堕天使に愛された言霊少女   作:ひきがやもとまち

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実は風邪を引きまして。一日中寝ているのもなんだったので以前に頂いたメッセージの中にサイオラーグと甘粕レイナーレの会話が見てみたいと言うのを思い出し「堕天使に愛された言霊少女サイオラーグ編」を執筆開始してみた次第です。
急遽書き始めたためアニメ版準拠です。ご承知おきくださいませ。


45話「若手最強決定戦にスポット参戦、決定です」

 それは英雄派さんたちとの戦いを終えてから少し経ったイゼルローン要塞、皇帝執務室でのことでした。

 

「私たちもレーディングゲームに参加・・・ですか?」

「はい。グレモリー眷属からの正式に依頼です」

 

 天野さんが持ち込んできた話に、私は小首をかしげざるをえませんでした。

 今更言うまでも無く悪魔さんたちにとってレーディングゲームは、大変に名誉あるバトルゲーム大会です。そこに私たち外様を参加させるというのは、元人間とは言え悪魔に生まれ変わることを望んで成った転生悪魔の兵藤さんたちを参加させるのとでは訳が違いますからねぇ。・・・どういう事なんでしょうか?

 

「ご存じの通り、今までのレーディングゲームはチーム同士が全員で戦う合戦方式でした。

 多対多で戦い合う場合は相手の人数が多かろうと少なかろうとルール的には問題はありませんが、今回はプロリーグと同じ形式をとるということになり、能力だけではどうにもならない人数が勝敗に大きく影響してきますから・・・」

「人員面で不安がある、と?」

「はい」

 

 アッサリと首肯して肯定される天野さん。

 

「今回のレーディングゲームで採用されるルール方式は【ダイスフィギア】。

 キングが振ったダイスの目の合計で試合に出せる選手が決定され、出た目の数と同じ価値をイービルピースの合計で算出されると言うもの・・・・・・まぁ、平たく言えば引いた資源カードをやりくりして、ユニットの生産コストと比較しながら効率よく勝ちましょうというナントカウオー的なゲーム大会だと思えばよろしいかと思われますね。戦争否定しているはずの陣営同士がやり合うゲームの割にはですけれども」

 

 相変わらずぶっちゃやがりますね、この人は! しかも分かり易いのが逆に腹立たしい!

 なぜだか世界観の壁を越えて存在している、超人気の名作ロボットアニメを題材にしたネタは卑怯だと思います!

 

「スポーツと言うより、文字通りのゲーム形式なゲーム大会な訳なので、それ自体は彼ららしいと言えばらしいのですけれど問題もあります。それぞれが割り当てられてる駒によって消費イービルピースが決まっていると言う点と、連続して同じ選手を試合に出すことは出来ないという点の二つがそれです。つまり・・・」

「同じ駒の選手が1人ずつしかいないグレモリー眷属では、選べる選択肢の数自体が少ない。そして同じ選手を二度出してはいけない以上、場合によっては数が合わなくなる可能性がある・・・そういう理解の仕方で間違ってませんよね?」

 

 ニッコリ笑顔を浮かべることで肯定の代わりに返事としてくれる天野さん。

 

「今回に限り、数合わせで他のチームから借りてくると言う手も取れなくはないのですが、彼女の性格を鑑みますと・・・」

「どう考えても無理でしょうねぇ、彼女がアレでは・・・」

 

 苦笑気味な天野さんに、私も似たような無表情を返すしかありません(動かしたいけど動かない転生体の与えられてる肉体です)

 

 グレモリーさんは良くも悪くも人の好き嫌いが激しすぎる傾向にあり、能力よりも人柄で自分の眷属になる人を選んでしまう、支配者としては欠点にしかならない悪癖の持ち主です。

 オーベルシュタイン元帥じゃありませんけど、AにはAに向いた話。BにはBに相応しい任務というのがあります。

 自分の好みに合うか合わないかだけで配下を選んでしまうと、配下に選ばれた人材が主の意向に沿う形でしか意見を述べなくなり反対意見が出にくい状況を作ってしまう。それが間違いだと分かっていても間違いを指摘できない訳ですから、参謀が参謀としてまともに機能しない役立たずと化し司令官を頭脳面で補佐する人がいなくなる。

 

 結果、どこぞの大日本帝国みたいな個人的戦闘力は高いけど上意下達だから負けました、なんてことになりかねない。・・・やっぱり悪魔さんって長生きなだけで学べない種族なんじゃないでしょうかね? なんとなくビミョ~。

 

 ま、それはともかくとして。

 

「それで数が合わなくなったときの特殊ルール用として、余所から誰かたちを呼んでおくというのは分かります。・・・ですが、なんで私たち?」

 

 元人間ばかりな上に、天使ですぜ? 一応は、ですけれども。

 

「特例で認められた特殊ルールが、いささか奇妙でしてね。

 ピンチヒッターとして参加できる外部勢力からの選手は、通常ルールで選ばれた駒の半分まで価値を下げてから参加しなければならない、と言うものです。

 このルールの意図するところは間違いなく・・・・・・」

「私たちの公開リンチなのでしょうねぇ~。魔王陛下も随分と納得させるのが面倒くさい部下やら重臣やらを配下にお持ちのようで。

 あるいは対戦チームの背後に誰かいるのでしょうかね?」

 

 首をかしげて肩をすくめながら、私はテキトーな推論を口にしてみます。

 どうせ合ってるかどうか確かめようがなく、確かめる意味すら無い推測なんてものはテキトーに言っときゃいいのですよ。面倒くさい。

 

 現魔王陛下も、サイオラーグさんて名門悪魔さんも謀略とか政治ゲームとかが好きなタイプとも思えませんが、彼らだけで冥界の上層部が構成されてるなんてあり得ない。自分には不向きな問題が噴出した際に最小限の被害で解決できるよう、自分とは思考の異なるタイプの人材が多くそろっているのが組織上層部というもの。

 

 誰も彼もが兵藤さんみたいだったら冥界中が「おっぱいおっぱい」言ってる悪魔さんで溢れかえったある意味で平和な世界が出来上がるのかもしれませんが・・・“悪魔”? 確かに欲望には忠実なのでしょうけど、本当にいいのかな? 悪魔と名乗ったままで・・・淫魔の方が正しい気がしてくるんですけど、そうなると今度は陵辱エロ気世界みたいなのが出来ちゃいそうな気もしますからねー。うーん・・・下らないのに難しい問題です。

 

「門閥右翼が崩壊してサーゼクス派が政治に中枢を握ったとは言え、寝返り組の中には単に戦っても勝てないから魔王に従う道を選ばざるを得なかった中堅、弱小貴族派諸侯も多数参入しているでしょうからね。その手の輩は明確に反対意見を出すでもなく、陰にこもって嫌がらせに徹してくるからやりづらい」

「なーるほど。つまり、成り上がりのイッセーくんたちが名門に勝つのを見るのは立場上許してやるけど、なんかムカつく。せめて誰か適当な悪魔以外で偉ぶってる奴らを合法的に叩きのめさせて、腹いせに恥かかせてスッキリしたいよー!ってぇ、訳ですね! さっすが悪魔! 考えることが卑屈で他人よがりな上に小物臭い!

 やっぱり『人間は欲望優先で戦争ばかりしている醜い生き物だー』とかガキみたいな屁理屈こねてる苦労知らずのお坊ちゃん方は考えることが違いますなー。生きていく手段に美醜持ち出すとかマジあり得ないんですけど。社会人の苦労をしないでも生きてける食わない種族はこれだから」

 

 ゼノビアさんが辛辣な意見を言って、続く紫藤さんがさらに辛辣な意見を付け加えられました。・・・この人たち、時が経つごとに性格悪くなってってません? 最近ちょっとたまに怖いんですが。

 

「実際問題、今回のゲームにはサーゼクス派とヴァール派との代理戦争という側面があるという話を耳にしました。そういうゴタゴタを可能な限り試合に持ち込ませないという意味では、今回の提案はそれなりに評価できると思われます。如何いたしましょう? セレニア様。お受けになられますか?」

「皆さんさえよろしければ、私は出たいと思ってます。別に大した理由もありませんけどね。たまにはハイキング代わりに冥界貴族の皆さんをビックリさせて回るというのも悪くないかな、と」

「きひ☆ セレニア様も言うようになりましたね~♪」

 

 紫藤さんが茶化すのをガン無視して、私は実戦部隊の総責任者たる天野さんを見上げます。

 

「お願いできますか? 天野さん」

「主命とあらば、喜んで。ジーク・カイザー! ジーク・ライヒ!!」

『ジーク・カイザー・セレニア! ジーク・ライヒ!!』

 

 天野さんが言って、残る2人が唱和して今日の会議はしゅーりょー。後は午後の分の仕事が来るまでお昼ご飯のためのお昼時間なので、皆さんそれぞれの好みに応じてバラバラに――

 

「よいしょっ、と」

 

 ドン。

 

 ・・・バラバラ・・・に。

 

「・・・・・・何やってんですか? 紫藤さん・・・」

「ん~? あたしの魅惑的なデカヒップを、セレニア様の執務机の上に置いてある書類の上に乗せただけですけど、それが何かー?」

「・・・・・・・・・邪魔です。お尻をどけてください。書類が取れない・・・」

「んん~?」

 

 聞いちゃいねぇ・・・。

 いやまぁ、実際にはちゃんと聞いているのも聞こえてないフリしてるだけなのも分かってはいますし、それが言いたいことがあるときにする彼女の癖だということも承知の上ではあるのですけどね? ただ、どうしてもこう言うのには慣れないので出来ればやりたくないなぁと。

 

「・・・で? なんです? 何か言いたいことがあるようでしたら聞きますが?」

「んん~? べーつーにー。ただ最近の天野閣下を見ていてセレニア様はどう思ってらっしゃるんだろうなーって、ちょっと思ってただけのことですよ~?」

「心配してます。それが何か?」

「・・・・・・」

 

 相手の意表を突くことにより、それ以上の状況悪化を防ぐ戦法は効果を発揮し、紫藤さんは大きな目をパチクリさせた後、

 

「・・・素直すぎてつまんないーっ! イッセーくんだったら狼狽え騒いで醜態晒して、バカにされて笑われる未熟な子供のカワイさを見せてくれるシーンのはずなのにーっ!!」

「あいにくと私は兵藤さんじゃありませんのでね。申し訳ありませんが、そっち系の期待には応えられる自信がありませんので、そういうのは余所に求めてください」

 

 あと、お尻もどけてください。書類がと、取れないぃぃぃ・・・っ!!

 

「じゃあ、質問を変えます! 天野閣下の何がどう心配ですか!?」

「ぜぇ、はぁ・・・小休止のため質問にお答えしましょう・・・。この前戦った英雄派の人たちに天野さんが最後に放った一言に関することがらです。けほっ・・・」

 

 私が息切れゆえの咳しながら思い出すのは、京都で戦った英雄派の曹操さん。

 戦い終わってあの人が帰ろうとしているときに、天野さんはこう言っていたのです。

 

 

 

『曹孟徳。あなたは言っていましたね? 「人間としてどこまでやれるか知りたい」と。「悪魔にドラゴン堕天使その他諸々、超常の存在を倒すことで自分たち弱い人間がどこまで行ける生き物なのか知りたい」・・・と。それに相違ありませんか?』

『そうだ。俺たちは人の身でどこまで行けるか知りたいだけだ。弱っちい人間が神をも殺せる存在に至れるのかどうか。それを確かめた―――』

『それは、「神を倒せなければ自分たちの可能性を信じられない」という意味での言葉ですか? 「超常の化け物を倒すのは人間だから、超常の化け物を倒す以外に人間の計り方が分からないのだ」と。そういう側面がある主義主張だと言うことを承知の上で言っているのですか?

 自分の考え方が神をはじめとする頂上の存在を中心として形作れたものであることを知ったうえで、その論を正しいと、真実だと、この世の真理にしてみせると、貴方は世界に向かって断言することができるのですか?』

『・・・・・・・・・』

『・・・・・・・・・やれやれ』

 

 

『別れの前に忠告しておきましょう、曹孟徳の血を継ぐ“だけ”の若者よ。あなたは先祖について大きな勘違いをしています。

 彼は自らの可能性を信じて時代を駆け抜けた。それ故の英雄です。天を落としたのは結果論でしかありません。彼以外の者たちが彼を評価するポイントとして着目しているに過ぎないものです。

 自分は天を落とせる男だと信じて貫いたからこそ英雄だったのが彼なのですから。

 彼は天の理を自らの意思で規定しました。世に蔓延する、多くの人々が信じる天の絶対性も、至上価値も信じることなく、自らの信じる天のあり方こそが真に正しき天の在り方なのだと唱えて、天に押しつけて屈服させたのです。

 彼は自らの意思と責任のもと、漢帝国の民すべてを巻き込む大乱を引き起こし、その過程で生じる犠牲を踏まえてもなお自分が築こうとする正しき世の中の方が価値があるのだと世界に向かって吠えた大英雄だったのです。

 断じて、世間の一般認識に反発していただけの理屈屋ではありませんでしたし、他人の成功した部分を摘まみ食いしただけの力を誇示する愚行は恥としか思わなかった事でしょう。

 今頃はきっと、誘拐や人体実験を正当化するために自らの信じる理想と正義を使う情けない子孫の姿に、草葉の陰で歯がゆさに臍をかんでいることだろうと思います。生きてさえいたら自分がこの手で穢れた血を贖えるのに、と』

 

『正直に言いましょう。曹猛徳。

 あなたが曹操孟徳の名を名乗られるのは私にとって――――非常に不愉快です』

 

 

 

 

「・・・あの人は自分の過去に負い目がある人です。妬み憎んで嫉妬するばかりだった自分を正当化しながら生きてきた人です。

 だからこそ、身の程知らずな上昇志向の持ち主には憧れますし、素直な賞賛と期待も寄せる。そして――」

 

 それ故に、期待していた人が自分と同類だったと気づかされたときの衝撃にはヒドく弱い。

 誰にも見向きもしてもらえないゴミの中に眠る宝石の原石だと信じて、ずっと守り続けて見つめていたいと願った存在が、研磨したら他より大きいだけの石コロだったと知ってしまったとき。希望が絶望ではなく、失望に変わってしまったとき。

 

 闇ばかり褒めていた人間が希望の光に憧れて、資格がないのを百も承知で手を伸ばし。 

 慣れ親しんだ絶望ではなく、今まで他人に期待してこなかったが故に耐性が低い失望に包まれたとき。

 

 あの人は――――“私は”どうして衝撃から立ち直ってきたかを考えると心配にもなるのですよ。

 経験者としてはどうしてもね?

 

 

「ですので、今回のはまぁ・・・天野さんへのプレゼントみたいなものですよ。サイオラーグさんという方が、天野さん好みの英雄であってくれるなら万事すべてが上手くいくわけですから」

「はぁ~、なるほどー。いろいろ考えてらっしゃるんですねー。さっすがセレニア様だ-。

 ・・・でもさ?」

「ん?」

「それでサイオラーグって人が期待外れだった場合・・・・・・冥界どうなっちゃうんでしょうかね・・・?」

「・・・・・・言わないでくださいよ、それ。せっかく必死に目を逸らしている現実なんですから・・・」

 

 最悪、冥界だったら被害が人間界側に及び心配ないし・・・なんて、考えてないんですからね!? 勘違いしないでください! 図星を突かれてセレちゃん泣いちゃうかもしれませんよ!?

 

つづく

 

セレニアと甘粕夕麻の思想変化を解説:

例えとしてアクセラレーターを使用。

 

「俺はレベル5で最強だァーっ!」

 

上条さんに敗北。

 

「・・・正義ってすげェんだな。でも俺殺しすぎたしな。正義に憧れる悪ってところか」

 

 

セレニアと夕麻の場合

 

「人間なんて所詮こんな生き物さ~(子供観)

 

レイナーレ敗北。

セレニア、ヤン提督との出会いと理解。

 

「・・・人間は素晴らしい!」

 

*正義と悪も含めて人間が作り出した物全部を人の手柄と考えちゃった極論キチガイ二人組。


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