Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

11 / 39
Episode10 ~再会~

 朝起きると、指先に微かな痛みを感じた。

 身体を起こして、昨晩カッターナイフで切った左の人差し指の腹を見る。血は止まっていたけど、傷口は残ったままだった。

 右手の親指と人差し指で傷口を挟むようにして触れると、再び傷口が開き、赤い血が滲んだ。

 

「やっぱり治ってない......」

 

 ベッドを降りて、指先の血をティッシュで拭き取る。

 ここは、「死後の世界」。誰も死なないし、誰も病まない。

 私の協力者である熊耳(くまがみ)さんは、死んだ自覚があると話していた。

 あの日、部員集めを始めた翌日の放課後。校舎学習棟Aの屋上で運動部の活動を眺めながら、あと一人の部員の当てを探していた。

 その時突如、私の前に現れた人が、生前からの顔見知りである熊耳(くまがみ)さんだった。

 

 

           * * *

 

 

「よう」

「うん?」

 

 突然、声を掛けられた。声がした方を見ると、どこか見覚えのあるような気がする男子が立っていた。彼は、顔が隠れる程の長い髪を結び右肩から前に垂らしている。顔は、イケメン。まあ、タイプじゃないっすけど。

 

「......どちら様ですか?」

「フッ、この姿で会うのは初めてだったな。“特殊能力発見の能力者”と言えば分かるか?」

 

 髪を解いて、前髪で顔を隠した。

 

「おおっ、お前かっ! 渇いればイケメンだな......って、なんで天上学園(ここ)に居るんすかっ?」

「それは、俺の台詞だ」

 

 まさかの再会。

 私たちは、お互いがこの世界に居ることを疑問に感じていた。

 

「俺は二週間ほど前に、ここへ来た。お前は?」

「あたしも、同じ時期です」

 

 ――そうか......と、やるせなさを感じさせる低いトーンで呟くように言う。

 

「でもよく、あたしが居ると分かりましたね」

「お前、能力を使っただろ?」

「ああ~......はい、お昼に一度だけ」

「ちょうど、その時だ。能力と能力者の居場所が分かった。探知した能力でまさか、とは思ったが。やっぱり、お前だった」

「なるほど......。そう言うことっすか」

 

 ――特殊能力。

 それは、特定の人間が思春期の時にだけに掛かる病の様なもので、常人ではあり得ない力を発揮する。

 私も、特殊能力者の一人。

 私の特殊能力は、「不可視(ふかし)」。意識した対象者一人に対してのみ、姿だけではなく、身に付けている物を含め完全に視認されなくなる。

 熊耳(くまがみ)さんの能力は、私の様な特殊能力者を見つけ出すことが出来る特殊能力。

 生前通っていた星ノ海学園では、その力を駆使し、特殊能力者を保護する活動を行っていたのですが。彼の特殊能力は、全身ずぶ濡れの状態でなければ使えない、という制約があったはず。聞いたところ、実は水を被る必要はなかったらしく、顔を隠すため毎回わざわざ水を被っていたそうです。

 校舎内に設置されている自販機で飲み物を買って屋上に戻り、転落防止用のフェンスに両腕を乗せる。

 

「あなたは、この世界をどう思いますか?」

 

 熊耳(くまがみ)さんは、背中でフェンスに寄りかかりながら答えた。

 

「俺にはお前と違って、死んだ自覚がある。にわかには信じ難いが、やはり“死後の世界”なんだろう」

「......ですよね」

 

 昨夜、何者かに刺された男子生徒が生き返ったことを見ても。これはリアルな夢で、いつか、星ノ海学園の併設マンションのベッドの上で目を覚ます。ずっと、そう信じていたけど......。

 死に際の記憶を持っている熊耳(くまがみ)さんが言うなら、きっとそうなんでしょう。

 

 やっぱり、私は――死んだんだ。

 

 現実を受け入れた時、私の中でひとつの心残りが頭の中を駆け巡った。

 

「安心しろ。大丈夫だ」

「......はい、ありがとうございます」

 

 私の想いを察した熊耳(くまがみ)さんは、励ますように言ってくれた。

 目をつむり、深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、ある狙いを持って聞く。

 

「これから、どうするつもりですか?」

「さあな。お前は?」

 

 狙い通り、逆に質問で返された。

 おそらく、熊耳(くまがみ)さんも意図に気がついて聞き返してきた。

 

「あたしは、部活動を始めようと思っています」

「部活?」

「はい。新しく報道部を新設して、この世界の秘密を探るつもりです」

 

 予想外だったのか、彼は小さく笑った。

 

「なんですか? その、人を小馬鹿にするような笑いは」

「いや、面白そうだと思ってな」

「じゃあ、あなたも入ってください。ちょうど、あと一人分席が空いているんです」

 

 部活動設立申請書をスカートのポケットから出して、熊耳(くまがみ)さんに差し出す。

 

「ああ、いいだろう」

 

 申請書を受け取った熊耳(くまがみ)さんは胸ポケットに差してあったペンを取り出し、クラスと名前を記入した申請書を、私に差し出した。

 

「ありがとうございまーす。では、さっそく......」

 

 一応、記入漏れが無いか確かめる。学年は、三年生。先輩だったんですね。因みに私の学年は一年。死んだ時の学年のままのようです。

 申請書を折り畳んで、スカートのポケットにしまう。

 

「提出に行くのか?」

「いえ、これはまだ出しません。その前にぃ~、熊耳(くまがみ)さんに、お願いしたいことがありましてぇ~」

 

 私は、ニヤッと笑って提案を持ち掛けた。

 

「潜入?」

「はい、この学校に“死んだ世界戦線”なる組織があるのをご存知ですか?」

「ああー......。俺やお前とは違う、制服を着た連中のことか」

「そうです。その組織に加入して、情報収集をお願いします」

 

 おそらくあの人たちは、私たちと同じ生前の記憶を持った人たち。先日来たばかりの私たちより、ずっと長い時間を過ごしている彼らなら、この世界の事を詳しく知っている可能性が高い。

 

「わかった」

「お願いしまーす。あっ、一応偽名を考えておいてください」

「偽名か......そうだな、隼翼(しゅんすけ)の名前を借りるか」

 

 考えるのが面倒だったようで、私の恩人の名前だった。

 隼翼(しゅんすけ)さんは、特殊能力者を保護する組織のリーダーを務め、とある理由から私を救ってくれた方。

 

「名字は?」

乙坂(おとさか)だ」

隼翼(しゅんすけ)さんって、乙坂(おとさか)って名字なんすか?」

「ああ、そうだ」

 

 乙坂(おとさか)さんって......まさか。

 

「もしかして、乙坂(おとさか)さんと歩未(あゆみ)ちゃんの......」

「実の兄だ」

「......えぇーっ!?」

 

 正直、この世界に来て一番の驚きでした。

 しっかし、似てない兄弟っすね。まあ、今はいいです。因みに、乙坂(おとさか)さんと歩未(あゆみ)ちゃんも、特殊能力者。二人の能力は、まあ話す必要ないですね。

 

「あとはこうすれば、バレないだろ?」

 

 結んだ髪をほどき、前髪で完全に顔を覆った。

 

「はい、完璧です。あたしと話す時は、髪を結って制服の中にでも隠すせばいいと思います」

「ああ、そうするか」

 

 話がまとまったところでフェンスから離れて、熊耳(くまがみ)さんに顔を向ける。

 

「聞いてもいいですか? 熊耳(くまがみ)さんは、なぜ死んだんですか?」

「......そうだな。お前には、聞く権利ある」

 

 言葉の意味が理解出来ず、私は小さく首を傾げる。

 

「んー? どういう意味ですか?」

「あれはお前に、最後の電話を掛けた時の事だ......」

 

 組織の人間が海外のテロ組織に家族を人質に捕られ脅された。

 その人は、熊耳(くまがみ)さんを特殊能力者保護の活動している学校に送り迎えをする運転手だったのですが。その日は星ノ海学園へ向かう事無く、寂れた廃工場へ連れていかれ捕まってしまった。熊耳(くまがみ)さんは最後まで抵抗をしたが、暴行などの激しい拷問の末、テロ組織に自白剤を打たれ無意識の内に情報を漏らしてしまった。犯人たちは聞き出した情報からなぜか、星ノ海学園の併設マンションで眠っていた私を拉致。その後、囚われていた廃工場が崩壊して、瓦礫の下敷きになってしまったそうです。

 

「悪かった」

「ん? なぜ、あなたが謝るんですか?」

「俺が、情報を吐きさえしなければ......」

「あなたは、悪くありません。悪いのは、特殊能力者を私利私欲のために利用しようとするヤツらです」

「そうか。そう言って貰えると、少し楽になった」

「はい、そうです。ではあたしは、そろそろ夕食に行きます」

「ああ、また連絡する」

「はーい。お願いしまーす」

 

 熊耳(くまがみ)さんを屋上に残して、食堂へ向かった。

 屋上の扉を閉めた時、何かを言いかけていたような気がしましたけど。今日の夕食は、報道部設立に協力してくれた子たちと約束をしているので。また今度、聞こうと思います。

 それにしても......私の死因は、建物の崩壊による事故死だったんですね......。

 あの日の夜、二人組の男が部屋に入ってきた。気配の気付いた私は、ベッドから降りて寝室の死角で待ち伏せした。一人は、「不可視(ふかし)」による不意討ちで撃退に成功。しかし、もう一人存在に気付くのに遅れて殴り飛ばされた。

 私の記憶は、ここで終わっている。

 おそらく、気を失ったまま死を迎えたためなのでしょうね。けど私はてっきり、強盗殺人か強姦殺人のどちらかだと思っていたんですけど。そうじゃないと知れて、よかったような。でも死んでますし、複雑な心境です。

 そして昨日の帰り際、先に仲村(なかむら)さんと岩沢(いわさわ)さんが部室を出たあと、あの日言い掛けた事を話してくれた。崩壊の最中熊耳(くまがみ)さんは、気を失っていた私に覆い被さる様にして、天井から降り注ぐ瓦礫から庇ってくれたそうです。

 

『俺の記憶では、お前は救えたと思ったんだがな......』

 

 この言葉が正しいのなら、本当の死因は打ち所でも悪かったとかですかね。考えても仕方ないっすね。だって私には、死んだ自覚も、記憶も無いんですから。

 

「さて、朝ごはん行きますかー」

 

 制服に着替えて、食堂に向かう前に保健室に立ち寄り、傷口を消毒して絆創膏を貼る。食堂で食券を朝ごはんに換え、私はトレイを持って、立華(たちばな)さんを探した。

 彼女は今日も、四人掛けのテーブルに一人で座って、朝食を食べていた。

 

「おはようございまーす。相席いいですかー?」

「おはよう。どうぞ、ご自由に」

 

 正面に座って、ご飯を食べながら昨日の事を訊ねる。

 

「この学校って、ケンカとかあるんですか?」

「もちろんあるわ、普通の学校だもの。主には、SSS(スリーエス)の人たちね。この間もハイキングへ行くと言って、山中で仲間割れをしていたわ」

「へぇ、そうですか」

 

 この反応は、この食堂の三階で起きている暴行事件は知らないみたいですね。

 

「そう言えば、もうすぐ球技大会だそうですね」

「そうね。またあの人たちも、飛び入りで参戦するつもりかしら。ハァ、困ったものだわ。面倒な事にならなければいいのだけれど......」

 

 そうそうと、今度は立華(たちばな)さんから話題を振ってきた。珍しいなと思いつつも話しを聞く。

 

「球技大会が終わったらテストよ」

「そうなんですか?」

「ええ。あなたは成績いいみたいだし、安心ね」

立華(たちばな)さんは?」

 

 視線を落として無言で、麻婆豆腐(マーボーどうふ)を食べ出した。どうやら、勉強は得意な方では無いみたいですね。これは、上手くいけば......使えますね。

 

「じゃあ、今度一緒に勉強しませんか?」

 

 私たちは今夜、一緒にテスト勉強をする事になった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。