実況パワフルプロ野球〜聖秀高校の挑戦〜 作:名無しの左腕
左の猪狩、右の眉村
中学野球史上例を見ない大豊作と言われたこの年。だがそんな世代においても象徴となるエースと呼ばれる存在だけは誰もが口を揃えていた。
お互いに中学生ながら140kmを優に超えるストレートを正確無比なコントロールでコースに投げ込み、キレのある変化球で三振の山を築く。その姿はまさに圧巻の一言。
そんな超本格派は当たり前のように何度も頂点を争い、そして迎えた中学最後の夏も──
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「友沢、お前本当に良いのか?」
「何がだ、パワプロ?」
「いや、何がじゃねえよ。聖秀なんて野球部の無い学校に行くのは俺の都合だぜ? ぶっちゃけプロってこと考えたらあかつき、海堂、帝王、西強に栄光。ここらへんの名門チームのがよっぽど近い……そんなもんお前の方がよっぽどよく分かってるだろ?」
夕暮れの河川敷。沈む夕陽を見つめながら、ユニフォーム姿の大柄な少年は、パワプロという世にも珍しいあだ名にも文句一つ零すことなく複雑そうに呟いた。
「ふっ……そんなことは百も承知だ。俺の目標は」
「3年後にドラフト1位でプロに入団、契約金1億を満額ゲットして家族に楽させてやる、だろ」
「分かってるじゃないか」
端かられば現実味のないまるで子供のような夢。しかし彼を知るものからすればその言葉はなんの誇張もない目標である。
中学生にしては珍しい金髪に端正な顔立ち、猪狩・眉村世代を代表する選手の一人でもある友沢亮は不敵に笑みをこぼす。
「なら」
「だからこそだ、パワプロ。このままでは俺はドラフト1位になることは出来ない」
「……まあな。今のプロ野球は6球団しかない。大昔見たく12球団とか、メジャーみたいに30以上あるなら分かんねえけど……まあ間違いなく猪狩と眉村で埋まるだろうな。けどそれでもハズレ一位とかもあるじゃないか。お前は納得しないかもしれねえけど一位は一位」
「違う。全く持って違う。お前は分かっていないな、パワプロ」
友沢は大げさにため息をつく。そのあまりのオーバーさにパワプロがカチンと来たのは言うまでもない。
「ほーう……何が分かってないっていうんだ? 友沢」
「全部だ。良いか? 1発目で指名される1位とハズレ1位じゃ扱いが全然違うんだ。まあ例外もあるが……そうだな。高校生なら契約金に2000万の差が出ることも少なくない」
「2000万!?」
「ああ、実質的にはドラ2みたいなもんだからな。確かに入団後の扱い後はドラ1だろうが、スタートの時点でその差をつけられることは別に珍しくもなんともない」
「はぁ……」
指折り数える友沢。そんな風に目をギラつかせる友沢見てパワプロは感心し……半分ひいていた。
こいつ、本当に同じ中学生か?と
「……で、それがなんで俺と同じ野球部すらない学校に行こうって結論になるんだよ」
「仮に名門に行ってあいつらを倒したところで、世間の評価はやつらに向くことに変わりはない。あいつらとの評価を引っくり返すにはただ勝つだけじゃない付加価値が必要なんだ」
「……」
話の行く末が見えてきてパワプロは閉口した。
なるほど、こいつのやりたいことは大方分かった。それに反対する気など別段ありはしないし、理由もない。ただ……これから自分達のエースとなる左腕とは致命的に合わないんじゃないか?
そんな漠然とした不安が過ぎった。
「なるほど、明らかにチーム力の劣る無名校で名門をぶっ倒せば話は別ってことね。マスコミも食いつくだろうし」
「そういうことだ」
パワプロは何とも言えない感情になる。
こんな打算的な野球は本来彼の嫌いなものだ。しかし友沢に関しては別である。彼の抱える事情を良く知っている以上、その気持ちも痛いほど良くわかるから。
帝王リトル、シニアで幼い頃から中学までバッテリーを組んできたパワプロにしかわからない感情。
「野球の花形は投手だしな。もう投げられない俺はその時点で引けをとっていると言っても良い」
「分かった……もう俺は何も言わねえよ」
恐らく無意識になのだろう。右肘に手をやった友沢を見てパワプロはこの話題を打ち切ることにした。友沢が肘に手を伸ばすのはある意味彼が真剣であり、悪く言えば追い詰められている時の兆候なのだ。
「そうしてくれると助かる。だがパワプロ、お前こそ良いのか?」
「何が?」
「猪狩の事だ。随分とお前に執着していたようだが……それ抜きでもあかつきから推薦きていたんだろう?」
「ああ……大エース様、な。あいつ2年の秋のサヨナラ本塁打まだ根に持ってやがんだ。参るぜ全く。あいつと俺は通算すりゃ打率なんて身長少し超えるか超えないかくらいだし、俺達があいつに勝ったのもあの一度きりだってのに」
友沢の口から出た猪狩というワードにパワプロは顔を顰め、携帯をチラッと見た。幸いにも今日は世代最強左腕と名高い投手からの着信は無いようである。
帝王シニアとあかつきシニア、どちらも言わずとしれた名門チームである。同地区で何度も決勝で顔を突き合わせた両チームの戦いは熾烈を極め、その試合は地元ではちょっとした名物と言われた程である。
特にこの2年は互いに猪狩兄弟、友沢パワプロと言う超中学級のバッテリーを擁し、そのレベルの高さは2チームの争いの中でもハイレベルなものであった。
しかし、五分だった天秤はあかつきに傾く。それは天才の中でもずば抜けた天才、猪狩守の存在ゆえである。
1勝10敗。練習試合を含めればもう少しマシなものになるのだろうが、所謂公式戦における彼等の対戦成績は明らかに優劣のついたものである。
唯一の勝利は今から1年半前の秋季大会、友沢とパワプロが一度だけ全国の舞台を踏んだ時である──その時の結末が今でもパワプロを悩ます猪狩の半ストーカー気味な勧誘に繋がっているのはなんと根が深い話か。
「行く気はねえよ。あいつが味方じゃ面白くもなんともない。毎年毎年敵が眉村と友沢くらいで後は3年間楽勝なんて何が楽しいんだか──俺はあいつを真正面からぶっ倒したいんだよ。今までの借り全部利子つけて返すくらいに……っな!!」
「愚問だったか。くっ、それでこそパワプロだ」
手頃な石を掴むとパワプロは遥か対岸へ向けてコンパクトなフォームで放り投げる。水面と平行に、まるで弾丸と見間違うような勢いで空気を切り裂く石の行く末を眺めながら友沢は挑戦的な笑みをこぼした。
「話はこれで良いだろう? 俺もお前と同じ聖秀高校へ行く。文句はないな?」
「あいよ……また3年間頼むぜ、相棒」
互いにコツンと拳を突き合わせると背を向ける。
「ああ、そうだ」
「どした?」
「春から俺達のエースになる男……お前が上を目指せると踏んだ人物。名前は何と言っていたかな?」
「ん、ああ、そうだった。名前までは言ってなかったっけ」
夢みがちな挑戦。以下に自分という捕手がいてもエース不在では出来るわけのない目標。現実的な進路を選ぶべきかと悩んでいた際に目の前に現れた一筋の光。
トレーニング中に偶然出会い……そして何年かぶりに投手の投げる球を捕球出来ない悔しさを思い出させてくれたあの日のことは一生忘れないだろう。
パワプロは一瞬目を閉じ、堂々と宣言する。
「茂野吾郎。あいつと、そしてお前となら、無謀な夢も現実に変えられる」
どうもこんにちは。
アプリで公式クロスあるしこういうのもありじゃないかと。感想などよろしくお願い致します。