FF14 新生エオルゼア 蒼天のイシュガルドの二次創作 小説です。
 時間軸はパッチ3.3メインクエスト終了直前、モブ(オリキャラ)視点、某キャラのお話になっております。3.3までのメインかつ3.3メイン終了後のサブクエスト、一部蒼天秘話のネタバレとなっております。主に前者二つプレイ者向けの内容となっておりますので、ご注意頂けると幸いです。

 この小説は、イラスト小説投稿サイトpixivにも投稿させて頂いております。

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青き花

「あ。お兄さーん! ちょうど来る頃だと思ってました~!」

 イシュガルド上層、宝杖通り。澄み渡った快晴の真下、何でも揃うという大通りの片隅に構える花屋の店員は、常連である男へ手を振った。彼女の予想通り、彼はつかつかとやって来て、ぶっきらぼうに銭の入った袋を渡す。そんないつもと変わらぬ客の態度に、店員は今日も苦い微笑みをこぼす。

「いつもの、で良いんでしたっけ。この重さだと一つかな?」

 ああ。小さな声で肯定した男だったが、今回は些か違う態度を示す。店員の知るところでは、普段は袋を渡したらすぐに大通りへと姿を消し、注文の花束が完成した頃に戻ってくる――しかし、彼はぼうっと店に並ぶ花束の一つを指さした。

「珍しい色のニメーヤリリーだな」

 勝機、いや商機だ。と店員は心の中で意気込み、屈託ない笑顔で接客を始める。

「でしょう。青いニメーヤリリーですよ。綺麗でしょー」

「純粋な青ではないだろ」

 イジワルだなあ、と店員は頬を掻く。

「ですよ。お兄さんみたいなうるさい人が見れば、青に近い紫色ですよ。でも、すっごく青に近いと思いません?」

 男は反応しなかったが、不思議そうな目でじっと花を見つめている。雪のように白い長髪を払い尚も留まっている相手にクスっと笑い、店員は青い花を幾つか取った。

「いつもの花束にお交ぜしましょうか?」

「ふん。相変わらずいい根性しているな」

「ひ、酷くないです? まるで私が押し売りしているみたいじゃないですか……」

 今日は特別にサービスします。と店員は手を合わせるが、相手が相手だけに、すぐさま本当のことを白状する。

「本当は、この花もっと高いんですよ? けど、今日は記念式典ですから。特別に白いものと同じ値段まで安くさせてもらってるんです。なので気にしないでください。あ、いつもの白い方も作りますから、お好きな方を持って行ってください」

「式典? ……ああ、そうか。アイメリク議長就任式典だったか」

「知らなかったんですか? まあ、式典続いていますしねー」

「病み上がりでな。寝てばっかりも退屈で、ついさっき抜け出してきた」

「あはは……正直すぎですー……いいんですか?」

 店員は男の事情をよく知らないが、彼が皇都イシュガルドを守る神殿騎士と話をしているのを数回目撃している。背中に担ぐ槍――黒ではなく今日は赤い槍だが、ドラゴン族を狩るに特化しているとされる槍のそれである。定期的に鎮魂花たる白いニメーヤリリーの花を買いに来ることと合わせて察するに、彼が神殿騎士あるいはドラゴン族を屠る傭兵であると推測している。花はおそらく、仲間への手向け。

(うーん。でも、前とちょっと違う気がするなあ。殺気立った感じはしないし……戦争が終わってホッとしたのかな?)

 千年間、イシュガルドはドラゴン族と戦争を続けていた。しかしながら、紆余曲折の末、竜詩戦争と云われた戦が終結した――千年前、かつてドラゴン族との融和の時代があったことや戦争の発端となったヒトの祖先の裏切り、それを歴代教皇やイシュガルド正教がひた隠しにしてきた「真実」の発露。前後で教皇は姿を消し、伴う国内の混乱に内乱、乗じるかのように邪竜ニーズヘッグの襲来、そして戦を扇動していた彼のドラゴンは討たれた。

 現在、ドラゴン族との交流の再開が始まり、教皇による王権の廃止並びに、共和制の移行、議長の選出……本当に速かった、と彼女は振り返る。数か月の激動、呑み込みがたし現状、しかしそれも未だ終わっていない。急流の時代を彼女達は生きているし、それを実感できる程に国は平和とは未だに言い難い。

「つい最近までドラゴン族と睨み合っていたのに、和解してこれから交流を取り戻していくって。納得、出来るかどうかは別の問題ですけど、こう、早すぎて、ついていけてませんよー」

「全くだ。死者を悼む時間くらい欲しいものだ」

「だからですかね。今日は特に青いニメーヤリリーの花が売れるんですよ」

 嘘を吐くな、と言われ、店員は両肩を竦めて見せた。

「お花が売れているのは本当ですよ? 店長ったら、もう、見た目と同じでほくほくしてますもん。まあ、安くしている分そんなに儲けはないですけどー」

 白いニメーヤリリーの花束を作り終え、店員はもう一つの花束を結い始める。

 実際、ドラゴン族との交流を再開する記念式典が無事に行われて以降、祝いの花が飛ぶように売れている。大きな店では神殿騎士団や貴族院の議員達が大量に買っていったという話は聞いているが、式典を見に来た平民も買いに来るらしく、そのおこぼれに預かっているのだと店員は微笑む。

「この青いニメーヤリリーの花言葉って知ってます?」

 くっと眉を上げつつも、彼女の予想と反して男は見事な回答を述べた。

「『旅の無事を願う』だったか? 星神ニメーヤを冠する花だ、星は旅人にとって道標となるからな」

「えっ!? 間違ってないですけど――バカの一つ覚えみたいに同じお花を買っていくお兄さんが、花言葉を知っているなんて意外すぎて」

 お前が万年花屋の店員をやっている意味をより一層理解できた、と腹を立てつつも、男はぼうっと青い花を見つめている。

「そういや。あいつがアルフィノ達に話をしていたのを聞いたんだったか」

(あいつ?)

 旅の道中で友人からも聞いた、と男は言い直した。妙に納得がいかない心中を留めつつも、店員は話題を戻した。

「確かに、ニメーヤリリー共通の花言葉は『旅の無事を願う』。でも、薔薇(ローズ)のように、色によって違ったりするんです」

 知るか。と言いたげな様子で苦々しい顔を俯かせる男に、デスヨネーと店員はいやらしく笑う。

「『青い花』ってずーっと昔から研究されていたらしいんです。でも、本当に誰も出来なかった。だから、いつしか『青い花』は『不可能』って言われるようになったんです」

 不可能と云われた『青い花』。だが、とある者が、店員がいま持っている青いニメーヤリリーの交配に成功する――厳密には青色ではないのだが、当時としては驚くべき程に青に近い花であった。当然、称賛の嵐が巻き起こり、研究者へは名だたる研究機関からの勧誘が殺到した。だが、彼は自由に研究を続けたいという理由から全てを断り、俗世から姿を消した。たった一言を残して。

「『もし青いニメーヤリリーの花が世に出回る事があるとすれば、それは奇跡である』と。……結局、この花はこの通りいっぱい出回って、皆が『最初の青い花』だと言って騒いだ。だから、花言葉は鎮魂の他に、『奇跡』と『不可能を可能にした』だったりするんです。今回の式典も、ちょっと前だったら不可能でしたからね。戦争の終わりとドラゴンとの融和という、奇跡をね。そういう意味もあるんだと思います」

 ふん。と男は鼻を鳴らし、男は白い花束を手に取る。構わないのか、という問いに手を振り、真っ青な空を仰ぐ。

「さしずめ。その研究者は発表した後に『青い花』ではない事に気づいたんだろうさ。そして、逃げた」

「に、逃げたって……研究を続けていたかもしれないじゃない。それに、未だ研究をしている人だっているみたいですし」

「仮にそうだとして。奴は二度と現れなかったんだろ? 結果的に、そいつの研究は失敗で終わったわけだ」

 彼女は沈黙した。男の言うことは尤もに聞こえた。現在結っている青いニメーヤリリーの生みの親は、花を生み出して以降、人前に姿を見せていない。また、名も分からない者が研究を続けているらしく度々論文は上がっているのだが、どれも粗悪で失敗だと非難の嵐が吹き荒れる始末で、今に至っている。

「それでも」

 それでも。手が止まっていた花達が彼女の手から離れる。目を上げた先、リボンを丁寧に括る男が、そっと顔を俯かせる。

「奴が偽の『青い花』を世に送り出した事で、誰かが笑顔になったのは紛れもない事実だろうさ。あんたのその笑顔、到底偽物には見えん」

 ひんやりとした風が吹く。澄み切った空を流れる一陣は不思議と寒くなく、心地よい。靡いた白髪が男の表情を隠し、店員は彼の背中へ微笑む。

「お兄さん、ちょっと変わりましたね」

「――は?」

「前はこわーい目をギラギラさせて、悲壮感たっぷりな顔でお花を買いに来ていたのに。そんな笑顔もするなんて、これもこの花のおかげかなー?」

 舌打ちし、男は空を見上げる。完成した三種の色が織りなす花束を受け取り、氷輪へ消えていった青い花弁を静かに見送る。

「……『奇跡』か。くだらんな」

 頬を膨らます彼女に、男は訂正しない。

現在(いま)起こっている「奇跡」は、決して奇跡ではない。幾人もの努力と想いを賭して築き上げた結果だ」

「それは、そうでしょうけどー」

「だが」

 花弁が消え去った北東の彼方をじっと見つめながら、男はすっと白い髪を梳いた。お世辞にも綺麗とは言えない傷んだ髪が、美しい女性の如くふわりと広がる。

「ドラゴンと人が理解し合えた事は、『奇跡』かもしれんな」

 行く場所が増えた。男は微笑って、追加の代金をカウンターへ押し付ける。チップも置かれている事に驚きながらも、その青い花を交ぜた花束で良いのかと店員は呼び止める。

「あ! もしかしてアイメリク様にですか?!」

「アイメリクに……? 何を言っている?」

 え~、と声を上げる店員に、馬鹿馬鹿しいものを見た目で男は肩を上下させる。

「あいつに投げる花など、一片だって無い。道を踏み外そうものなら、槍をくれてやるがな」

 物騒が過ぎる発言に、彼女のみならず周囲の数人も凍り付く。空気を察知したのだろう、面倒そうに顰めた顔を手で覆い、冗談に決まっているだろ、と踵を返す。

「さて。改革を有言実行してみせた議長殿の晴れ舞台も、ついでに拝んでいくとするか」

 男は手を振り、そそくさと明るい雑踏へと足を踏み入れる。毎度ながら不思議が尽きない男に店員は首を傾げ、勢いのままに疑問をぶつけた。

「って! お兄さん何者?! アイメリク様とどういう関係なんですかー!?」

 嫌味を前面に押し出した顔で嗤い、男は無言で街中へと消えていく。やがて、式典の始まりを告げる歓声に掻き消され、彼女の嘆きもまた、激動の時代の中へと溶けていった。

「ああっ! 私も式典行きたいのに~! 店長のバカぁ――!!」




 蒼天秘話「花言葉」において、ニメーヤリリーの花言葉は「旅の無事を願う」という事が発表されました。しかし、花言葉は花色や国によって花言葉が違う場合があること、様々なクエスト等でお墓に添えるニメーヤリリーの花が白だというのに、某所に置かれた花束は青い色を中心にした物であったことから、青いニメーヤリリーには違う花言葉もあるという独自設定を盛り込みました。今後の公式で設定が発表されていく中で、これを否定する設定が発表された場合は修正または捏造設定といったタグの追加等の対応をしたいと考えております。(2016/08/21)


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