Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode17 ~人生~

 熊耳(くまがみ)さんと、雨で濡れた大階段を滑らない様に気を付けながら急いで降り、グラウンドに降り立つ。

 そこには、想像以上に悲惨な状況が広がっていた。

 何人もの戦線メンバーが、四人の生徒会男子(NPC)が持つ拳銃で撃たれたのか、身体中からおびただしい出血を伴って倒れていた。

 一足先にグラウンドへ降りた音無(おとなし)さんは、血まみれで倒れている日向(ひなた)さんの体を支え。立華(たちばな)さんは、二人の数メートル後ろに佇んでいる。

 そして、四人の生徒会男子(NPC)に守られる形で生徒会長代理の直井(なおい)文人(あやと)とはポケットに手を突っこんで、倒れているSSS(スリーエス)のメンバーを踏みつけていた。

 生徒会長代理に存在を気づかれる前に、彼を意識して特殊能力「不可視(ふかし)」を使って認識を断ち。万全の備えを施してから、熊耳(くまがみ)さんに言う。

 

「行きます。熊耳(くまがみ)さん、フォローをお願いします」

「ああ、わかった。能力は?」

「既に使っています。実証済みですので、ご心配なく」

「そうか。だが、無茶はするなよ」

「わかってます。あなたは、生徒会長代理の死角へ回って下さい」

 

 頷いた熊耳(くまがみ)さんは、銃のセーフティを解除し死角から回り込む。私はビデオカメラを回して、作戦を伝えるため立華(たちばな)の元へ向かう。すると、彼女と生徒会長代理の会話が聞こえてきた。

 

「あそこからどうやって出てきた?」

「扉を壊した」

 

 生徒会長代理はゆっくりと近づき、立華(たちばな)さんとの距離を詰める。

 

「何年掛けて作ったと思ってるんだ。生徒会長代理として命じる、大人しく戻れ」

立華(たちばな)ッ! この惨状だ、それが正しくないって分かるよなッ!?」

 

 惨状に怒気を込めた音無(おとなし)さんの言葉に、立華(たちばな)さんは小さく頷くと腕を曲げて「handsonic(ハンドソニック)」と、エコーが掛かった様な声で唱えた。すると、右手の甲が輝き出し、透き通るような(やいば)が出現した。

 これが噂の「handsonic(ハンドソニック)」ですか! 熊耳(くまがみ)さんから聞いた話によると、他にも銃弾の軌道を歪めたりすることが出来る能力もあるとかっ。

 

「フッ......」

 

 生徒会長代理は鼻で笑い、耳を疑う言葉を発した。

 

「逆らうのか? 神に......」

 

 ――神?

 

「そう、僕が神だ」

「バカか、こいつ......」

「こんな事しておいて、何言ってんだっ」

 

 呆れ声の日向(ひなた)さんと、憤りをぶつける音無(おとなし)さん。生徒会長代理は、私たちと同じ魂を持った人間。証拠も掴んである。二人の言う通り、そんな人が、この世界を創った神である訳がない。

 

「愚かな......。死後の世界(ここ)は、神を選ぶ世界だ。誰も気づいていないのか? 生きていた時の記憶がある。皆、一様に酷い人生だったろう。なぜなら、それこそが神になる権利だからだ。生きる苦しみを知る僕らこそが、神になる権利を持っているからだ」

 

 ああ~、なるほど。そう言う理屈ですか。

 それで神を自称してると、子どもの様な身勝手で幼稚な考えですね。

 

「そして僕は今、そこに辿り着いたんだ......。僕が、神だ」

「神なったお前は、どうするつもりだ......!」

「安らぎを与える......」

「俺たちに、かよ......っ」

「無茶苦茶してくれんじゃねぇかよっ!」

 

 二人の言葉を受けた生徒会長代理は背中を向け、血まみれで倒れている大勢の戦線メンバーを指した。

 

「抵抗するからだ」

 

 そのままグラウンドの中央に倒れている女子の方へと歩き出した。あの特徴的な頭のリボンは、仲村(なかむら)さん。彼女もまた、身体からおびただしい出血を起こしている。それに服も破れていた。

 

「キミたちは、神になる権利得た魂であると同時に、生前の記憶にもがき苦しむ哀れな人間だ。神は決まった。なら僕は、お前たちに安らぎを与えよう」

「ゆりっ!」

 

 音無(おとなし)さんが、仲村(なかむら)さんの名前を叫ぶ。生徒会長代理は気に止める事もなく、倒れている仲村(なかむら)さんの髪を容赦なく乱暴に掴み上げた。そのまま右肩と左手首を掴み、身動きを取れなくした仲村(なかむら)さんを見下すような視線を向ける。

 

「あうっ、うっく......」

「ゆりっ! これ以上なにを――」

 

 音無(おとなし)さんは、日向(ひなた)さんの身体を支えていた腕を離し、仲村(なかむら)さんの元へ駆けよろうと立ち上がるも、護衛の生徒会男子(NPC)が彼を囲む様に銃を構えた。音無(おとなし)さんの足が止まる。

 

「な、なによ......?」

「キミは、今から成仏するんだ」

「なっ!?」

「先日、転校生が消えたのを知っているだろ? そう、キミが探していた人間だ」

 

 仲村(なかむら)さんは、天使以外に消された可能性があると言っていましたが。やはり、この人が消したようですね。さて、もう充分です。行きますか。

 

「神である僕が成仏させた。彼は、幸せそうな顔をして旅立っていったよ」

「どうやって......?」

「僕が長い年月掛けて用意したのは、天使の牢獄だけじゃない。催眠術だ」

 

 私は、仲村(なかむら)さんの元へ向かって歩き出し。日向(ひなた)さんたちの脇を通る。

 

「お、おい......」

「お前......」

「大丈夫でーす。ご心配なく」

 

 仲村(なかむら)さんと生徒会長代理の近くまで移動しても、生徒会男子(NPC)たちは何もアクションを起こさない。一人一人の視界に入る寸前で「不可視(ふかし)」を使い別け、四人の死角を縫うように歩き。自分語りに夢中になっている生徒会長代理に改めて「不可視(ふかし)」を使って、二人の目の前まで辿りついた。

 私の能力は、意識している一人に対してのみ有効。能力が掛かっていない仲村(なかむら)さんは、私の姿に驚いて目を見開いた。ビデオカメラを持っていない左手の人差し指を立てて、静かにして下さいと合図を送る。

 

「さぁ、目を閉じるんだ。貴様は今から成仏する。こんな世界でも幸せな夢を見れるんだ」

 

 その言葉に従う様に、仲村(なかむら)さんの目がゆっくりと閉じられて行く。

 

「いやー、びっくりしたなぁー!」

「え......う、うわぁーっ!?」

 

 生徒会長代理は、大声を上げて尻餅をついた。

 彼にとっては突然、目の前に私が現れた訳ですから無理ない。しかし、滑稽な格好ですね。

 

「あなた、今の......」

「話しは、あとにしましょう」

 

 崩れ掛けた仲村(なかむら)さんを支えて、座らせる。

 

「き、貴様ッ! い、いったいどこから現れたッ!?」

「なに言ってんだ? あいつ......」

 

 歩いて近寄っていくのを普通に見ていた日向(ひなた)さんたちにとって、生徒会長代理の言動は不可解な物でしかないでしょう。

 

「さぁ~、あなた神なんでしょ? 自分で考えたらどうっすかぁ?」

「くっ......おいっ!」

 

 生徒会男子(NPC)たちが一斉に、私の方を向いた。

 

「こいつを、なっ......き、消えたっ?」

 

 顔を大きく左右に動かして、必死に私の姿を探している。視認出来ないためか、動揺して命令を出せないでいるみたいです。命令がないと操っている生徒(NPC)も身動きが出来ない、と。これは、有効な情報ですね。

 私を探して、後ろに振り向いた。その背中に声をかける。

 

「どこ見てんすかー?」

「ええっ!? なんなんだっ、貴様ッ!?」

「報道部の者でーす」

「ほ、報道部......?」

 

 カメラを止めて、録画してある大食堂での暴行現場の映像を見せる。

 

「ほら、これ見てください。あなたが、生徒に暴行している現場です。顔もばっちり写ってまーす。それと今、このグラウンドで行われている蛮行もしっかりと記録してあります。これ、教師にみせたら解任は確実っすね」

「よ、寄越せっ!」

 

 権力を失うのを恐れたのか、ビデオカメラに向かって飛び掛かって来た。この行動は当然、想定内。似たような事をする人は、今まで何人もいましたし。その時と同じ対処法を使う「不可視(ふかし)」を使って攻撃をかわし、相手をおちょくる。

 

「また消えたっ?」

「こっちでーす」

「くそっ、撃てっ!」

 

 今度は、間髪入れずに命令した。パァンッ! パァンッ! とグラウンドに銃声の乾いた音と雨音が交ざった音が響き、勝利を確信したのか、生徒会長代理は笑みを見せた。

 けど、私には何の異変も起こらない。

 

「ナイスっす! 熊耳(くまがみ)さん、立華(たちばな)さん」

 

 倒れていたのは、生徒会の男子生徒(NPC)たち。

 私寄りの二人は、熊耳(くまがみ)さんに射たれ。遠く二人は立華(たちばな)さんの「handsonic(ハンドソニック)」の餌食になって倒れた。

 

「ば、バカな......」

「詰みです。観念してください」

「くっ......」

 

 護衛を失い観念したらしく、両手を地面に突いた。

 しかし、突如として不気味に笑い出した。

 

「フッ......フフッフフッフフフ......」

「なんすか?」

「詰んだのは......貴様の方だーッ!」

 

 顔を上げた彼の右手には、拳銃が握られていた。

 見たことのある、デザインの拳銃。以前、仲村(なかむら)さんが私に向けた銃だった。生徒会長代理は銃口を私に向けて、躊躇なく引き金を弾いた。

 次の瞬間、私の視界に入ってきたのは泣いている雨空と照明の灯り。撃たれたはずなのに、不思議と痛みは感じない。その代わりに重みのある、温かい何かが私に覆い被さっていた。

 

「ゆりっぺっ!」

「ゆりっ!」

 

 日向(ひなた)さんと音無(おとなし)さんの声が聞こえた。目を向けると、リボンの付いた特徴的なカチューシャが見えた。

 

仲村(なかむら)さん?」

「はぁはぁ......うっ、くぅ......」

 

 仲村(なかむら)さんの背中に触れると、生温いモノが手のひらにベッタリと付いたのがわかる。相当な出血量、普通なら助からない致命的な出血だった。

 

「無駄なあがきをする。どうせ、全員成仏するんだ......!」

 

 立ち上がった生徒会長代理は、再び私に銃口を向けた。不味い。「不可視(ふかし)」を使ってたところで避けられない。

「無茶はするなよ」、熊耳(くまがみ)さんの忠告が頭を過る。

 

「もう止めろーっ!」

 

 生徒会長代理が視界から消えた。彼の代わりに、音無(おとなし)さんが見える。彼は、生徒会長代理の胸ぐらを両手で掴み上げていた。

 

「こんな事をして、いったいなにになるってんだッ! 俺たちの生きてきた人生は、本物だ! みんな必死に生きて来たんだよ! それを奪う権利は、お前には無い! 神にだって! だからみんな、今もここで必死に抗ってるんだよっ! お前だって同じだろッ!?」

 

 音無(おとなし)さんは、自分の思いを必死に伝えようと彼を抱きしめる。

 

「なにを知った風な......」

「わかるさ、お前もここに居るんだから......!」

「なら、あんた認めてくれんの? この僕を......」

「お前以外の誰を認めるんだよ? 俺が今、抱いてるのはお前だ。直井(なおい)文人(あやと)、お前なんだよ......」

 

 彼の名前を呼んだその時、生徒会長代理の直井(なおい)さんの目から、一筋の涙が流れた。

 

 

         * * *

 

 

 女子寮。寮内に完備されている調理室を借りて作ったお粥を、食べやすい温度に冷ましてからスプーンを口に運ぶ。

 

「はい、あ~ん」

「自分で食べれるわよっ」

 

 ベッドに横になっている仲村(なかむら)さんは、恥ずかしそうにして素直に口を開けてくれません。

 

「なにを強がってんすか?」

「強がってなんてないわよっ。いっぅ~......!」

 

 直井(なおい)さんに撃たれた場所を軽く触れると、とても痛そうに顔を歪めた。

 

「ほら」

「あなたね......。あたしは、ケガ人よっ」

「知ってますよ。だから、こうして看病してるんじゃないですか」

 

 あの時、仲村(なかむら)さんは私を庇って凶弾に撃たれた。ケガは直ぐに治るとはいえ、責任を感じた私は、完治するまでの間彼女の看病を申し出た。

 

「嫌なら、ちゃんと食べて早く治して下さい」

「......わかったわよ。んっ」

 

 諦めたのか口を開けた。レンゲをゆっくり口に入れる。

 

「......すごくおいしい」

「そうですか? よかったっす。はい、あ~ん」

「あ、あ~ん」

 

 なめたけをトッピングしたお粥は好評みたいです。なめたけは普通に食べるのはもちろん、お粥との相性も抜群なんすよっ。食べ終わった食器を片付けて、部屋に戻る。

 

「ねぇ......」

「なんすか?」

 

 スポーツドリンクをコップに注いでいると、背中越しに声を掛けられた。コップにストローを差して、彼女に手渡してからベッド脇に座る。

 

「ありがとう」

「いえ、それでなにか?」

「あの時、どうやったの? 直井(なおい)くんは、消えたって言ってたけど。あたしには、ずっと見えてたわ」

「うーん......」

 

 命を救って貰った訳ですし。正直、ケガが直ぐに治らない私が撃たれていたらどうなっていたことか......。考えると、とても怖くなった。

 

「他言無用で、お願い出来ますか?」

「正直に話してくれるならね」

「はぁ......。わかりました。あたしを見ていて下さい。よっと」

 

 仲村(なかむら)さんを意識して、「不可視(ふかし)」を使う。

 

「えっ! あ、あれ? 消えたっ?」

「どもっす」

「わぁっ! い、いったい、どうなってるのよ......?」

「これは、あたしの特殊能力です」

「特殊......能力?」

 

 信じられない、と言った様子で目を丸くしている。

 

「まさか、天使の“guard skill(ガードスキル)”みたいに“Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)”で、プログラミングして作った能力なの......?」

「いえ、生きていた時から持っている力です」

「どういうこと? 訳がわからないわ......」

「話してもいいですけど、説明すると長くなりますよ?」

「時間はたっぷりあるわ。聞かせて、あなたの話しを――」

 

 私は、仲村(なかむら)さんに話し始めた。

 私の歩んできた、理不尽な人生を――。

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