摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について   作:ミカヅキ

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すいません、エニエス・ロビーまで行きませんでした……。次こそは必ず!!


第21話 激突!2人の剣豪

 ジャスミンたちが中に戻ると、すぐさまナミがルフィを呼ぶ。どうやら、先行した海列車に密航していたサンジからナミに通信が入ったらしい。

 フランキー一家がジャスミンを見て軽くざわざわしていたものの、ジャスミンがナミたちの近くに寄るのを見て、通信の邪魔をしないようにか直接話しかけてくる者はいなかった。

 まぁ、この世界には悪魔の実の能力者がいる為、奇特な力にも多少耐性があるのだろう。

「サンジ――――――っ!!そっちどうだ!?ロビンは!?」

 ナミから子電伝虫を受け取り、ルフィが通信に出る。

『ロビンちゃんは……。まだ捕まったままだ。ナミさんから今、事情を聞いたとこだ。…全部聞いた…。』

 子電伝虫の口からサンジの声が聞こえてくる。

 ……いつも思うが、巨大なカタツムリが喋るというのはかなりシュールな光景である。

 通信の邪魔にならないように傍らで静かにしながら、ジャスミンの思考が明後日(あさって)の方向に逸れる。カタツムリ型の機械、というのならまだ理解出来るのだが、生きているカタツムリというのが不気味だ。

 しかも、個体によっては受話器を取り付けられるなど多少の改造を受けていたりしているのだから、動物愛護的な意味でアウトな気もするのだが……。

 プッ!ツー、ツー…

「終わったの?」

 通信が切れ、眠り始めた子電伝虫を見ながら尋ねる。

「おう!ばーさん、列車もっとスピード出してくれ!!」

「もっと!!?安心しな。…もう既に船の限界速度を超えてるよ!!もう自力じゃ止まれねェ程にね!!んがががが!」

 サンジに暴れて良いと許可を下したルフィが、ココロに更なる加速を要求していた。

「大丈夫かしら、サンジくん…。」

 ナミが眠った子電伝虫を手に呟く。

「私はそのサンジさんって人を直接は知らないけど……。海列車に密航したり、連絡手段の子電伝虫を残していくくらいだから、きっと頭の回転が速い人なんでしょ?上手く立ち回れるんじゃないかな?」

「……そうね。」

 ジャスミンの言葉に頷いたナミだったが、納得してたというよりも自分に言い聞かせているように見える。

「このスピードで行けば、エニエス・ロビーに着く前に追い付けるかもしれない。戦闘に備えておこうよ。」

「ええ。」

 ナミが半ば無理やりに自分を納得させる。

「ん?」

 不意にジャスミンが前方に目をやった。

「どうしたのよ?」

「ん~…。ちょっと屋根にいるね。」

 そう言い置いてジャスミンが再び窓から車外に出る。

 雨風が激しく吹き付けるなか、“ロケットマン”のヘッド部分、鼻先にあたる部分に降り立ち、意識を前方に集中させた。

「戦闘中・・・・かな?」

 まだ多少の距離があるが、一定の速度で前方に進んでいるのにも関わらず気を高ぶらせている集団を感じ取る。

 たぶんこれが先行している“パッフィング・トム”だろう。

「?分かれた?……列車が分断したかな?」

 集団が2分されたのを感じ取る。

 一方は相変わらず前進しているが、もう一方は徐々にそのスピードを落としていた。

 進んでいる方も速度が先程よりも上がっているので、車両を分断させてスピードを上げたのかもしれない。

「まずいな……。このままのスピードで進まれると、追い付くより先に向こうの方が着いちゃうだろうし。」

 何より、置き去りにされた方の列車と衝突することになる。

 “ロケットマン”もかなりのスピードで進んでいるのだから。

 自分が飛んで行って線路から残った方の車両をどかすべきだろうか。

「いや、でもそれだと船と違って列車だから沈んじゃうしな……。」

 どかすのは自分でも出来るが、さすがに持ち上げてどこかに運ぶのはキツい。

 一般的な同年代の女子に比べれば鍛えているが、ジャスミンは純粋な地球人である。いくら鍛えていても、純粋な腕力は、一般的な成人男性と大して変わらないのだ。

 打撃などの場合は、瞬間的に威力を上げることは出来るが、持ち上げるなど持久力が必要な事態においては目立った活躍は出来ない。

 そもそも、ジャスミンが得意とするのはそのスピードでもって相手を翻弄し、的確に急所を狙うという戦闘スタイルである。天下一武道会で一時(いっとき)でもトランクスを圧倒出来たのは、トランクスが持ち直す前に自分のペースに持っていったことにある。

 典型的な短期決戦型だが、腕力や持久力の不足を自身が理解しているからこそ得意なスピードに磨きを上げたのだ。

 少しでも欠点を解消しようとはしているが、元々筋力が付き難い体質ということもあってなかなか上手くいっていないのが現状である。

 

 閑話休題

 

 さてどうしようか、とどんどんと近付く“パッフィング・トム”の車両と“ロケットマン”に頭を悩ませている時だった。

「いよっと!」

 したんっ!と音を立ててルフィがジャスミンのすぐ後ろに着地した。

「あれ?ルフィくん?」

「おー!ジャスミン。何やってんだ?」

「いや、それはこっちのセリフだけど・・・・。」

「おれは“バッシング・トム”がまだか見に来たんだ!!」

「“パッフィング・トム”だよ。あれ?服着替えたの?」

「おう!戦闘準備だ!!」

「へぇって、それどころじゃない。このまま進むと切り離された車両とぶつかっちゃうんだよ!」

「切り離された車両?何で分かんだ?」

「気配で分かるんだってば!それより、後2~3分でぶつかるけど、どうする?!50人くらい乗ってるみたいだから、さっきみたく吹き飛ばそうにも出来なくて……。」

 呑気なルフィにジャスミンも声を荒げる。

「サンジはいるか?」

「私はサンジさんに会ったこと無いから分かんない。でも、“パッフィング・トム”で戦ってる人たちが何人かいるけど、動いている方に乗ってるみたいだよ。」

 そんなことを話していた時だった。前方に、波に翻弄されている海列車の車両を発見する。

「おい、おめェら!!前に列車が見えた!!!」

「え!!?」

 ルフィの叫びに、(にわ)かに“ロケットマン”の中が騒がしくなる。

「中身確認して来る!!“ゴムゴムの”……!!」

「ちょっとルフィくん!?」

「“ロケット”!!!」

 ドギュゥン!!!

 止める間も無くルフィが前方の車両に突っ込んだ。

 車両を確認するべく、ゾロやタイルストンたち、ザンバイらも出て来た。

「麦わらさんは!?」

「…今さっき、前の車両に突っ込んで行きました……。」

 溜息を()きながら前方の車両を指差し、ザンバイの質問に答える。

 そしてそんな話をしている間に前方の車両が何やら騒がしくなってきた。

「!麦わらさんが出て来たぞ!!」

 何やら頭の上で腕をバツ印に交差させている。

「…サンジさんたちはいないってことかな?」

「誰もいねェって撃たれながら!!」

 ザンバイが後方に向かって叫ぶ。

「ということは、あの人影は全部政府の人間ってことか。……どうします?あの車両どかさないと、私たちもただじゃ済まないと思いますよ。」

「よし!じゃあ、おれたちがぶつかる寸前で解体してやる!!」

「よォし!!おれたちも乗った!!!」

 ザンバイの叫びにタイルストンが同意する。

「おーい、ゾロ~~~~~~!!!」

「ロロノアさん!!ルフィくんが呼んでます!」

 もはや目前に迫りつつある車両を前に、ジャスミンがゾロを呼ぶ。

「斬れ。邪魔。」

「ああ。」

 端的なルフィの要求にゾロが応じる。

「斬るったって…。」

「――――――荒廃(こうはい)の世の自我(エゴ)。」

 腰に(たずさ)えた刀の鯉口(こいくち)を切る。

「斬り裂けり。二刀流“居合(いあい)”。“羅生門(らしょうもん)”!!!!」

 ザン!!!

 言うや否や、瞬時に抜刀した2本の刀で追い付き様に車両を斬り裂く。

「「「「「!!!?え~~~~~~っ!!?」」」」」

 某神のごときリアクション、3度目である。

 一方ジャスミンはと言えば、

「凄い…。これだけ綺麗に斬ってるのに、1人も殺してない……!!」

 誰1人として斬り捨てること無く、車両を分断してのけたゾロを感嘆の眼差しで見詰めていた。

 これだけの人数が乗っている車両を、正確に人と人の間を()うようにして両断するとは…。

 ただ斬り裂くだけなら、名のある剣豪なら可能だろう。

 だが、1人も傷付けること無くやってのけるのは並大抵の技量ではない。剣のことなど欠片も分からないジャスミンだが、彼女とて武道家の端くれである。例え畑違いであっても、その技量の凄まじさだけは見ていて分かった。

「よ!」

 トン!

 と、ルフィが“ロケットマン”に戻って来るのとほぼ同時にゾロの刀が(さや)に納められた。

 ザザァァ…ン!!!

 同時に両断された車両が、それぞれ着水する。幸い、分断された車両が船のように浮いている為、乗っていた海兵や政府の人間たちも全員が無事のようである。

「あのなお前ら、そういうことやるんなら前もって一言くらい!」

「聞こえたろ。“斬れ”って。」

「斬れると思わねェしよ!!」

「あんな怪物でも一味の(かしら)じゃねェのか……。」

 ルルがルフィに食ってかかり、ザンバイが半ば放心状態で呟いているのを聞きつつ、ジャスミンが前方に目をやる。

 どうやらゾロも気が付いているようで、前を見据えて目を離さない。

「……おい、お前ら!!まだだ……!!!」

 腕に巻いていた黒い手ぬぐいを頭に巻き直しながらゾロが唸るように言う。

「……相手もまた、無類の剣士みたいだね…!」

「え?ウゲ!前見てみろ!!!」

「か…海王類が真っ二つ!!この列車の5倍はあるぞ!!」

 線路を中心に、斬り裂かれた巨大な海王類の死体が海を漂う。

 そして、荒れ狂う波間を漂う線路の上に1人の人影が見えた。

「誰かいるぞ!!」

「あァ!!!ありゃ“船斬(ふねき)り”だァ!!!」

「?ふねきり!?」

 ザンバイが叫ぶ。

「あいつは“海軍本部”の大佐“船斬(ふねき)りTボーン”!!!海賊船をステーキみてェに斬りオロしちまう男だ!!一体何でこんな所に!!?」

「……詳しいですね。」

 この視界の悪さの中、良く見知った相手ならともかく噂程度にしか知らないだろう相手を誰だか判別するとは。

「まぁな!ってそれどころじゃねェ!!野郎共!!!砲撃準備!!!」

「「「うおお―――――!!!」」」

「待て!!!」

 すぐさま砲撃に移ろうとしたフランキー一家をルフィが制止する。

「何すか!!急がねェと、この海列車スパッといかれちまいまっスよ!!?」

「お前さっき何見てたんだよ。ゾロに任せろ。邪魔すんな!!」

「既にロロノアさんはそのつもりみたいですよ。」

 そう。ゾロは既にあの海兵を自身の相手とみなしている。

「1度だけ言うぞ!!!道を開けろ!!!」

「ここは正義の起因(おこり)へと続く道なり!!!」

 ゾロの警告に、海兵が叫び返す。

「私は“海軍本部”大佐!!!生き恥など(さら)さぬ!!!貴様らなど真っ二つにして止めてくれる!!!」

「そうもいかねェ!おれたちの目指す場所はお前のいるその先にあるからな!!!」

「来い!!!」

「あの海兵も強いね…。」

 それも、確固たる“正義”を秘めている。見せかけだけでなく、本当に民間人のことを考えている人間なのだろう。

 その叫びからは、絶対にここで足止めをする、そんな強い意志がひしひしと感じられた。

 恐らく勝負は一瞬。

「曲がった太刀筋(たちすじ)大嫌い!!直角飛鳥(ひちょう)…“ボーン”……!!」

「“三刀流”“牛鬼(ぎゅうき)”。」

「“大鳥(オオドリー)”!!!!」

 ビュオ!!!

 ギキン!!!

 海兵の放った斬撃が直角に曲がりゾロを襲うが、それはゾロによって弾かれる。

 刹那―――――、

「“勇爪(ゆうづめ)”!!!!」

 ドン!!

 ゾロの斬撃が海兵を線路から弾き飛ばした。

 ザバァ…ン!!

 海兵が海に落ちる。幸い、傷は致命傷には至っていないが、このまま大荒れの海を漂っていては命はあるまい。そもそも、意識があるかどうかも怪しい。

「うお―――――!!!」

「“船斬(ふねき)り”に勝った~~~~~~っ!!!」

「……ルフィくん。私ちょっと外すね。」

 ザンバイらが喜びに沸く中、ジャスミンがルフィに告げる。

「んあ?どこ行くんだ?」

「あの海兵拾って、さっきの車両の人たちの所に置いてくるよ。」

「おいおい!相手は海兵だぞ!?」

「わざわざ捕まりに行くようなもんだ!!!」

 ザンバイらが途端騒ぎ出すが、ジャスミンはルフィの目を真っ直ぐに見据えていた。

「―――――相手は海兵だぞ?」

「私は海賊じゃない。――――もちろん、向こうがそんな理屈を聞いてくれるとは思わないけどね。でも、ここで彼を見捨てるのは私の武道家としての主義に反するんだ。」

「勝負の結果だ。向こうは怒るんじゃねェか?生き恥だどうこうって叫んでたしな。」

「だろうね。――――でも、彼はこんな所で死んで良い人間じゃない。この大海賊時代、腐り切った名ばかりの“正義”が横行している中、彼が掲げる“正義”は本物だ。純真、と言い換えても良い。ルフィくん、私は彼のような真っ直ぐで気持ちの良い“正義”を掲げる海兵を初めて見たよ。彼は本当に民間人のことを考えている人だ。」

「そっか。うし、分かった!」

 同じくジャスミンの目を真っ直ぐに見ていたルフィは、彼女の思いを汲み取り頷いた。

「応急手当して送り届けたらすぐに追いかけるよ。」

「おう!後でな!!」

 手を上げて応じるルフィに手を振り返し、ジャスミンは先程の海兵を拾うべく、舞空術で“ロケットマン”から飛び立った。

 

 

 

 




ジャスミンは実戦に出たのはワンピース世界が初めてな上、ドラゴンボール世界ではただ武道の心得があるだけの中学生だったので人の死に直面するような戦いに慣れていません。ワンピース世界にきて半年経っている為、“男のメンツ”や“プライド”、それぞれの考えなどに対しては多少の理解がありますが、殺し合いはちょっと…、という感じです。
これがよっぽどの悪党や人間的に屑だったら、もしかして助けなかったかもしれませんが、今回はたまたま立場的に敵対関係になってしまっただけの善良な海兵だった為、死ぬかもしれないのを見過ごせませんでした。
たまたまお互いの主張がすれ違っただけで、仲間を助けたいルフィたちも、民間人を守る為に“海賊”を見逃せない、というTボーンもどちらも間違ってはいません。“弱者の為”というTボーンの“正義”を、“守る”為の強さを求めるジャスミンは武道家として共感してもいます。ジャスミンは“海賊”ではなく、“友人”としてルフィたちに加勢している為、そこの主義は曲げませんでした。仮に海賊になっても曲げない気はしますが…。
長くなりましたが、そんな考えの下、ジャスミンはTボーンを助けに行きました。

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