Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode15 ~印象~

 試験終了を告げるチャイムが、校舎内に鳴り響いた。

 鳴り止む前に監視役の教師が、解答用紙回収の指示を出し、後ろの席の人から前の席の人へ解答用紙が送られていく。

 

「お、終わった~っ」

 

 斜め前の席で試験を受けていた佐々木(ささき)さんが、机に突っ伏した。後ろから回ってきた解答用紙に自分の解答用紙を重ね、前の席の人に渡してから回りを見ると、他の二人も同じように燃え尽きていた。

 まったく、この人たちは。筆記用具を片付けて席を立ち、一番近い席の佐々木(ささき)さんに話しかける。

 

「さあ、お昼へ行きますよ。がんばったご褒美に、デザート奢ってあげますよー」

「ほんとっ!」

 

 ガバッと勢いよく起き上がった彼女の目は、キラキラと輝かせていた。二人にも声を掛けて、学食へ移動。約束通り人数分のデザートを用意して、彼女たちが待つテーブルにトレイに置くと、さっきまでが嘘みたいに笑顔なった。

 やっぱり甘い物には、女子を笑顔にする力があるんですね。

 私も、口に運ぶ。

 

「んぅ~んっ」

 

 天上学園(ここ)はご飯も美味しいけど、デザートも絶品。

 今後の報道部の活動について話ながらスプーンを進めていると、立華(たちばな)さんが少し離れたテーブルに座るのが見えた。

 みんなに断りを入れ、立華(たちばな)が座るテーブルへ向かう。

 

「こんにちはー、いいっすか?」

「こんにちは、どうぞ」

 

 許しを貰って、正面の席に腰かける。

 

「いかがでしたか? 手応えの方は」

「返ってこないと分からないけど、全問埋めることは出来たわ。問題用紙は、あとで渡すわね」

「はーい」

 

 SSS(スリーエス)の作戦が成功しているのなら、返って来るのは全て0点の答案。そうなれば、実際の結果は分からず終い。更には、学園側から何かしらのペナルティーが課せられる事も考えられる。そこで私は試験の前日、問題用紙にも解答を書いて試験後に見せて欲しいと頼んでおいた。

 仲村(なかむら)さんの作戦を知ってなお、止められなかった私が出来るせめてもの償いは、これくらいしかありませんから......。

 

友利(ともり)

「ん?」

 

 放課後、部室でパソコンを操作していると熊耳(くまがみ)さんが入ってきた。着ている制服は、指定の模範生の物。彼の手には、普段私が取材で使っているビデオカメラ。

 

「ほら」

「どもっす」

 

 受け取ったカメラの録画映像を確認すると、試験中の立華(たちばな)さんのクラスの様子が、ばっちり収められていた。

 

「ありがとうございまーす」

「それで、天使(アイツ)の方はどうだ。上手く聞き出せたか?」

「はい、あなたの予想通りです。あたしたちと同じ、魂を持った人間でした。それから、生前に未練があるみたいです」

「やはりな......」

 

 熊耳(くまがみ)さんは近くの椅子を引いて座り、足を組んだ。

 

「ゆりは?」

「もう、分かっていると思います。ただ、頭では理解しているけど、心が納得がしないって感じっすね」

「まあ、そうだろうな......」

 

 何十年も神の使いと信じて戦い続けて来たんですから、そう簡単に割り切れる訳がない。部室内の空気が重くなった。

 

「他の連中はともかく、ゆりは難しいだろうな」

「どういう意味っすか?」

「聞いていないのか? そうか――」

 

 立ち上がった熊耳(くまがみ)さんは、私に背中を向ける。

 

「ゆりの生前の話しだ。あいつが話してないのなら、俺から話す事じゃない。さて、定例会議の時間だ。じゃあな」

 

 気になる言葉を残して、部室を出て行った。

 仲村(なかむら)さんの生前の話し。言われてみれば私は、何も知らない。仲村(なかむら)さんの事も、立華(たちばな)さんの事も、それに......。

 

 ――さて、ご飯行きますか。

 

 

           * * *

 

 

 お風呂の後、立華(たちばな)さんから問題用紙を預かって、自室で答え合わせ。三年生の解答は、予め先生から入手済み。許可を貰って、コピーを取ってあります。テスト終わりに「上級生の授業内容に興味があるので見せて欲しい」と、お願いしたら、先生方は快く応じてくれました。

 普段から優等生を演じていると、こう言う時に便利なんですよね。

 

「よし、やるかぁ~」

 

 少し気合いを入れる。

 立華(たちばな)さんから預かった問題用紙の応えると、コピーした解答用紙と解答を照らし合わせ採点を行う。単純ながらも、ミスが許されない作業が続く。一教科ごとに採点が終わる度に、見落としや間違いが無いかを慎重に確かめながら二回り見直す。

 作業を始めてどの位の時間が経ただろうか、部屋のドアがノックされた音で手を止める。誰だろう。時計を見る。消灯時間から30分程が過ぎていた。

 教師かな? とも思いましたが、ドア越しに声を掛けてこないところを見ると違うみたい。

 警戒しながら、ゆっくりとドアを開く。すると模範生の制服を着た、ポニーテールの女子が立っていた。一瞬誰だか分かりませんでしたが、頭に付けた淡い緑色のリボン付きのカチューシャで正体が判明。

 

仲村(なかむら)さん、ですよね?」

「ええ、そうよ」

 

 やはり、仲村(なかむら)さんでした。

 髪型と服装だけで、こんなに印象が変わるものなんですね。

 

「あ! やばっ、見回りの教師が来たわっ」

「どうぞ、入ってください」

 

 仲村(なかむら)さんを招き入れ、部屋の電気を落とす。

 カーテンの隙間から漏れる灯りを頼りに窓際まで行ってカーテンを全開にする。外は曇り空でしたが、彼女の顔が見えるくらいの明るさを確保することが出来た。

 クッションを渡すと、お尻に敷いて話を切り出した。

 

「今日は、どうしたの?」

「自己採点をしていて、さっきのノックで気がつきました」

 

 机の方を見ながら答えると仲村(なかむら)さんは、若干引いたように感じる。

 

「あなた、生きてた頃からそうだったの?」

「はい」

 

 私のは、今日のテスト以外採点済みです。

 

仲村(なかむら)さんは、してなかったんですか?」

「普通しないわよ......。成績も良いみたいだし、生きてた頃は勉強漬けの人生だったの?」

「いえ、特には」

 

 一応、将来を見据えて勉強はしてましたけど、大半は特殊能力者対策に時間を割いてたし。

 

「まあ、いいわ。本題に戻すわよ。全教科の解答用紙のすり替えに成功したわ」

「そうですか、それでどうですか?」

「まだわからないけど、数日中に何かしらの処分があるはず。そこで。どう出るかで判断するわ」

 

 そして、数日後。仲村(なかむら)の思惑通りの事が起きた。立華(たちばな)さんの全教科0点の噂が学校中に流れた。それも全て、教師をバカにしたような解答だったという噂。

 その噂を裏付ける様に、臨時の全校集会が開かれた。

 

『ええ......立華(たちばな)(かなで)さんは、本日付けで生徒会長を辞任――』

 

 体育館の壇上で学校でも古株の教師が、立華(たちばな)さんの辞任を伝える。実際は、事実上の解任っすね。

 

『つきましては、後任が決まるまでの間、生徒会副会長の直井(なおい)くんが生徒会長代理として――』

 

 同じく壇上に居た副会長が、生徒会長代理として紹介された。食堂で、男子(NPC)に酷い暴力を振るっていた暴行魔が生徒会長代理......あまり良い印象は持てませんね。

 翌日の昼休み、食堂で一人食事をしていた立華(たちばな)さんを訪ねた。

 

「こんにちはー」

「こんにちは、どうしたの?」

「約束を果たしに来ました」

「約束?」

 

 試験前の約束を果たすため食べ終わった立華(たちばな)さんと一緒に購買へ向かって歩いていると、見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 

岩沢(いわさわ)さん」

「おっ、友利(ともり)じゃないか。それに......天使っ!?」

 

 隣を歩く、立華(たちばな)さんを見て警戒を強める。

 私は、構わずに話を続けた。

 

「今から購買へ行くんですけど。岩沢(いわさわ)も、一緒に行きませんか?」

「天使も、一緒にか?」

 

 迷いながらも一緒に女子寮の購買へ来た岩沢(いわさわ)さんは、手に取った下着をガン見していた。

 

「なんだよ、これ?」

「どうしたんすか?」

「パンツって、こんなに種類があるのかっ?」

「しばらく来てない間に、すごい増えてるわ」

 

 二人とも、何やらショックを受けているみたい。

 

「これ......ただの、(ひも)?」

「......隠れるのか、それ? こっちのは、どうだ?」

「どれ?」

 

 最初は警戒していた岩沢(いわさわ)さんは、立華(たちばな)さんと一緒に話ながら奥の方へ歩いて行った。

 さて、私も見て回りますか。しばらく見て回っていると、下着を入れたカゴを持った二人が来ました。

 

「気に入ったものは、見つかりましたか?」

「いくつか候補はあるわ。友利(ともり)さんの意見を聞きたくて」

「そういうことだ。友利(ともり)、頼む」

 

 カゴの中の下着を手に持って、見比べる。

 

「う~ん......」

「どうかしら?」

「どれも似たようなデザインですね」

 

 多少デザインに違いはあっても全部、白系の下着だった。

 清楚な感じなので、立華(たちばな)さんにはぴったりだとは思いますけど。印象通りで意外性がない、とでもいいますか。

 

「これなんてどうっすか?」

 

 近くのラックから、立華(たちばな)さんに似合いそうな下着をチョイス。

 

「可愛いわ。だけど、私に似合うかしら。どう思う?」

「よく分からないけど、似合うんじゃないか?」

「じゃあ、これにするわ」

 

 岩沢(いわさわ)さんの意見も聞いた立華(たちばな)さんは、他の下着を戻してレジへ向かった。

 

岩沢(いわさわ)さんは、買わないんすか?」

「正直、パンツにはあまり興味がない。ひさ子に頼んで、ついでに買ってきて貰う」

「そうですか。ではまず、下着かショーツと言い方を変えることから始めましょう」

 

 会計をしている立華(たちばな)さんを待っている間に、岩沢(いわさわ)さんの買い物。

 

「肌触りとか、こだわりはありますか?」

「ギターが弾きやすければ、なんでもいい」

「となると、この辺りか。これはどうですか?」

「見た感じ動き難そうだ」

「触ってみてください」

「おっ、伸びる!」

 

 ブラを軽く引っ張ると、とても感動していた。

 

「今は、伸縮タイプでも様々なデザインがあります。それにこの下着はワイヤレスなので、腕を大きく上げても違和感が少ないかと。試着してみたらいかがですか?」

「そうだな。付けてみるか」

 

 試着室に入って数分後、立華(たちばな)さんが紙袋を持って戻ってきました。

 

「そう言えば、採点が終わりました。今夜、届けに行きます」

「そう、ありがとう。どうだった?」

「平均七割越えでしたよ」

「ほんと?」

 

「本当です」と、頷いて答える。

 

「あなたのお陰ね」

「実際に問題を解いたのは、立華(たちばな)さんです。あたしは、ちょっとだけ手伝いをしただけですから」

 

 話して待っていると、バッ! と勢いよく、試着室のカーテンを開いた。

 

「このブラ、スゲーなっ!」

 

 気に入ったみたいですね。色とデザインを選んで、岩沢(いわさわ)さんも下着を購入。購買部を出る。立華(たちばな)さんは下着を置きに女子寮へ戻り。私は、午後の授業に出席するため校舎へ戻る。

 

「昨夜は、大変でしたね」

「昨夜? なにかあったのか?」

SSS(スリーエス)の人たちが、生徒会に連れて行かれたんですけど。知らないんすか?」

「知らない。そんな事があったのか。たぶん、ギター弾いてた時だな」

 

 食欲よりも音楽を選ぶなんて、さすが岩沢(いわさわ)さん。

 

「今、新曲を作ってるんだ」

「そうですか。完成したら聴かせてください」

「ああ、一番に聴かせてやるよ」

 

 この世界で、新しい楽しみがひとつ出来た。

 夕食前、採点が終わったテストを渡すために、立華(たちばな)さんの部屋を訪ねた。しかし、反応は返ってこず。取り立てて急ぎの用事ではなかったため、また後で来ればいいかと思い。先に夕食を済ませ、女子寮へ向かっている途中に、どんよりとした空から雨が降ってきた。雨足が酷くなる前に少し小走りで、女子寮へ続く階段を駆け上がる。自室へ戻る前にもう一度、立華(たちばな)さんの部屋をノックしてみるも、タイミングが悪いのか。

 またしても、反応が返って来ることはなかった――。

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