Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
「ジュース、お菓子、あとは......」
約束の時間まで、あと五分。おもてなしを再度チェックして、来客の到着を待つ。約束の時間ちょうどに、部屋のドアがノックされた。クッションから立ち上がる。
「いらっしゃいませ。どうぞー」
「お邪魔するわ」
「間違えた箇所に付箋を貼っておきましたんで」
「ありがとう。部屋に戻ったら、確認するわ」
グラウンドの騒動に、ゆりさんの看病、
「それで、どうするの?」
「そうですね。う~ん......トランプなら、ありますけど」
お菓子などと一緒に買っておいた、新品のトランプをテーブルに置く。ですが、二人だと出来るゲームも限られる。面識のある報道部の三人を誘ってもよかったのですが、ゆりさんとの会談を切り出すには、二人きりの方が都合が良いと考えた。
「トランプ......やりましょ」
やるんですね。ケースからトランプを取り出してカードを切りながら聞く。
「なにしますか?」
「簡単なので」
「でしたら、神経衰弱にしましょう」
伏せられたカードを捲って同じ数字を合わせるだけの、お手軽なゲーム。山札を裏面にして、バラバラに並べて混ぜる。
「どうぞー」
「じゃあ、お先に引かせてもらうわ」
ゲームを始めて数分、真剣な
「そう言えば、この間のゲリラライブ。止めにいかなかったみたいですけど?」
「もう、生徒会長じゃないから。う~ん......これかしら? ハズレね」
合わなかったトランプを元の位置に戻した。私は、
「と言うと今までは、生徒会長の義務として止めにいっていた、と言うことですか? よっと」
「そう。......また、アタリ」
私の横には、合わさった五組のカード。
「じゃあもう、
小さく頷いた
「でも?」
「あの人たちはこれから、どうするのかしら?」
ゆりさんは、
きっと、この先もずっと戦い続ける。彼女の生前を知らない私には、なぜ、そこまで神にこだわるのかはわからない。それはきっと、
「聞いてみたら、いいんじゃないですか? よかったらあたしが、話せる機会を作りますよ?」
「そうね......。お願い出来るかしら?」
持ちかけた提案に、
「はい、お任せください」
「お願いするわ。じゃあ続きをしましょ」
再び目をトランプに落として、真剣な
「神経衰弱好きなんすか?」
「特には。でも、誰かと遊ぶのって楽しいわ」
私は目を閉じる。この人は、いつもひとりぼっち。食事も。お風呂も、テストの休み時間も、クラスメイトがテストの出来について話している間も、教科書を見て真面目に予習をしていた。
「あなたの番よ」
「......
「うん?」
「もう生徒会に所属して居ないわけですし、取材する場所が多いんで大変なんです」
約一名、幽霊部員ですし。
「ですので、手伝っていただけたらと思いまして」
「う~ん......考えてみるわ」
「お願いしまーす。そうだ。よかったら、コツ教えましょうか?」
「神経衰弱にコツが、あるの?」
「はい。例えばコレ、さっき
そのままお昼を一緒に食べ、私は一人、報道部の部室へ足を運んだ。
久しぶりに入った部室は、活動休止していたテスト期間中の埃が溜まっている。何を置いても先ずは、掃除。部室の窓を全て全開にして、室内の空気を入れ替える。その間に、用具入れのバケツを持って、廊下の水道の蛇口を捻り、水を注いで部室へ戻ると、みんなが部室の中で掃除をしていた。
「あれ? 早いっすね」
「あっ、
「うん、そうしたら、もう開いてたから先に始めちゃった」
「ありがとうございます。じゃあ、手分けして片しちゃいましょー」
それぞれの分担を決めて部室の掃除をしたあと、取材の準備を始めた。ビデオカメラに録画した映像、デジカメの画像をパソコンに保存する。保存が完了するのを待っている間、話題は次回の掲載記事の話しになった。
「そう言えば、来月は水泳大会があるね」
「じゃあ、夏休みももうすぐだね」
「夏休みがあるんすか?」
「もちろんあるよ。普通の学校だもん」
「そうっすよね」
よくよく話しを聞いていると、不意に疑問が浮かんだ。
生きていた頃と、時間軸が少しズレれてる。先日の中間テストも、星ノ海学園では既に消化していた。服も夏服で、梅雨に入る直前の季節だった。これは、どういうことなのだろう。話し合いの際に、話題のひとつとして、二人に聞いてみることにしますか。
今日の活動内容を決めた後、データ転送が終わったビデオカメラを持って取材へ出掛ける。私の取材相手は、最近代わったガルデモの新ボーカル、ユイさん。いつも彼女たちが練習している、学習棟の空き教室へと足を運んでみましたが、そこには誰も居なかった。
そこで、前に路上演奏をしていた駐車場へ向かうことに。
体育館の前を通り掛かると、側面から柔道着姿の男子が出てきた。徐々に距離が縮まっても彼は、私に気づいていない様子。すれ違い際に声をかける。
「こんにちはー」
「ん? えっと......」
「
「ああ、昨日の......。髪型と制服だけで、随分と印象が変わるものだな」
名前を言うと、
「柔道部なんですか?」
「いや、林の中で樹木を相手に稽古をしてたんだ」
「練習熱心なんすね」
「ただの日課みたいなもので大したことじゃないさ。
「あたしは今から、ユイさんの取材に行くところです」
ここから見える、駐車場を見て答える。
駐車場の一画にギターを弾いている女子と、彼女を半円状に囲む数人の生徒の姿を確認することが出来た。やっぱり、駐車場に居た。視線を
「確か、報道部? だったか」
「はい。では、あたしはこれで」
「ああ、またな」
「こんにちわ」
「おおーっ! ユイのファンの方じゃないですかぁー。また聴きに来てくれたんですねーっ」
別にファンではないですけど、そういうことにしておいた方が楽と判断。機嫌を損なわれない様に適当に話しを合わせておく。
「そうなんすよー。それで、お願いがありまして~」
ビデオカメラを向けて、事情を話す。
「えっ? 取材!?」
「はい。ガルデモの新ボーカルのユイさんに、是非ともお話しを聞かせていただけたらな~と思いまして」
「ふっふーん、もう仕方ないなー。こう見えても忙しいんだけど、ユイにゃんはファンをないがしろにするようなアーティストじゃな――」
「誰が、アーティストだよ。ただの悶絶パフォーマーじゃねぇか」
後ろから、男子の声。
「ないんで......っんだと、コラァ!」
ユイさんが、キレた。振り向いてヤジを飛ばした相手を確認。
「誰が、美少女悶絶パフォーマーだぁーっ!」
「事実じゃねぇか。あと、美少女なんて一言も言ってねぇーよ」
唐突にいがみ合いが始まった。実際は、ユイさんが一方的に敵意をむき出しにしているだけですけど。
「あのー、悶絶パフォーマーってなんすか?」
「
どんな状況っすか、想像もつかない。
「むぅっ、ちゃんと歌えてただろっ? この前のライブだって盛り上がってたじゃん!」
「あんなの、
もう歌わないと感じたのか、集まっていた他の生徒たちは散っていってしまった。私としても、このままでは取材が進まない。
「お二人は、仲いいんですね」
「よくないっ!」
息がピッタリ揃って否定された。やっぱり良いじゃないっすか。
「誰が、こんなちんちくりん」
「あぁーんっ!? もう怒ったっ。こうなったら、あたしの実力見せてやるよっ。おい、お前っ、なんかリクエストしろっ!」
ギターを担いで、
「お前って......俺、先輩だぞ? まあいいや、じゃあアレ、昔のインスタントカメラのCM」
「ああ~、あれですねー!」
ギターを弾きリクエストされた曲を即興でカバー。これ、聴いたことがある。動画投稿サイト「kEyTUBE」で、
「写るんかよっ♪」
ユイさんは、笑顔で最後に決めセリフを歌い、手を止めた。
「――って、六文字で終わったわぁーっ! 線香のCMより短いじゃねぇーかぁー!」
「ぐはぁーっ!?」
靴底が、
「い、いってぇーなっ!」
「ぎゃあ~、ギブギブギブーっ!」
ユイさんを、卍に固めた。とても痛そう。
「イタい、イタイですっ、せんぱーいっ!」
「俺だって、イテェーよっ! イケメンが台無しだっ!」
「はぁ~......」
喧嘩するほど仲がいいと言いますけど、これじゃ取材にならないっすね。出直すか。取材を諦めた私は、じゃれ合う二人を置いて、部室へ戻った。
* * *
部屋に戻り、
「
扉の前で合言葉を言い、トラップが解除されるのを待って、本部へ入る。
「おじゃましまーす」
「あら、いらっしゃい」
校長室の中には、ゆりさん他数人の戦線メンバーが居た。テーブルを囲んで何やら白熱しているみたいですが、とりあえず用件を済ませるため、一番奥の豪華な椅子に座っているゆりさんの元へ向かう。
「こんにちはー」
「ええ、こんにちは。それで、どうしたの?」
「例の件、たちば......」
「通れば、追いリーッ!」
手前のテーブルで麻雀卓を囲んでいるメンバーの一人、
「残念通らず。ロン。リーチ、ピンフ、タンヤオ、三色、ドラドラ――」
「フッ、悪いな、ひさ子。
「ちっ、やるな
「レベルが高すぎてついて行けねぇぜ......」
「それ以前に、俺たちが弱すぎなんだろ......」
「あんたたち、ちょっと静かになさい。話せないじゃない」
「おう、わりぃな、ゆりっぺ。気を付ける」
「まったく......それで?」
改めて、ゆりさんにだけ聞こえるように話す。
「
「......そう。いつ?」
提案の了承を得たことを伝えると、ゆりさんは若干緊張した面持ちを見せた。
「今夜、あたしの部屋で。早い方がいいかと思いまして」
「わかったわ。ありがとう」
「いえ、ではあたしは、これで」
ゆりさんに、トラップ解除の仕方を教えてもらい校長室を出る。さて、夕飯の前に準備しますか。私は部屋に戻って、二人を出迎えるための準備を始めた。