ガンダムビルドファイターズ 取り残された戦士 作:ベムベム
―――――自分には前世の記憶がある。
自分はそんなわけがないと思っていた。
けれども、そんなバカバカしい妄想を否定することは出来なかった。
それは何故か? それはそもそもそんな思考を行う事が出来るのが可笑しいからだ。
それを裏付ける証拠も悲しいことに存在した。
左を見たならば泥まみれになっている同年代の人がいた、何となく右を見たならば人形片手に笑いあう人がいた。
前を見たならば泣き喚く人が居て、後ろを振り返れば走り回る人が居る。そしてここにいる人達の九割以上に共通しているのは未だ二桁は勿論一桁の半分ぐらいしか生きていないと言うことだ。
……つまり自分は少年ですらなく幼稚園児だった。
それなのにただ一人だけ笑いもせず、泣くこともせず、ただ呆けてながら自分が何なのかを考えているのだ。これが前世の記憶があるせいでなかったら余程の天才児か別方面に頭が飛んでる人としか言いようがない。
もちろんそれだけではない、他の五歳児は日本語は出来て英語は出来ないが、自分は最近まで英語は出来て日本語は出来なかったのだ。
会話すら怪しく、いつも自分は片言だった。一方で外国人とは会話が出来る。
それを見た自分の親は首を傾げて自分よりも三歳も上の兄さんは馬鹿にしていた。
けれどもその時の自分の頭の中にはそんなものを気にする余裕はなく、何時も訳の分からないモノしかなかった。
ナニカの設計図だったり、黒い空だったり、巨大な何かだったり。
何かが身振り手振りで演説をしている記憶だったり。
何が何だかわからずただ呆けているだけであった。
最初はまあ、少し変なのかなと首を傾げるだけであったが今思えば変だ。
確かにそこに居るのにそこに居ないかのような、何かが欠けているのか、それともずれてしまっているのか。そんな不思議な感覚を感じていたのだ。
今思えば確かに大切なものが欠けていたのだ、何故思い出すことが出来なかったのか不思議に思うほど大きな物が欠けていたのだ。
そんな時だった、ソレに出会ってしまったのは。
切っ掛けは兄さんが何かをリュックに無造作に入れ、寝起きの自分の右手を掴んで引っ張り何処かへ連れて行こうとしたことだった。
それに自分は「ナニスルノ?」と片言で兄に質問を投げかけた記憶がある。
それに対して兄は自分を少し馬鹿にしたような態度でこういったはずだ。
「お前に良いモノ見せてやるよ」
そういって兄さんは自分の右手を更に強く引っ張った。
その時自分はきっと無意識で痛いとは言ったとは思う、ただ寝起きであまり覚えていない。
そうして引っ張られて何時も訪れている近所の玩具屋に行った。
いつもならば、自分は親に手を引かれてとあるコーナーに行かされるが、それにまったく興味が湧かなかった。
けれどもその時は違った。何時もならば右に曲がりそのとあるコーナーに連れて行かされるが今回は左に曲がろうとした。
自分は兄さんに対して「チガウ」と声を出して抗議した。
それに対して兄さんは笑いながらこういった。
「言っただろ? お前に良いモノ見せてやるって、それはこっちにあるんだぜ?」
そう言い自分を導くかのように前を歩く、自分はそれに渋々従い付いて行った。
今思えばその時駄々を捏ねて行かなければよかったのだ、そうすれば少しズレたまま平和に過ごせたのだろうか? ……いや無理なのかもしれないが、ただ今思いついても遅い。
そうして歩いて少し経った頃何かの音が聞こえた。
それは何処かで聞いたかのような音だった、ナニカとナニカがぶつかりあう音、ナニカを撃つ音、ナニカを吹かす音……。
それに対し自分は恐怖した、聞いたことがあるわけがない、いやあってはならないという考えが頭の中でグルグルと回った。
そして自分はイヤ、イヤと首を振った。しかし兄さんはこっちを見ていなかった。何故なら兄さんはリュックを漁っていたからだ。
「お前どっちが好き?」
そう言いながら兄さんは両手にそれぞれ違うソレを持ち自分に問う。
その時自分は何をしていたのだろうか?そんなことは覚えて居なかった。
ただ、無意識に左を選んだ。それに対して兄は意外そうな顔をしていたのが記憶に残っている。
「お前結構渋い趣味してるのな、この―――を選ぶなんてさー」
そういって自分の手にソレを手渡した、自分はそれを受け取った。
材質はプラスチックだろうか?
「じゃあやってみるか!」
そう言い兄さんは先に駆け出す、自分はそれに歩いてついていくことしか出来ない。
なぜならば手に持っていたソレに対して違和感を感じていてそれどころではない、
ドウシテコイツガイル?
気が付けば何かの台の前にいる。
――Please set your GPbase
そう台から発せられると兄さんは何かを台に差し込んだ。
その何かには自分の名前が入力されていて、
そして0戦0勝0敗とも書かれていた、何かのバトルなのか、それとも。
――beginning Plavsky Particle dispersal
聞いたことのない単語が聞こえる、プラフスキーとは一体何なのだろう、―――スキーではない?
――field1 space
そう言うと目の前の台から何かの粒子が湧きだし、何かを映し出す。
それは死ぬ直前まで見ていた懐かしい風景でもあった。
コレハナニ?
――Please set your GUNPLA
コレハナンダ?
「どうした? そのプラモデルの―――を台に置けばいい」
「やっぱりお前の―にはこれは早かったんじゃねーの?」
台の反対側には兄の友達だろうか? 誰かいる。
それを気にしながら俺はただ言われた通りにそれを台に置く。
―――battle start!
その時だった。
俺が置いたソレは動き出したのだ。
本来ならば俺よりも十倍大きくて、緑色で何処か武骨な一つ目の巨人。
何度も見たことがある巨人は確かに俺の目の前で歩き、カタパルトデッキに足を乗せた。
そして俺を閉じ込めるかのようにモニターと丸い球が二つ浮かんでいる
「え?」
「ほら、こいつの機体名を言って出撃しますって言えばいい!お前の目の前にあるのはコックピットだ! その球は操縦桿!」
「先に失礼!――出るぜ!」
チガウソレハコイツノジャアナイ、そう思いながら球に手を乗せ、握る。
何故か手に馴染む、座ることは出来ないが問題ない。
そうして何年ぶりかの懐かしい言葉を出す。
「……ザク出撃スル」
そういうと俺の相棒だったザクは一つ目を光らせる。
そうしてカタパルトは動き出す。
「おいおい、そいつはザクⅡだろ! って聞いてないなこいつ……」
そうしてザクは射出された。
何時もなら衝撃を感じるがまったく感じることが出来ない。
それを凄いとも思うし同時に寂しいとも感じた。
そして自分の機体情報を確認する。
『装備はマシンガンか』
久しぶりのジオン訛りだ。懐かしい。
「オイ、―――!」
兄の言葉が聞こえづらい、気にすることではなかった。
『型は06……F型か』
機体の右腕には骨董品レベルの120mmザクマシンガンだ。
06F型ですら今時珍しいのに120mmなんて更に珍しい。居たとしても大体作業用かせめてMMP‐80持ち位だろうか?
とりあえずそんなどうでもいいことは頭の片隅に投げ出し、コンソールのような球を弄りマシンガンを左に持ち替える。
『レーダーに反応、映像……これはジムタイプか?』
映像に移ったジムは見たことがないタイプだった。
見た目的には恐らくRGM‐79N、カスタムタイプなのだろうが、両肩にはキャノン砲が付いている。
『ハハッ、何じゃそら』
これではカスタムタイプの長所が台無しではないか、カスタムタイプは近距離と中距離、どちらもこなせるから優秀なのだ、それを殺されていればただのザコだ。
「―――――!」
相手の何か怒りの抗議とともに映像に移るジムは肩のキャノンを構えて撃つ、だがそれは悪手だ。
キャノンを撃つぐらいならその手にあるマシンガン……いやビームライフルだわこれ。
とりあえずアラートがなったのでスラスターを吹かずに手足を動かす……所謂AMBACで回避行動を執る、これがビームキャノンだったら脅威だったがまさかの通常弾である。
ザクですら弾道を捉えることが出来るので掠ることもなく弾は外れた。
しかし滑稽だ。
目の前のジムカスタムタイプは見た目はカスタム、両肩には旧式キャノン砲、手には何かのビームライフル、よく見ればシールドはRGM-89J(ジェガン)の物だ。
お前は残党軍か何かなのかと言いたくなるようなちぐはぐな装備だ。
とりあえずジムジェガンキャノンカスタム略してGJCCという愛称を付けてやる。
そして俺は左手に持ったマシンガンを構え距離を詰めるためスラスターを吹かそうと足のペダルを……
『あ、これザクじゃなかったわ』
そのため、前に進むことなく手元のマシンガンは弾を吐き出す。
そんな中途半端な距離から弾が当たるわけが、
「――――――!」
『あ?』
まさかのミラクルヒットである、ジムジェガンキャノンカスタムのライフルは火を吹いて破裂する。
どうやら重装備にしたせいか、うまく回避することが出来ずライフルに被弾したようだ。
……良く見ればなんかスラスターの配置がバラバラだ、これ全部吹かすとクルクル回転するだろうな、いや、する。
それとザクマシンガンは速度こそ低いし、一定以上の装甲には通じないが通じればマシンガンとしては破格の威力を誇る。何せ120mm、ジムタイプなら直撃すれば数発で弾け飛ぶ。
だからこそガンダムタイプには通用しなかったがジムや軍艦には太刀打ちできたのである。
手持ちの武器を失い、慌てたのかジム以下略はシールドからミサイルを撃ちだす。
『甘い』
アラート音が鳴るが当たるわけがない、今度こそスラスターを吹かしミサイルを回避する。ミサイルは後ろに有ったデブリに当たりデブリを道連れにしながら派手に爆発する。
そのまま距離を詰め左肩を構えタックルの体制にはいる。
だが、流石にジムも分かっているのかバーニアを吹かし避ける。
「―――――!」
『だが、甘い』
確かに『最初』のタックルは外した、しかしそんなことは予測済みだ。
そのまま俺はジムの後ろに有ったデブリをザクの足で蹴る。
かつてエースパイロットがMSを有効に使うために使ったテクニックの一つである。まあベテランなら使える技術でもあるが。
そのまま足のスラスターを吹かしジムの後ろをタックルしようとする。
が、相手は上手く反応しシールドを構える。
「ぐうぅ!?」
しかし、それは命取りとなる。
そのまま腰から右腕でヒートホークを抜く。
相手は振り向いてシールドで受けたためまともに動けていない。
「uwaaa!?」
相手は慌てて頭部バルカンをばら撒くが残念なことに照準が合っていないらしく、アラートすら鳴らず明後日の方向へばら撒かれる。
そのまま俺はヒートホークを振り下ろす。
振り下ろされたヒートホークはコックピットに当たらず左の肩に当たり、そのまま熱で装甲を切り裂き、腕を切り落とした。
本来ならば直撃コースなのだが、どうやら機体の調整が甘いようだった。
『合ってないな』
機体に文句を言っても仕方がないのでそのまま切り返すように手首を返し、ヒートホークを斜めに振り上げる。
しかし、流石に相手のジムガンキャノンカスタムは待ってくれず全力でバーニアを吹かす。
そのまま相手は上昇する。
「beam saber!」
相手のジムはそのまま背中のランドセルからビームサーベルを抜く……いや、出来ない。
俺が見た光景は余りにも滑稽だった。
何故ならジムが右手を掲げて肘を曲げてはいるものの、サーベルまで届いていない。
まるで背中がかゆいのに届かないおっさんのようだ。
キャノン砲に邪魔されていて届いていないようだった。
そんな隙を俺は見逃すはずがない、再びマシンガンを使いながらバーニアを吹かし距離を詰める。
「gaaaaa!」
マシンガンから放たれた弾は相手の機体に穴を開けて行く。最初に右足に当たり少しずつ、少しずつ上にずれていく。
そして頭に当たった弾はメインカメラを守るガラスを割り……いやこれプラスチックだったなそういえば。
プラスチックを割りメインカメラを粉々にする。
……ジムならこれで終わる筈だが一向に終わらない、仕方がない。
そのまま決着を付けようとヒートホークを再び振り上げる……
だが、事件が起きた。
『スポッ』、そう表すしかない音がすると振り上げたヒートホークがどこかに飛んで行ったのだ、しかも肘ごと。
「ええっ!?」
飛んだ肘付きのヒートホークはそのまま宇宙の外へ放り出され、地面に落ちてカン、カンと安っぽい音を出した。
呆然とした俺を相手は待ってくれなかった。
「勝ったぞぉ!」
そのまま相手はビームサーベルを……だから抜けないからそれ!
ここまで来るとただの間抜けである。
俺は気を取り直してマシンガンを撃とうとするもその時起きた珍現象で再び呆然とする。
「サーベル! ……いやぁったああああ!」
なんと敵はビームサーベルではなくキャノン砲をすっぽ抜いたのだ。
「モビルポッドじゃないだろう!?」
そのままジムは頭部バルカン砲を撃ちながらキャノン砲を振り上げる。
だが有難いことに弾はザクの遥か上を目掛けて飛んでいく、先ほどのマシンガンの直撃で首が上に上がったまま壊れてしまって居たのだろうか、真相は相手しかわからない。
そんな状態でキャノン砲を振り上げてもただの間抜けである。
俺は落ち着いてマシンガンで砲塔を撃ち抜く。
砲塔はマシンガンの弾で誘爆しそのまま敵の右腕を持って行く。
両腕を失いバルカンも上を向いたまま直らないジムに価値はない。
そのまま俺はマシンガンで丁寧にジムのコックピットを撃ち抜いた。
「ぬわああああ!」
そんな間抜けな断末魔を上げながら相手は粉々になっていく、そのうちエネルギーパックに誘爆したのかなんなのかはわからないが大爆発を起こした。
――battle ended!
機械のシステムの声が戦いの終焉を告げた。
目の前に広がる空間はいつもの玩具屋に戻り、前には呆気にとられた少年と『――プラセール』と書かれた紙と棚がある。
振り返れば同じく呆気にとられた自分の兄が居た。
「どうしたの? 兄さん? ……?」
自分の口から自分でも驚くような流暢な日本語が吐き出される。
それと何故かはわからないが何かが噛み合った感覚もする。
理由はわからない、全てなんとなくとしか言えない。
「お前凄いな……あいつはこの店の少年四天王だぞ、最弱だけど」
「何そのかませ犬感」
「噛ませいうなぁ!」
機械の向こう側に居る四天王最弱が噛みついてくる、もちろん無視。
それよりも気になることがある。
「兄さん、聞きたいことが」
「ん? ……なんだ?」
聞きたいことは一つだけ。
「これって何?」
「良く聞いてくれたな! 戦った後に聞くとは流石俺の」
「これって何?」
「最後まで言わせてくれよな……まあいいかよく聞け!」
戦う前なら聞きたくないと拒絶していたと思う、でも今は違う。
むしろ早く聞きたいとワクワクしてしまって居る。
最初の壁を超えるというのはどんなことでも躊躇ってしまう、
しかしそれを一度超えれば後は楽なのだ。
かつて俺が初めてMSに乗った時もそうだった。
最初は怖い怖いと怖気づいていたが乗った後は乗りたい乗りたいと興奮した物だ。
……だからと言ってその後数十年単位でMSに乗り、そのままMSの中で朽ち果てるとは思わなかったけれども。
その時兄さんはこう叫んだ。
「これはな! ガンプラバトルと言うんだぜ!」
「ガンプラ……バトル?」
「そうだ、ガンダムのプラモデルでバトルするからガンプラバトルなのさ!」
「ガン……ダム?」
ガンダムと言えばあの『白い悪魔』の事だろうか?
ただ、どのガンダムの事だがわからない。
ガンダムと言っても量産された物もあれば、お前はガンダムなのかと言えるほど変なガンダムも存在するのだ。
「そう、ガンダムという『アニメ』で出てきたMSを使って戦うのさ!」
「!?」
ア……ニメ? 兄さんが何を言っているのかが一瞬理解できなかった。
どういう事なのだろうか? 私はアニメではないはずだ、いやアニメのキャラではない。
確かに私には記憶がある、コロニーを駆け回ったこと、クソ不味い昼飯を毎日食べていたこと、テロで皆が死んだこと、
軍に入って教官に弄られたこと、初めてザクに乗ったこと……
初めて出撃してパトロール艦を撃破したこと、軍艦を落としたこと、戦闘機を落としたこと、目の前でコロニーが落ちて行った事。
初めてMS相手に戦った事、何倍もの敵に立ち向かった事、敗戦の知らせを聞いて泣いたこと、そのまま帰れず同志と引き籠ったこと。
その後自分たちの意志でコロニーを落としたこと、また負けて逃げたこと、そしてまた戦争をして、負けて、逃げて、戦争をして、負けて、
そしてまた負けて。
最期もしっかり覚えている、最初は何十人も居た同僚は気が付けば片手で数えられるようになって、最新型だった愛機は古びて。
余りに暴れすぎた私達は討伐隊が組まれて、必死の抵抗をした。何機も落として、何隻も落として……。
それらが全てアニメ?空想? そんなわけがない、私達、俺達は生きていたはずだ、自分達で選択をして、最期まで生きていたはずだ。
……それが誰かに決められたことだった、外の監督がここを、こうする、脚本家が俺達の人生を決めた?
そんなわけがない、フザケルナフザケルナふざけるな!
「うぐっ……」
よろめく、今の身体では支える事なんて出来なかった。
地面が近づいてく、……眠くなってきた。
そういえば私は今体調が悪くて昼寝をしていたんだった。そう思ったときには体は動かず、地面に横たえ、意識は遠のいて行った。