Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
昼休み。
お昼ご飯を食べる前に、大食堂の三階へ向かった。利用している生徒も居ないフロアの一番奥の扉の前に立つ。
ここ数日、前に
「いた......」
部室から持ってきたビデオカメラを回して、暴行現場の撮影を開始。一人の男子が、二人の
この状況なら
「フッ! フンッ!」
「うっ......がはぁ......」
「ぐっ......」
肉眼でも、加害者の顔がバッチリ見える位置まで辿り着けた。酷いな。思った通り、ケンカではなく一方的な暴力。
加害者は、中性的な顔立ちで深い緑がかかった長めの髪で学生帽を被っている。身体の線も細いですし、身長も取り立てて高い方ではない。見た感じ腕っぷしは強そうに見えないっすね。と言うことは何かしらの弱み、あるいは学園内でそれなりの権力を持っていると考えるのが妥当と考えられる。
とりあえず、顔も現場もビデオカメラに納めることが出来た。一度三人から離れて、食堂の中に戻る。二階の自販機で水のペットボトルを三本買って三階に戻り、扉付近の壁に寄り掛かかりながら、加害者の男子が入ってくるのを待つ。
しばらくして、扉が開いた。
「フッ、愚民どもが」
吐き捨てるように言った男子は、手の甲に付いた返り血をハンカチで拭い、帽子を被り直して階段を下りていった。手すりに手を掛け、一階まで降りたのを確認してから外に出る。
「大丈夫ですか?」
「あ......、キミは、うぐっ......」
脇腹を押さえ、頭も落として苦しそうに短い呼吸を繰り返している。この息づかい最悪、折れてるかも。
「無理に喋らないで下さい。日陰に行きましょー」
肩を貸して、前回と同じように一人づつ日陰に運ぶ。
二人に水を手渡して、残ったもう一本の水でハンカチを濡らし、傷口に当てる。
「いてぇす......」
「我慢してください、男っしょ!」
二人の呼吸が整い始めたのを見て、改めて聞く。
「またケンカですか?」
期待していた訳ではありませんが、やはりと言いますか答えようとしません。ここまで酷い暴力を受けているのに、かたくなに黙秘すると言うことは。あの男子は、相当な権力を持っている見たいですね。
「まあ、いいです。やんちゃもいいですけど、自分の身体も大丈夫にしてください。ではあたしは、これで――」
食堂へ戻るため、背を向ける。
「待ってください。キミは、なんで......」
「大ケガをしている人を助けるのに、理由が必要ですか? お大事に」
背を向けたまま答え、食堂へ戻って時計を見る。
まだ時間は大丈夫っすね。さて、お昼は何を食べよっかな、と。
* * *
「明日の球技大会ですが......」
今日の部活動は、球技大会当日の取材についての話し合い。
球技大会は、普通の学校と同じくクラス対抗戦......では無く、部活動や同好会、個別のチームなどを事前に申請さえすれば、参加可能になっています。
競技は、野球、バスケットボール、ドッジボール、サッカーなどなど。それぞれの部に所属している生徒は興醒めになってしまうためか、自分の本業の競技には参加しないことが多いそう。
「バスケとドッジボールは体育館。野球とサッカーは、専用のグラウンドですね」
「じゃああたしは、体育館の方に行こうかな~」
「わたしも、そっちに行くよ」
「それなら私と
「はい、そうしましょう。試合の様子と優勝チームのインタビューをお願いします」
「邪魔させてもらうぜ」
「ん?」
顔を上げて、声の主を確認する。
「
「ああ、ちょっといいか?」
「どうぞー」
作業手を止めて、パソコンをスリープモードにしてから、
「それで?」
「明日、球技大会があるのは知ってるか?」
「はい、知っています。今まさに、その話をしていました」
「そうか。あたしらも、ゆりの命令でゲリラ参戦することになったんだ」
「そうなんですか」
「どの競技に参加するんですか?」
「野球」
――野球。と言うことは、グラウンド担当の私たちの取材ですね。
「ガルデモ四人とあたしらのファンが四人。あと一人メンバーが足りない。
「えっ? あたしっすか。う~ん......」
「ダメか?」
「新しいボーカルのユイさんじゃダメなんですか?」
「ユイは、もう他のチームに決まってる。頼れるのは、お前しかいないんだっ。頼む!」
正直、あまり参加したくない。
ゲリラ参戦するとなると、教師や生徒会に目をつけられる可能性がある。そうなれば、今後の活動の立ち回りに支障が生じる可能性も考えられます。正直、あまり目立ちたくはない。
「出てあげたら? 困ってるみたいだし、ねぇ?」
「うん、そうだよ、出てあげなよっ」
「取材は、あたしたちが手分けしてするからっ」
「お前ら......!」
だけど私は、彼女たちの真意を見逃さなかった。
「貰ったサインを胸に抱きながら言わないでください」
「えへへ~」
「あはは......」
「てへっ」
三人とも、私がパソコンを操作している間に貰った
「はぁ......わかりました。けどあたし、素人っすよ?」
野球は、特殊能力者保護の活動で一度経験しただけで戦力になるとは、とても思えないんっすけど。
「問題ない。あたしらも似たようなもんだ」
* * *
一度寮に戻って、
この格好なら、教師や生徒会に素性がバレる可能性を少しは下げられるはず。青いリボンでポニーテールを作り、
「お待たせしました。行きましょう」
「オーケー、こっちだ」
「おーい、連れて来たぜー」
「そいつが、
「ああ、そうだ。名前は、えっと......」
「そう、黒田だっ!」
違います。
「黒田さんですか。あたしは、
「
ドラム担当で、綺麗なロングヘアーでおっとりした感じの
「へぇ~、黒田ねぇー。決め球は、フロントドアのツーシームか?」
ひさ子さんは、笑いを堪えている。
この人、絶対気づいてますね。
「初めまして、
予め伝えておいた偽名で、改めて自己紹介。
「そう、
まるで何事も無かったかのように言い直した
「えっと......
「
二人の反応とは対照的に、黙ったまま観察する様に私を見るひさ子さん。
「そんな褒めんなよ。さあ、練習を始めようぜっ」
「了解っす。いくぞっ、みゆきちっ」
「待ってよ~、しおりーんっ」
「なぁ、お前......」
「なんですか?」
探るような声色で聞いてきた。
「報道部の部長だよな? なんで、変装なんてしてるんだ?」
やっぱりバレていましたね。ひさ子さんは、勘が鋭いと。
「ちょっと理由がありまして」
「ふーん。なら、黙っておくよ」
「お願いします」
「おーい、ひさ子ー、
「ああ、今行くっ! さあ行こうぜ、
私の背中を軽く叩いたひさ子さんの後に続いて、早足で
「なあ、ひさ子」
「なんだよ、
二人は、キャッチボールをしながら会話を始めました。
「野球にもあるんだなー」
「なにがー?」
「フロントマンのツービート」
「
思わず、
* * *
練習終わりの夜。
ここ数日は、
『
『ええ。生徒会長だから、いろいろと必要なのよ』
『そうなんですね』
一般生徒がそう易々と持てる物ではないみたいですね。
因みに私の部屋にも、パソコンがあります。「
お風呂から上がり、自室で
「あいことば~」
「
カチッとロックが外れドアが開いた。
「いらっしゃい」
「おじゃましまーす」
そして、いつもと同じようにテーブルを挟んでの会話。
「明日の球技大会ですが。ガルデモチームの一員として参加する事になりました」
「えっ、あなたが? そう、頑張ってね。初戦で負けたら、死よりも恐ろしい罰ゲームだからっ」
「ガルデモチームは罰ゲームから除外って聞きましたよ?」
「なーんだ、聞いてるんだ」
つまらなそうに両手を後ろについて、天井を見上げた。
「あ、そうだ。あなたから聞いた転校生のことだけど」
「ああ、はい。どうでした?」
先日伝えた、新しい転校生の情報。
「もう、この世界に居なかったわ」
私が転校手続きの書類を見てから、まだ一週間も経っていない。こんなに早く居なくなることもあるんですね。
「そうですか」
「その事で、少し気になる事があるのよ」
「なんですか?」
「天使以外の存在に、消された可能性があるわ」
――彼女以外の存在が、この世界から人を消した。それはいったい、どういう事なのでしょうか。