GURPSなのとら   作:春の七草

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第二話『抱擁』

序、

 四半世紀ちょっとを生きた成人男性たる僕は、超常存在の理不尽によって殺害された挙句フィクションの世界に生まれなおすという、所謂神様転生を体験することとなった。

 TRPGシステムの1つGURPSのルールに準拠しているらしい新たな体は素晴しく病弱で、ヒーリングという超常的な回復手段のある家に生まれたにも拘らず週の大半を寝てすごす羽目となっている。突然ぶつんと意識が途切れ、次に気がついたら集中治療室にいました。などといった出来事も一度や二度ではない。

 

 与えられたGURPSの魔法を扱う才能については、かのグレー・レンズマンを(反撃を受けずに10m程度まで接近し、こっちが抵抗不能レベルのテレパシーでねじ伏せられなければ)洗脳できるレベルのものだけど。呪文の一つも覚えていない現状では宝の持ち腐れである。大体体が貧弱すぎて、習得しても使いこなせない呪文が多数あるのだ。一体どうしろと。

 

 ともあれ呪文の習得以前の問題として、まず生きることが大変な身の上である。

 折角文字通りの意味で“第二の人生”を得られたのだ。前回よりも気の利いた生き方をしてみたいのだけれど。果たしてどうなることやら。大いに不安である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GURPSなのとら/第二話『抱擁』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一、

 相変わらず、僕は病弱である。

 薫姉さんに引っ張り出されて2人で庭で遊んでいたら、ぐらりと視界が歪んだ。ぐるぐると世界が回り、たまらず目を閉じる。

 

 気がつけば、布団の上であった。泣きそうな顔でこちらを見る薫姉さん。じろりとそちらを睨みつける和音婆様。苦笑いしてそれをとりなす大叔母の亜弓さん。

 どうやら僕は、遊んでいるうちに体調を崩し、そのままぶっ倒れたらしい。季節は春。暑くもなく、寒くもなく。実に良い塩梅の気候であった。外で遊ぶには絶好の環境であった。

 にも拘らず、体調を崩したとの認識を得るまもなく、僕は昏倒したようだ。僕は現在3歳児。確かに代謝系が安定しておらず、さくっと発熱したりする年齢ではあるのだが。ううむ。それにしたって、スペックが低すぎるぞ、この体。成人しても体力、生命力共に7は伊達ではないということか。

 

 起きたのはいいが、そのまま何も言わずに考えていたのがまずかったのか。薫姉さんが泣き出してしまった。無理やり外に連れ出してごめんなさい、と。

 実際のところ、薫姉さんが僕を無理やり連れ出す、などといった事実はない。僕は気候や自分の健康状態を鑑みた上で、彼女の誘いに乗ったのである。まあ、外に引っ張り出されたのは確かだが。抵抗しなかったのは僕の判断に拠るものだ。ちょっと外で遊んだくらいでは健康を損なわないであろうと。……実際は、健康を損なうどころか意識が飛んだわけであるが。

 ともあれ、認識の甘さを謗られるべきは、僕であって彼女ではなかろう。

 

 しかしさて、目の前で泣き出した薫姉さんに対し、どう対応したものであろうか。試したことがないので想像するしかないのだが。泣きじゃくる子供に対し、理路整然と当人に非がないことを伝えたところで、たぶん泣き止んだりはしないだろう。某つけ耳エルフの手法は失敗したものと記憶している。

 相手が理を解さぬのであれば、情をもってあたればよいのだと理屈では分かる。が、情であたるとして、どのように言えばよいのか。正直、子供の相手などまともにしたことがないので、どうすればいいのかまったく想像が付かない。相手を泣きじゃくる女性として考えたとしても、同様に対応策は見えてこない。というか、そんな方策が分かるなら。前世でリアル魔法使いまであと2年、などといったステキなカウントダウンがなされることはない。

 

 とりあえず一応、駄目元で。

 理詰めで彼女に非がない旨伝えてみた。

 

 が、姉さんが泣き止む様子はない。やはり駄目か。難しいものである。両親も頭を抱えている。きっと彼らにも、泣き止ますための方策がないのであろう。泣く子と地頭には勝てないのだ。僕らの敗北か。

 亜弓さんが笑っている。彼女には何か妙手があるのだろうか? 亀の甲より年の功。さすがである。……なぜか笑顔のまま梅干をかまされた。痛い、少しは病人をいたわって欲しいものである。

 深く深く、和音婆様がため息をついた。やはり彼女も子供のあやし方については造詣が深くないのであろう。まあ、退魔師などをやっている以上、子育てについて深く知る機会はなかったのかもしれないが。

 

 抱きしめて、頭をなでてやるくらいのことはせんか、馬鹿者が―――――

 

 罵倒されてしまった。理不尽だ。僕はベストを尽くしたぞ。しかしぎろりとこちらを睨みつける老退魔師に、対抗する方策など持ち合わせてはいない。

 そんなもので泣き止むなら世話はないと思うのだが。布団から身を起こし、そのまま姉を抱きしめてみた。

 

 泣きやんではくれない。

 

 しばしの逡巡の後、頭をなでてみた。貧弱な3歳児と、既に剣術を学び始めている4歳児。なでるとなると色々やりにくいのだが。そも、なでると髪がぐちゃぐちゃになりそうなのだが、いいのだろうか?

 

 やっぱり、泣き止んではくれない。

 

 助けを求めて年上連中を見回すが、母はニコニコしているだけ。父はカメラを取り出している。和音婆様はしばらくそうしておれと退室し、大叔母もそれについていく。一体どうしろと。

 

 

 

 

 

 結局、この行動の効果があがることはなかった。

 僕はそれからの数十分。姉が自然に泣き止むまでくしゃくしゃと、拙い動き(こんなまねをした経験は、生前に無い!)で彼女の頭をなで。あなたが悪いわけではない、己の体調を認識できていない僕が悪かったのだと、手を変え品を変えその旨伝える羽目と相成ったのである。

 

 

 

 

 

 泣かせたのが僕であるとされるのは、まあやむをえない。

 慰めろというなら、そうすることも吝かではない。

 

 だが、なぜ大人連中はにやにやとこちらをながめているのだ! どうにも腑に落ちない。

 

 

 

 

 

 あと、和音婆様。

 退室したと思ったら、何ビデオカメラ持って帰ってきているんですか。

 普段どおりのしかめ面のままカメラ向けられると、怖いんですけど。

<了>


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