摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について 作:ミカヅキ
~ルフィたちと別れてから数時間後~
「ウソップくん……?」
突然、大きな気の乱れと複数の殺気を感じ、新聞をめくっていた手を一旦止めた。
ウソップが誰かに襲われている。
ガタッ……!
立ち上がった衝撃で椅子が倒れたが、助けに行く為に構わずに部屋を出ようとした時、不意に「原作」を思い出した。
(そうか…!ここがターニングポイントなんだ……。)
記憶が確かなら、ウソップを襲っているのはフランキーの手下だろう。
そして、船を修繕する為の金が奪われ、それがきっかけの1つになって1度ウソップは一味から離反する。
しかし、奪った金でフランキーが新たな船を造るのだ。
そして、1度起こった離反が一味の絆をより強固なものへと変える。
言わば、これは予定調和である。起こるべくして起こる、避けられない運命。
ここで
彼らが新しい船を手に入れないと、今後の彼らの旅にも支障が出るだろう。
(サニー号?だかじゃないと、逃げられなかったり危なかったこともあった筈だし……。)
確か、新しい船がやたらハイテクでそれで一味がずいぶん助かっていた筈だった。
(余計なことしない方が良いみたいだな~…。)
落ち着かないが、ある程度事態が進展するまで彼らと接触しない方が良さそうだ。
その後、夜も更けてルフィとウソップが戦っているのだろう、気のぶつかり合いを探りながら、ジャスミンは焦れながらも宿の部屋で時が過ぎるのを待っていた。
部屋で勝負の行方を確認した後、就寝したジャスミンだったが、深夜、不意に気の大きな乱れを感じ取った。
「………!?」
ガバッ…!
同時に激しい胸騒ぎを覚え、飛び起きる。
「今のは…。」
意識を集中させると、感じ取った気が少しずつ弱々しくなり、どうやら誰かに襲われたらしいことが分かる。
すぐに命に関わる程では無いが、このまま朝まで放っておけば確実に死ぬだろう。
助けに行くか、とベッドから出ようとしたところで、襲われたらしい方の気の持ち主のところに複数の人間が近付いていくのを感じた。
急激に気が入れ替っているようで、人の行き来が激しくなってきたようだった。
どうやら誰か第三者に発見されたらしく、弱々しく揺れていた気が弱いながらも安定していく。
(大丈夫そうだけど…。一体誰が?)
襲われたらしい気の乱れは感じ取れたが、加害者の殺気といったものは一切感じ取れなかった。
(私が気付かなかった?まさか。)
確かにこの世界は争いごとに満ちている。この島でも、あらゆる場所で争いが起きている。
その全てを感じ取れる訳ではもちろん無い。意識すれば造作も無いが、一々些細な小競り合いを感じ取るのはキリが無く、ジャスミン自身も疲れてしまう。
普段はそこまで感知能力を働かせていないが、それでも大きな気や殺気まで感じなくなる程感覚を鈍らせた覚えは無いのだ。
なのに、さっきは襲った側の殺気は全く感じ取れなかった。まるで
そこまで考えてハッとする。
「殺す気が無かった…?目的は殺すことじゃなくて、何か別のことだった?」
(ちょっと待ってよ…。この島で麦わらの一味の離反の他に起こったのは……。)
既に朧気となっている原作知識を必死に探る。
「あ。」
(市長さんが襲われたんだ。)
となれば、殺気を感じなかったのも頷ける。
確か彼を襲ったのは政府の組織だった筈だから、目的は命ではなく別のことにあったのだろう。
敢えて死なない程度の傷しか負わせなかったに違いない。
(何で襲われたんだっけ?)
肝心なところを全く覚えていない。
さらに言うなら、何故ロビンが政府に捕まったのかという理由も覚えていなかった。
市長が襲われたことと関係があった筈、という程度の知識しか残っていないのが辛い。
(朝になったら調べてみようかな・・・・。)
朝になれば恐らく島中の人間の知るところとなる。
相手が政府の組織なら情報操作をしてくるだろうが、それならそれで何が目的なのかわかりやすくなるだろう。
早朝に動き出すことに決め、その場は寝直すことにした。…すぐに眠れるかどうかは疑問だったが。
~翌朝、造船所1番ドッグ入口~
ヒュオオォォォ……
強い風が絶えず吹き付け、ジャスミンの髪を揺らしていた。
「何かコメントを!!」
「犯人は何者なんですか!!?」
「最新の情報をお願いします!!」
「第1発見者は誰ですか!!?質問させて下さい!!!」
「フランキーハウス壊滅と何かつながりが!!?」
昨夜気の乱れを感じた現場に行こうとしたのは良いが、場所はガレーラカンパニー本社内だったらしく、入口である1番ドックの前には野次馬と記者でごった返していた。中には関係者か特定の記者しか入れないようになっているらしく、とても様子を窺えそうに無い。
舞空術でなら簡単に入れるだろうが、さすがに誰にも見つからずに情報収集ができるか、と言われれば穏便に済ませられる自信は無い。見つかる前に全員気絶させるというなら話は別だが・・・・。
遠目にドックの入口を窺いつつ、号外に目を通す。
(どうしよっかな…。)
新聞社も情報を掴みかねているらしく、発行された号外も市長‐アイスバーグが襲われた、という以上のことは書いていない。犯人の目的も侵入経路もいまのところ掴めてはいないらしい。
取り敢えず事態が進展するまでは様子見か、と一旦宿に戻ろうとした時だった。
ウゥゥ――――――ッ…ウゥゥ―――――ッ
『お知らせいたします―…』
『こちらはウォーターセブン気象予報局―…』
『只今―…島全域に“アクア・ラグナ”警報が発令されました』
『繰り返します。只今―…』
「アクア・ラグナ?」
何だったっけ?何か響きは聞いたことあるんだけど…。などと思っていると、今の放送を聞いた周囲がにわかに騒ぎ出した。
「アクア・ラグナが来るぞー!」
「避難の準備をしろ――――!!」
「アクア・ラグナが来る!」
アイスバーグの容体を知ろうと騒ぎ立てていた野次馬たちも、記者を残して皆散って行く。
「あの、アクア・ラグナって何ですか?」
そのうちの中年の主婦らしき女を呼び止め、尋ねる。
「あら、あなた観光に来た人?タイミングが悪かったようね。今から高潮が来るのよ。アクア・ラグナっていうのは、毎年この時期にウォーターセブンに来る高潮のこと。」
「高潮が?」
「ええ。ちゃんと高いところに避難しないと…。裏町の辺りは完全に海に沈んでしまうくらいなの。」
「海に沈むくらい!?」
「そう。この辺りまで波が来ることは滅多に無いんだけど…。年々規模が大きくなっててね。あなたも荷物を纏めて避難した方が良いわよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
そう言って足早に去って行く女を見送り、宿に戻ろうとした時だった。
「あ!!おーい、ジャスミン!!!」
「え?」
振り向くと、ヤガラブルに乗ったルフィとナミが水路からジャスミンに向かって手を振っている。
「ルフィくん?ナミちゃん?」
「ジャスミ―――ン!!」
「お前も来てたのか━━━!」
「ちょっと待ってて、今そっちに行くから――――――!」
急いで待たせていた自分のヤガラブルに乗り込み、2人の元に向かう。
「2人も来たんだね。」
「ええ。私たち、昨日あれからアイスバーグさんのところに船の修繕を頼みに行ったのよ。それで心配になって…。」
「どの道、もっかい遭わなきゃなんねェんだけど…。アイスのおっさんには。」
「本社には行けないみたい。1番ドックの中から入るらしいんだけど、門の中には関係者か特定の記者しか入れないって。ここに集まってるのは、入れないことは知っててもそれでも何か情報が聞けないかどうか心配で集まった人たちらしくて……。」
話しながらドッグの入口に集う野次馬に目をやる。
「……すごい人望…。近付けそうに無いわね。」
「…………。」
ジャスミンとナミのやり取りをルフィは無言のまま見ている。それに気付き、ナミが宥めるように声をかけた。
「そのうち新聞ででも安否はわかるわよ。」
「ルフィくん…?」
ジャスミンもルフィの様子を伺う。
怖いくらい硬い表情で黙ったままのルフィに、どう声をかけたら良いものか、と思っていた時、どこからともなく妙に軽快なリズムが聞こえてきた。
ズン♪ズン♪ズズズン♪
ザワッ…!
「何だ!」
「!!?」
周囲がそれを受けて突然ざわつき始めた。
ズン♪ズン♪ズズズン♪
ズン♪ズン♪ズズズン♪
「うわあ!!こ・・・、このリズムは!!!」
「まさか!!そんなバカな!!!」
「「「?」」」
いっそ過剰にまで反応している周囲に、ルフィやナミと顔を見合わせる。
「ヘイお前たち。おれの名を今呼んだのか?」
「?誰の声?」
たぶん、この音楽を流しているらしい男の声が聞こえるが、それにしてもこの周囲の反応はやや過剰である。
「呼んでねぇよ!!!どっかいけー!!」
「どこにいるんだ!!!どこだ!!?」
「あ!!!」
ズン♪ズン♪ズズズン♪
「いた――――――!!!あそこだ―――――――!!!」
「出た―――――――――――!!!」
「リズムに乗ってる――――――!!!」
1人が指差した方向を見ると、橋の向こうの屋根にスクリーンのようなものが張られている。スクリーンの裏側でリズムに合わせて踊っている3人組の影が、スクリーンに映っていた。
どうやら、中央の男が声の主のようで、時々アウ!!と合いの手を入れつつリズムに乗っている。
ズン♪ズン♪ズズズン♪
「恥ずかしがらずに聞いてみな!!おれの名を!!!」
「聞きたくね――――――!!消えろ――――――!!!」
「アイスバーグさんを襲ったのはお前だろ―――――――――――!!!」
「ええ!?あいつが!!?」
「そうに決まってる!!」
「この島から出ていけ――――――!!」
「しばり首だ――――――!!!」
「このチンピラ―――――――――!!」
ズン♪ズン♪ズーズーズーン♪
「アー、うるせェハエ共め。ここに麦わらのルフィってのがいる筈だ!!出て来い!!!」
思わずバッとルフィを振り返る。
「?」
「え!?」
肝心のルフィもナミも心当たりは全く無いようだったが。
「おれはこの島一のスーパーな男!!ウォーターセブンの裏の顔!!!」
言葉と同時にバサァッ・・・・!!とスクリーンが後ろに放られた。
「そうだ、おれは人呼んでワァオ!!!ん――――――――――!!!フランキ―――――――――!!!!」
ドドォン!!!とポーズを付けた海パン姿の大男と、四角い髪型の両サイドの女性の姿が明らかになる。
「うわああ!!!ここで暴れ出すぞ――――――!!!逃げろー!!!」
わーわーと周囲の人間が慌てて避難しようとしている。
「出て来い“麦わらァ”!!!」
サングラスを親指で押し上げたフランキーが叫ぶ。
「……何だあの変態…。」
あのルフィですら“変態”呼ばわりする変態っぷりである。
(実際に見てみると、色々予想以上・・・・・。)
ジャスミンも思わず引いた。
「……!フランキーって…言わなかった!!?」
「……!!?あいつが……!!!」
ナミの言葉にルフィが激昂する。
(そう言えば、最初はウソップくんのことがあったから敵対してたんだっけ?)
「おい!!!海水パンツ!!!」
「ルフィ!!」
「あン!!?」
「おれがルフィだ」
ナミの制止も間に合わず、ドン!!!と2人がお互い睨み合う。
ザワ・・・
隣から感じるルフィの気迫に思わず皮膚が粟立つのを感じる。
一波乱だけでは済みそうになかった……。