Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode14 ~葛藤~

 球技大会翌日の放課後。

 パソコンが設置されている部長席に座り、いつもの様に作業をしていると勢いよく扉が開いて、佐々木(ささき)さんが興奮した様子で戻ってきた。

 

「好評みたいだよっ!」

「ほんとっ?」

「うんっ」

 

 三人は、大騒ぎしている。

 話題は、今朝掲載した報道部の創刊号。

 

「特に反響があったのが、ガルデモのスクープ記事!」

「まぁ、そうでしょうね」

 

 生徒会チームの参戦により、球技大会の野球の優勝チームへのインタビュー記事は取りやめ。生徒会チーム全員が、野球部レギュラーだったということで結果だけの掲載に差し替えました。

 そこで、空いてしまった小さなスペースに追加したのが「Girls(ガールズ)Dead(デッド)Monster(モンスター)」のボーカル交代に記事。今朝登校前仲村(なかむら)さんに、話したら「近々トルネードをする予定だし、いい宣伝になるわねっ」と掲載を快諾してくれた。

 彼女がいうトルネードとは、私のうどんが犠牲になった、食堂で生徒たちから食券を巻き上げる作戦(あれ)です。

 

「だけど、ショック~。岩沢(いわさわ)さんの歌好きなのに......」

「だね......」

友利(ともり)さん、新しいボーカルってどんな娘なの?」

「うん? そうっすね~」

 

 新ボーカル、ユイさんの特徴を思い出す。

 

「かわいい子ですよ」

 

 小柄で活発な印象。クールで美人な岩沢(いわさわ)さんとは、いい意味で対照的ですね。

 

「野球の決勝戦に出場ていたツーサイドアップの子です」

「ああ~、あの子なんだっ」

 

 一緒に取材をしていた佐々木(ささき)さんは頷き、あの場に居なかった二人には、ビデオカメラで撮影した映像を見せる。

 

「いつも、体育館南側の駐車場で弾き語りしているそうです。固定ファンも居るみたいでした」

「そうなんだ、今度聴きにに行ってみよっか?」

「うん」

「はいはいっ、お喋りはそこまで。さぁ始めますよ、テスト勉強」

 

 新しいボーカルの話で盛り上がってるところを教科書を机に置いて遮る。

 

「うわぁ~......」

「一緒にテスト勉強しようと言ったのは、あなたたちしょ?」

「は~い」

 

 テストまで、後一週間。今日からテスト終了まで、学園の部活動は強制休部。追い込みのモード。16時、報道部での勉強会を終えて今度は、立華(たちばな)さんの部屋へ。

 

「おじゃましまーす」

「いらっしゃい、お茶を入れてくるわ。くつろいでて」

 

 彼女が、部屋を出ていったのを確認して先日見つけた『Angel(エンジェル) Prayer(プレイヤー)』と書かれた分厚い本を手に取りページを捲る。

 

「全文英語か......」

 

 本の内容は日本語での解説は無く、全て英語。専門用語も多い。立華(たちばな)さんが戻ってくるまでの短時間での解読は不可能ですね。辛うじて理解出来たのは、ソフトウェアのプログラミングに関する解説書であると言うことくらいでした。

 

「お待たせ。どうぞ」

「ありがとうございまーすっ」

 

 お茶とお菓子をいただきながら、勉強会開始。

 

「先週は苦手教科でしたから、今週は得意教科にしましょう」

「お願いするわ」

「えっと、先ずは~......」

 

 教科の時と同じように教科書の最初のページ、基礎の基礎から始める。勉強開始から集中して、きっちり一時間で今日もおしまい。筆記用具を片付けていると立華(たちばな)さんは、お茶を入れ直して来てくれました。

 

「もう、死後の世界(ここ)の生活には慣れた?」

「はい。もうひと月になりますから」

「もう、そんなになるのね。学園生活は、どう?」

「そうですね......」

 

 星ノ海学園では、生徒会長として特殊能力者保護を最優先に行動していた。平日の授業中、休日でも呼び出しがあれば直ぐに調査に直行。時には暴力や、脅しで力ずくということも多々ありました。何もなかった放課後は、ビデオカメラを片手に聞き込みや雑誌などを読んで情報収集。

 そんな日々の中で唯一と言っても良い楽しみは、ご飯と「ZHIEND(ジエンド)」の音楽を聴くことくらいで......。

 それでも、もう二度と私たちの様な犠牲者を出さないために行動してきた。

 

「新鮮です」

 

 朝起きて、着替えて、ご飯を食べて、登校してクラスメイトと世間話をする。ああでも、これについては正直予定外でした。本来、SSS(スリーエス)の監視を(あざむ)くため積極的にクラスメイトに関わった結果、監視を解かれた後もクラスの女子たちから話し掛けられる頻度が格段に上がって上がってしまった。

 それまでは私から話していた事もあり、いくら女子(NPC)とはいえ。無下には扱えず。たぶん、星ノ海学園に居た頃の私なら......目的のためだけの関係構築でしたので、切り捨てていたかも知れませんね。

 

「そう。じゃあ、もう未練は晴れそう?」

「未練、ですか?」

「うん。この世界に来た人たちは、生前何かしらの未練を持っているわ」

 

 未練。仲村(なかむら)さんも言っていましたね。

 立華(たちばな)さんは、自分が天使であること否定している。それに「おそらく天使は......」、この熊耳(くまがみ)さんの言葉の後に続いていたであろう言葉――確かめてみますか。

 

立華(たちばな)さんもですか?」

 

 立華(たちばな)さんは、無言で小さく頷いた。

 やっぱり、そうなんですね。

 彼女は、立華(たちばな)さんも、私と同じこの世界に来た人間なんだ。

 

 

         * * *

 

 

 翌日の朝、登校する前に今勉強したところを復習をして欲しいと伝え、晩ごはんを食べるために大食堂へやって来た。

 

「いっぱいですね」

「そうね」

 

 食券を夕食に替えたのはいいんですが、テスト期間のためか普段よりも人が多い。空いているテーブルを探して二人で歩いていると。

 

「あっ、友利(ともり)さーんっ」

「ん? ああ......」

 

 声を掛けられた方を見ると、報道部のみんなが居た。

 

「ここ、二席空いてるよー」

 

 彼女たちがいる四人掛けのテーブルの隣に、二人掛けのテーブルが空いていた。お礼を言って、立華(たちばな)さんに顔を向ける。

 

「行きましょう」

「いいの?」

 

 若干遠慮気味の立華(たちばな)さん。

 

「もちろんですよ。迷っていると、麻婆豆腐(マーボーとうふ)冷めちゃいますよー?」

「行きましょ」

「はやっ!」

 

 まるで瞬間移動したかの様に、席に着いていた。

 牛タン定食の乗ったトレイを置き、正面に座って手を合わせる。

 

「いただきます」

「いただきまーすっ。ん~んっ、おいしいな~っ」

 

 久しぶりに食べる牛タンに舌鼓を打つ。

 リーズナブルな学食の中でも高級メニューのひとつ。球技大会のお礼に、ガルデモチームが奢ってくれました。

 

「会長さん、スゴいですね。激辛で有名な麻婆豆腐(マーボーとうふ)を単品で食べられるなんてっ」

「そうかしら?」

「辛いのが好きなんですか?」

「うーん、取り立てては」

 

 夢中に箸を進めていると、みんなと立華(たちばな)さんが話していました。

 

「じゃあ、麻婆豆腐(マーボーとうふ)が好きなんですね」

「え? 私、麻婆豆腐(マーボーとうふ)が好きなんだ。知らなかったわ」

 

 レンゲを目線の高さまで持っていって、真っ白な豆腐と真っ赤なタレを見つめている。

 

「会長さんって、しっかり者だと思ったら意外と天然なところもあるんですね~」

「......昔、同じ様な事を言われた気がするわ」

 

 どこか懐かしむような表情(かお)で、レンゲを口に運んでいた。

 

 

         * * *

 

 

「さて、行きますか」

 

 消灯時間後SSS(スリーエス)の制服に着替えて、仲村(なかむら)さんの部屋へ向かう。部屋の前に立ち、ドアを軽くノックすると直ぐに反応が返って来る。

 

「あいことばー」

神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 

 カチッとロックが外れ、扉が開く。

 

「入って」

「おじゃましまーす」

 

 部屋に入り扉を閉めて、内側から鍵を掛ける。

 

「今日は、あなたに話しておく事があるわ」

「なんすか?」

 

 仲村(なかむら)さんは、いつになく真面目な声で話始めた。

 

「明後日のテスト。あたしたちは、ある作戦(オペレーション)を実行するわ」

 

 SSS(スリーエス)の作戦、それは試験中に、立華(たちばな)さんの答案用紙をすり替え、全教科で赤点を取らせ、校内順位最下位へ陥れるというしょうも無い作戦でした。

 

「この作戦の目的は、名誉の失墜」

「そんな事に意味があるんですか?」

「少なくとも、生徒会長としての威厳は保てなくなる。そこで、天使がどう出るのかを知りたいのよ」

「はぁ、そうですか」

「あまり乗り気じゃなさそうね」

「まあ、一緒に勉強してますし。それが無駄になってしまう訳ですから」

 

 私から視線を外してた仲村(なかむら)さんは、一呼吸間を置いて再び視線を戻す。

 

「あなたが、天使を気に掛けてるのは知ってる。だけど、今回だけは......」

立華(たちばな)さんは、天使ではありません。仲村(なかむら)さんも本当は、もう気づいているんじゃないですか?」

 

 しばらく間が開いた。いえ、一瞬だったかも知れません。

 

「......そんなの認められない。あたしは、あたしたちは彼女と、天使と何年も......何十年も戦い続けて来た。いつの日か、神への糸口を掴めるそう信じて――」

 

 認められないんでは無く、認めたく無いんすね。

 葛藤していることは、目に見えて分かる。

 

「確信が欲しいのよ。天使が、天使で有るか否かの――」

「はぁ......わかりました。今回は、目をつむります」

「そう言ってくれると助かるわ」

 

 緊張感のある声から、いつもの声色に戻った。

 

「ですが。なぜ、あたしに作戦を話したんですか?」

「もし、予めあなたに話さず後から熊耳(くまがみ)くんから聞いたら、作戦を潰しに来たでしょ?」

「さぁ~、どうでしょーか」

「惚けなくていいわよ。あたしとしては、あなたを敵に回したく無いのよ、熊耳(くまがみ)くんも含めてね」

 

 仲村(なかむら)さんは、立ち上がって部屋の隅にある冷蔵庫から飲み物を持って戻って来た。

 

「はい、協力費。買収って言った方がいいかしら?」

「どっちも同じっしょ。いただきまーすって、なんで冷蔵庫があるんすか?」

「ああ、あれ? ギルドの連中に作って貰ったものよ」

「ああ~......土くれから、銃とかの武器を作ってる地下組織っすね」

「そ、構造さえ知っていれば何でも作れる訳。まったく、便利な世界だこと」

 

 熊耳(くまがみ)さんからもたらされた情報によると、ギルドは学園の地下に拠点を構え、対天使用の武器の製造、補充を担当している。原料は、粘土質の土と水。それらを手に持ち、細部を細かくイメージする事で別の物質に変化させる事が出来るらしいですが。現在は、殆どが機械化されて量産されているとのこと。

 

「あなたからは?」

「“Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)”って、知っていますか?」

 

 仲村(なかむら)さんは、口に運んでいた缶ジュースを置く、まとっていた雰囲気が変わった。

 

「ええ、天使のパソコンの中にアプリケーションがあったけど。それが、どうしたの......?」

「そのパソコンの隣に、解説書がありました」

「ちっ、暗くて気づかなかったわ。内容は?」

「ソフトウェアのプログラミングに関する事だと思います」

「なるほど......ナイスな情報よっ。調べてみる価値がありそうね!」

「それは良かったです。では、そろそろ戻ります。ご馳走さまでした」

 

 空き缶を持って、立ち上がる。

 

「ちょっと待ちなさい」

「はい?」

「ひとつ忠告しておくけど、あまり一般生徒(NPC)に思い入れない方がいいわ。あたしたちとは違って、一般生徒(NPC)は三年でこの学園を卒業して行く。思い入れが強いと、その時辛くなるわ」

「経験があるんですか?」

「この世界に長く居れば、あなたにもわかるわよ」

 

 そう言うと仲村(なかむら)さんは懐かしむように、私が着ているSSS(スリーエス)の制服の赤いネクタイにそっと触れた。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

 おやすみなさい。と挨拶を返して部屋に戻る。

 この時、いつも強気な仲村(なかむら)さんが、少し寂しそうに感じました。

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