Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode21 ~気配~

翌日のお昼。

 報道部の活動を終えた私は一人、大食堂でお昼ご飯を食べていた。(かなで)さんは、私の特異性について調べると言ってましたけど、どうやって調べるんですかね。考えられるとしたら、生徒会室もしくは、彼女の部屋に設置されているパソコンが最有力。箸を進めながら昨夜の出来事を思い返していると、隣に人の気配を感じた。

 顔を上げる。

 近くに、通信士の遊佐(ゆさ)さんが立っていた。彼女は、なぜか目を丸くしている。

 

「どうしたんすか?」

「いえ、声をかけようとしたところで振り向かれたので......」

「はあ? それで、なにか?」

 

 事情はよく分かりませんが。ひとまず用件を尋ねると、遊佐(ゆさ)さんは淡々と話し出した。

 

「臨時会議のお知らせです。13:00本部へお願いします」

「わかりました。着替えてから行くことになるので、少し遅れるかもしれません」

 

 今の私は、天上学園指定の制服。女子寮へ戻って、SSS(スリーエス)の制服に着替えてから本部の校長室へ向かうとなると、集合時間ギリギリになりそう。

 

「問題ありません。友利(ともり)さんは、自分の用事を優先してくれて構わないそうです」

 

 つまり、暇なら来ればいい、ということ。一礼して遊佐(ゆさ)さんは、賑やかに昼食を食べている、二階席の戦線メンバーの元へと向かう。食べ終わった食器を返却し、寮の部屋へ戻る。

 招集は強制ではないそうですが。午後の予定は空いていたため、制服を着替えて、本部へ向かうことにした。

 大食堂の脇を通って、医局が入る建物を越えた先に、校舎や体育館へ繋がる第二連絡橋が見えた。この橋を渡れば、SSS(スリーエス)が本部を構える校長室も目の前。

 

「ん?」

 

 連絡橋横の植物園で、麦わら帽子を被った女子が、花壇の手入れをしていた。本部へ行く足を止めて、キレイな花が咲き誇る花壇へ向かう。

 

「こんにちは。キレイな花畑っすね」

 

 しっかりと、手入れが行き渡っているのがわかる。

 私の声に手を止めて、顔を上げた女子は、(かなで)さん。

 

「こんにちは。あなた、前にグラウンドで会ったわね。どちら様だったかしら?」

 

 そう言えば、今の私はSSS(スリーエス)の制服を着ているんだった。と言うか、本当に気づかない。青いリボンで結んでいる、ポニーテールを解く。

 

「あたしっすよ」

「あ、奈緒(なお)。どうしたの? その制服――」

「ゆりさんに、頂きました。あたし、お二人の連絡役ですから」

「ああ......」

 

 理由を聞いて(かなで)さんは、納得して頷いた。髪をまとめて結び直す。

 

「その制服、似合ってるわ」

「ありがとうございまーす」

 

 ゆりさんにも、SSS(スリーエス)の制服の方がしっくりしてると言われた。星ノ海学園が、セーラー服だったからなのかも知れない。色は、真逆の深紅でしたけど。

 

(かなで)さんは一人で、植物園(ここ)を管理してるんですか?」

「他にやる人、居ないから」

 

 植物園全体を見渡す。この花壇だけではなく、別の花壇やビニールハウスもある。一人だけで、これだけの敷地を管理するのは大変に思えた。

 

「あたしに、何か手伝えることはありますか?」

 

 手伝いを申し出る。やや遠慮気味だった(かなで)さんだったが、手伝うことを受け入れてくれた。蛇口に繋がるホースに園芸用のアタッチメントを取り付けて、黄色と白の花々が咲き誇る花壇へ水を撒く。花々が付いた無数の水滴に日差しが反射して、まるで宝石を散りばめたみたいにきらきらと輝いて見える。

 

「キレイね」

「キレイっす」

 

 花を眺めながら作業していると、思い出した様に(かなで)さんが話し出した。

 

奈緒(なお)の、ケガのことだけど」

「あ、はい。何かわかりましたか?」

 

 手を止めて、(かなで)さんの隣でしゃがむ。彼女は、小さく首を左右に振った。

 

「分からなかった」

「そうっすか......」

 

 未知のソフトウェア、「Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)」を操ることの出来る(かなで)さんなら、何か掴めるかと期待していたんですけど。

 

「だけど、おかしいの」

「えっ?」

 

 話しには、続きがあった。

 

「えっと......。生徒名簿から奈緒(なお)の項目を選択すると、エラーが出て見れなかった」

「あたしだけ? 他の人は?」

「何人か試したけど、みんな見れた。ゆりの項目も見れたわ」

 

 ゆりさんのも見れたとすると、もしかして......。

 

熊耳(くまがみ)さんと言う人の項目は見ましたか?」

「くまがみ?」

 

 少し考えたあと、ポンっと手を叩いた。

 

「ああ、生きていた頃の奈緒(なお)の上司の人ね。いいえ、見てないわ。特徴的な名前だから、見ていたら覚えてると思う」

「今度、調べていただけますか?」

「うん、わかった」

 

 熊耳(くまがみ)さんも特殊能力者。けれど私と違って、ケガは直ぐに治る。もし熊耳(くまがみ)さんの項目を閲覧することが可能であれば、特殊能力者で括っている訳ではなく、私にだけ、何かしらの制約がかかっていると断言することが出来る。

 そしてそれは、この世界を創造したであろう「神」への手がかりになるかも知れない。

 

「あっ......ちょうちょ」

「紋白蝶っすね」

 

 花の上をひらひらと舞う蝶を、(かなで)さんは両手で優しく包み込む。

 

「お前ら、そんなとこで何してるんだー?」

 

 突然、後ろから声を掛けられた。振り向いて、声の主を確認する。SSS(スリーエス)の幹部、音無(おとなし)さんが立っていた。

 

「草むしりとか......」

「水やりですね」

 

 立ち上がって、二人で質問に答える。

 (かなで)さんが両手を開くと、紋白蝶は優雅に空へ飛んでいった。

 

「そ、そうか......」

 

 音無(おとなし)さんは、若干戸惑った様子で顔を逸らしながら頬を触る。――これは、アレっすね。

 

「あっ、そうだっ。今からみんなで、川釣りへ行くんだ。お前らも来いよ」

「川? あそこに近づくのは校則違反よ。危ないから」

 

 今回の招集理由は、川釣りだったんだ。ちょっとお節介を焼きますか。

 

「いいんじゃないっすか? もう、生徒会長じゃないんですし」

「でも、生徒だから......」

 

 律儀な人っすね。見かねた私は、リボンを解いて風に流す。

 

「ああ~、リボンがぁ~。橋の下へ飛んでいっちゃいました。音無(おとなし)さん、探すの手伝っていただけますか?」

「あ、ああ。任せろ」

「ありがとうございまーす。(かなで)さんも、一緒に探してくれませんか?」

「......ハァ、仕方ないわね」

 

 

 呆れ顔で小さくタメ息ついた(かなで)さんは、軍手を外して作業道具を片付け始めた。ヘアゴムでポニーテールを作り直し、音無(おとなし)さんの手も借りて、手分けして片付ける。

 

「よし、じゃあ行こうぜ」

 

 踵を返して歩き出した音無(おとなし)さんに着いていった(かなで)さんが、途中で立ち止まり振り返った。

 

奈緒(なお)、どうしたの?」

「いやー、お邪魔かと思いまして」

「な、なに言ってんだよっ。戦線のみんなも居るんだって、お前も来いよっ!」

 

 慌てて、私にも声を掛けて来た。これは、確定っすね。

 

「はいはい、わかりましたよ~。そう言う事にしといてあげま~す」

「ん?」

 

 私たちのやり取りに首を傾げている、(かなで)さん。分かっていないみたいですね。少し早足で植物園を出ると、SSS(スリーエス)の集団の背中が見えた。

 

「おーいっ」

 

 音無(おとなし)さんが、集団に声をかける。

 その中の一人、日向(ひなた)さんが足を止めて振り向いた。

 

音無(おとなし)。お前、どこに......って、天使ッ!」

 

「天使」というワードに、SSS(スリーエス)の全員が振り返った。見たところ、幹部が勢揃い。彼らは(かなで)さんの姿を確認すると、ゆりさんを先頭に差し出して、彼女の後ろに隠れる様に隊列を組んだ。群れずに一歩横に距離を取って立ってる、熊耳(くまがみ)さんを除いて。

 

「戦線メンバーの友利(ともり)はともかく。お前、なんてヤツを連れてくんだよ!?」

「いいじゃないか。交ぜてやろうぜ」

 

 日向(ひなた)さんの非難に音無(おとなし)さんは、寛大な対応を求めた。

 

「我らが戦線の敵だぞッ!? 宿敵だぞッ!?」

 

 姿は見えないけど、後ろでハルバートが動いてる。これは、野田(のだ)さんですね。

 

「アホですねっ」

「あさはかなり」

 

 ゆりさんの後ろに隠れている男子とは違い、彼女の横に居るユイさんと椎名(しいな)さんは突っ込みを入れる。

 

「聞いてくれ、もう無害だ。敵じゃない」

「だが、曲がりなりにも元生徒会長だぞッ!」

 

 また、ハルバートが動いた。

 

「因みに、現生徒会長代理もいますが」

「その通りです。が、その前に僕は神です」

 

 高松(たかまつ)さんと、彼の頭の上に居るのは直井(なおい)さん。何で、直井(なおい)さんが居るんすかね。

 

「どうすんだよ? ゆりっぺ」

「そうね......」

 

 ゆりさんと目が合った。いいっすよね、と目で合図を送る。

 

「まあ、いいんじゃない。今は、生徒会長じゃないんだし」

 

 意外な答えに、彼女の後ろの戦線メンバーが「ええーっ!?」と声を揃えて大声を上げた。多少心配する声が上があがったが、リーダーの決定は絶対らしく、(かなで)さんも一緒に川へと向かうこになった。

 ゆりさんの隣へ行くと、すぐに話しかけられた。

 

「いつものリボン、どうしたの?」

「風に飛ばされました。河原に落ちてると思います」

「ああ、そう言うことね」

 

 すぐに察してくれた。

 

「聞きたいことがあるんですが」

「なーに?」

「生きていた頃と、ここに来た時の季節がズレてるみたいなんですけど?」

 

 私が死んだのは、ちょうど梅雨に入る頃。でも、ここで目覚めた時は冬服だった。

 

「ここに来る人たちは、みんなバラバラなのよ。季節も、時代もね」

「そうなんですか?」

「ええ、椎名(しいな)さんが分かりやすい例ね。現代の日本では、あり得ない教育環境で生きてきた子よ」

 

 確かに、椎名(しいな)さんの身体能力は半端じゃなかった。

 

「さぁ、着いたわよ」

 

 人工的に作られた階段を下ると、河原に出た。

 川幅は広く、水深も深そう。確かに、足を取られるようなことになれば危ないですね。

 

「シャアァーッ!」

 

 川に飛び出る様な岩場に座っていた釣り人が、見事に魚を釣り上げた。

 

「彼は、斉藤(さいとう)くん。普段はギルドで、銃造りを担当しているわ」

「けど、相当な釣りマニアでな。別名、“フィッシュ斉藤(さいとう)”と呼ばれてる。この作戦(オペレーション)の時だけは、あの荷車を引いて、地下から釣具を運んで来てくれるんだ」

 

 ゆりさんと日向(ひなた)さんが説明してくれた。フィッシュ斉藤(さいとう)......生きていた頃、似たような名前を名乗っていた人がいた。

 

「よーしっ、始めるかっ!」

 

 松下(まつした)さんが、右手を大きく突き上げる。

 それが、作戦開始の合図になった。釣り針にエサを付けていると、熊耳(くまがみ)さんがやって来た。

 

「お前、釣りの経験は......あったな。山で」

「なんで知ってんすか?」

「監察も、仕事の一つだからな」

「......信用されてなかったんすか」

「そう言う訳じゃない、定期的な見回りのようなものだ。お前たち以外の調査チームにも監察は出ていた。別の連中がな」

 

 どこか懐かしそうに話す熊耳(くまがみ)さんと並んで、竿を川に向けて振る。すぐに反応が来た。釣り竿を、思いきり引き上げる。

 

「おおーっ、アユだっ!」

「ほう、デカイな」

「あら、やるじゃないっ。あたしも、負けてらんないわねっ!」

 

 久しぶりの釣りを楽しんでいると突然、川の中央が渦を巻き始めた。

 

「あれは! 奈緒(なお)ちゃん、熊耳(くまがみ)くん、急いで竿を上げてっ!」

 

 ゆりさんの慌てようから、ただならぬ気配を感じた私たちは、指示に従って釣り竿を上げる。よく見ると、渦の中心に釣り糸が伸びていた。

 その糸の先は、(かなで)さんの釣り竿に繋がっていた。

 

「うそっ!? あの子の、釣り竿にかかっちゃったのっ!?」

「なんすか?」

「この川の主よっ。奈緒(なお)ちゃんは、川から離れて。下手したら、ケガするわっ」

「分かりました」

 

 熊耳(くまがみ)さんにクーラーボックスを任せ、少し離れた位置で、川の主とSSS(スリーエス)の戦いを見守る。

 

日向(ひなた)、手伝えっ!」

 

 音無(おとなし)さんが加勢を要請すると、ゆりさんと熊耳(くまがみ)さんを除く戦線メンバーは(かなで)さんの後ろに回り、川の主と一戦を交える。綱引きの要領で一致団結して、しなる釣り竿を引く。

 

「今だ! 引けーッ!」

 

 斉藤(さいとう)さんの指示で、(かなで)さんが大空に飛んだ。川の主、超巨大魚と戦線メンバーを引き連れて上空へ舞い上がった。あれも「guard skill(ガードスキル)」の一種なのだろうか。

 見守っていると上空で。川の主が口を開いた。戦線メンバーたちは、その口へ向かって落下していく。

 ――食べられる、と思った瞬間、巨大魚が一瞬でバラバラになった。

 

「今の、何かしらの?」

「何かしらのスキルだとは思いますけど......」

 

 (かなで)さんが操る「guard skill(ガードスキル)」によるものだと思う。どんなスキルかは、不明。ゆりさんが知らないとなると、新たなスキルである可能性もあり得る。

 何はともあれ、作戦無事に終了。

 

 

         * * *

 

 

野田(のだ)さん」

「なんだ? うぐっ......!?」

 

 出来上がった料理を近くに居た、野田(のだ)さんの口に押し込む。

 

「どうっすか?」

「......うまい」

「よっし、完成。高城(たかじょう)さん、お皿取ってください」

「私は、高松(たかまつ)ですが......?」

 

 主の大量の切り身の処理に困ったSSS(スリーエス)は、腐らせるのも勿体ないという理由で、一気に調理して一般生徒(NPC)にも振る舞う事にした。

 

「すげぇーいい匂いだな。どれ、一つ......痛ぇ!」

 

 盛り付け途中の料理に手を伸ばした藤巻(ふじまき)さんの手を、逆さに持ち替えた菜箸で叩く。

 

SSS(あなたたち)の分は、ちゃんと取ってあります。配り終わるまで我慢してください」

「いいじゃねぇか、ちょっとぐらいっ」

 

 目を細めて、藤巻(ふじまき)さんを見る。

 

「わ、わかったよ。くそっ......」

 

 諦めたらしく、大山(おおやま)さんの後ろで食材を運び始めた。盛り付けの終わったお皿を、おぼんに乗せる。

 

「あっ、直井(なおい)さん、おぼん運んでください」

「貴様、僕は神だぞ? 神を小間使いにする気かっ!」

「いいから運べよ」

「あっ、音無(おとなし)さん。精一杯運びまーすっ!」

 

 直井(なおい)さんは、音無(おとなし)さんの命令には従順、と。あの時のハグが効いたんでしょうか。

 

「なあ、立華(たちばな)

「なに?」

「下の名前で呼んでいいか?」

 

 近くで野菜の下処理をしている、二人の会話が聞こえてきた。音無(おとなし)さんは、意外に積極的なんすね。

 

「どうして?」

「親しくなったからだよ」

「なったかしら?」

「なったじゃないか。一緒に釣りして、一緒に料理して......それに最初から思ってたんだよ。綺麗な名前だなって......好きだよ、お前の名前」

 

 この先を聞くのは、無粋ですね。

 さて、集中し直しますか。止まっていた手を動かす。

 

「美味い! これ、友利(ともり)が作ったのか?」

「ん?」

 

 顔を上げると、岩沢(いわさわ)さんが居た。近くに、ガルデモメンバーも居る。

 

「はい。口に合いましたか?」

「すげーうまい。な、ひさ子」

「ああ。友利(ともり)は、料理上手だな」

「生きていた頃は一人暮らしだったんで、たまに自炊してたんです」

 

 入江(いりえ)さんと関根(せきね)さんも、美味しそうに食べてくれていた。一般生徒(NPC)に配り終えて夕食にありつく、食べ終わる頃には月が登り、辺りは夜になっていた。

 大階段近くの水道で、食器の後片付け。

 

「ゆりっぺは?」

「さあな」

 

 そう言えば、河原で「先に行っていて」と別れたきり、ゆりさんの姿は見ていない。近くで、ドサっと何かが倒れる様な物音がした。目をこらして見ると、ゆりさんが倒れていた。

 

「ゆりさんっ」

 

 洗っていた食器を置いて、すぐさま駆け寄る。倒れているゆりさんを支える。彼女の制服は所々切れていて、身体も傷だらけだった。

 

「ゆりっぺっ、誰にヤられたッ!」

 

 野田(のだ)さんが問い掛けにゆりさんは、小さな声だったけど、ハッキリと答えた。

 ――天使、と。

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