モモンガさま漫遊記   作:ryu-

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個人面接の続き? ねえよそんなもん!
いやなんか全然筆が進まないからもういっそ別の話書いちゃおうかなーって! >ζ*'ヮ')ζ

今回は今までのお話に出てきた人間どもの短い命をどうやって無為にすごしているのか、そんな残虐で残酷さに溢れた心温まるエピソード1となります。

時間軸? たぶん前回の個人面談終了後だよ!



アフター2:復活

「良くできているな」

「お褒めに預かり恐縮でございます、モモンガ様」

 

 ナザリックの地下深く、モモンガは執務室にてアルベドから提出された書類を確認していた。

 

「この前のワーカーで得た経験がしっかりと生かされているな。過不足ない構成になっている。

 コスト管理も最適だ。既存の罠を自動ポップモンスターで代用しているのはいい着眼点だ」

「モモンガ様からご提供頂きました現地人のレベル、武具、武技等もとても貴重な情報でございました。ワーカーの件は少々やりすぎてしまい、余り正確な情報を得られなかったので」

「それはよかった」

 

 モモンガはアルベドの笑顔を横目でみつつ、書類を再度流し見る。そしてふと頬笑みの息を吐くと、アルベドは何かミスをしたのかと焦りを浮かべた。

 

「あの、何か不手際がありましたでしょうか……」

「ん? ああ、いや。そうではない。すまない、不安にさせたな」

「い、いえ! モモンガ様が謝られるような事は!」

「まあ、そう大げさにするな。

 このナザリック防衛システムの再構成案だが、1~4階層はアルベド、5~7階層はデミウルゴスが主体で考えたのではないか?」

 

 息を呑む音が響く。もちろん、アルベドの喉からだ。

 

「流石ですわ、全てお見通しなのですね」

「よせ、前からこういう取りまとめは私の仕事だっただけだ。

 先程笑ったのはこの防衛案にお前達の性格が出ていて微笑ましく思えてな」

 

 モモンガはギルドメンバーがいた頃にもこういった防衛システムの取りまとめを行っていた。なにしろアクの強い連中ばかりだ、採算を度外視した強力すぎる罠、採算を度外視してネタに走った罠、採算を気にし過ぎて意味が無くなっている罠など、モモンガは多種多様すぎる案を取りまとめてきたのだ。

 その点、アルベドとデミウルゴスの防衛案は文句のつけようがない。適正な罠に抑えられたコスト、素直に褒め称えられる出来だ。

 

(同じように効率的に見えて、二人の性格が色濃く出ている。

 アルベドは引っかかる確率が高い罠を多用し、逃げられても構わないが確実に奥へと進ませない構成。

 デミウルゴスは幾つかの罠を捨石としつつも、追い詰めて確実に致死性が高い罠へ追い込む構成)

 

 デミウルゴスの構成はまさしく創造主ウルベルトの趣味が色濃い。

 タブラ・スマラグディナはあまり実用性のある罠等に興味はなかったが、アルベドのそれは侵入者への拒絶感情が強く出ていた。

 

「懐かしいな、我々が罠構成を考えていた時にはわざと隙を用意し、ある程度の侵入を許していたものだよ」

「わ、わざとですか? 一体何故でしょうか」

「コスト削減の意味もあるが……鉄壁過ぎて誰も侵入しないダンジョンなどつまらんだろう? 遊び心というやつだよ」

「遊び心、でございますか……」

「まあ今の我々には必要の無いものだ、余裕が出てきたらいずれお前達も覚えればよい」

 

 反応の悪いアルベドを、何処か微笑ましく見ているモモンガの機嫌は悪くない。だが、その視線を別の書類へと変えると、上がっていた気分も下がり始める。

 

「そう、余裕だ。我々には余裕がない」

 

 それはナザリックの資金の流れをまとめた記録、つまり収支管理表といえるものだが、その内容には偏りがある。

 

「今の我々には収入がない!」

 

 モモンガがこの地へ戻ってからまだ一月も経っていないが、収入なしの状況は常に危機感という形で精神を蝕み続けていた。

 ナザリックの維持費は消して安くない。金のかかる罠を削減して消費を最低限まで落とし込んだものの、そもそもギルドとして保持するだけでナザリックの資金は減り続けている。ユグドラシルというゲームがサービス終了するまでにモモンガが稼いできた資金はまだまだあるために焦る程ではないが、この収入0の状況は貧乏性のモモンガに耐えられない苦痛を与えている。

 そもそもなんか働いていないことに焦燥感がある。モモンガはこの地の大黒柱として、職業ニートであることをなんとなく許せなかった。

 

「やはり出稼ぎに行くべきだな」

「お待ち下さいモモンガ様! 御身自ら労働など、あってはならないことです! 是非我々にご命じください!」

 

 しかしこれである。彼等シモベ達はモモンガを、正確にはギルドメンバーを神と敬っているがために外へ出る最大の障害になっている。

 

「ならばアルベド、お前に命じたとしてどうやって稼ぐつもりだ?」

「もちろん何れかの国を支配し、供物を定期的に捧げさせます」

 

 そしてこれである。大抵のシモベ達はアインズ・ウール・ゴウンらしい悪としての主義を身に着けており、大体行う事が魔王ムーブなのだ。

 

「だから表立ってそういうことをするつもりはないと、言った筈だな?」

「はっ!? も、申し訳ございませんモモンガ様! では裏から支配し我々の正体は判らぬ様に資金を……」

「……まあやり方と規模次第ではそれを否定はせんが」

 

 モモンガとしてはどこかの国に裏組織を作ること自体は悪くないと思っていた。別に悪の限りを尽くしたり、国を実質支配とかしなければそういう稼ぎ方も十分ありだとは思っている。

 

「しかしお前達は未だ外の現実を理解していない。加減をしらないままお前達に任せてしまえば容易く国の一つや二つは滅ぶか干上がりそうだ」

「ご信用をいただけないのは私達の至らなさだとは思っておりますが……」

「間違えるな、私はお前達を信用しているし信頼している。だがこの世界は、正確に言うならば人間どもはお前達が思っている以上に脆弱なのだ。それらとの触れ方を覚えてもらった後に、お前達に何らかの事業を任せたいと思っている」

「モモンガ様……っ、勿体なきお言葉にございます……!」

「う、うむ」

 

 キラキラとした眼に少し後ずさってしまうモモンガ。彼は未だにこういう好意一色の視線には慣れきってはいなかった。特にアルベドはこのまま興奮して性的に息を荒くし始めたりするから困る。ほんとに困る。

 

「ま、まあ何れかの話は後にするとして、まずは目の前の問題だ。どうにかすぐにできる収入源を作りたい。そういう意味では冒険者の地位はまだ使えそうだとは思うのだが……」

「モモンガ様が人間どもを弄び、戯れに創られた立場でございますね?」

「お前そーゆー言い方は……まあ私が剣士をやっていたことも含め、観光がてらの遊びであったことは事実だがな」

 

(働くのは問題ないだろう。依頼だけ受けて実働はナザリックの誰かにやらせれば、たぶんコイツ等も納得するだろうし……でも、)

 

「私が一人で街へ行くと言ったら「なりません! せめて我々もお連れになってください!」、まあそう言うとは思っていた」

 

 食い気味で重ねられた言葉に、苦笑交じりにため息を吐く。実際こればっかりは好意での言葉だからこそ完全に拒否はできない。

 

「まあお前達を連れて行くのは良しとしてだ。アルベド、お前は人の街など行きたくはあるまい?」

「モモンガ様がご命じになられれば、たとえ地獄の底とて喜んで参ります。ご命じになられなくても着いていきます!」

「だが人間は嫌いなのだろう? 人混みなどお前にはストレスにしかなるまい」

 

 守護者達はギルドメンバー達の子であり、いまやモモンガが預かった大事な宝だ。仕事でもないのに嫌なことをやらせるつもりはなかった。

 

「ですが……!」

「まあ待て、誰も連れて行かないとは言っていない。人間の街に溶け込んでも問題なく、かつそれに忌避感がないものを連れて行くつもりだ」

「しかし……しかし……っ!」

「何だ、まだ条件があるのか?」

 

 今のアルベドの様子に毅然とした守護者統括の姿は無い。だがその口から出た言葉は、モモンガにとって無視のできない衝撃を与えた。

 

「わたくしも、モモンガ様とお出かけが、したい、です」

「あ―――」

 

 それはそれは、強い衝撃だった。精神が抑制されるぐらいには強い衝撃。

 つまりは、彼女居ない歴を生まれてこのかた続けてきたモモンガにとって、彼女の小さなアピールは状態異常並の破壊力を持っていたということである。

 

「あー、ゴホン! ま、まあなんだ。実は冒険者をしていた時に良い場所を見つけてな」

「……?」

「人の姿などない、閑静な湖なのだが……お前さえよければ、観光がてら何れ連れて行こう」

「……」

 

 潤み始めていた瞳を大きく見開き、時が止まったように身動きをなくしたアルベド。

 モモンガが心配する程度に長い硬直を終えた後、彼女の艶の乗った口が開く。

 

「モ」

「モ?」

「モモンガさまぁー!」

「んな!? あ、アルベド! 抱きつくなど子供の様な……あ、いやこれ違ぇ! 脱がすな! 挿し込むな! 挟むんじゃない! え、衛兵! 衛兵!!!」

「アルベド様ご乱心!」

「いつものご乱心である! 相変わらず力が凄い!」

 

 執務室で日に一度は見られるその光景は、いつもより長く続いたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、ようやく人混みを抜けたな。二人共、息苦しくはなかったか?」

「お気遣いありがとうございます。少々戸惑いをおぼえましたが、それ以上ではございません」

「はい、人間の街というのは本当に人間だけなのですね」

 

 大通りから離れ、人気の少ない場所へ歩みを進める三人。

 一人は騎士のような品がある装飾の全身鎧をした戦士。

 もう一人は歳を感じさせる外観ながらも、姿勢の良さから活力を感じさせる格闘家。

 そして最後の一人は先の一人に近い装備の格闘家、それでいて一目見ただけで記憶に焼け付くほどの美女だ。

 

「それにしてもよろしかったのですかモモン様、御身が徒歩で街を歩くなど」

「セイブ様の言うとおりです、お望みであれば馬を御用意致しましたのに」

「ははは、一介の冒険者が街中を馬では歩かんさ。むしろユリアを令嬢役にするなら馬車でもよかったんだ」

「お、お戯れを……」

 

 頬を赤く染めたユリア―――ユリ・アルファにモモンガは笑いかける。

 

「俺は本気だったんだがな、まあ別にお前達が嫌がることをするつもりはない。冗談としておこう」

「お気遣い頂き恐悦至極でございます。しかし何故ユリ、アだけにその役目を?」

「ん? ただ剣士と格闘家二人ではパーティーとしてバランスが悪いと思ってな。それなら一人を護衛対象にした方が収まりがよいと思ったのだが……まあ、格闘家師弟というのも良い設定だから文句はないさ」

 

 セイブ、もといセバス・チャンの問いかけにあっけらかんと答えるモモンガ。二人はともかく、モモンガにとっては考えてあった設定にこだわりがあったようである。

 

「着いたぞ、この家だ。さて、いきなりだが在宅中かどうか」

 

 とある家の前までたどり着いた三人は、ドアノッカーを鳴らして住人の反応を待つ。あわだたしくも軽い足音が近づいてくると、間を開けずにドアが小さく開く。現れたのは見知らぬ顔だが、どこか見知った雰囲気を持つ少女だ。

 

「どちらさまですかー?」

「初めましてお嬢さん。モモンという者だが、家主の方は御在宅かな」

 

 立派な鎧と体躯のモモンガを呆けたように見ていた少女は、声をかけられて慌てて居住まいを直す。

 

「お姉さまにご用?」

「ああ、モモンが訪ねて来たと言って貰えば判ると思うんだが」

 

 どこか品の良い少女に対して、モモンも意識してできるだけ丁寧に対応する。すると少女は元気よく了解の意を返すと、再び家の中へと戻って行った。

 

「子供というのは活発なものだな」

「誠でございますな」

 

 そういえばユリの創造主であるやまいこは子供好きの教師だったな、と思いついたモモンガが振り返ると、そこにはどこか上の空になっているユリの姿があった。

 

「ユリア?」

「は、はい! 如何なさいましたかモモンガ様」

 

 慌てて返答して「ガ」まで言い切ってしまうユリに、残った二人は注意しつつも疑問を覚える。

 

「どうしましたか、ユリア。貴方がそのようではモモン様の体面にかかわります」

「まあそこまで言うつもりはないが、本当にどうかしたのか? 少し呆けていたようだが」

「い、いえ。その、ご報告を上げる様なことは何も……」

 

 即席設定がはがれかけているユリに、やはり納得できないモモンガ。

 

「言いたくないことなら強くは聞かないが、体調不良等ならはっきり言ってくれ。やはり人間の街はつらかったか?」

「そのようなことはございません……! ただ、その」

「ユリア、モモン様は我々を気遣っておいでです。その御厚情に甘えるのではなく、はっきりと答えなさい」

「いえ、その……」

 

 あわあわと追い詰められたユリは、観念したようにポツリと言葉を紡ぐ。

 

「先程の子供が、可愛らしかったと、見惚れていました」

 

 そう呟いたユリの顔は、恥と感じているのか赤らめた顔をしてどこかしょぼくれてみえた。

 それを聞いたセバスも同じく少女の様子を微笑ましく感じてため、彼女を叱責できない。

 対してモモンガとしては何故それをユリが恥じているか判らないのだが、聞けば彼女達の理論としては大切な職務中に別の何かに目を取られるなどもっての外、と感じているようだった。

 

「……ユリは正しくやまいこさんの娘だなあ」

 

 失態を演じたのにもかかわらず何故か(ナザリック基準で)褒められたのかが判らず、再び呆けてしまうユリ。

 

 不思議な空気が混沌としかけていたその時、家の中から先程よりあわただしい足音が響く。執事とメイドの矜持が故か、その音がこちらへと届く前に彼らはいつもの様子を取り戻していた。

 家の扉が勢いよく開く。

 

「モモン!?」

「やあ、久しぶりだな、アルシェ」

 

 これがもう二度と会えないだろうと別れた二人の、一月と経たないうちの再会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「元気そうだな」

「―――モモンも、もう会えないかと思ってたからなおさら」

 

 家の中へ上げてもらった彼らは、椅子に腰かけて対面してた。

 

「―――いろいろと聞きたい事はあるけど、まずは一つ聞かせて。貴方の『やらなくちゃいけないこと』は無事に終わったの?」

「ああ、御蔭様でな。あの時はまともに説明もせずに悪かった。まあ、今も詳しい話はできないが、あそこまで追い詰められる理由はそうそうないだろう」

「―――そう、それは良かった」

 

 安堵するアルシェの様子に、モモンガも一つ区切りをつけられたことに満足を覚える。何事も途中で放り出すのは気持ちよくはないからだ。

 

「お前も見たところうまくやれたようだな」

 

 アルシェの隣に座る少女達は、興味にあふれた視線を二人してモモン達に向けていた。

 

「クーデリカです」

「ウレイリカです」

 

 好奇心に溢れた表情をし、それでいながら気品さを感じさせる振る舞いで、彼女達は揃って声を上げた。

 

「私の名はモモンだ。アルシェ……君たちのお姉さんとは少しの期間組んだ仲間でもある」

 

 どこが琴線に触れたのか、少女たちの瞳に輝く好奇心の光が強まる。モモンはちょっとその視線に負けそうになりながら話を続ける。

 

「後ろの二人も紹介しよう。こちらはセイブ、もう一人はユリア。二人は俺の友の家族で、俺にとっても家族、そして仲間でもある」

「セイブと申します、以後お見知りおきを」

「ユリアです」

 

 モモンの家族という言葉に感銘を受けて泣きそうになりながらも、表面には全く出さずに二人は丁寧な挨拶をした。そのような内心は流石に気付く事はできず、少女二人は気軽に、そしてアルシェは彼らの佇まいに以前まで身近にいた者―――執事やメイドといった高貴な者に使える雰囲気を感じ、少々動揺を覚えながらも同じく挨拶を返した。

 

「―――私の名はアルシェ、以前帝国に居た時にはモモンに組んでもらって、とてもお世話になった」

 

 アルシェの丁寧な一礼に、セバス達は微かながらも好感を得る。言葉遣いにこそ飾り気は感じないが、その身をわきまえた言葉も要因の一つとなった。

 

「彼女はもともと別のワーカー……冒険者チームのようなものだが、そちらに所属していたのだ。そのチームと故あって関わることになったのだが、まあ、なんというか、そのチームは解散することになってな。それには私も一因となっていたこともあり、彼女の事情が片付くまで組むことになったのだ」

「―――そんな貴方が悪いように言わないでほしい。私が居たチームは4人、そのうち2人が結婚したから解散しただけ。感謝はすれど誰も貴方を悪く思っていない」

 

 セバス達はアルシェの言葉に大きな安堵と敬意を覚える、我らの主人はやはり慈愛に溢れた方なのだと。

 

「ああ、うん。まあ詳細はどうであれ、一度組んだ縁もあってな。『あの時』解散した時にこの家を譲ったのだ」

 

 その言葉を聞き、セバス達とアルシェはようやく互いの姿に見覚えがある事を思い出す。

 セバス達にとってはナザリックに招いたワーカーの内の一人、アルシェにとってはその件の依頼主に関わる者として、一度対面していたのだ。

 

「―――モモン、あの件についてだけど……」

「すまないが聞かないでほしい、色々事情があってな。俺達はあの件、あの場所には関わらなかった―――そういう事にできないか?」

 

 モモンガの強めの言葉に、アルシェは考える。あの後、墳墓に踏み入ったワーカーは誰も帰ってこなかった。帝国へ戻り、王国へ引っ越す間にも多少調べたのだが、結局のところ何の情報も得られないまま今に至っている。

 〝天武〟のように気に食わない者もいたが、〝ヘビーマッシャー〟など友好的にしていたワーカーもいる。彼らの行方が気になっていることは確かだが……

 

「―――判った。貴方には大恩がある。あの件についてはもう忘れる」

 

 今の生活をくれたモモンガに、アルシェは強い感謝を覚えていた。なにより短いながら組んだ相棒だ。善人とはっきり断ずる程長い付き合いではないが、悪人ではないことを彼女は理解している。ワーカー達も酷い目にはあっていないだろうと楽観した。

 まあ、それは大いに間違いなのだが。

 

「助かる。代わりといっては何だがこの家や渡した資金については好きにしていい、それで―――あー、お嬢さん方、私に何か御用かな?」

 

 先程から二つの強い視線、クーデリカとウレイリカの好奇に溢れた顔を向けられてモモンガはついに根負けした。

 

「お話して欲しいわ」

「冒険のお話を聞きたいわ」

「―――二人とも、お姉ちゃん達は大事な話をしてるの」

「でも」

「だって」

 

 アルシェに言い含められるも、二人は不満そうに頬を膨らませる。

 モモンガも子供の相手は得意ではない。とはいえ強く言うつもりもなく少々困ったような様子を見せていると、彼の優秀なる従者が声を上げた。

 

「よろしいでしょうか、モモンさ、ま」

「うむ、いちいち突っ込まんが。何だ?」

「お話の間、彼女達の相手は私がお受けするのは如何でしょうか?」

 

 モモンガが思わず振り返ると、そこには柔らかに微笑んだユリの表情があった。

 

「任せても良いのか?」

「はい、子供の相手は嫌いではありませんので」

 

 そういえばユリを作ったやまいこさんは小学校の先生だったな、とモモンガは近頃とみに感じる仲間たちの面影を彼女に見ながら、その言葉に嘘や無理はないとして提案を受けることにする。

 

「もし、お二人とも」

 

 進み出たユリは未だ言い争う少女達へ近づくと、視線を同じ高さへ合わせるためにかがみ込む。

 

「宜しければ、私のお相手をしては頂けませんでしょうか?」

「お姉さんが遊んでくれるの?」

「お姉さんがお話してくれるの?」

「ええ、私でよければ」

 

 ユリの美しい笑顔に、少女2人は同じく満面の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ二階で遊びましょう!」

「とっても可愛いゴーレムさんがいるの!」

「そんなに慌てると危ないですよ……ゴーレムさん?」

 

 少女2人に連れられ、階段を上がった彼女たちが見えなくなる。

 

「―――ごめんなさい。迷惑を掛けた」

「いや、まあ迷惑という程ではない」

「―――それで、結局ここに来てくれた理由は何?」

「そういえば本題がまだだったな。もしかしたら、まだお前が持っているかもしれないと思ってな」

 

 モモンガの指が何もない首元を示す。

 その仕草に心当たりがあったのか、アルシェは分かりづらいながらも笑みを表情に乗せる。

 

「―――復活するのね?」

「ああ、私もお前と同じで支えなくてはならない家族がいる。フラフラとしていられないさ」

 

 お互い庇護すべき者がいることに彼等は共感を覚える。対して守護するべき所を逆に守られている現状にセバスは強い無力感を覚えるが、同時に仕える主に想われていることに大きな感謝を覚えた。帰ったら皆に伝えよう、そう強く思う程に。

 後日、同じく感動に心を震わせ、同時に無力感に苛まれた守護者達は泣きながら仕事を求めたとかなんとか。これすなわち余計なお世話というやつである。

 

「ちなみにお前の方は今どうしているんだ? ワーカー、は流石に王国ではやり辛いだろうから、冒険者か」

「―――魔術師組合に勤めている。事務仕事はまだ不慣れだけど、他は上手くやれている自負がある」

「ああ、成る程。組合も第三位階まで使える魔法詠唱者となれば両手を上げて歓迎だろうな」

 

 話を聞くと戦闘力という意味ではそれ程大した組合ではないようだ。

 知識もそこそこのようだが、王国という環境で育った組合にしては意外と頑張っているというのがアルシェの感想だ。流石は元帝国魔法学院の出だ、完全に上から目線である。

 

「―――ちょっと待ってて欲しい」

 

 アルシェはそう言って椅子から離れる。少しすると、その手に綺麗な包を持って戻ってきた。

 

「―――いつかこうして返せると、信じていた」

 

 冒険者組合へと行き、モモンは死んだと『それ』を処分することはできた。それをしなかった理由は、その一言に詰まっていた。

 

「……ああ、そう時間は経っていないはずなのに、何だか懐かしいな」

 

 その中には、偉業を成し遂げた者の証。

 人間という小さな集団の中で得られる羨望の塊、アダマンタイトプレートが輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これでまたひと稼ぎできるな」

 

 アルシェの家を出た三人は、来た道を戻るように歩く。

 

「おめでとうございます、モモン様」

「ああ、処分されていても何も不思議はなかった。こればかりは彼女に感謝だな」

「言葉遣いこそなってはいませんでしたが、立ち振舞と態度は及第点でした。ご許可頂けましたら教育も施しますが……」

「セイブ、今の俺は冒険者だ。お前達ならともかく、他の人間に傅かれても困るぞ」

「これは失礼いたしました」

「今後もこの設定で活動するからな、忘れないように頼む―――ところでユリア、妙に嬉しそうだが……何か有ったか?」

 

 話に参加していなかったユリを見ると、その顔には満面の笑みを浮かべている。モモンガもアンデッドになっていなければ一撃で惚れてしまう程に満開だ。周辺に花とか舞っている。

 

「少女達が良い子達でしたので、とても癒やされました」

「ああ、確かに素直そうだったな」

 

 モモンガはリアルで教師をしていたやまいこが、生徒がクソガキ様ばかりでよく愚痴っていた事を思い出す。そういう意味ではあの二人の様な純粋培養箱入りお嬢様は可愛くてしょうがないのだろう。幼さ故に、まだ選民思想とかには染まっていない点も大きい。

 

「それと―――モモン様がお一人でいられた時も我々を気にかけて頂けた事が判り、喜びに身を震わせておりました」

 

 その嫋やかな笑みに再び目を奪われながら、なんのことだろー?と惚けるモモンガ。

 

「あー、ゴホン。ま、まあお前達への想いが伝わったようならば何よりだ?」

 

 内心首をひねりながらの回答だったが、ユリは機嫌を損ねた様子はない。ならば別にいいか、とモモンガは別の事を考える事にした。

 

「さて、王都の用は済んだし、エ・ランテルの冒険者ギルドにさっさと行ってもいいのだが……」

 

 モモンガは呟きながら王国にいるであろう数人の顔を思い浮かべる。しかし浮かべた顔の殆どに歓迎されないだろうと判断して、脳裏から選択肢を減らしていく。減らした選択肢の一つである王女については用が無い訳ではないが、彼女に付けたエルダーリッチからは悪い連絡は来ていない。放置してもいても問題にはならないだろうと切り捨てた。

 そうするとモモンガが顔を出しても悪く思われない……どちらかといえば会いたいのは一人だけだ。

 

「どうせだから寄り道をしていくぞ。顔を見ておきたいヤツがいるからな」

 

 二人へそう話すと、モモンガは富裕層の住宅街へと向かう先を変えた。

 

 

 




 更新が大変遅れましたが、正直完結してるんだしもういいかな、って思ってました。
 でも今回の話はダラダラと書き連ね、3ヶ月程前に書き上げていたんです。
 ただあともう一人の出番まで書き上げたら投稿しようかなーってダラダラしていたらコンナコトニ……

 いやまさか私もモンハンを半年やり続けるとは思っても見ませんでした。
 ありゃー、最高のゲームですな。流石にもう飽きはじめましたが。
 次はエクステラリンク? うん、エクステラでストーリー微妙かったから買う気がしないの。
 存在しない前日譚をゲーム内でまともに語らなかった事、ネロの装備がラストでひどかった事、そして何よりもアーチャーをサブキャラに降格させた事、許すまじ。


 ところでアルベドの性格にヤンデレさが足りないと思った方、とても鋭いかよほどのマゾか。
 ここのアルベドはモモンガ様が不在の間に大分精神をやられたことにより、原作シャティア戦直前、宝物庫で見た綺麗なアルベド状態を維持しております。モモンガ様いなくなっちゃヤダヤダー。
 他にも改名しなかったり仕事が少ないから一緒にいられる時間が多い点も彼女のストレスを解消している点だったりします。
 エクステラをディスっといてここで語るのってどう思う? 僕はひどいと思う。

 次はあの不器用さんのつもりだったんですが、かっ飛ばして竜王国の野郎ども(メス2匹)を書きたい。悩ましい。

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