Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
朝、制服に袖を通して壁に埋め込まれた姿見で身だしなみをチェック。大食堂で朝ごはんを食べて、学校へ登校。
「あっ、
「おはようございまーす」
声をかけてくれるクラスメイトたちと朝の挨拶を交わし、教室の窓際一番前の席で授業の準備をしていると、三人の女子生徒がぱたぱたと近寄ってきて、手を合わせて頭を下げた。
「
「はぁ~......また、ですか?」
呆れてタメ息が漏れる。
「今日だけ、今日だけだからっ、当てられそうな気がするのっ。だから、お願い! ねっ?」
「それ、昨日も聞きましたよ? 仕方ないなー、教科書持ってきてください」
「ありがとーっ」
彼女たちはいったん自分の席へ戻り、教科書を持ってきた。近くの机を借りて、授業の予習。今から一週間前の朝からほぼ毎日、習慣になりつつある。
二週間前の夜。天上学園の寮で眠りについた翌日、私は同じ寮のベッドの上で目を覚ました。結局、その後も自宅マンションへ帰る事は出来ずにいる。
授業の予習をしていると、予鈴が鳴った。すると、すぐに担任が教室に入ってきた。
「席着けー、ホームルーム始めるぞー」
彼女たちは、急いで自分の席へ着く。
この学校の授業は、ほんの数日前まで通っていた星ノ海学園よりも易しく、まるで復習をしている様な感じだった。
それでも、先生の話しはちゃんと聞いて、しっかりノートを取って真面目に授業を受けている。
これからの為に――。
あの夜、ここが“死後の世界”と告げられてから二週間が経過し、少しずつ状況が把握出来てきた。
まず、ひとつ目。屋上から周辺を確認したところ、学校の周囲はうっそうとした深い森が広がる陸の孤島。二日目の放課後、校内を一通り見て回ったあと、学校の外れまで散策してみたところ、学校から一定の位置にそびえ立つ壁があり、足や手をかけるところも何もなく脱出は不可能。
次に、ふたつ目。学校指定の制服とは違う制服を着た生徒が、数十名存在しているということ。
そして、みっつ目。「天使」なる者が存在していると、一部の生徒が話していた。これは、先日夕食を食べていた時に聞いた話し。私が着ている制服とは別の制服を着た生徒たちが話していた。後日、クラスメイトに聞いてみたところ、そんなものは知らないと口を揃えて首を横に振った。嘘をついているとは、思えなかった。
まだまだ分からないことばかり、色々と調査する必要がありそう。
「
「はい、なんでしょうか?」
「悪いんだがこれを、校長先生に届けてくれないか?」
「あ、はい、わかりました」
授業が終わり教室の外へ出たところで、担任に届け物を頼まれた。届け物は、A4サイズの封筒。重さからみて、おそらく何かしら書類。私は校舎を出て、校舎に併設された教員棟へ向かい、最上階の廊下の突き当たりに構える校長室の前で立ち止まった。
両開きの木製の扉をノックすると、部屋の中から女性の声が聞こえた。
『あいことばーっ!』
「ん?」
――あいことば......合言葉? 校長室へ入るのに、合言葉が必要なんて聞いてない。分からないので、とりあえず用件を伝える事にした。
「先生から校長先生宛てに、お届け物を預かってきましたー」
反応がない。このまま待っていても仕方がない。ドアノブに手をかけようとした、その時「ちょっと待っていなさい。かってに開けちゃダメよ」と、先ほどの女性の声に手を引っ込める。少しして、カチッと何かが外れる様な音が聞こえたあと、ゆっくりと扉が開いた。
校長室から姿を見せたのは、校長先生ではなく。肩に掛かるくらいの髪に、淡い緑色のリボンが付いた特徴的なカチューシャを付けた女子生徒。扉の隙間から見える彼女は、私とは違う指定外の制服を着ていた。例の、授業に出ない人たちの制服。
「ここに、校長は居ないわ。用事なら職員室に行ってみなさい」
「ん? 校長室なのに、校長先生が居ないんですか?」
「......そうよ」
釈然としないけれど、そう言われてしまったら仕方がない。
「わかりました、職員室に行ってみます。ありがとうございました」
カチューシャの女子にお礼を言って、歩いてきた廊下を戻る。
「ねぇ、あなた――」
「はい。なんですか?」
呼び止められて、振り向く。
「死んだ自覚、あるかしら?」
――死んだ自覚。まあ、ここが本当に「死後の世界」であるのなら、死の理由は大体の予想はつきますが......。けれど、実際には記憶に無いし、その確信も持てない。なによりまだ、判断するには情報が少なすぎる。
「ありませんけど」
「そう。引き留めて悪かったわね。もういいわ」
「はぁ、そうですか。では、失礼しまーす」
きびすを返すのとほぼ同じタイミングで、背後で扉が閉まる音がした。
階段を下って、教えてもらった通り職員室へ行くと、校長先生が生徒用の机に座って、のんびりとお茶をすすっていた。
「校長先生、お届け物です」
「おお、そうか。ありがとう」
担任から預かった封筒を手渡して、教室に戻る。
「しっかし......」
職員室の机の並びがおかしかった。まるで教室の学習机と同じ並び方をしていて。それに校長先生が座っていた机に至っては、まんま生徒が使用している学習机だった。これらには、何か特別な意味があるのか疑問に想いつつも、用事を済ませた事を担任に報告に行く。
教室に戻る途中で偶然、担任を見つけた。ちょうどよかった。声を掛けて報告を済ませる。
「無事、届け終えました」
「そうか、助かったよ」
「いえ。ところで、あの封筒は?」
「ん? ああ、転校生の書類だ。まあ、毎度の事だが校長先生に判を押してもらう決まりになっていてな」
「そうなんですか、大変なんですね」
担任は、小さくタメ息を漏らし「今月はもう、お前も含めて三人目だ」と、少し疲れた様子で言った。少し突っこんで聞くと、この学校は全寮制ということもあって、家庭の事情などで転校してくる生徒が一定数いるとのことだった。
「ところで――」
「悪いが、午後の授業の準備をしなければならなくてな。話しは、また今度聞く。助かった」
どうなっているのか知りたかったけど、そう言った事情であれば仕方がない。
どこか哀愁が漂う担任の背中を見送った私は、教室へ戻った。
午後の授業を終えて自室へ戻る。制服から部屋着に着替え、備え付けの勉強机で課題を解きながら、あること考えていた。
「必要なのは、三つ......」
ハンガーラックにかけた制服に手を伸ばし、胸ポケットから取り出した生徒手帳を開いて、ノートの隅に必要なことを書き出す。
必要なものは「許可」「権利」「手段」の三つ。
これらの条件を全て満たすためには......。
「
課題を片付けたノートを閉じ、私は生徒会室へと向かった。
* * *
「どうでしょうか?」
「なるほど......いいわ。ただし、許可を出すには人数が必要よ」
生徒会室に相談に行くと思った通り、
「あと四人ですね。因みに、
「協力してあげたいけど、生徒会があるから」
「そうっすか。じゃあ、他を当たってみます」
「うん、頑張ってね。出来る限りの協力はするから」
「ありがとうございまーす」
彼女にお礼を言って、生徒会室を出る。
ひとまず、仮ではあるけれど生徒会の「許可」は下りた。残りの「権利」と「手段」を得るため、次の行動を移す。
「あと四人、か」
――今の私に、頼れる人が居るとすれば......。
生徒会室で見た掛け時計の針は、ちょうど夕食時を指していた。
思い浮かんだ人たちを探すため、食堂へ行くと、大勢の生徒たちでごった返していた。この中から探すのは、少々骨が折れそうだけれど、嘆いていても始まらない。
「さて、探しますか」
人混みの中を注意深く探しながら歩く。運が良いことに、テーブルで夕食を食べている三人を見つけることが出来た。急いで購買でパンを買って、三人が食事をしているテーブルへ向かう。
「こんばんはー」
「んー? あっ、
「こんばんわっ。
「はい」
「じゃあ、一緒に食べよ~」
「失礼しまーす」
三人は、私を歓迎してくれた。
「今朝は、ありがとー。助かったよっ」
「どういたしまして」
「ほんとほんとっ、あの先生の授業意地悪だから」
「ねーっ」
この三人は、今朝......いや今朝もか。勉強を教えてあげていたクラスメイト女子。名前は、
「実は、部活動を始めようと思っているんです」
「へぇ、そうなんだー。何部? やっぱり文系?」
「う~ん、一応文系になるんだと思います」
「一応? 文芸部とか美術部とか?」
「いえ、報道部です」
「ほーどーぶ? そんな部活、
「ありませんよ。だから、新しく創ろうと思っています」
私が知りたい情報は実際問題、殆ど得ることは出来ないのが現状。
しかし、生徒会や学校の公認の部活であればある程度のワガママは通りますし、取材と云う名の下で堂々と情報収集を行うことが出来るようになる。
これが、権利と手段の両方を得るための方法。その許可を得るため新しく部活を立ち上げるのに必要な最低人数が五人。
「そこで、みなさんに折り入ってお願いがあるんですが」
「なーに?」
三人とも、小さく首傾げた。
「報道部に入って欲しいんです。新規設立のため、名前を貸してくれるだけでもいいんです。お願いしますっ」
私は席を立って、三人に向かって真摯に頭を下げる。
「うん、いいよー」
「わたしもいいよ」
「あたしも~」
三人は、意外にもあっさりと了承してくれた。想定外のことにビックリして顔上げて、彼女たちに確認を取る。
「いいんですか?」
「うん。いつも勉強教えてもらってるし、協力するよ」
「それに、何だか面白そうだしね」
「そうだねー、あんまり役に立てるか分からないけど」
「いえ、ありがとうございますっ」
感謝の気持ちを込めて、もう一度深く頭を下げた。
「よし。これで、あと一人。ん? あの人は......」
食堂を出たところで、校長室で会ったカチューシャを付けた女子生徒が何かを担いで、校舎の方へ歩いていった。
すっかり日が暮れた夜空は既に星々が煌めいている。
「こんな時間に、どこへ......?」
気になった私は、気づかれないように彼女の後を追った。