Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
夢。夢を見ていた。
楽しい夢、悲しい夢、不思議な夢。
思い出そうとしても、まるで濃い霧に覆われているかのようで、上手く思い出せない。
だけど、どうしてか分からないけれど。
これだけは、はっきりと覚えている。
あの夢の中で私は、とても大切な人たちと、とても大切な約束をした。
――もし......。
* * *
気がついて、最初に視界に入ったのは、厚い灰色の雲に覆われた空。
空を覆っていた雲は、やがて風に吹かれて流れていき。代わりに満天の星々と、銀色に光り輝く美しい月が姿を現した。
月明かりの眩しさに目がくらみ、自然と夜空から目を背ける。逸らした視線の先に、自分の腕とアスファルトの地面が見えた。そのまま目を落としてみると、自分が今、ベンチに座っていることを知った。
座っている場所が徐々に熱を帯びて、温かくなっていくのが分かる。まだ意識がはっきりしないまま、座っているベンチから、ゆっくりと立ち上がる。特に、痛みや違和感のようなものは感じられない。
「ここは......?」
周囲を確認する。目の前には、長い階段。真後ろには、見覚えのない大きな建物があり。長い大階段を下った先には、月明かりに照らされた土の地面と、白線が引かれたトラックが見えた。これらの状況を総合して判断すると、ここはおそらく――。
「学校......?」
服に付いた
私は、見覚えのない服を着ていた。
上は、白いブラウスとクリーム色のブレザー、下は黒色系のスカート。まるで、学校の制服のようだった。だけど。
「
はっきり言って訳がわからない。
今の置かれている状況を把握すべく、あごに手を添えて記憶を探る。
「......そうだ。部屋で......」
寝ていたところを――。
「ん?」
少し離れた場所から、大きな歓声が聞こえた。
近くに、人がいる。歓声が聞こえる方へ、私は少し早足で歩き出した。
校舎とおぼしき建物前の大階段を東へと進み、該当が照らす橋を渡ってから北へ歩みを変えると、ガラス張りの大きな建物が見えて来た。歓声は、そこから漏れ聞こえている。
そして、歓声と共に聴こえてくる激しい楽曲と、透き通るような歌声。
「この声......」
建物内部から聴こえてくる歌声は、聞き覚えのある声だった。私の大好きなバンドのボーカルの歌声と瓜二つ。けれど、ひとつだけ違和感を覚えた。
それは、歌詞が日本語ということ。
私の知っているバンドのボーカルは英国出身で、歌詞も全て英語だった。けれど、聴こえてくる歌は日本語。それに聞いたことのない、知らない歌詞だった。新曲なのだろうか。
疑問を確かめるため。室内へ入ろうとした時だった。目の前に、一枚の白い紙が舞い落ちてきた。拾い上げる。
「食券?」
手に取った切符サイズの長方形の白紙には「肉うどん」と書かれてた。
「なんで、こんなものが空から......あっ!」
不思議に思って空を見上げる。すると、まるで花びらのように、ひらひらと無数の食券の紙吹雪が舞い踊っていた。
次々と足下に落ちて来るの食券に気をとられていると、いつの間にか演奏が止んでいた。そして、背後に感じた人の気配に気づき、その場で振り向く。この学校の生徒と思われる男子が数人、地面の落ちた食券を拾い集めながら、演奏が流れていた建物へと駆け足で入って行った。
「あなたも、聴きに来たの?」
「えっ?」
背中越しにかけられた声に、反射的に振り返る。
私と同じ制服を着た、女子生徒が立っていた。
「違うの?」
表情はそのままで、不思議そうに首をかしげる。
「あ、いえ、一応そうですね。ところで、お聞きしたいことがあるんですが」
「何かしら?」
目覚めてからずっと疑問に思っていたことを、目の前の女子生徒に尋ねる。
「ここは......いったい、どこですか?」
「そう。着いてきて」
彼女は何かを察したらしく。そう言うと、さっき男子たちが入っていった建物の方へと向かい歩き出した。少し距離を開けて、彼女の後ろを着いていく。そのまま、演奏の聞こえた建物の横を通って裏手へと進む。
「ここは、食堂よ」
「食堂? バンドの演奏が聞こえましたけど?」
「あれは、一部生徒によるゲリラライブ。学校の許可を取らずに、ああして不定期に演奏しているの。まったく、困ったものだわ。こっちよ」
食堂の裏手から高台へと延びる長い階段を登ると、団地のような集合住宅が何棟も建ち並んでいた。
「あの、どこへ行くんですか?」
「私の部屋」
* * *
私は今、彼女の部屋に居る。
集合住宅は、この学校の学生寮だった。彼女は机の引き出しから学校案内のパンフレットを取り出し、テーブルの上に置いて、一通りの説明してくれた。
この学校の名前は『天上学園』。
全寮制で、全校生徒の数は述べ二千人強を誇るマンモス校。校風はよくある決まり文句、生徒の自主性と健全な――というやつだ。
パンフレットに目を通して一番気になったのは、学校の住所や電話番号など所在が分かるものが、まったく記されていないこと。結局ここは何処で、なぜ私はここに居るのかという疑問は晴れないままだった。なぜ分からないのかというと......。
「それで、ここはどこですか?」
「さっきも話したけど、“死後の世界”よ」
「はあ......?」
この通り、まったく会話が噛み合わない。
ここは、どこ? と言う質問に対しては全て、この返答が返ってくる。
「混乱するのも無理ないわ。始めは、みんなそうだから。今日はもう休むといいわ。あなたの名前は?」
「......
「
彼女は机に向かい、設置してあるパソコンを立ち上げ、何かを調べ始めた。待つこと数分。
「お待たせ。あなたの部屋まで案内するわ」
急に、部屋とか言われても。
この学校へ転校した覚えはない訳ですし。
「野宿は、嫌でしょ?」
「......そうですね。お願いします」
とりあえず、“私の部屋”へ連れて行ってもらうことに。
「この部屋よ。じゃあ、おやすみなさい」
「あのっ!」
踵を返し、自室へ戻ろうとした彼女を呼び止める。
「あなたの、お名前は?」
「名前? ああ、そう言えば、まだ自己紹介がまだだったわね。私は、
「そうですか、ありがとうございました。
「いいえ、どういたしまして」
机の上にはご丁寧に、編入先のクラスと座席が書かれた用紙と時間割表。タンスには上から、おそらく学校指定の体操着、水着、替えのブラウス、夏服の制服。二段目にはシンプルなシャツや靴下が数組。三段目はパジャマ。
それから......下着が数着。
「......何で、サイズがピッタリなんすかね?」
出そうになったタメ息を堪えて、ブレザーをハンガーにかけて、ベッドに横になる。
――寝たら、覚めますよね......?
私は、一抹の希望を胸に抱いて、この奇妙な夢からの脱却を信じ目を閉じた。