Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
球技大会当日。
野球場は、校舎から結構な距離がある。橋を渡って、保健室が入る建物の前を通って、坂道を下った先に、野球場が見えた。
「そう言えば、打順とかどうするんですか?」
隣を歩く
「あたしも、知らない」
「それは僕、不肖
男子の一人が、答えた。
ひさ子さんの話によると、集められた男子たちは野球部には入っていないものの、全員野球経験者だそうです。
「試合前に発表させていただきます」
野球場に入る。試合直前の二チームが整列しているところへ大胆にも、ひさ子さんが割り込んでいった。
「悪いけど次に進めるのは、あたしらに勝った方にしてくれ」
「またかよ。どんどんチームが増えていきやがる」
球審役の男子が、めんどくさそうに嘆いている。
もう他の戦線チームは、既に参戦している様ですね。
「出場たいなら普通に参加申請すればいいだろ」
――うん。誰が聞いてもぐぅの音が出ないほどのド正論。
「それじゃあ面白くないだろ?」
腕を組んで微笑んで見せたひさ子さんの脇から、
「お兄さん、ウチらガルデモチームでっせ! 興味なんですかっ? それに今日はなんと、初お披露目の美少女つきっ!」
するりと後ろに回った
「そ、それとこれとは......」
横目でチラッと私を見ている。何か言いたい事があるんすかね。
「まだ足りねぇーのかよっ。仕方ない、とっておきを出すかぁ、みゆきち~」
気持ち悪いほどの猫なで声で、
「な、なに?」
身の危険を感じるのか、
白い綺麗な太ももと黒いのが、チラッと見えた。
「き、きゃーっ!」
顔を真っ赤にして悲鳴を上げる、
男子たちからは「おおーっ!」と、大きな歓声が上がる。
「この通り、あたしらはスカートっ! もしかしたら......ぐへへ~」
「もうっ! しおりんっ、それなら自分のスカート巻くってよっ!」
「えっ? だって、パンツ見えるじゃん」
「おい、
言いかけた
「ひくなっ!」
「はっ!?」
私の大声で我に返った球審の男子は口元に拳を持っていき、ゴホン! とわざとらしく咳払いして、先に整列していた両チームに命令を下した。
「お前ら、ジャンケンしろ」
「えぇーっ!」
三塁側ベンチ。
「もう、しおりんったら......」
「そろそろ機嫌直してくれよ~。いいじゃん、どうせスパッツはいてるんだし」
「そうだけど~」
やっぱり、あの黒いのはスパッツだったんですね。まあ、私もはいている。
「お前ら、そんなのはいてんのか?」
「
「ああ、はいてない」
ベンチの男子がざわめく。目を細めて睨むような視線を向けると、わざとらしく立ち上がってキャッチボールを始めた。
「そんなこったろーと思ったよ。ほら、
「おっ、サンキュー」
ひさ子さんは、ビニールに入った新しいスパッツを
「では、打順と守備位置を発表させていただきます。まず一番は、足の早い
「よっし」
「続いて、二番。バントが上手く、守備も上手い、
「おうっ!」
「三番は僕、
「四番は、ホームラン製造機の
ここまでは全員、野球経験者の男子たち。まあ、順当ですね。
「五番、運動センス抜群のひさ子さん。ポジションはピッチャー」
「あたしが、ピッチャーやるのか?」
「はい。例年通りですと、セカンドで
「エースか......悪くない響きだな。わかったよ、リードは任せる」
「はいっ、お任せください!」
「六番、
「あたしっすか?」
「はい、練習を見て驚きました。あなたの冷静さと状況判断の良さは、チーム一です。
「わかりました。がんばりまーす」
続いて七番、
八番、
九番、
「ちぇっ、七番かよ。四番DH辺りが妥当だろうっ」
「まあまあ、しおりん、落ち着いて」
「これまで、あなたがヒットを打ったところを見たことがありません」
「うぐっ、手厳しい
「まあまあ、今年実績を上げれば――」
* * *
先攻は、ガルデモチーム。
一番
「相手のピッチャーは、ストレートは速いですが。変化球はありません。甘いコースに来たら思いきって振ってください」
「わかりました」
ヘルメットを被って、右の打席に立つ。
「お願いしまーす」
「あっ、はい。こちらこそ......」
相手投手の初球高めのストレート。ストライク。
「よしっ。抜けなかったっ」
「変化球?」
ベンチに戻ると、すぐに
「すみません。今のは、カーブです」
「あの速いストレートに、緩いカーブっすか。打てないっすよ?」
「そうですね......。ですがさっきの投手の言葉を聞く限り、そう何度も決まるボールでは無いようですし、カウントを取りに来る甘いストレートを積極的に狙っていきましょう」
そう上手く行くといいんですが。
「バッターアウトッ! チェンジ!」
グラウンドを見ると、ちょうど
「いくぜッ!」
「どうぞっ!」
マウンドに立ったひさ子さんの投手練習は、女子とは思えないほど速いボールを投げ込んでいた。相手ベンチから、どよめきが起こった。
投球練習が終わって一回裏の守備。ひさ子さんは、練習の勢いそのままに三者凡退に抑え、ガルデモチーム二回表攻撃。
ストレート狙いも、要所で緩急のあるカーブを見せられ無得点に終わる。
「やっぱり、あのカーブが効いてますね」
「はい、コースに来なくても緩急をつけられるのが厄介です」
その後も、どうしてもカーブが頭に残ってしまいヒットは出るも後続が打てず。相手も、ひさ子さんのストレートを捉えきれず。お互い無得点のまま六回裏の守備。
ひさ子さんに疲れが見え始め、連打とフォアボールでツーアウトながら満塁のピンチを迎えた。
「先輩、バッチこいっす!」
「せんぱ~いっ」
「ひさ子、ガンバレ!」
「ああっ」
ガルデモメンバーに声援を力に追い込んて、ツーツーからの五球目。
「あっ、やばっ!」
高めに浮いた甘いボールを痛打され、走者一掃のタイムリーツーベースで逆転された。こちらの攻撃はあと一回、これはまずいですね。次の打者をなんとか抑えて、スリーアウトチェンジ。
「わりぃ~、ここぞって時に......」
ベンチへ戻ったひさ子さんは、申し訳なさそうに謝罪。
みんなで励ましていると、他の競技の取材をしていた
「あれ~、負けてる?」
「あ、
「ん? うん、はい、どうぞ」
「ありがとうございまーす。
「なに?」
ガルデモチーム最終回は、打順良く一番からの攻撃。打席に向かうところだった
「出来るだけ粘ってください。弱点を探します」
「よし、わかった」
ビデオカメラをズームモードに切り替えて、投手だけに集中する。
「ひさ子さん」
「なんだ?」
「ピッチャーの投げた球種がストレートか、カーブのどちらかを教えてください」
「ああ、わかったよ」
画面の中で、投球モーションに入った。放たれたボールが、キャッチャーミットに収まる音が聞こえて、球審のコール。ストライク。
「ストレートだ」
「了解っす。次も、お願いします」
二球目もストレート。ボール。
カウント・ワンエンドワンからの三球目。
「カーブだ」
カーブが外れて、ボール。四球目もカーブ、ストライク。
平行カウントからの五球目のストレートをカットし、同じくツーツーからの六球目。
「カーブだ」
外のカーブに空振り三振、ワンナウト。相手ベンチが盛り上がる。
「すまん......」
「いえ、上出来です。みなさん、ちょっと集まってくださーい」
集まってもらい、ビデオカメラで録画した映像を見せながら説明する。
「と、言うわけです」
「なるほど、やはり僕の目は間違っていなかった。
「おうっ、絶対打ってやるっ!」
「頼んだぜっ」
ひさ子さんが、グッと親指を立てる。
それに答え、二番の
「チッ、敬遠かよ!」
「オラオラピッチャー、勝負しろ男だろっ」
「まあまあ、しおりん落ち着いて~」
犠牲フライ、内野ゴロでもコース次第で同点の場面。ここは無理をして四番と勝負する必要は無いですし、当然ですね。
「ひさ子、頼んだぞー!」
「おう、任せとけって!」
四番を敬遠し、ひさ子さんの打順。
「さっきの借りは、バットで返すぜっ」
意気揚々と打席に立つも、ストレート二球で追い込まれた。
「ひさ子先輩ッ、根性ッス!」
「おうっ、おらよッ!」
ひさ子さんは、三球目のカーブを完璧に捉えた。打球はライトの頭を越えて、フェンスまで到達、走者一掃のタイムリースリーベースで五対三と最終回で再逆転に成功。ホームベースを踏んで、ベンチに戻ってくる男子をハイタッチで迎える。
「ナイスっす」
「
「そうですか。それでは、あたしの打順ですので行ってきます」
「頑張ってね~」
「はーい」
最後のバッターボックスに立つ。
「お願いしまーす」
相手投手は、まだ諦めていなのか初球のストレートは、今まで打席の中で一番速かった。
「おお、速いっすねー」
「絶対負けねぇ!」
キャッチャーも諦めてない。二球目もストレート、際どいボール球を見逃す。きっと、前の打席までだったら手を出してましたね。三球目の投球モーションに入った。来た、カーブ。高めに浮いたカーブを逆らわずに逆方向へ流し打ち、ライト前ヒットで追加点を上げた。
「よっしゃー、初ヒットだーっ」
「やったね。しおりんっ」
「完璧でしたね。さすがでした」
最後の守備につく前に、ひさ子さんに話しかける。
「変化球をフルスイングで打ったのは初めてだ。お前が見つけた、ピッチャーのクセのお陰だよ」
私が見つけた投手のクセ。それは、カーブを投げる時リリースポイントがストレートの位置に比べて低く、やや大回りしてくること。これは恐らく、ボールが高めの抜けない様に低めに抑えて投げようするからでしょう。カメラの映像をスロー再生したら、はっきりと浮かび上がった。
「あと三人お願いします」
「ああ、任せろよ」
気合い十分に見えたひさ子さんでしたが、ワンナウトを取ったあと際どいボールで二人連続で四球でランナーを二人許す。しかし、
ベンチで勝利を分かち合う中、キャッチャーの
「やりましたっ。このチームで、やっと勝つことが出来ました!」
「だな、よくやってくれたよ」
「こんな時になんですが、僕と付き合ってくださいっ!」
グラウンド中に聞こえる様な大声の告白。
* * *
「合言葉ー」
「
消灯後、いつもの様に
「決勝戦、惜しかったですね」
「ホントよっ、まったく......」
怒り心頭の
球技大会は、
決勝まで勝ち残った
「それで?」
「ん? なんですか」
「何か気になる事があるんじゃない?」
「なぜ、そう思うんですか?」
「何となくよ。けど、そう聞き返すって事はあるって事よね」
さすが、と言いますか。見透かされてますね。
「試合の直後、一人、この世界から消えました」
「ええ、報告は受けてるわ。まさか、
「もし、この世界で恋が成就したら、どうなるんですか?」
「そうね。恋人同士になった瞬間、消える可能性が高いわ」
「事例が、あるんですか?」
「さぁ~? だけど、生前恋が実らず未練を持ってこの世界に来た人間も中にはいるわ。そう言う人のために、
「なるほど......」
思っていた以上に確りとした設定で、この世界は存在してるんだ。
「他は?」
「そうですね......。そうだ、これを見てください」
持ってきていたビデオカメラをテーブルに置いて、録画した映像を撮影する。
『あなたたちのチームは、エントリーされていない』
液晶画面に制服の上に指定のジャージを着た
「これって、天使が乱入して来た時の映像ね」
「はい」
続きを見る。
『別に良いだろ。参加することに意義がある』
『生徒会副会長の
「ここです。彼をよく覚えておいてください」
「コイツが、どうかしたの?」
カメラを操作して別の映像を流す。
『フッ! フンッ!』
『うっ......がはぁ......』
『ぐっ......』
昨日、撮った大食堂三階のベランダ行われた暴行事件の映像、暴行している男子の顔がハッキリと写っている。
暴行しているのは、
「コイツ......」
「どうしますかー?」
「とりあえず、テストが終わるまで泳がせるわ。にしても、試合の隠し球といい。よくこんな寄った映像を撮れたわね~」
疑るような
「ほら、あたしって影薄いですし」
「まったくそうは見えないけど? まあいいわ。じゃあ今日はここまでにしましょ」
カメラ持って立ち上がり、ドアノブに手を掛けたところで振り返って、
「
「なーに?」
「恋をした事は、ありますか?」
「なによ、唐突に?」
「何となくです。では、お休みなさい」
ドアを開けて、廊下に出たとき背中から彼女の返事が聞こえた。
「......無いわ」
「そうですか」
ドアが閉まる瞬間、「私には恋をする資格なんて無いわ......」と、小さな声が聞こえた。
――私と、同じですね。