Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
先ず兄が、特殊能力者になった。
私が、国立の附属中学に合格した頃の話し。
その頃の兄は、バンドを組んでメジャーデビューを目指し、路上やライブハウスで演奏を繰り返す日々を送っていた。兄のバンドがレコード会社に目をつけられ。私は入学の手続きを済ませた矢先、母から切り出された、
レコード会社と正式な契約を結び、念願だったメジャーデビュー直前だった兄は、母に理由を問い詰めた。
母のとった行動は、土下座だった。
私たち
結局私たちは、全寮制の学校へ通うことになった。見かけは普通の学校で、友だちも直ぐに出来た。ただ、授業が終わると健康診断の様な検査を毎日のように受けさせられた。同じ学校に居るの兄とは会うことが出来ず、探そうとすると、決まって友だちが邪魔をした。
その頃兄は、学校の科学者に拘束され、実験台にされていた。兄の特殊能力は、空気を自由に振動させることが出来る能力。その能力を使って、ギターの音を様々な楽器の音色に変えて、ライブをしていた事から科学者に目を付けられた。
兄の能力を使えば、通信をジャミングしたり、ジャックが可能と科学者は考えたからだ。
結局、兄と再開したのは約一年後。兄は、かつての兄じゃなかった。私を妹と認識することも出来ず、ギターを弾くことも。
私の邪魔をした友だちは、科学者が用意した仮初めの友だち。毎日検査を受けていたのは、
私は、もう誰も信じないと心に誓い。
廃人同然の兄を連れ、学校から逃げ出した。
「......その後は、どうなったの?」
「頼る宛もなく、途方に暮れていたところを特殊能力者を保護する組織が見つけてくれました。兄は病院へ、あたしは組織が経営する学校に通いながら特殊能力者を保護する活動を始めました。もう二度と、兄の様な被害者が生まれないように」
「で、どうですか? 感想の方は?」
「正直、信じ難いわね。けど、あなたのいう特殊能力ってのを、この目で見た訳だから信じない訳にはいかないし」
混乱しているのか、少し顔をしかめて答える。普通はそうですよね。逆の立場なら、きっと私も信じられないと思いますし。
「それで、結局ところ特殊能力ってなんなの?」
「さあ? あたしが知っているのは、思春期の時にだけ現れる病気の様なものと聞いています」
「思春期を過ぎると?」
「使えなくなるそうです」
「原因は、不明なわけ?」
「はい。少なくとも、あたしは知りません」
疑問に答えていたところ、ひとつ心当たりが浮かんだ。もしかしたらあの人なら、もっと詳しいことを知っても不思議じゃない。
「なるほどね。この世界に来るには、十分過ぎる人生を歩んで来たのは確かなのね」
敢えてなのか。
「あたしも、聞いていいですか?」
「なーに?」
「
「これ? そうね。このくらいなら今日の夜には完治するはずよ。見ての通り、もう動けるし」
「この世界で、ケガが完治しないことはありますか?」
「ないわ。例え骨が折れても、体がバラバラになったとしても、しばらくすれば元の健康体に戻るわ。再生までにかかる時間は、ケガの度合いや個人差にもよるけどね。それが聞きたいこと?」
「......カッターありますか?」
「そこの引き出しに入ってるわ」
ベッドから立ち上がって、引き出しからカッターナイフを持って戻る。少し刃を出す。
「見ていてください。いっ~」
前と同じ様に、少しだけ指先を切る。
「ちょ、ちょっと、そんなことしてなにを――」
「これは、どのくらいで治りますか?」
指先を見せて、聞く。
「......五分もかからないわよ。綺麗に元に戻るわ」
「そうですか」
スカートのポケットから絆創膏を出して傷口に貼り、カッターナイフを引き出しの中へ戻す。
「それで、
「......わかってるわよ。あの子は、天使じゃない。あたしたちと同じ魂を持った人間......なのよね」
手を伸ばしてカーテンを引き、まだ雨の降る窓の外を、どこか儚げな
「どうするんですか?」
「一度、ちゃんと話すわ」
カーテンを閉じて、私を見た。
これは、あれですね。まったく、世話が焼ける人ですね。
「あたしも、同席します。しっかり話せるようにセッティングもします」
「......お願いするわ」
「はーい、お任せください。さて、飲み物入れ直します」
ぬるくなったコップを受け取り、新しくスポーツドリンクを注ぐ。時計を見ると、ちょうど五分ほどが経っていた。
「どうぞー」
「ありがと」
コップを渡してから、絆創膏を剥がす。
水で濡らしたティッシュで傷口の血を拭き取って、
「見てください」
「ん? あなた、それ......」
やはり、と言いますか。傷口は塞がっておらず、少し強めに触ると血が流れた。簡単に治るはずの傷口を見た
「
「はい」
「あなた、正式に
「うん? なぜ、ですか?」
「傍に居れば、何か起きた時に守ってあげられる」
むしろ入らない方が危険は少ないと思うんですが、いつも無茶な
「あなたは、普通じゃない。いや、普通なんだろうけど。この世界においては、完全にイレギュラーな存在だわ」
「まぁ、そうなんでしょうけど」
「だから、入隊しなさいっ」
「理由になっていませんよー?」
「むっ......」
お互い、眼を細めて見つめ合う。すると突然、
「あーっ、
チラッ、とわざとらしく目を向けた。
「なんすか、それ......」
脅す気っすね。タチ悪いな、この人。
「ハァ~......わかりました。入ればいいんでしょ」
「素直でよろしいっ」
「......学校の方は、どうするんすか?」
「今まで通りでいいわよ。真面目に学園生活を送っていても、あなたは消えてないし。あたしとしても、その方が都合がいいわ。大きく変わることは、ふたつ。普段でも戦線メンバーを気にせず堂々と会える様になること、
と言うことは、報道部の活動は続けてもいいってことっすね。
「定例会議は?」
「そうね......。必要な時は、
「わかりました」
「いい返事ねっ。これからよろしく!」
手を差し出して握手を求めて来た。立ってそれに答える。
「はい、よろしくお願いします。
「ゆり」
「えっ?」
「もう、仲間なんだから、ゆりでいいわ。あなた、下の名前は?」
「
「そう。
私に向けて差し出される右手、その手を握り返して握手を交わす。ゆりさんの手は、とても温かかった。
* * *
翌日の放課後、
「
「いらっしゃい」
合言葉を言うと直ぐにドアが開き、ゆりさんが出てきた。ドアに鍵を掛ける。
「さあ、行きましょ」
「はい」
並んで、戦線の本部がある校長室へ向かう。
「メガネ、掛けてないのね」
「昨日、メガネを掛け忘れていたんですけど。
「あの子、天然だから。たぶん、髪型が同じでも別人と言い張れば通る気がするわ」
以前に誰かに天然と指摘されたことがある、と言ってたのは、ゆりさんのことだったんですね。
「さあ、着いたわ。
カチッと、トラップが解除された音が聞こえた。ドアを開けたゆりさんの後に続いて、本部が置かれる校長室へ入る。既に、
「お待たせっ」
「遅えーぞ、ゆりっぺ。リーダーが遅刻かよ」
「
「うおっ、刃こっち向けんなって!」
「止めなさい、あんたたち。遅れたのには、ちゃんとした理由があるわ。さて、今日は新メンバーを紹介するわっ」
後ろに回って、私の両肩に軽く手を添えた。
「
「あっ、お前、昨日のっ!」
「ホントだ!」
「ん?
興味が無さそうにギターを弄っていた
「戦線の新メンバーよ」
「
「ええ。みんな、仲良くしてあげてね」
ゆりさんから、戦線幹部メンバーの紹介が始まった。
先ず最初に紹介されたのは、昨夜の騒動で生き残った二人。
「そこの二人は知ってるわよね。髪が長い方が、
「だから、フォローになってねぇーよ!」
「もう、する気も無いわ。で隣が、
扱いの違いに納得いかない様子で顔をしかめる
「そっちの大柄な男子は、
次々と紹介が終わり、最後の一人。
「で、そこに座ってるのが――
「
「
ええーっ!? と、校長室中に
「ど、どういうこと、
「貴様ッ! 返答次第では叩き切るぞッ!」
特徴がないのが特徴の小柄な
「......ゆりに任せる」
あ、丸投げした。
「自分で説明なさいよ......。まあ、いいわ。
「どういうことだ、ゆり?」
「あたしと
「俺たちを欺いてんじゃねぇかよっ?」
日本刀を持ってオラついてる
「あんたたちバカだから、話したら意図せずとも直ぐに漏れるでしょ?」
「ぐっ......、言い返せねぇぜ......」
言い返せないんですか。他のメンバーも妙に納得している感じですし、思っていたよりも軽いノリの集団なのかも知れません。
「ほら、
やれやれ、と言いたげに前髪を分け、ヘアゴムで首の後ろで一本に束ねると右肩から前に垂らした。
「これで、いいか?」
「ええ、そっちの方がステキよ。さて、それからもう一つ重大な報告があるわ」
ゆりさんに、注目が集まる。
「
「おい、待てよっ。そんなことしたら消えちまうぞっ?」
声を荒げて、
消えると聞いてた
「大丈夫よ。授業は真面目に受け、先のテストは学年トップクラス。部活動も行い、教師からの信頼も厚く、優等生として通っているにも関わらず。どういう訳か、
「......
「それはないわ。生前の記憶を持ってることは確認済みよ。あと、
一瞬で場が凍り付いた。私も、これは聞いていない。とんでもないこと言い出しますね、この人。
しばしの沈黙の後、さっきを越える怒号の様な大声が上がった。
「ゆりっぺ、そういう趣味があったのかよっ!?」
「女の子同士の禁断の愛!? どうしよう、
「落ち着け、
「あ、浅はかなり......」
「あの
「Oh...unbelievable」
各々が様々な反応をする中、
「なぜだぁーっ!? ゆりっぺーっ!?」
大粒の涙を流し、叫びながらドアへ向かって走り出した。
壊れんばかりの勢いでドアを乱暴に開け、廊下へ飛び出した。
「バカね、冗談に決まってるでしょ」
「ホントかっ! ゆりっ――ぺぇーっ!?」
対天使用のトラップが発動し、
「あいつ、何回自分の仕掛けたトラップに引っ掛かるんだよ?」
「俺も、ああなったんだよな......」
哀れみの目で窓の外を見る
「しかし、本部を出てから訂正するとは......悪魔の様なお人だ」
「あら、何か言ったかしら?
「いえ、なにもっ!」
今日、一番驚いたのが、この人。メガネをかけた男子、
生前、特殊能力者保護活動をしていた頃のビジネスパートナーだった男子に、顔立ちや声が瓜二つ。
* * *
自室で制服を着替えて、大食堂へ。
今日も一人で、夕食を食べている
「こんばんは。隣いいっすか?」
「どうぞ」
テーブルにトレイを置いて、話を切り出す。
「
「なに?」
「今度、あたしの部屋に遊びに来ませんか?」
突然の誘いに、