Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode16 ~戦場~

 解答用紙を回収している時突然、SSS(スリーエス)の男子が勢いよく立ち上がり、グラウンドを指差して大声で叫んだ。

 

『なんじゃありゃー!? グラウンドから、超巨大なタケノコがニョッキニョッキとぉーッ!』

 

 この声は、日向(ひなた)さんですね。

 彼が、校庭を指差して高らかに叫ぶも誰一人反応せず、恥ずかしそうに項垂れて座り込んだと思ったら、飛んだ。比喩ではなく、文字通り椅子ごと日向(ひなた)さんの体が浮き上がり、天井に激突して落下した。

 

『ぐわぁーっ!?』

 

 頭部を両手で抱えながら床で、のたうち回っている。とても痛そう。

 しばらくして痛みが収まったのか、日向(ひなた)さんは仲村(なかむら)さんが座る席へ詰めよって行く。彼女は、机で頬杖を付きながら素敵な笑顔で答えた。

 

『あなたがミスした時の為に、椅子の下に推進エンジンを積んでおいたの~。どうだった? ちょっとした宇宙飛行士気分は?』

『一瞬で天井に激突したよッ! てか、推進エンジンなんて――』

 

 ――なにやってんすか、この人たち。

 私は今、熊耳(くまがみ)さんが回収してくれたビデオカメラの映像の中から、SSS(スリーエス)が不正を行っている証拠を探している。飛んだ日向(ひなた)さんに気を取られてしまっていた場面を巻き戻して、立華(たちばな)さんの席周辺を注視。

 

「あった」

 

 日向(ひなた)さんがのたうち回っている間に、立華(たちばな)さんの前の席に座っている、おかっぱ頭のSSS(スリーエス)の男子が不審な動きをしていた。ズームすると、すり替えて引き抜いた解答用紙を机の中に隠している現場が、ばっちり抑えられていた。

 映像を早送りして、次のテスト終わりまで飛ばす。

 今度は、別の男子が突然上半身裸になって鍛え上げた肉体を女性教師に見せつけた。

 

「ひくなっ」

 

 変態か、コイツ。完全にセクハラ。

 後ろ姿だから顔はわかりませんが、声は私の知り合いと似ていた気がする。あと身体を鍛えてるところとか。おっと、また見逃した。巻き戻して、おかっぱ頭の男子をズームで捉える。先ほどと同様に、解答用紙すり替えの場面が録画されていた。

 よし。不正の証拠は掴んだ。これで、いざという時に預かった問題用紙とこの動画で、立華(たちばな)さんの汚名を晴らすことが出来る。ビデオの電源を落として、軽く腕を伸ばす。

 

「さて、お風呂行くか。ん?」

 

 タンスに着替えを取りに行こうと思ったところで、部屋のドアがノックされた。目覚まし時計の時間の針は消灯まで、まだ一時間以上の余裕がある。先日の様に、仲村(なかむら)さんが訪ねて来たわけではなさそう。となると立華(たちばな)さんが、問題用紙を取りに来たとかですかね。

 

「はーい」

 

 ドアを開ける。来客は、SSS(スリーエス)の制服を着た女子だった。ツインテールで、左耳にインカムを装着している。神出鬼没の通信士、遊佐(ゆさ)さん。彼女が、ここに来たと言う事は――。

 

「こんばんは、ゆりっぺさんから伝言です」

「とりあえず、入ってください」

「失礼します」

 

 部屋へ招き入れて、ドアを閉める。遊佐(ゆさ)さんは、よく見ると髪と肩が濡れ、膝には血が滲んでいた。これは、ただごとでは無さそう。

 仲村(なかむら)さんと相互協力を結んだ日、緊急事態が起きた時は今、ここに居る遊佐(ゆさ)さんを連絡役にすると取り決めた。そして、その予感は的中した。

 

「ゆりっぺさんからの伝言です。乙坂(おとさか)さんと天使を探して連れてきて欲しい、との事です」

「どう言う事ですか? 状況を教えてください」

「現在SSS(スリーエス)は、生徒会長代理直井(なおい) 文人(あやと)率いる生徒会とグラウンドにて交戦中。ゆりっぺさんは、今まで抑止力になっていた天使が失脚した事で、新たに実権を握った生徒会長代理が強行に出たと推測しています。そして現在、音無(おとなし)さん、乙坂(おとさか)さん、天使の三名が所在不明となっています」

 

 あの生徒会副会長――やはり人だったんですね。実際に暴行現場を何度も見ましたし、危険とは思っていましたが......。

 

「グラウンドの様子は?」

「惨状という言葉が適当かと思います。生徒会長代理は、SSS(スリーエス)一般生徒(NPC)に手出ししない事を知っています。ですから、生徒会と無関係の女子生徒(NPC)を人質に取り、盾にして攻撃を仕掛ける一方的な殺戮(さつりく)といいっていい悲惨な状況に陥っています」

 

 意識を取り戻しても、すぐにまたやられる。

 延々と一方的に苦痛を与え続ける、卑劣な行為。

 

「なるほど。立華(たちばな)さんを近づけさせないため、どこかへ閉じ込めているとも考えられますね」

「はい。ゆりっぺさんも、友利(ともり)さんと同じ見解でした。昨夜SSS(スリーエス)の幹部が拘束されていた、第一連絡橋下の通路に創られた反省室を調べましたが、そこは(もぬけ)の殻でした。別の場所に幽閉されていると思われます」

「......わかりました、私も準備をして探します。男子寮か図書館に、熊耳(くまがみ)と言う人がいると思います。その人なら、乙坂(おとさか)さんの居場所を知っているはずです。前髪が長いので、見たら直ぐに分かると思います」

「了解しました。では、失礼します」

 

 遊佐(ゆさ)さんが部屋を出てからSSS(スリーエス)の制服に着替えて、ビデオカメラを持って部屋を出る。

 しかし、探すといっても私よりも遥かに天上学園(ここ)の事を詳しく知っている仲村(なかむら)さんたちが見つけられないとなると。幽閉場所は、彼女たちが余り立ち入らない場所と考えるのが妥当と考えられる。

 

「となると、校舎内か?」

 

 女子寮の玄関を出ると、雨は先ほどよりも強くなっていた。傘を差して校舎へ向かう。長い階段を下り、大食堂の脇を通って校舎へ近づくと、雨音に混ざり微かに発破音が聞こえた。昇降口前の大階段からグラウンドへ目を向ける。照明に照らされた数十程の人影、そのうちの何人かが倒れいる。グラウンドの雨溜まりは、SSS(スリーエス)のメンバーの血が混ざり赤い海になっていた。

 酷いな、これは急がないと。

 この悲惨な現状を止められるのは「天使」しかいないんだから。

 悲惨な戦場から背をそむけて、校舎へ入る。校舎の中は非常灯が灯っているだけ、天気も悪いため薄暗い。慎重に廊下を進み、幽閉場所を探す。

 閉じ込めるなら目立たないかつ、逃げ出せない場所。上か下。レンガ造りの校舎の構造からして上は壁伝いに脱出は可能。なら、下? けど、学園に地下があるなんて......ああ、ありましたね、ギルドが。

 ギルドは元々、学園の敷地内にある地下空間を開発して作った組織。それなら、ギルド以外の地下空間があっても不思議じゃない。廊下に備え付けられている消火栓の中から、懐中電灯を拝借して注意しながら廊下を歩いていると、カツンッと何かが落ちた様な音が聞こえた。音の出所へ走って向かう。二階へ上る階段があり、一階と二階の間の踊り場に黒い物影が見えた。

 

「きゃあっ」

 

 ライトで照らすと、黒い物影は悲鳴を上げた。

 黒い物影の正体は、SSS(スリーエス)のセーラー服を着た女子だった。どこか見覚えのある後ろ姿の女子は、頭を抱えて怯えて震えている。近くには「おしるこ」の缶が転がっていた。缶を拾った私は、近づいてしゃがんで背中に声を掛ける。

 

入江(いりえ)さん」

「ふぇっ? あっ、黒羽(くろばね)さん~......」

 

 振り向いた入江(いりえ)さんは、私の顔を見て安心したらしく顔を上げて、こちらを向いて座り直した。

 

「どうして、こんなところに?」

「えっと......」

「あたしらは、待機を命じられているんだ」

 

 違う女子の声。

 

「ひさ子さん、おひさっす」

「ああ、球技大会の時以来だな。で、本題だけど。あたしらは陽動班だから、交戦時は基本的に安全な場所に居るんだ。ほら、入江(いりえ)

「ありがとうございます」

 

 ひさ子さんは、入江(いりえ)さんに手を貸して立ち上がらせる。私も、立ち上がる。

 

黒羽(くろばね)は、どうしてここに?」

仲村(なかむら)さんに頼まれて、音無(おとなし)さんと天使を探しています」

「ゆりに? 天使を探せだなんて、現場は相当みたいだな......」

「はい。それで、ギルドへの入口を知りませんか?」

「ギルド?」

 

 私の推測を話すと、ひさ子さんは腕を組んで頷いた。

 

「なるほどな。あたしが知ってるのは、体育館のパイプ椅子の収納奥くらいだけど......」

「ありがとうございます。行ってみます」

「ちょっと待てっ!」

 

 階段を下りようとしたところで、呼び止められた。

 

「なんすか?」

「ギルドには、対天使用の即死トラップが幾つも仕掛けられてる。そのトラップ解除指示は、ゆりにしか出せないんだよ」

「ああ~......」

 

 それは不味いっすね。左手に目を落とす。ようやくふさがった指先の切り傷。それでもまだ、傷跡が少し残ってる。どう言う訳か私のケガは、直ぐに完治しない。それとも自傷は対象外なのだろうか。調べるにしても、今は調べようもないし、出来れば痛い思いもしたくない。

 

「あの~」

 

 入江(いりえ)さんが、少し遠慮がちに小さく手を上げた。

 

「天使なら。あたし、見ました」

「ホントですか?」

「ホントですぜ、お嬢っ!」

 

 ひさ子さんの横から、関根(せきね)さんが顔を出した。

 そして、入江(いりえ)さんの言葉を肯定して回想が始まった。

 

「あれは、そう......午後の授業の休み時間、屋上でみゆきちとジュースを飲んで駄弁っていた時のこと。天使とSSS(うち)の男子が、大勢の男子(NPC)に囲まれてC棟の方へ連れて行かれるのを見たって訳です。なっ、みゆきち」

「うん」

 

 入江(いりえ)さんも一緒に見たのなら間違い無いですね。

 やっぱり、この校舎付近で幽閉されている可能性が高い。

 

「C棟の方へ行ってみます」

「あたしらも、探すか?」

「いえ、大丈夫です。ひさ子さんは、二人を安全な所へお願いします」

 

 まだ怯えている入江(いりえ)さんを見た私は、ひさ子さんの申し出を断って一人で捜索を続行。各学習棟を繋ぐ渡り廊下を通って、二人を目撃したと言う学習棟C棟へ到着。到着して直ぐに爆発音が聞こえ、足下から振動が伝わってきた。

 直後、C棟内の非常ベルが一斉に鳴り響いた。人影が二つ、こちらに向かって走って来る。ライトで照らすと、男女の生徒。女子は探し人の天使――立華(たちばな)さんだった。

 

立華(たちばな)さん!」

「ん? あなた......どちら様だったかしら?」

「おい、急ぐぞ、立華(たちばな)ッ!」

 

 立ち止まって首を傾げる立華(たちばな)さんを急かす男子。

 

「あなたが、音無(おとなし)さんですね。話しがあります。一緒に行きましょう」

「あ、ああ......」

 

 グラウンドへ向かって走りながら、三人で話をする。

 仲村(なかむら)さんの推測の通り二人は、校則違反を理由に独房の様な場所に閉じ込められていた。その独房の中で仲村(なかむら)さんから預かったトランシーバーで、外の状況はある程度知っているとのこと。校舎を出て、グラウンドの現状を直視した音無(おとなし)さんは、あまりに悲惨な状況に絶句して固まった。

 

「先に行ってください。あたしは、応援を呼んできます」

「――わかった、立華(たちばな)っ!」

「うん」

 

 二人は、階段を駆け下りていく。

 私は、教員棟の方からこちらへ歩いてくる二人を待った。

 

「遅かったですね」

「ああ。寮に銃を取りに行ってたからな」

「彼女に、見せていいんですか?」

 

 模範生の制服を着た熊耳(くまがみ)さんの隣に居る、遊佐(ゆさ)さんを見る。

 

「コイツは、口が堅いからな」

「ご安心下さい。他言はしません」

「そうですか。では、あたしたちは下へ行きます。遊佐(ゆさ)さんは、校舎に隠れていてください」

「そうさせていただきます」

 

 遊佐(ゆさ)さんが校舎に入ったのを確認した後、熊耳(くまがみ)さんに気になっていたことを尋ねる。

 

熊耳(くまがみ)さんは、この世界でケガをしたことはありますか?」

「どうした? 突然」

「教えてください。お願いします」

「ある。流れ弾が足をかすめた」

「その傷は、直ぐに完治しましたか?」

「ああ、一日も経たないうちにキレイに治った」

 

 やっぱり、私だけか......。

 

「それが、どうした?」

「これを見て下さい」

 

 左手をライトで照らして、僅かに筋の入った傷跡を見せる。

 

「ケガか?」

「はい、一週間以上前に自分で切った傷です。ようやく目立たなくなりました。どう思いますか?」

「さあな。だが、分からない以上無茶は絶対にするな。取り返しがつかないことになるかも知れない」

「......はい、では行きましょう」

 

 先に降りた二人を追って、私たちも大階段を駆け足で下り。

 血に染まる戦場へ降り立った。

 

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