摩訶不思議アドベンチャーな世界に転生したかと思ったら一繋ぎの世界にトリップした件について   作:ミカヅキ

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お待たせしました!第50話更新です。
50話までいっても大して山場に持っていけない自分の文才の無さにちょっと落ち込みつつ、これからも更新を頑張らせていただきます!

さて、今回いよいよ“黒幕”たちがちょっとだけ登場します。これで分かる方ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんね。
“助っ人”は次回かその次まで少々お待ちくださいませ。


第50話 忍び寄る悪

 ━1番GR(グローブ)人間(ヒューマン)オークション会場━

 ――――15時42分、オークション会場舞台裏‐()()保管庫。

 ジャスミンは既に()()に潜り込んでいた。数か所設置されているカーテンの影に隠れ、天井から様子を(うかが)っていたのだ。

(何でこんなトコにいるんだろ、()()()…。)

 ()()()()()()がいる事に疑問を感じつつも、“気”を完全に消して天井に張り付く。

(!あれか…。)

 そんな中、目的の人物に気付く。

「放してよ!!痛いっ!!あんたたちなんか!!はっちんがぶっ飛ばしに来ちゃうんだからね!!」

 趣味の悪い服装の男たちに2人がかりで運ばれているのが、人魚のケイミーだろう。

 そこに、従業員たちとは違う服装(これも趣味が悪い)の責任者らしき男が近付いていく。

「おほっ!!コリャ高く売れそうだ珍しい!!イキも良い!!ハリもある!!」

(下衆(ゲス)野郎…。)

 ケイミーの顔を(つか)み、ジロジロと値踏(ねぶ)みする男に上から見下ろしながら嫌悪感を抱きつつ、ジャスミンが自身を抑える。

「出品者は?」

「“ハウンドペッツ”で。」

「ピーターマンか。良い仕事しやがる。トビウオライダーズは今回何も出して来ねェってのに。」

 (なお)値踏(ねぶ)みを続ける男に、不意にケイミーが舌を出した。

「べ――――っ!!」

 その瞬間、それまで笑みを浮かべていた男が豹変(ひょうへん)する。

 パン!!

「きゃあ!!」

「コノヤロー、魚の(くせ)に!!!」

 思い切りケイミーを平手で殴り付け、倒れたところを蹴り付けようとして部下たちが慌てて男を抑えた。

「ちょっと、ディスコさん!!大事な商品ですよ!!!」

「傷付けたら値が下がる!!蹴るんならせめて服で隠せる腹とか…。」

「ケッ!!」

 部下の言葉に吐き捨てる男‐ディスコに、ケイミーが泣きながら叫ぶ。

「お前だって!!………!!はっちんがやっつけてくれるんだからね!!!」

「まだ口答(くちごた)えを…。」

 (なお)もケイミーを蹴り付けようとする男に、思わずジャスミンがポケットを探った時だった、

 ゾクッ………!

 不意に圧迫(あっぱく)するような殺気がディスコに向かって放たれたのを感じ取る。

 ドサッ!

「!?え!?…ディスコさん!?」

「おい、どうしたディスコさん!?」

 そのまま気絶したディスコに、保管庫にいた部下たちが全員駆け寄ったのを確認し、ジャスミンが動いた。

 ドッ!

 ドドッ!

 ドンッ!!

 ポケットから瞬時に(つか)み出した()()で、一瞬のうちに3人の男たちを狙い撃った。

 ()()寸分(すんぶん)(たが)わずに、男たちの急所を狙い撃ち、男たちが声も無く崩れ落ちる。

 ドサッ!

 ドタンッ!

 バタッ!

「え!?」

「な、何だ!?」

「どうしたの?!」

 ディスコが倒れた事にも不思議そうな顔をしていたケイミーが、疑問の声を上げ、それに反応した他の()()たちも一瞬騒然(そうぜん)とする中、近くに他の従業員の“気”が無い事を確認し、ジャスミンが飛び降りる。

 スタンッ!

「あなたがケイミーさんですね?」

「え?あ、あなた誰?!」

 突然現れたジャスミンにケイミーが目を白黒させた。

「話は後です。外でルフィくんたちが待ってますから、早く逃げましょう。」

「ルフィちんたちが!?」

 ルフィの名に、ケイミーの顔が明るくなる。

「裏口で待ってます。その前に…。」

 ケイミーに答えながらジャスミンがディスコのポケットを探る。

「あった!」

 チャリ…!

 取り出されたのは、鍵の束。そして今回オークションに出品される(はず)だった()()のリストだった。

「ちょっと待っててくださいね。」

 ガチャン…!

 (ろう)の鍵を外し、不運にも()()となってしまった者たちに向き直る。

「これから皆さんの首輪を外します!裏口までの安全は保障しますが、それから先は自力で逃げてもらいます!既に表の会場には客が大勢入っています。中には天竜人(てんりゅうびと)もいるようです!また捕まりたくない人は絶対に騒がず、静かに付いて来てください!!」

 そう言うなり、急いで全ての者たちの首輪と手枷(てかせ)を外して回る。皆助かりたい気持ちは同じなようで、(はや)る気持ちを抑えて大人しく待っていた。

「ありがとう…!ありがとう…!」

「助かった…!もうダメかと思った…!!」

 奴隷の証である首輪から解放された途端(とたん)、皆涙さえ浮かべながら小声で礼を言う。

「この恩は絶対忘れない…!いつか必ず礼をする!!」

 特に巨人の男は、ジャスミンにそう(ちか)った程だった。

 そして、最後の1人―――――――――。

「ふふふ……。(みょう)な所で再会するな…。」

「ええ、全く。元々私は、あなたを探してこの島に来たんですけどね…。」

 半年前に出逢(であ)い、そしてコーティングを依頼する為に探していた老人の言葉に頷きながら首輪と手枷(てかせ)を外す。

「おや?私を探していたのかい?」

「ええ。コーティングを依頼したくて。でも、話は後です。オークション開始まで後10分。そろそろ他の従業員が顔を出してもおかしく無い。急ぎましょう!!」

 そう言うなり、ケイミーを抱えて足早に裏口を目指す。

「なら、殿(しんがり)は私が務めよう。君たちは先に行くと良い。」

 コーティング職人の老人の言葉に、解放された者たちが頷き足早にジャスミンの後に続く。

「おや?君は行かないのかね?」

 他の者たちが次々と部屋を出て行く中、動こうとしない巨人に向かって老人が問う。

「行くさ。せっかく自由にしてもらったんだ。ただ、じいさんあんた何者だ……!?さっきの覇気(はき)只者(ただもの)じゃねぇ。」

「ふふ…。ただのコーティング屋をやってるジジイだ。わしは若い娘さんが大好きでねェ…。それに、あんなものは多少()()のある者ならそう難しくも無い。それよりも()()()()()()()容易(たやす)くやってのけた娘さんがいる…。」

 そう言いながら老人が倒れた男たちの(そば)に落ちていたある物を拾い上げた。

「何だそれ?」

「コイン…。100B(ベリー)硬貨か。」

「コイン?それがどうした?」

「ああ。君じゃ視線が高過ぎて見えなかったのか。このコインが、この男たちを気絶させたのさ…。」

「コインで?能力者か?」

「いや。このコインを指で弾いて、弾丸のように撃ち出したのさ。…全く大した腕だ。」

 そう。あの時、ジャスミンがポケットから取り出し、撃ち出したのは3枚の100B(ベリー)硬貨。“指弾(しだん)”、もしくは“如意珠(にょいしゅ)”と呼ばれる技の一種である。本来ならば人間を昏倒(こんとう)させる程の威力は出せないが、“気”の扱いに()けた戦士がその気になれば造作(ぞうさ)も無い事だった。

「そんな芸当が本当に可能なのか?」

「現にこの男たちは気絶している。さて、他の連中は皆逃げられたようだ。わしらもそろそろ行こう。本当に従業員が来てしまう。」

 言い置いて裏口を目指して歩き出す老人に、半信半疑ながらも巨人の男も付いていく。

 

 最初に気付いたのはルフィだった。

「来た!ジャスミンだ!!」

「ケイミー!!」

「ペイビ―――――――ィ!!!」

 ジャスミンがケイミーを抱えて裏口を潜り抜けた途端(とたん)、ルフィたちもまたジャスミンたちを見付けたのだ。

「はっちん!!パッパグ!!」

 喜色満面(きしょくまんめん)に走り寄るハチ、号泣しながら走るパッパグに、ケイミーもまた目に涙を浮かべて名を呼ぶ。

「そ、外だ…!助かった…!!」

「自由だ…!!」

「ありがとう…!あんたのお陰だ……!!」

 ジャスミンによって奴隷の危機から解放された者たちも、次々と裏口から外に出て来る。

 ケイミーをハチへと渡し、ジャスミンも彼らへと向き直った。

「どういたしまして。言い方はなんですけどついででしたから。それより、早くここから離れてください。2度と捕まらないように。」

 ジャスミンの言葉に、皆口々に礼を言いながら方々(ほうぼう)へと駆けて行く。

 他の者たちが全員逃げ出した後、最後に巨人の男とコーティング職人の老人が出て来た。

「ん?そこにいるのは…。おぉ!!?ハチじゃないか!?そうだな!!?久しぶりだ!―――――何をしとるこんな所で!!」

「レ、レイリー!!?」

「ん?あ~、いやいや言わんで良いぞ。――――成程、その人魚の娘さんはお前の連れだったか。」

「……お知り合いだったんですね。」

 まさか自身の探していたコーティング職人と、ルフィの連れが知り合いだとは思わなかった、とジャスミンが内心呟く。

「?このおっさんがコーティング職人なのか?」

「!ルフィくんたちもこの人を探してたの?」

 ルフィの問いかけに反応したのはジャスミンだった。

「みたいだな!お(めェ)が探してたコーティング職人もこのおっさんだったのか?」

「まぁね…。それより場所を移動しよう。他に捕まってた人たちは粗方(あらかた)逃げられたみたいだけど、人魚を連れていつまでもここに(とど)まるのもマズい。それに、もう16時を過ぎてる…。オークションが始まらないのにそろそろ客が気付く頃だから…。」

「なら、シャッキーのバーへ行こう。あそこならそう簡単に見付からん。」

「まだみんな来てねェんだ。おっさんとタコッパチたち、ケイミー連れて先に行っててくれよ。後でみんなと一緒に行く。」

 ルフィが提案し、ルフィ1人残して行くのも不安だったジャスミンがそれに付き添ってハチらを見送る。コーティング職人の老人‐レイリーがいるなら何かが起こっても大丈夫だと判断しての事だ。

「ルフィくん、私“麦わら一味”が全員(そろ)ったら本格的に別行動取らせてもらうね。」

「?これからどうするか決めたのか?」

「後8日…、実質的には7日かな。元の世界に帰る手掛かりが(つか)めそうなんだけど、その為にちょっと本腰(ほんごし)入れて修行しなくちゃいけなくなってね…。」

「あぁ!だからそんな恰好(かっこう)してんのか。」

 ジャスミンが(まと)う、山吹(やまぶき)色の道着を指してルフィが納得した声を出す。ジャスミンにしては珍しい恰好(かっこう)だとは思っていたらしい。

「そ。形振(なりふ)り構ってる場合じゃなくて…。」

 取り()えずルフィに改めて別行動を取る事を伝えていた時だった。

「お――――い!ルフィ―――――!!」

「ルフィ――――――――!!」

 サンジとナミ、ロビン、フランキー、ウソップが到着する。

「ジャスミン!あんたもいたのね。ルフィ!それで、ケイミーは?!」

「ケイミーは大丈夫なのか!?」

「大丈夫だ。もうジャスミンが助けてくれたからな!今はタコッパチたちと一緒にオバハンの店に先に行ってる。」

 ナミとウソップが立て続けに問い(ただ)すのに、ルフィが答える。その瞬間、他の者たちもほっとした表情を見せた。

「後はチョッパーくんとブルックさん、それにロロノアさんですね?」

「ああ。それにしても(おせェ)な、アイツら。あの迷子マリモはともかく、チョッパーやブルックまで…。」

 ジャスミンの言葉にサンジが同意した直後。

「ん?」

 不意にジャスミンが上空を(あお)ぐ。

「何だ?」

「まさか…。」

「何か嫌な予感が…。」

 それに釣られてルフィ、サンジ、ナミも同様に上を見上げた時だった。

 ヒュンッ!

 ヒュヒュンッ!

 ヒュンッ!!

「うわぁああああっ!!!?」

「ヨホ――――――――ッ!!!」

「ぅおっ!?」

 ドッカアァアアアア……………ン!!!!!

 チョッパー、ブルック、ゾロを乗せた巨大トビウオが会場へと突っ込む。

「うぉおおおい?!チョッパ――――――――!?ブルック、ゾロ―――――!!?」

「おぉ!?お前ら大丈夫か――――――!?」

 ウソップとルフィが慌てて会場へと走って行くのを思わず見送り、他のメンバーは重い溜息を()いた。

「「「「「あぁ――――あ………」」」」」

 誰もがやっぱり一騒動起こるのか、と悟る。

「あ、ヤバイ。中に天竜人(てんりゅうびと)がいるかもしれない…。」

「何ですって!?」

「マズイわね…。」

 思い出したように呟かれたジャスミンの1言に、真っ先にナミとロビンが反応する。そして、これ以上何か面倒事(めんどうごと)を起こす前に、と一同はトラブルメーカー(ルフィ)の回収に向かった。

 

 ━同時刻、新世界のとある島━

「ちっ……!集まりが遅い…。やはり、この世界では()()()程良質なエネルギーはなかなか無いようね…。」

 自身たちの存在を感知(かんち)されないよう、幾重(いくえ)にも張り巡らされた結界(けっかい)の中で、そう吐き捨てる女がいた。(かたわ)らには、(あや)し気な仮面を着けた1人の男。

 2人の視線の先には、ガラスのような球体が取り付けられた巨大な装置。その中には、手足が千切(ちぎ)れた人間らしき影が、球体を満たした透明な液体の中に浮いていた。

「…()()()()()為にも、まずは()()()蘇生(そせい)させなくてはならないのに…。その為にわざわざこんな世界に来たっていうのに、こんなところで(つまず)くなんて………!」

 爪を()みながら苛立ちを(あら)わにする女に対し、(かたわ)らの男は狼狽(うろた)えるでも(なだ)めるでも無く、1言も発しない。

 

 彼女たちの正体は一体何者なのか。それが明らかになるまで後8日――――――。

 


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