Angel Beats! ~First Love~ 作:ナナシの新人
先に部屋を訪ねてきたのは、
「これ、つまらない物ですが......」
「ありがとうございます」
紙袋の中は、お菓子の詰め合わせ。ゆりさんが来たら、お皿に移して出しますか。テストの復習を話していると、ドアがノックされた。
「いらっしゃいませ。どうぞー」
「お邪魔するわ。天使は――先に来てるみたいね」
「はい」
警戒しているのか、ゆりさんの
「どうぞ」
「ありがと」
「いただくわ」
二人は、テーブルを挟んで対面しているにも関わらず目を合わさない。ゆりさんは頬杖をついて窓の外を眺め、
二人ともが、相手からが話しを切り出すのを待っているのかのように無言を貫いている。まったく、この人たちは何しに来たんだか。せっかく、腹を割って話せる機会を作ったってのに。呆れ果てて、タメ息が出そうになった。
まあ、何十年も敵対してた訳ですし、無理もないか。仕方ない、少しお節介を焼きますか。
「話し辛いのでしたら、あたしが二人に質問しますが、いいっすか? 因みに、どんな恥ずかしい質問にも全て正直に答えてもらいます」
二人が、私に注目した。
「私は、それでいいわ」
「黙秘権は......?」
「もちろん、ありません。答えていただけない場合は、コレをバラ撒かせてもらいまーす」
ゆりさんの、ちょっと恥ずかしい現場の画像を彼女にだけ見せる。
「なによ......って、ちょっと! そんなの、いつ撮ったのっよ!?」
「さぁ~? 偶然映っていたものですので」
これは事実、嘘は言っていない。先日の騒動でカメラを回していた際、偶然映ってしまった映像。
「消しなさいよっ!」
「最後までちゃんと話しを出来たら消します。どうしますかー?」
わざとらしく、あざ笑って見せると。屈辱感を滲ませながら渋々、了承した。
「くっ、わかったわよっ。答えればいいんでしょ!」
「素直でよろしい。ではまず、はい」
「今度は、なに......?」
ゆりさんに向かって、手を差し出す。
「銃を出してください。話し合いに、銃は必要ないっしょ?」
私と初めて
「はぁ~......全部お見通しな訳ね。どうぞ」
「お預かりしまーす。
コクっ、と小さく頷いた。預かった銃は、手の届かない様に足下へ置いておく。
「では、始めましょう。最初の質問です。お二人の、好きな食べ物を教えてください」
「
「なに? その質問......って、即答っ!?」
なんの疑いもなく答えた
「お互いのことを知ることから始めるのが、いいと思いまして」
「お見合いじゃないんだから......」
「あなたたちが、今までまともに話し合って来なかったからです。さあ、答えてください」
「特にないわ」
ビデオカメラを手に持つと、慌てて身を乗り出した。
「ホントよっ。ほらっ、
「確かに、まあいいっす。では、嫌いな食べ物は?」
「う~ん......特に思いつかないわ」
「ゆりさんは?」
ゆりさんは、
「納豆。アレは、わけがわからない。なんであんな、男子生徒が履き続けた靴下みたいな臭いの物を好き好んで......」
ぶつぶつと小言で呟いている。本当に嫌いみたいですね。納豆は、好き嫌いがはっきり別れる食品の一つですし、不思議ではないですね。
「あと、生レバー。アレは地獄だったわ......」
「うん?」
恨めしそうな
その後も、とりとめのない質問を続けると、少しずつ私を介さずとも話し始めた。そろそろ、頃合いですね。
「では、最後の質問です」
最後の質問は――この世界について。
「
「私は......」
ゆりさんは真剣な表情で、
「ここは、人が死んだあとの世界。ここに来る人たちは、みんな幸せな人生を送れなかった人たち」
ここまでは、ゆりさんや
生前、悲惨な人生を歩んで来た人たちが、この世界へと招かれる。
「そんな人たちが、生まれ変わる前にもう一度、青春を謳歌し直せる場所」
「......生まれ変わる。人に、ですよね?」
「私は、そう思うわ。だって、ここは“人”が死んだあとの世界だから」
「つまり、人間に生まれ変わらないのなら、この世界の存在する理由がないということっすね」
うん、と小さく頷いた。そのまま視線を、ゆりさんに向ける。彼女は目をつむって、頭の中で考えを巡らせていた。
「なるほど......合点がいったわ」
ゆっくり目を開いて真っ直ぐ、
「あなたは、本当に“天使”じゃないの?」
「何度も言ってるけど。私は、天使なんかじゃないわ。ただの、生徒会長......でもないわね。今は――」
「それは、どうでもいいわ。聞きたいことがある。もう、何年も前のことだけど、あなたのクラスに戦線メンバーを潜入させたことを覚えてる? その時あなたは、『無事に消えることが出来てなによりだわ』と言った。あなたが、消したんじゃないの......?」
「私には、この世界から人を消すことなんてできない。その人は、きっと報われたんだと思う」
「そう......」
どこか複雑そうな
それはきっと、完全なる天使の存在否定と、自分の安易な作戦で仲間が消されてしまった、と長年思い込んでいた罪悪感からの解放。
「ゆりさんは、どうですか?」
きっと、彼女の中では既に答えは出ている。
「......例え、あなたが天使じゃなくても抗う。この世界で......そして、いつの日か必ず“神”を見つけ出して倒す」
「なぜ、そこまで“神”に拘るんですか?」
ゆりさんは、黙ったまま私に顔を向けた。強い意思を感じる瞳。私は、カメラを手に取って画像のデータを見せながら削除ボタンを押す。
「今日は、解散にしましょう。消灯時間も近いですし」
テーブルに両手を突いて立ち上がろうとした、その時――。
「あたしは......本当に神様がいるのなら抗いたいだけよ」
ゆりさんが、重い口を開いた。座り直す。
「
ゆっくりと、理不尽な生前を語り出した。
ゆりさんは、裕福な家庭に産まれ不自由のないの幸せな生活を送っていた。
しかし、夏休みある日。三人組の強盗が、彼女の自宅を襲った。両親は、仕事に出掛けていて外出中。長女として、
それは、ゲームと称し、彼女に命懸けの宝探しをさせた。
「セキュリティ会社からの通報を受けて、警察が家に到着したのは、三十分後。生き残ったのは......あたし一人だけだったわ。あの子たちは、何も悪いことなんてしてないのに......」
この人が背負って来たものは重すぎる。
「あの日までは、いいお姉ちゃんでいられた自信もあったのに......」
俯いて、とても悔しそうに言葉を絞り出して......。
守りたかった人たちを、たったの三十分で全て奪われた理不尽過ぎる人生。今の彼女に、掛けられる言葉はあるのだろうか。私には、見つけられなかった。
「それじゃあ、消えられないわね」
言葉を探していると、
「ええ、そうよ......消えれないわ。“神”を見つけ出すまではっ!」
ゆりさんが、顔を上げる。彼女の目は少し赤くなっていた。
彼女の決意の言葉に対する
「そう。それなら、私も手伝うわ」
「......どういうつもり?」
「だって、今のままじゃ消えられないでしょ? みんなには、幸せな想い出を持って、次の人生を迎えて欲しい」
この時の
「あたしも、手伝います。あたしの未練も、そう簡単には晴れないと思いますから」
「
「
この人たちになら話しても良いと、不思議とそう思えたから。
「最後は、廃工場の崩壊に巻き込まれて、あたしの人生は終わったみたいです」
「......重いわね」
「みたいって?」
「
「
今度は、ゆりさんが首を傾げた。
「
「なるほどね。
「はい」
そして私の未練は、一人残してしまった兄のこと。
「それで、あなたはの未練は? ここに居るってことは、何かあるから長年留まっているんでしょ?」
「うん」
そう。
「まあ、話したくないなら無理強いはしないけど」
「お礼を言いたい」
「お礼?」
「うん。私は......私に生きる時間をくれた人に、お礼言いたい」
「少しの時間だけでも生き長らえたお礼を言いたくて、何十年もここに留まってる、と」
「うん」
ゆりさんは、大きなタメ息をついた。
気持ちは良くわかります。
「あたしたち、みーんな......」
「難儀な未練を抱えてるっすね」
「ほんと、嫌になるわ」
ゆりさんと私は、お互いに顔を見合わせて苦笑い。
「それで、どうしますか?」
「そうね。あたしは、神を探すわ。手伝ってくれるかしら?」
「当然っす」
「うん」
「......ありがと。これからは、
「うん、ゆり」
「ええ、
「どうぞー。あたしも名前で呼ばせてもらいます」
「うん、
「はい、決まり。それで今後だけど、
「どうやって復帰すればいいのかしら?」
「それは、任せてください。あたしに策があります」
例の動画と問題用紙を使う時が来ました。
まあ、ゆりさんたちは何かしらの処分を受けることになると思いますけど、それはそれで面白そう。
「それは、
「うん、わかった」
「了解っす」
明日は休日、今日を入れて最短で二日後。準備するには、十分な時間がある。
「
「......黙っておく。士気に影響が出ることは、今は避けたいわ。けど、いつか必ず説明する」
「そうですか。では二人は、今まで通り
「ええ、お願いするわ」
当面の事が決まり、私たちは協力して神を探すことになった。
「そうだ、
「そうですね」
確かにゆりさんよりも長い時間、この世界に居て「
絆創膏を剥がして、先日カッターナイフで切った指先を見せる。血は止まっているけど、やはり切り傷はハッキリと残っていた。
「数日前に切ったキズです。どう、思いますか?」
「う~ん......とても不思議。ちょっと、調べてみるわ」
「お願いします」
既に消灯時間を過ぎていることもあり、今日はこれで解散になった。
これで、何かが解き明かされるかも知れない。
少しだけ、そんな気がした――。