回予告してないですよね…?」
RyoZU
「なんか解説的なことが多い気がするわね…。」
ペイラーの講義ってためになりますよね