Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
消灯後私は、
今夜も、無事に彼女の部屋に到着。軽くノックをしてからドアの向こうに声をかける。
「
合言葉を言うと、カチッとロックが外れる音がして、ゆっくりドアが開いた。
「......入って」
「おじゃましまーす」
ドアを閉めて、部屋のカギを掛けてから、月明かりを頼りに向かい合って座る。暗くて表情はよく見えないけれど、何か深く考え事をしていることは雰囲気で察しが付いた。
「作戦は、上手く行きましたか?」
「ええ、成功よ。天使のパソコンのデータを閲覧することが出来たわ」
「それで?」
「......まだ、考えがまとまらない。確信が持てないのよ」
何かしらの成果はあったけど、想定外の事もあって混乱している、といったところしょうか。
「そうですか。では、あたしの方から。
「そう......」
「驚かないんですね」
「驚いてるわよ。消えかかった
雲ひとつ無い、とても静かな夜空だった。
「......悪いけど。今日は、ここまでにしましょう。考える時間が欲しいわ」
「そうですか、わかりました。おやすみなさい」
「おやすみ」
部屋を出てドアを閉めると、直ぐにカギがロックされた音がした。相当、葛藤しているみたいですね。いったいどんな発見があったのでしょうか。
* * *
「昨日の新曲よかったねっ」
「うんっ。わたし、涙出そうになったっ」
「あたしもっ」
朝恒例の予習の時間、なんですが。
三人とも、昨日のライブの話に夢中でまったく手が進みません。
「ほら。話しに夢中になっていないで、手を動かしてください」
「
「ちゃんと行きましたよ。ただ、体育館に着いたのが始まる直前だったから、人が多くて前に行けなかったんです」
本当のところは、教師や
「ええ~、もったないなーい」
「大丈夫です。後ろでも演奏はちゃんと聴こえましたから。それよりも、口じゃなく手を動かしてください。もう時間が無いですよ?」
「は~い」
彼女たちは、間延びした返事をして教科書に目を落とした。
話が脱線した分、担任が教室に入ってくるまでみっちり予習続けた。
昼休み。忘れ物を取りに、寮の自室へ戻る。
「えーっと......あったっ」
机上に出しっぱなしになっていた日記を片付けて、テーブルに置き忘れた財布を持つ。日差しが強かったため、カーテンを閉めようと窓に近づくと、大食堂の屋上に数名の人影が見えた。手で日よけをつくって目を凝らしよく見てみる。
「う~ん......」
遠くて良く見えないけど、何人か倒れているように見えた。
ビデオカメラが手元にあれば、ズームで見えるかもですけど。残念ながらビデオカメラは今、報道部の部室で充電中。
「あとで行ってみますか」
とりあえず、カーテンを閉じ。枕元の目覚まし時計を見る。
時計のデジタルの表示は12:20を記していた。私は、急いで食堂に向かい。何とか時間内にお昼ご飯を食べ終えて、食堂の階段を上がった。外に出られるような扉は見当たらなかった。更に、三階へと上がる。
「あ、あった」
何ヵ所か外に出られる扉があった。
一番近くのドアノブを下げるが、カギが掛かっていて開かない。数メートル隣の扉も施錠されていた。
一つ一つ確かめて一番奥の扉に手を伸ばす。ドアノブは反発する事なく下がった。慎重にドアを開いて、屋外の様子を確かめてから外へ出る。扉の外は屋上、と言うよりも広いベランダのような造り。誤って転落しないように高い柵が設置されていた。
女子寮の部屋の位置を確認して、人影が見えた方へ向かうと、男子生徒が二人悶え倒れていた。
急いで、駆け寄る。
「大丈夫ですかっ?」
「う、うぅ......」
「ゲホ......ゲホ......」
彼らの制服は、私と同じ学園指定の物。
その事から、
「誰にやられたんですか? 今、先生に――」
「待って......下さい。教師には......」
どこか怯える様に、懇願してきた。
「では、保健室へ行きましょう」
「だ、大丈夫です。......すぐに立てるようになります、から......」
生前の記憶を持つ人私たちも、
「わかりました。では、手を貸します。捕まってください。日陰へ行きましょう」
肩を貸して、一人一人日陰に運び、食堂二階にある自販機で水のペットボトルを三本買って戻る。スゴく辛そうに壁に寄りかかっている二人に蓋を開けたペットボトルを手渡し、残りの一本のでハンカチを濡らして、額の血を拭う。
「痛っ......ありがとうございます」
「いいえ。それで、誰にやられたんですか?」
二人とも、口を閉ざして話そうとしない。
「まぁ、話したく無いのなら別にいいですけど」
これは、危険な匂いがしますね。
* * *
放課後、担任から用事を頼まれた封筒を校長先生へ届ける前に、人の疎らな食堂二階の自販機で暖かい缶の飲み物を買って近くの空いているテーブルに座る。
「この温度なら十分っすね」
封筒の糊面に缶を横にして当て、しばらく転がす。
「そろそろいっかな~」
封筒から缶を退かし、慎重に糊付けされた面を剥がす。
封筒の中身は前回と同じく、転校生の書類。名前と顔写真の特徴をメモして書類を戻し、予め用意しておいたノリを使って再び封をしてから、教員棟の職員室に居る校長先生へ届ける。
「校長先生、お届け物です」
「おお~、そうかい。ありがとう」
「いえ、失礼しまーす」
職員室を出て、部室へ向かう。
報道部の部室が近づくにつれて騒がしくなった。部室の扉の前に立つ、騒ぎの出所は部室だった。ドアを開けて中に入る。
「お疲れさまっすー」
「あっ、
「お客?」
身体を動かして机を見ると、内通者の男子生徒が椅子に座っていた。
「よう」
「どもっす。本当に顔出したんですね」
「急用があってな」
彼は、みんなを見た。はいはい、わかりましたよー。
「すみません。彼と話がありますんで、先に取材に行ってください。
「うん。じゃあ行ってくるね」
「お願いしまーす」
「ガンバってねっ!」
何をっすか、さっぱり意味がわかりません。
三人を見送った私は、普段自分が使っている席に腰を下ろした。
「今朝、ゆりから、臨時招集を掛けられた。昨夜の件だ。どこまで聞いた?」
「何も。まだ確信が持てないから考える時間が欲しい、とだけです」
「俺の方も同じだ。ここから先は、俺個人の見解になる」
その言葉に頷く。
「おそらく、天使は――」
ガラッ! と、大きな音を立てて部室のドアが開いた。
「お邪魔するわよ!」
「へぇー、結構広いな」
「......お邪魔しちゃったかしら?」
「いえ、構いません。良いっすよね?」
彼は、声を出す事なく頷いた。ちょっと面白い事になってきたっす。笑いそうになるのを堪えながら、空いている席へ座るように促す。
「ささっ、座ってくださーい」
「そうさせてもらうわっ。ほら、
「ああ、邪魔させてもらうよ」
二人とも、椅子に腰をかけた。
「ふぅ~ん......なかなかのイケメンね。
「違う」
私と彼の声がハモった。ったく、いきなり何を言うんすか、この人。てか、気がついてないんすねー。
「この人は、報道部の一員です。実態は、幽霊部員ですけど」
「へぇー、そうなの。じゃあ、ちょっと席を外してくれるかしら?」
――どうする? と、意見を求めるような視線を私に向けた。少し考える。どうせいつかは話さなけばならない事案、それは彼も承知の上。
話しましょうと頷いて見せると、彼も小さく頷いて答えた。
「大丈夫っすよ。この人、この世界に来た人間ですから」
「えっ!? そうなの?」
また、黙ったまま頷いた。
「そう、人なのね。唐突だけど、あなた入隊してくれないかしらっ? あたしたち、死んだ世界戦線へ!」
「いきなりヘッドハンティングっすか。でも、この人もう既に入隊してますよ」
このままでも面白いけど話が進まないので、ここでネタばらし。
「えっ? ウチに、こんなイケメンいたかしら?
「ゆりに無いのに、あるわけないだろ?」
「そうね。聞いたあたしが、間違ってたわ。で、あなたは誰?」
彼は、大きなタメ息をついた。
「まだ、気がつかないのか?」
「えっ? その声......まさか――」
彼は頭の後ろに手を持っていき、学生服の上着の内側に隠していた長い髪を持ち上げて、前髪で顔を隠した。
「あ、あなた、
「あっ、それ偽名です。本名は、
「そういう事だ。騙していて悪かった」
あまりの出来事に絶句している
「偽名? それに協力者って......いつからよ?」
「入隊する前からだ」
「うわぁ、最初からじゃない......」
「目的は......情報よね?」
「はい。あたしは学園側を、
「明かしたってことは、そうなんだろうけど......まあいいわ。
逃げるんじゃないわよ、と思い切り睨みつけている。
「ああ、わかってる」
カミングアウトを終え、話題は本題へ戻る。
「それで、何か?」
「
「えっ......なんでだよっ!? ゆり!」
「歌ったら消えるからよ。昨日のライブで消えかかったんでしょ? この世界から――」
「それは......」
確かに、歌い終わったあと身体が半透明になって消滅しかけた。あれは、やっぱりそういうことなんでしょうか。
「歌うな、とまでは言わないわ。けど今後は、ライブ活動を控えて欲しいの。あたしはまだ、あなたに消えて欲しくないのよ......」
「......歌は、歌っていいんだよな?」
「ええ。空き教室は、今まで通り使ってもらって構わないわ」
「......わかったよ。ライブ活動は自粛する」
その後、天使エリア侵入作戦の成果を話し出した。
天使、
これで疑惑は、より深く確信的なものとなった。
* * *
お風呂に入って、部屋に戻る。
帰り際、部室で聞いた
『俺の記憶では、お前だけは救えたと思ったんだがな......』
あの言葉の意味は、いったい何なのだろう。
正直私には、今も死んだという確かな確証はない。
机の引き出しに手を伸ばし、中からカッターを出して手に持つ。
『誰も死なないし病まないわ。だってみんな死んで居るんだから』
『だ、大丈夫です。......すぐに立てるようになります、から......』
「イタっ......」
私は自らの手で、逆手の指先をカッターで切った。
傷口から流れ出る赤い鮮血を、しばらく見つめる。
「......治らないじゃないっすか」
私の指先から流れる赤い血は、しばらく止まらなかった。