ガルパンエトセトラ!   作:トウフ

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※桃ちゃんの男女CP話です。百合好きな方はご注意下さい。



カメさんチームの桃ちゃんはポンコツ可愛い

 

 その日。戦車道の授業はいつものように河嶋桃が締めた。

 全国大会に優勝したからといって良い気になるなだの、今後も我々の腕に大洗女子の命運がかかっているだの、締めの訓示もいつもの通りだ。全員が辟易しているところだが、長い話でもないので、角谷会長や小山副会長も含めて良くも悪くも聞き流している。

 ただ、その日は河嶋桃の携帯電話が鳴って、訓示は途中で打ち切られた。

 

「なんだ、こんな時に」

 

 スカートのポケットから携帯電話を引っ張り出した河嶋は、そう毒づきながらディスプレイを見て、甲高い悲鳴を上げた。そしてそのまま完全に停止する。

 全員が雁首を揃えて不思議そうにする中、小山が声を掛けた。

 

「どうしたの、桃ちゃん」

 

 しかし、反応は無い。河嶋は硬直したまま動かない。その間も携帯電話は鳴り続けている。

 

「なになに、どうしたのー?」

 

 角谷がとことこと河嶋に歩み寄って、その脇から携帯の画面を覗こうとした。

 すると、河嶋は弾かれたように携帯電話を頭上に持ち上げて、背の低い角谷には見えないようにする。河嶋の顔は真っ赤で、左の片眼鏡も落ちてしまいそうなほどにズレていた。

 不可解な行動に、角谷と小山は眼を白黒させて。

 その間に、河嶋は全員を見渡して告げた。

 

「今日は解散! 西住、戸締りは任せた!」

「え? は、はい」

 

 大洗線車道チームの大黒柱に後始末を投げた河嶋は、脱兎の勢いでその場を離れて、格納庫の裏へ走っていった。

 果たして本当にこのまま解散してしまってもいいのだろうか。全員がそんな空気に包まれる中、引き継いだような形になってしまったみほが改めて解散を告げて、今度こそ今日の戦車道の授業は終了となった。

 銘々に散ってゆくメンバーの中には、河嶋のあの後が気にあっている者が多く、格納庫の裏を気にしていた。

 

「どうしたのかな、河嶋先輩」

「ご家族に何かあったのでしょうか?」

「五十鈴殿。それでしたら顔を真っ赤にしているのは不自然ではありませんか?」

「……挙動不審な河嶋先輩ははじめて見たな」

 

 沙織達の言葉に、みほも肯く。

 そうしていると、角谷と小山が格納庫の裏へ向かうのが見えた。覗きに行くらしい。

 

「ねね、あたし達も行こうよ!」

「え。でも」

 

 あの様子からして、とてもプライベートな内容の電話である。それを覗き見、もとい、盗み聞きするのはいけない気がした。

 

「そうですよ。電話の盗み聞きはプライバシーの侵害です」

「でも、冷泉殿の言う通り、あれだけ慌ててる河嶋先輩ははじめてですよ? これはちょっと気になります」

 

 窘める華と、それは分かっていても気になる優花里。麻子は一人興味が無さそうに欠伸をしている。

 みほも華と同じ意見だったが、気になったのは間違いなかった。

 生徒会に戦車道を履修するように半ば脅迫した時、みほが最も怖いと感じたのは河嶋である。なんというか、歯に衣着せぬ言動が黒森峰の逸見エリカに似ているというか。

 河嶋とは大洗戦車道チームの副隊長としても色々と話す事は多いが、あの高圧的な態度にはちょっとした苦手意識がある。

 そんな怖い河嶋桃先輩が顔を真っ赤にして狼狽していた理由は、ぶっちゃけ気になった。

 

「じ、じゃ……ちょっとだけ」

 

 沙織に負けるような形で、みほは角谷と小山の後を追って格納庫の裏へ回った。

 ふと背後を見ると、華も優花里も麻子も着いてきた。

 

「私も気になって」

 

 そう言いながら、華はもじもじと身じろぎをしていた。優花里も河嶋の態度が気になるようだが、麻子は面倒臭そうに眼を細めている。

 

「こういう時の沙織は無駄に鼻が利く。ほっとくと騒ぎを起こすからな」

 

 どうやら沙織の保護者役として同行するらしい。

 角谷と小山に混ざって、みほ達は格納庫の裏側を覗き込んだ。

 夕暮れ時の空間には、河嶋がポツンと一人で佇み、携帯電話を耳に添えている。

 いつもは超然と風を切っている肩が、今はとても心細く、ちょっとだけ震えているようだった。

 

「会長。あれってもしかして」

「あー多分そうだね。河嶋が慌てる理由ってそんなに無いしなぁ」

 

 どうやら彼女達は河嶋の変化の理由を知っているようだった。

 いけない事だと理解しながら、みほは聞き耳を立てる。

 

「この忙しい時に、一体何だ?

 ──い、いや、別に邪険にしている訳じゃない。今は、その、戦車道をやっていてな。生徒会の仕事もあって。

 ──ど、どうしてお前が、私が戦車道を始めた事を知っている!?」

「そりゃ全国大会はテレビで生中継されてたからねぇ」

 

 苦笑する角谷。

 公式戦の決勝戦は全国に生中継されていた。みほも、かつての親友達──小学校の同級生から決勝を見たと電話を貰った。近々会う約束もしているので、今の内から楽しみにしている。できればドイツに行った彼女とも会いたいのだが──。

 

「角谷先輩、小山先輩、河嶋先輩の電話の相手って誰なんですか?」

 

 沙織が鼻息も荒く訊ねる。その眼は獲物を捉えた獣のようだった。

 もしかして、色恋沙汰の匂いでも嗅ぎ取ったのだろうか。確かにあの上擦った声や赤めた頬からはそうした気配も感じられるが。

 

「河嶋先輩に彼氏がいるのは、ちょっと想像がつきません……!」

「仮にいたとすれば、そいつは聖人だ」

「優花里さん、麻子さん、それは流石に言い過ぎなのでは……?」

 

 やんわりと窘める華に、角谷が苦笑いを浮かべる。

 

「あれはあれでいつもいっぱいいっぱいなんだよ。色々大目に見てやってくんないかな」

「公式戦ではアンツィオ高校戦以外全部泣いてましたもんね」

 

 優花里が苦笑した。

 河嶋桃といえば、辛辣にして冷徹。横暴は生徒会に許された特権だと真顔で断言する人物である。性格も攻撃的で、冷静そうに見えて実は沸点が非情に低い。戦車に乗っている時はそれが顕著で、半ば暴走して感情的になる。でも泣き虫で、公式戦では何度も小山に泣きついていた。

 刺々しい態度なのに、何となく憎めないのは、本当の性格が知られてしまっているからだろうとみほは思う。

 泣き虫な自分を叱咤して誤魔化す為の仮面。それが日頃の冷徹な広報という顔だ。

 最初こそ怖かったし近寄り難かったけれど、あれは大洗女子学園を存続させようと悪戦苦闘して、精神的に余裕が無くなっていたからだと理解できる。背丈もあって、生徒会の中では一番大人というイメージがあるけれど、本当は一番子供な人なのだ。

 

「で。あの電話、誰なんですか!? 彼氏なんですか!?」

「武部ちゃん、近い近い……! えーと、彼氏ではないかな。な、小山」

「私と会長が知ってる範囲ではそうですね。あの様子だと、全然進んでいないと思いますけど」

「だから一体誰なのー!?」

「沙織さん。少しお静かに」

 

 華に口を押さえられた沙織は、不満そうにしながらも黙った。

 角谷が続ける。

 

「幼馴染だよ。一つ年上の男子。今は東京の大学に通ってる」

「……イケメン?」

「贔屓目無しで格好良いかな」

 

 小山が笑顔でそう答えると、沙織は衝撃を受けた様子でその場に膝をついてしまった。

 

「河嶋先輩みたいにムチャクチャな人にも彼氏がいるのに……あたしには……!」

「いや。だからまだ彼氏じゃない……と思う。少なくともあたしや小山が知る限り、付き合ってはなかった筈だからね」

 

 それでも、河嶋桃にそうした異性がいるのは意外だった。

 全員がひっそりと息を潜める中、河嶋の電話は続く。

 弾む声を必死に抑えたような、ちょっと低い声で。

 

「な、泣いてなどいない! 全国大会の時は、その、何というかだな……! だ、誰が泣き虫桃ちゃんだ! 貴様が桃ちゃん桃ちゃんと呼ぶから、柚子が真似をして!

 ──グロリアーナの時から見ていただと!? あの時大洗に戻って……じ、じゃあんこう踊りも見たのか!? 忘れろ! 今すぐ忘れろ! あれは会長の命令だったんだ! 広報の私に拒否権などある筈無いだろう!

 ──き、帰省していたのなら、どうして電話の一つも寄越さなかった。私達が最後に会ったのはいつだ? もう二年くらい前だろう? 柚子もきっと喜ぶぞ。私も、その、少しだけ……嬉しい。

 ──ふん。貴様はそうやって柚子の胸ばかり追いかけていればいいさ。私だってこの二年で少しは──っ! 何を言わせるのだ貴様! 変態めぇ……!

 ──戦車道か? そうだな。一時はどうなる事かと気が気でなかったが、皆のお陰で何とかなっている。特に西住……ああ、あの西住流の娘だ。二年生で大洗に転校して来てな。あの子がいなければどうにもならなかっただろう。感謝している……だ、だから泣いていないと言っているだろうがぁ!」

「あれ大泣きだったよねぇ、小山」

「そうですねぇ会長」

 

 公式戦で黒森峰を下した時、声を上げて子供のように泣きじゃくる河嶋が印象的だった。

 この人は本当に大洗が好きだったのだろうなと感じた。

 大洗女子学園が、河嶋にとって故郷の一つなのだろう。

 そんな故郷を守る事に少しでも貢献できて良かった。

 そういえば、と。みほは実家を思い出した。公式戦が終わってから数日後、母親のしほから連絡があったのだ。一度帰省しろというお達しである。

 正直、怖い気持ちがある。

 でも、電話から聞こえた母の声は、みほが知るどの母よりも優しかった。

 こっそり姉のまほに連絡すると、その時は自分も一緒に帰省してやると言ってくれた。

 そんな姉が、とても嬉しくて。帰省した時には、昔のように色々と話ができるかなと期待もしている。

 河嶋の電話は続いていた。夕暮れに照らされたその横顔は、とても嬉しそうで。

 これは、恋する少女の横顔だった。

 こんな顔もするんだな、とみほは思う。

 

「卒業後か? ん……まぁ、進学の予定だ。あ、ああ、その……一応、第一志望は……ぐ、偶然だ! 私が行きたかった大学に、偶然貴様がいるだけだ! 何を嬉しそうに笑っている、ええい気持ち悪い! か、かかかかか、勘違いするなぁ!」

「物凄い直球のツンデレだよね、あれ」

「ツンデレ? 武部殿、ツンデレってなんですか?」

「河嶋先輩みたいな人の事だよ、ユカリン」

「確か、普段はツンツンしてますけど、好きな人と二人きりになった時はデレデレしちゃう人の事、でしたよね?」

「そんなもの、漫画の中だけだと思っていたが」

 

 しみじみと呟く麻子に、みほも肯く。まさか河嶋が世に言うツンデレだったとは。

 

「でも、河嶋って成績結構酷かったよな」

「結構どころかボロボロです。あの人の大学は偏差値がかなり高かった筈ですから」

「こりゃ明日から特訓してやらないとねー。西住ちゃん、そういう訳で、カメさんチームは戦線離脱するから。宜しくねー。紅白戦する時とかは参加するからさー」

「え!? は、はい、分かりました」

 

 河嶋の学業成績が芳しくないのは、これもまた意外だった。才女なイメージがあったのだが、どうやら違っていたらしい。

 

「──勉強を見てやろうかだと? 東京にいる貴様がどうやって……夏休みには戻る……せ、せっかくの休みをそんな下らない事で潰すつもりか? 心配いらん、自分の面倒くらい自分で見る。貴様は自分の心配でもしていろ。夏休みなんだ、い、いいい……一緒に遊ぶ女とか、いないのか……? いない? と、当然か。貴様は顔はいいが、あ、後は本当にてんで駄目だからな。あ、あはははははははははは」

「あれ、絶対に安心してるよね」

「頬が緩まないように物凄く頑張って抓ってますね」

 

 沙織と優花里が言った通り、河嶋は空いた手で自分の頬を思い切り抓っていた。それでも顔は笑顔である。

 

「そういう事なら、大学一年生の夏を一人で過ごす寂しい貴様の為に勉強を見させてやってもいいぞ? 場所は……わ、私の家は駄目だぞ。男子禁制だ。だ、だから貴様の家で……駄目、か? そ、そうか。なら帰省前に連絡を寄越せ。待ってる、から。

 ──チョーカー? た、たまに着けてやっているぞ。公式戦の決勝でも着けていた。ああ、お前が私の入学祝いにくれたものだからな。気が向いた時に着けているぞ」

「河嶋先輩が毎日着けてるあのチョーカーって」

 

 みほが呟くと、角谷が肯いた。

 

「そー。その幼馴染が、河嶋が大洗女子に入学する時に贈った奴だね」

「ゴスロリっぽいデザインで、ちょっと意外だなぁと思ってたら、そういう事か」

「桃ちゃんは元々ゴスロリ趣味だね。私服の殆どがフリフリ付いてるのなんだよー」

 

 小山がニコニコしながら言うと、角谷を除く全員がびくっと肩を震わせた。

 あの河嶋桃がゴスロリ趣味──。

 

「これが……これが俗に言うギャップ萌えって奴なの……!? 流石河嶋先輩……!」

「五十鈴殿、ギャップ萌えとはなんですか?」

「さぁ。私もそうした知識は疎いので分かりません。みほさん、分かりますか?」

「え、えーと、多分河嶋先輩みたいな人の事を言う……んだと思う」

 

 日頃ツンツンしている人がデレた時に発生するギャップ、その差に胸がキュンと鳴ってしまう事だ──というのは、読んでいる少女コミックから得た知識である。みほもそのあたりはよく分からない。ただ、姉のまほが時々見せてくれる笑顔は凄くいいなーと思う。

 河嶋の電話は続く。

「分かった。じゃ戻ってくる前には連絡をしろよ。べ、別にその、そういう用が無い時でも、電話でもメールでも、何でもしてくれても構わんが……。

 ──わ、私の方からはせんぞ。生徒会の仕事の上に戦車道をやっていて疲れるんだ。時々なら……お前がしてもいいというなら、メールの一つや二つ、してやってもいいが。

 ──本当、か? つまらん用事でもいいのか?

 ──よ、よし。なら、気が向いたらしてやる。いいか、気が向いたらだ。勘違いするな。

 ──戻ってきた時に、か? まぁ、別に一緒に出かけるくらいなら構わんが、柚子や会長も……二人、で……? ぇ、ぅ……お前が、いいというのなら……うん。私は、構わない」

 

 うつむく河嶋。夕焼けが彼女の顔に強い陰影を作る。その中でも、赤色の頬はよく見えた。

 

「──ああ、分かった。じゃ、楽しみにしておく。うん、また、な」

 

 そうして、とても名残惜しそうに河嶋は電話を切って。

 愛しそうに携帯電話を胸に抱いた。

 あどけない笑みが、その顔には浮かんでいた。それはきっと、極々限られた人にしか見せた事の無い優しい表情だ。

 一生懸命で、それでいて、可愛い人だなと、みほは思う。

 嬉しさを湛えた眼が片眼鏡の中で潤んでいて。

 その視線が、ふとした瞬間に、格納庫の影に隠れているみほ達に向いた。

 

『あ』

 

 異口同音。

 河嶋が震えた指でゆっくりとみほ達を指差す。

 

「い、いつからそこに……?」

「河嶋が、どうして私が戦車道を始めた事を知っている!? って顔真っ赤にして怒鳴ってたあたりかな? いやー凄く気になっちゃってさー」

 

 悪びれた様子も無く言った角谷が、ニヤリと笑った。

 

「で。最後のはデートの約束?」

「うあああああああああああああああああああああああ!」

 

 河嶋の絶叫が夕闇の中に轟く。猛ダッシュで迫る河嶋に、みほ達も大慌てで逃げ出した。

 

「会長! なんで自分から白状するんですか!?」

「その場のノリだよノリ! ほらほらそんな事言ってると捕まって何されるか分かんないぞ小山ー!」

「これ捕まったらアンコウ踊りですよ、絶対!」

「あれを母に見られたら二度目の勘当を言い渡されてしまいます……!」

「どうして河嶋先輩に恋人がいて私にはいないのー! やだもー!」

「こういう事をするからだ」

「ご、ごめんなさい河嶋先輩!」

「ごめんで済めば戦車は要らんのだ! 絶対に許さんぞ貴様等! ヘッツァーの砲身に詰めて撃ち出してやる!」

 

 いけない。あの眼はマジだ。マジでヘッツァーの砲身で撃ち出されかねない。

 結局その日は何とか逃げられたが、翌日の戦車道の授業でこってりと油を絞られた。

 それはそれで大変だったけれど。

 河嶋桃という人の事が少し分かって、良かった。

 そしてその河嶋というと。

 

「河嶋先輩! いくら理解のある彼氏でも、ゴスロリでデートに来られたらドン引きされますよ!」

「ば、馬鹿を言うな! あいつは私の趣味に理解を示してくれているぞ!」

 

 恋に恋する武部沙織と色々揉めるのだが、それはそれで、また別の話である。

 

 

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