Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode19 ~提案~

「ジュース、お菓子、あとは......」

 

 約束の時間まで、あと五分。おもてなしを再度チェックして、来客の到着を待つ。約束の時間ちょうどに、部屋のドアがノックされた。クッションから立ち上がる。

 

「いらっしゃいませ。どうぞー」

「お邪魔するわ」

 

 立華(たちばな)さんを部屋に招き入れ、ゆりさんが来た時と同じ形でテーブルを挟み、向かい合う形で対面。まず最初に、預かっていた問題用紙と解答用紙を挟んだファイルをテーブルに置く。

 

「間違えた箇所に付箋を貼っておきましたんで」

「ありがとう。部屋に戻ったら、確認するわ」

 

 グラウンドの騒動に、ゆりさんの看病、SSS(スリーエス)への半強制入隊と。色々なことがあって中々渡すことが出来ませんでしたが、ようやく返すことが出来て一安心。立華(たちばな)さんは、受け取ったファイルを横に置いてから、私に視線を戻した。

 

「それで、どうするの?」

「そうですね。う~ん......トランプなら、ありますけど」

 

 お菓子などと一緒に買っておいた、新品のトランプをテーブルに置く。ですが、二人だと出来るゲームも限られる。面識のある報道部の三人を誘ってもよかったのですが、ゆりさんとの会談を切り出すには、二人きりの方が都合が良いと考えた。

 

「トランプ......やりましょ」

 

 やるんですね。ケースからトランプを取り出してカードを切りながら聞く。

 

「なにしますか?」

「簡単なので」

「でしたら、神経衰弱にしましょう」

 

 伏せられたカードを捲って同じ数字を合わせるだけの、お手軽なゲーム。山札を裏面にして、バラバラに並べて混ぜる。

 

「どうぞー」

「じゃあ、お先に引かせてもらうわ」

 

 立華(たちばな)さんの先攻で、神経衰弱が始まった。

 ゲームを始めて数分、真剣な表情(かお)でトランプを捲る立華(たちばな)さんに話しを振る。話題は、先日のオペレーショントルネードについて。

 

「そう言えば、この間のゲリラライブ。止めにいかなかったみたいですけど?」

「もう、生徒会長じゃないから。う~ん......これかしら? ハズレね」

 

 合わなかったトランプを元の位置に戻した。私は、立華(たちばな)さんが戻したカード捲る。

 

「と言うと今までは、生徒会長の義務として止めにいっていた、と言うことですか? よっと」

「そう。......また、アタリ」

 

 私の横には、合わさった五組のカード。立華(たちばな)さんは、二組。初めは均衡していましたが、ゲームが進むにつれて少しずつ差が開いてきた。

 

「じゃあもう、SSS(スリーエス)の人たちと敵対する理由もないですね」

 

 小さく頷いた立華(たちばな)さんは、でも......と続けた。

 

「でも?」

「あの人たちはこれから、どうするのかしら?」

 

 ゆりさんは、立華(たちばな)さんを神の使いである「天使」として戦い続けてきた。その目的は、この世界に存在するであろう神を見つけ出して倒し、この世界を手に入れること、と言っていた。

 きっと、この先もずっと戦い続ける。彼女の生前を知らない私には、なぜ、そこまで神にこだわるのかはわからない。それはきっと、立華(たちばな)さんも同じな訳で――。

 

「聞いてみたら、いいんじゃないですか? よかったらあたしが、話せる機会を作りますよ?」

「そうね......。お願い出来るかしら?」

 

 持ちかけた提案に、立華(たちばな)さんは頷いた。

 

「はい、お任せください」

「お願いするわ。じゃあ続きをしましょ」

 

 再び目をトランプに落として、真剣な表情(かお)で続きを始めた。

 

「神経衰弱好きなんすか?」

「特には。でも、誰かと遊ぶのって楽しいわ」

 

 私は目を閉じる。この人は、いつもひとりぼっち。食事も。お風呂も、テストの休み時間も、クラスメイトがテストの出来について話している間も、教科書を見て真面目に予習をしていた。

 

「あなたの番よ」

「......立華(たちばな)さん、報道部に入りませんか?」

「うん?」

「もう生徒会に所属して居ないわけですし、取材する場所が多いんで大変なんです」

 

 約一名、幽霊部員ですし。

 

「ですので、手伝っていただけたらと思いまして」

「う~ん......考えてみるわ」

「お願いしまーす。そうだ。よかったら、コツ教えましょうか?」

「神経衰弱にコツが、あるの?」

「はい。例えばコレ、さっき立華(たちばな)さんが......」

 

 立華(たちばな)さんは、生きていた頃の私と同じだ。常に、他人から一歩距離を置かれている。まあ私の場合は、完全に自分から他人と距離を置くような態度を取っていたので、自業自得でしたけど。

 そのままお昼を一緒に食べ、私は一人、報道部の部室へ足を運んだ。

 久しぶりに入った部室は、活動休止していたテスト期間中の埃が溜まっている。何を置いても先ずは、掃除。部室の窓を全て全開にして、室内の空気を入れ替える。その間に、用具入れのバケツを持って、廊下の水道の蛇口を捻り、水を注いで部室へ戻ると、みんなが部室の中で掃除をしていた。

 

「あれ? 早いっすね」

「あっ、友利(ともり)さん。汚れてると思ったから、早めに来たんだよ。ね~」

「うん、そうしたら、もう開いてたから先に始めちゃった」

「ありがとうございます。じゃあ、手分けして片しちゃいましょー」

 

 それぞれの分担を決めて部室の掃除をしたあと、取材の準備を始めた。ビデオカメラに録画した映像、デジカメの画像をパソコンに保存する。保存が完了するのを待っている間、話題は次回の掲載記事の話しになった。

 

「そう言えば、来月は水泳大会があるね」

「じゃあ、夏休みももうすぐだね」

「夏休みがあるんすか?」

「もちろんあるよ。普通の学校だもん」

「そうっすよね」

 

 よくよく話しを聞いていると、不意に疑問が浮かんだ。

 生きていた頃と、時間軸が少しズレれてる。先日の中間テストも、星ノ海学園では既に消化していた。服も夏服で、梅雨に入る直前の季節だった。これは、どういうことなのだろう。話し合いの際に、話題のひとつとして、二人に聞いてみることにしますか。

 今日の活動内容を決めた後、データ転送が終わったビデオカメラを持って取材へ出掛ける。私の取材相手は、最近代わったガルデモの新ボーカル、ユイさん。いつも彼女たちが練習している、学習棟の空き教室へと足を運んでみましたが、そこには誰も居なかった。

 そこで、前に路上演奏をしていた駐車場へ向かうことに。

 体育館の前を通り掛かると、側面から柔道着姿の男子が出てきた。徐々に距離が縮まっても彼は、私に気づいていない様子。すれ違い際に声をかける。

 

「こんにちはー」

「ん? えっと......」

友利(ともり)です」

「ああ、昨日の......。髪型と制服だけで、随分と印象が変わるものだな」

 

 名前を言うと、松下(まつした)さんは思い出してくれた。確か柔道五段......あれ? 高校生で五段って取れたっけ? 年齢制限があったような、まあいいか。

 

「柔道部なんですか?」

「いや、林の中で樹木を相手に稽古をしてたんだ」

「練習熱心なんすね」

「ただの日課みたいなもので大したことじゃないさ。友利(ともり)は、ここでなにを?」

「あたしは今から、ユイさんの取材に行くところです」

 

 ここから見える、駐車場を見て答える。

 駐車場の一画にギターを弾いている女子と、彼女を半円状に囲む数人の生徒の姿を確認することが出来た。やっぱり、駐車場に居た。視線を松下(まつした)さんに戻す、彼の後方にちらっと黄色い大輪の花が見えた。あれは、向日葵(ひまわり)? 旬の季節には少し早いですけど、早咲きの品種でしょうか。

 

「確か、報道部? だったか」

「はい。では、あたしはこれで」

「ああ、またな」

 

 松下(まつした)さんと別れ、駐車場へ続く階段を下る。取材対象に近づくにつれて、ギターと歌声が聞こえてきた。弾いている曲は、岩沢(いわさわ)さんの新曲「My Song」。エレキギターでアレンジしてカバーしていた。歌い終わるのを見計らって、声をかける。

 

「こんにちわ」

「おおーっ! ユイのファンの方じゃないですかぁー。また聴きに来てくれたんですねーっ」

 

 別にファンではないですけど、そういうことにしておいた方が楽と判断。機嫌を損なわれない様に適当に話しを合わせておく。

 

「そうなんすよー。それで、お願いがありまして~」

 

 ビデオカメラを向けて、事情を話す。

 

「えっ? 取材!?」

「はい。ガルデモの新ボーカルのユイさんに、是非ともお話しを聞かせていただけたらな~と思いまして」

「ふっふーん、もう仕方ないなー。こう見えても忙しいんだけど、ユイにゃんはファンをないがしろにするようなアーティストじゃな――」

「誰が、アーティストだよ。ただの悶絶パフォーマーじゃねぇか」

 

 後ろから、男子の声。

 

「ないんで......っんだと、コラァ!」

 

 ユイさんが、キレた。振り向いてヤジを飛ばした相手を確認。日向(ひなた)さんだった。

 

「誰が、美少女悶絶パフォーマーだぁーっ!」

「事実じゃねぇか。あと、美少女なんて一言も言ってねぇーよ」

 

 唐突にいがみ合いが始まった。実際は、ユイさんが一方的に敵意をむき出しにしているだけですけど。

 

「あのー、悶絶パフォーマーってなんすか?」

岩沢(いわさわ)の活動休止が決定したあと突然、本部に乗り込んで来て、スタンドマイクを使って自ら首を吊るという離れ業をやってのけたんだ」

 

 どんな状況っすか、想像もつかない。

 

「むぅっ、ちゃんと歌えてただろっ? この前のライブだって盛り上がってたじゃん!」

「あんなの、岩沢(いわさわ)と比べたら......」

 

 もう歌わないと感じたのか、集まっていた他の生徒たちは散っていってしまった。私としても、このままでは取材が進まない。

 

「お二人は、仲いいんですね」

「よくないっ!」

 

 息がピッタリ揃って否定された。やっぱり良いじゃないっすか。

 

「誰が、こんなちんちくりん」

「あぁーんっ!? もう怒ったっ。こうなったら、あたしの実力見せてやるよっ。おい、お前っ、なんかリクエストしろっ!」

 

 ギターを担いで、日向(ひなた)さんを指差す。

 

「お前って......俺、先輩だぞ? まあいいや、じゃあアレ、昔のインスタントカメラのCM」

「ああ~、あれですねー!」

 

 ギターを弾きリクエストされた曲を即興でカバー。これ、聴いたことがある。動画投稿サイト「kEyTUBE」で、ZHIEND(ジエンド)の新曲のPVを視聴しようとした時に強制的流れた企業広告、レトロCM特集期間とかなんとかで。

 

「写るんかよっ♪」

 

 ユイさんは、笑顔で最後に決めセリフを歌い、手を止めた。

 

「――って、六文字で終わったわぁーっ! 線香のCMより短いじゃねぇーかぁー!」

「ぐはぁーっ!?」

 

 靴底が、日向(ひなた)さんの顔面を捉える。そのまま仰向けに地面へ倒れて、顔を押さえながら立ち上がった。痛々しく、鼻からは血が流れている。

 

「い、いってぇーなっ!」

「ぎゃあ~、ギブギブギブーっ!」

 

 ユイさんを、卍に固めた。とても痛そう。

 

「イタい、イタイですっ、せんぱーいっ!」

「俺だって、イテェーよっ! イケメンが台無しだっ!」

「はぁ~......」

 

 喧嘩するほど仲がいいと言いますけど、これじゃ取材にならないっすね。出直すか。取材を諦めた私は、じゃれ合う二人を置いて、部室へ戻った。

 

 

          * * *

 

 

 部屋に戻り、SSS(スリーエス)の制服に着替えて髪をポニーテールに結って、SSS(スリーエス)の本部である校長室へ向かう。

 

神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 

 扉の前で合言葉を言い、トラップが解除されるのを待って、本部へ入る。

 

「おじゃましまーす」

「あら、いらっしゃい」

 

 校長室の中には、ゆりさん他数人の戦線メンバーが居た。テーブルを囲んで何やら白熱しているみたいですが、とりあえず用件を済ませるため、一番奥の豪華な椅子に座っているゆりさんの元へ向かう。

 

「こんにちはー」

「ええ、こんにちは。それで、どうしたの?」

「例の件、たちば......」

「通れば、追いリーッ!」

 

 手前のテーブルで麻雀卓を囲んでいるメンバーの一人、藤巻(ふじまき)さんが大声を上げた。他の面子は、ひさ子さんと音無(おとなし)さん、それと、熊耳(くまがみ)さんの計四人。

 

「残念通らず。ロン。リーチ、ピンフ、タンヤオ、三色、ドラドラ――」

「フッ、悪いな、ひさ子。(チュン)、ドラ1、頭ハネだ。お前の捨て牌から狙わせてもらった」

「ちっ、やるな熊耳(くまがみ)。久々に手応えのある相手だ!」

「レベルが高すぎてついて行けねぇぜ......」

「それ以前に、俺たちが弱すぎなんだろ......」

「あんたたち、ちょっと静かになさい。話せないじゃない」

「おう、わりぃな、ゆりっぺ。気を付ける」

「まったく......それで?」

 

 改めて、ゆりさんにだけ聞こえるように話す。

 

立華(たちばな)さんの了解が取れました」

「......そう。いつ?」

 

 提案の了承を得たことを伝えると、ゆりさんは若干緊張した面持ちを見せた。

 

「今夜、あたしの部屋で。早い方がいいかと思いまして」

「わかったわ。ありがとう」

「いえ、ではあたしは、これで」

 

 ゆりさんに、トラップ解除の仕方を教えてもらい校長室を出る。さて、夕飯の前に準備しますか。私は部屋に戻って、二人を出迎えるための準備を始めた。

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