「……ここはどこだろう」
見渡すかぎりの曇り一つない晴天、そして自分が座っている所は花が咲き乱れている。
いま自分がいる所はまるで楽園だ。
そして1つの疑問が浮かんでくる。
ーーなぜ、自分が此処にいるか、だ。
ここに至る記憶も、なぜ自分がここにいるのかも。
そして“自分が何者なのかも“分からない。
そんな状況だと言うのに、不思議と自分は落ち着いていた。
それはこの楽園のような場所の雰囲気に当てられたからなのか、それとも自分がおかしいのか。
この際どちらでもいい、兎に角ここはどこなのか確認しなくては。
そう思い立ち上がろうとした瞬間、いつの間にか後ろにいた人に肩を抑えられ、また地面に座り込まされてしまった。
そして、自分に問いかけてきた。
「ーーねえ、貴方は誰?」
「……それは俺にも分からない」
「あら、人間はいつから自分の事も忘れるようになったのかしら」
「そうじゃない、俺は自分自身の事に関しての記憶が一切無いんだ」
「まるで記憶喪失ね、それじゃあ貴方はなぜ今ココにいるのかも分かってないのね?」
「分からない、なぜココにいるのか全く分からない」
「貴方はココがどんな場所か分かっている?」
「分かる訳がない、そもそも記憶が無いって言ったじゃないか」
「知ってるわ」
「……………」
この後ろから聞こえる少女らしき声、かなり性格が悪い。
そして、かなり力が強い。
さっきから立ち上がろうとしているのにビクともしない、なんて馬鹿力だ。
本当に少女なのか疑ってしまう、実は少女の声をしたムキムキなオジサンなんじゃないかとアホな事を考えてしまう程には力が強かった。
「……貴方、失礼な事を考えたわね?」
「考えてないです、それよりココはどこですか?」
「…………」
無言の重圧、絶対にバレている。
なぜバレた?顔すら向けていないのに、というかこれまでまだお互いに顔を見てないのか。
お互いに少しの間無言の状態になっていたが、少女の方が呆れた感じにため息をついた。
「……ここは天界、地上を捨てた天人の住まう場所よ」
「天界」
「そう天界よ、そして私はこの土地の領主の娘、比那名居天子よ!」
ババーン!と背後から文字が出そうな程に誇らしげに語る少女。
それと肩から手が離れたので少女から即座に離れ、立ちが上がる。
そしてようやく少女の姿を目にした。
青い髪色、帽子は小さな桃が1つあり、それは美味しそうな雰囲気がある、食べられるのかあれ。
ふわりとしたロングスカートの服、スカートの部分には虹色の模様があり、しかしそれは少女にとても似合っている。
とても可憐な少女だ、だからこそ疑問が深まる。
どうやって、あの少女の細腕であれだけの力を出していたのか。
そして、天界や天人とはなんだろうか、自分は天国にでも来てしまったのだろうか。
そう考え、自分の頬をつねる。
「っっっ!!!」
思いっきりつねったせいでとても痛かった、自業自得である。
「あら、貴方は自分は自傷癖でもあるのかしら、まるで少女ね」
「俺は自傷癖なんてないし少女でもない、ただ僕は生きているのか確かめたかっただけだ」
「痛みで生きているかを知るのね、まるで幻想郷にいる不死者みたいな確かめ方ね」
幻想郷?不死者?なんだそれは。
この少女は自分に新しい事をポンポンと放り投げてくる。
謎は深まるばかりだ。
「…その幻想郷とか不死者とか気になることばっかりだけど、その前に君に聞きたいことがある」
「あら、私の事ならもう話したじゃない、私はこの土地の領主の娘、比那名居天子だと」
「そうじゃない、俺が知りたいのは君の名前じゃない、天界や天人の事だ」
そう言った瞬間、心底ビックリしたような顔をする少女。
「……私は地上から天界まで登ってきた能力者だと思ったのだけれど、貴方本当に記憶喪失なの?」
「本当だよ、ついでに言っておくと幻想郷って言うのも分からない」
「………そう、それじゃあこの天子様が直々に教えてあげるわ!」
〜〜〜〜少女説明中〜〜〜〜
「ふむふむ、つまりこの天界は人間達が住んでいる地上とは隔絶された所なんだね」
「そうよ!そして私達天人は地上の妖怪なんて目じゃない程強いわよ!……まあ例外はいるのだけど」
だったらさっきの力の強さも分かる。
しかし……
「桃を食べてるだけで強くなるって……」
「何よ、疑うの?」
「いや、まあ疑う訳じゃないけど…」
「………じゃあ証拠を見せてあげましょう」
そう言うと少女は俺の手を握った。
そうして一回転をしてーーーー
「え、ちょ、ま」
「とりゃぁぁあぁぁぁぁ!!!」
ーーーーー俺を空高く放り投げた
「!?!?!?!?」
目を白黒させる、未だに投げ飛ばされた現実を把握出来ないでいる。
当たり前だ、どこに男を空高く投げ飛ばせる身長150cm位の少女がいるというのか。
…まあ、自分は"ワード"は分かっても"記憶"がないので分かる筈が無い、もしかしたらいるのかも知れない。
などと逃避していたら、またもやビックリ仰天な出来事が起きていた。
ーーー少女が空を飛んでいる、しかもドヤ顔しながら
こうして様々な事が起こり、俺の頭は現状に耐えきれずにパンクした。
こうして俺は、この天界とやらに来てから2度目の深い眠りを味わう事になる。
「あ!ちょっと今ここで気絶したら危なーーー」
ここで、俺の意識は途絶えた。
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夢をみた
しかしその夢はノイズだらけでなにも見えない
なにも、見えない
なにも、思い出せない
記憶喪失になるとこんなノイズだらけの夢を延々と見させられてしまうのだろうか。
人々が微睡み、そして一時の幸せを手に出来る夢幻の世界
人々が微睡み、そして恐怖する夢幻の世界
そんな、不安定な世界でさえ俺はなにも見えないのか。
こんなノイズだらけの夢を見ていてもつまらない。
そう不満を漏らしていると、ふと1つの影が見えた。
その影もノイズがかかっており、少年なのか少女なのか、それとも大人なのか老人なのか、判別がつかない。
ただポツン、とそこに立っているだけ
動きもしない
そもそも動いているのかも分からない
謎の影と、俺はただポツンと立っているだけ
ノイズは解けない
鮮明な夢は訪れず
ただただ、あるのは俺と謎の影とうるさいノイズの音
しかし、そんな世界にも終わりが見えた。
どうやら、俺はようやくこの変な夢から醒めるようだ。
安堵し、そしてなぜか少し悲しくなった。
なぜだろうか、よく分からない。
こんなノイズだらけの世界に、なにを悲しむ要素があったのか。
考えるが、分からない。
そして考えれば考えるほど、分からない
その繰り返し、幾ら考えても答えは見つからない。
そうして俺は、思考を放棄した。
そして、夢から醒める
謎の影は、動かない
ノイズは解けない
鮮明な夢は訪れず
目が、醒めた