Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

23 / 39
Episode22 ~能力~

(かなで)は、大丈夫なのか? かなり深い傷だぞ......」

 

 医局のベッドで穏やかに眠る(かなで)さんを心配して、音無(おとなし)さんは不安げに呟いた。

 

「あたしたちと同じよ。どんな致命傷でもじきに治るわ」

 

 切り刻まれた制服をテープで補修しながら、ゆりさんは答える。ケガは完治していても、制服に付いた汚れと血の跡が痛々しい。

 昨夜、突如して現れた「天使」。

 その姿は、(かなで)さんの生き写しだった。しかし、(かなで)さんとの違いは好戦的な性格で、瞳も冷たく血のように真っ赤だった。

 もう一人の天使は、一人河原に残っていたゆりさんに警告なしで攻撃を仕掛けた。ゆりさんは、自身の身を守るため応戦するも「guard(ガード)skill(スキル)」を惜しみなく駆使した容赦のない攻撃を仕掛ける天使を相手に苦戦を強いられ、SSS(スリーエス)が料理を振る舞っていたグラウンドへ逃げ込み、実行部隊と共に戦うも仕留めきれず。最後は、(かなで)さんが刺し違える形で、冷酷な天使を止めることが出来た。

 

「同じ天使(ヤツ)が二人って、どういうことだよ? そんな訳わからねぇー世界になっちまったのかっ?」

「理由は、あるわ」

 

 日向(ひなた)さんの不満と不安が混ざった言葉を聞いて、ゆりさんが語った理由。

 先の天使エリア侵入作戦の時に発見した、能力開発のソフトウェア「Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)」の仕組み。冷酷な天使は、開発された能力の一つ「 harmonics(ハーモニクス)」という名の「guard(ガード)skill(スキル)」により産み出された、(かなで)さんの分身。冷酷な性格については、強い攻撃の意識を持った時に産み出された分身のためと、直井(なおい)さんは推測した。

 今のところ対処方がないことから、時間稼ぎのためゆりさんを除く戦線メンバーは、しばらく真面目に授業を受ける振りをすることに決まった。

 

「お待たせしました」

「行きましょ」

 

 寮の部屋で学園指定の制服に着替え、女子寮の管理室に寄ってからゆりさんと合流。分身を産み出せる能力があるのなら、消す能力もあるハズと考えた私たちは、それを探るため(かなで)さんの部屋へと向かった。

 

「よし、ピッキングで......」

「カギ、ありまーす」

「えっ?」

 

 マスターキー使って、ロックを解除。ドアを開く。

 

「どうやって?」

「特殊能力を使って、管理室からマスターキーを拝借しました」

「......便利な力ね」

 

 部屋に入り、内側から鍵を掛ける

 ゆりさんは、さっそくパソコンを立ち上げた。液晶にパスワード入力画面が表示される。

 

「パスワード......分かりますか?」

「ええ。以前侵入した時に、竹山(たけやま)くんが解析してくれたわ。竹山(たけやま)くんは、奈緒(なお)ちゃんがPCルームで見つけてくれた男子よ」

「ああ~、おかっぱ頭の......」

 

 実際は、熊耳(くまがみ)さんが見つけてくれた人ですけど。

 

「えっと......」

 

 ゆりさんはキーボードを叩いてパスワードを入力し、エンターキーを押した。ディスクトップの画面が表示され「Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)」のショートカットをクリックしてアプリケーションを立ち上げ、分身を消す方法を調べ出した。

 その間に私は「Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)」のマニュアルを手にとって開く。文章は全て英語の上に専門用語ばかりで、解読するには時間がかかりそう。

 

「あったっ。奈緒(なお)ちゃん」

「あ、はい。なんすか?」

 

 マニュアルから目を外して画面を見ると、二人が一人になるイメージが表示されていた。

 

「“absorb(アブソーブ)”......?」

「分身を元に戻すスキルみたいね。本来なら、この命令で戻るんだろうけど......」

 

 (かなで)さんは、生み出された分身を消す「absorb(アブソーブ)」を使わずに分身と刺し違えた。

 

「うーん、無意識に産み出された分身ため信号を受け付けなかった?」

「それが有力ね。このプログラムを書き換えられればいいんだけど、マニュアルは?」

「どうぞー」

 

 とても分厚い「Angel(エンジェル)Prayer(プレイヤー)」の解説書を渡す。ゆりさんは、ページ開くと目を細めた。

 

「うわぁ、何よこれっ? 全文英語じゃないっ」

「しかも専門用語ばかりです」

「くっそ......。竹山(たけやま)くんが居れば......」

 

 竹山(たけやま)さんは河原で、(かなで)さんの釣りの犠牲になり、空の彼方まで飛ばされて現在行方不明。

 

「メンバー総出で探しますか?」

「そうね、飛ばされた方角はわかるし。けど、一応保険を掛けて置くわ。分身を生み出す「 harmonics(ハーモニクス)」と、生み出した分身を消す「absorb(アブソーブ)」を連動させて――」

 

 キーボードを操作して、プログラムを書き換えていく。

 

「タイムウェイトは10秒! これで、どうだっ!」

 

 画面上に、カウントダウンが表示された。

 

「10秒って待ってると長いわね」

「そうっすね」

 

 カウントがゼロになると「absorb(アブソーブ)」が強制的に発動して一人に戻った。

 

「よしっ。これであとは、(かなで)ちゃんに“ harmonics(ハーモニクス)”を使ってもらえば――」

「連動して“absorb(アブソーブ)”が発動して、分身は(かなで)さんの中に戻りますね」

「ええ、さっそく保健室へ戻りましょ。そろそろ起きてると......ん? これ、新しい能力が追加されてるわっ?」

「どれっすか?」

 

howling(ハウリング)」という能力が表示されていた。

 

「二本の“handsonic(ハンドソニック)”を共鳴させて、空気を振動させる能力みたいですね」

「ええ、爆音が轟くでしょうね。対多数用の新技ってとこか......。購買に、耳栓って売ってたかしら?」

「確か、あったと思います」

「そう。なら、後で買っておくわ。じゃあ行きましょ」

「あたしは、カギを返してから行きます」

「わかったわ。じゃあ、保健室でっ!」

 

 PCの電源を落としてたゆりさんは、先に医務室へ向かう。

 私は、「Angel(エンジェル )Prayer(プレイヤー)」の解説書を元の場所に戻して部屋を出た。管理室にマスターキーを返して、(かなで)が眠っている医局へ。建物に中に入ろうとしたところで、とても慌てた様子のSSS(スリーエス)幹部が数名外へ出てきた。

 最後に出てきた大山(おおやま)さんに声を掛ける。

 

「どうしたんすか?」

「あっ、友利(ともり)さんっ。大変なんだよっ。天使が居なくなっちゃったんだっ!」

(かなで)さんが? どういうことっすかっ?」

 

 大山(おおやま)さんに詰め寄る。

 

「戻ったら、医務室が荒らされてて......」

「何やってんだ! 行くぞ、大山(おおやま)ッ!」

「待ってよ、藤巻(ふじまき)くんっ。ごめん友利(ともり)さん、詳しいことはゆりっぺに聞いてっ」

 

 先に行った藤巻(ふじまき)さんを追って行った。

 状況を把握するため医局棟の医務室へ急いだ。

 

「ゆりさん」

奈緒(なお)ちゃん、やられたわ......」

 

 医務室の中は大山(おおやま)さんの言っていた通り、カーテンや布団が切り刻まれ荒らされていた。

 

(かなで)ちゃんが、連れ拐われた」

「もう一人の天使、ですね」

「ええ、プログラムを弄ったのがバレたみたい」

 

 なるほど......冷酷な天使は「absorb(アブソーブ)」を連動された「 harmonics(ハーモニクス)」を使わせないために、(かなで)さんをどこかへ連れ去った。

 

「既に、捜索の指示は出したわ」

「あたしも探します」

「お願い。あたしは、本部で報告を待つわ」

 

 医務室を出る。幽閉するなら人目につかない場所、となると学園全体を囲む森の中。あるいは、地下辺りが有力。とにかく、目撃者がいないか聞き込みをするため生徒の多い校舎方面へ向かう。

 校舎前に到着すると、昇降口から見知った三人組が出てきた。

 

「みなさん」

「あっ、友利(ともり)さん。もう体調はいいの?」

 

 報道部の一人、佐々木(ささき)さんが心配そうに聞いて来た。今日の私は、体調不良で欠席ということになっている。

 

「はい、ご心配お掛けしました。もう大丈夫です。ところで、立華(たちばな)さんを見かけませんでしたか?」

「会長さん? 会長さんなら、大きな荷物を抱えて体育館の方に行くのが教室から見えたよ。ね?」

 

 他の二人も、彼女の言葉に頷いた。体育館は、ひさ子さんが、ギルドへの入り口があると言っていた場所――決定的ですね。

 

「ありがとうございました」

「ううん、どういたしましてっ」

「ところで、授業中によそ見はダメっすよ」

「あ、あはは......」

 

 まったく、このコたちはっ。と、今はそんなことを言ってる場合じゃない。急いで戦線本部へ向かう。

 

神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 

 合言葉を言って、本部がある校長室に入り、ゆりさんへ報告を行う。

 

「天使は、ギルドです」

「そう、やっぱり......。遊佐(ゆさ)さん」

 

 トランシーバーに話しかけた。

 この様子、ゆりさんもギルドと踏んでいたらしい。

 

『はい、遊佐(ゆさ)です』

「天使を発見、幹部は体育館へ集合。ギルドへの降下準備をさせておいて。それから熊耳(くまがみ)くんには、本部へ来るように伝えてちょうだい」

『了解しました』

 

 トランシーバーを置くとゆりさんは、ふぅ......とタメ息をついた。

 

「なぜ、熊耳(くまがみ)さんを?」

「あなたの護衛よ」

「......あたしは行くな、ってことっすか?」

「ご明察。ギルドは先月爆破したけど、まだ活きてるトラップがいくつもあるわ。それに――プログラム改編前に、分身が「 harmonics(ハーモニクス)」を使っている可能性はゼロじゃない」

 

 地上も危険性を排除出来ない。

 それで、私の事情を知っている熊耳(くまがみ)さんを護衛につける、と。

 

「安心なさい。(かなで)ちゃんは、必ず連れて帰ってくるわ」

「お願いします」

神も仏も天使も無し(カミモホトケモテンシモナシ)

 

 廊下から、熊耳(くまがみ)さんの声が聞こえた。ゆりさんは、トラップを解除してから扉を開ける。

 

「いらっしゃい。熊耳(くまがみ)くん」

「何の用だ?」

「あたしたちは、これから天使を追ってギルドへ降下する。あなたには、奈緒(なお)ちゃんの護衛を任せるわ」

「わかった。気をつけろよ」

「うん、ありがと。じゃあ行くわ」

 

 愛用の白い軍師帽を被って、廊下に出た。

 

「ゆりさん」

 

 背中越しに声をかける。

 

「なーに?」

「耳栓、持ちましたか?」

「もっちろんよっ!」

 

 耳栓の入ったケースを掲げて、笑顔を見せた。

 遠くなるゆりさんの背中を見送って、私は熊耳(くまがみ)さんに話しかける。

 

熊耳(くまがみ)さん、図書館へ行きたいんですが。付き合っていただけますか?」

「ああ。俺は、お前の護衛だからな」

「お願いしまーす」

 

 校長室を出る。図書館へ移動する前に、熊耳(くまがみ)さんは学園指定の制服に着替えるため寮へ。男子寮の前で出てくるのを待つ。

 

「待たせたな」

「いえ、では行きましょう」

 

 大階段を下って、グラウンドから経由して図書館に到着。

 

「あたしは、視聴覚コーナーへ行きます。熊耳(くまがみ)さんは、どうしますか?」

「そうだな、雑誌でも見てる。何かあったら来てくれ」

「わかりました。では、一時間後にまたここで」

「ああ」

 

 熊耳(くまがみ)さんと別れて、視聴覚コーナーへ向かう。

 洋楽の棚で「ZHIEND(ジエンド)」のCDを探す。

 

「ぜっと、ぜっと。ん? お、おおーっ!」

 

 棚に「ZHIEND(ジエンド)」の新譜が追加されていた。

 さっそく、新譜を手に取る。新曲のタイトルは「Trigger(トリガー)」。ディスクを備え付けのコンポにセットし、ヘッドフォンを装着して、再生ボタンを押す。

 ギターのフィードバック音から始まり、激しい演奏とボーカルの美声が流れた。目を閉じて、音楽に集中する。

 

 ――なんだろう? これ......。

 

 最初は、初めて聞く新曲を聞き入っていた。

 けど、サビに入ると違和感を感じた。

 

『えっと......場所は、陽野森高校ですね』

『さぁ......僕には、ただあなたが破いたようにしか見えませんでしたが?』

『ゆさりんこと~、西森(にしもり)柚咲(ゆさ)ですっ』

『揃いも揃って、うっぜぇーなっ!』

 

 演奏の中に聞き覚えのある声が混ざる。

 記憶にある映像(イメージ)が頭の中を駆け巡り、激しい頭痛に襲われた。

 

『悪夢の内容を聞き出してください。崩壊の手がかりになるかもしれません』

 

 ――ここは......星ノ海学園、併設のマンションの通路。

 

『......なぁ友利(ともり)

『なんですか?』

『もし僕が、“時空移動(タイムリープ)”を使って未来から歩未(あゆみ)を救うために来たって言ったら......信じるか?』

『......信じますよ。あなたは、歩未(あゆみ)ちゃんのためならそうすると思います。わかってますよ』

『そうか......。もう一つ聞いていいか?』

『なんすか?』

『もし......お前が――』

 

 

         * * *

 

 

 と――。

 とも――何かが、聞こえる。

 友利(ともり)――誰かが、あたしを呼んでる?

 

友利(ともり)!」

 

 呼ぶ声に目を開けると、目の前に岩沢(いわさわ)さんと熊耳(くまがみ)さんが居た。

 

「気がついたか......よかった」

 

 身体を起こして辺りを見回すと、図書館の視聴エリアだった。外はもう、すっかり暗くなっている。

 

「どうしたんすか? 顔色悪いっすよ?」

「どうしたって、お前っ! 今、消えそうだったんだぞっ!」

「えっ? あたしが......」

 

 ――消えそうだった?

 

「どういうことっすか?」

「わからない。あたしが来たときには、意識がなくて......今にも消えそうな、そんな気がしたんだっ!」

「......大丈夫っすよ。ただちょっと、生きていた頃の夢を見ていただけっすから」

 

 そう、私が誘拐される数日前の夢。

 他人の特殊能力を奪い取ることが出来る、“略奪”の能力者である乙坂(おとさか)さんが、妹の歩未(あゆみ)ちゃんが巻き込まれる校舎の崩壊から救うため、未来から"時空移動(タイムリープ)"をして来た時の夢だった。

 だけど、あの時の質問を――私は、知らない。

 

「“ZHIEND(ジエンド)”の新譜が衝撃的過ぎて、気を失っちゃったみたいすっね。きっと」

「“ZHIEND(ジエンド)”の新譜......友利(ともり)、しばらく“ZHIEND(ジエンド)”聴くの禁止な」

「えっ! なんでっすかっ!?」

「お前に消えられたら、困るからだ」

「そんな簡単に消えませんって!」

 

 お互い引こうとしない。私にとって「ZHIEND(ジエンド)」の音楽は、この世界で唯一の楽しみと言っても過言じゃない。

 それでも岩沢(いわさわ)さんは、退かなかった。

 

「あたしの新曲が出来るまででいいっ。頼むっ、お前に聞いて欲しいんだっ」

 

 手を合わせた岩沢(いわさわ)さんは、真摯に頭を下げた。

 

「......わかりましたよ」

 

 あまりの剣幕に、渋々と了解。

 ここまでされたら断りきれない。

 

「話しは、ついたようだな。もういいか?」

熊耳(くまがみ)さん、なんすか?」

遊佐(ゆさ)から連絡が入った。天使を保護したらしい」

 

 ゆりさんの方は、うまく行ったんですね。

 

「そうっすか。(かなで)さんは今、どこに?」

「医務室へ向かっているそうだ」

「そうですか。では、あたしたちも行きましょう」

「ああ」

「では、岩沢(いわさわ)さん。お休みなさい」

「ああ、お休み」

 

 岩沢(いわさわ)さんと別れて、私たちは、医局の医務室へ向かう。

 

 夢に出てきた乙坂(おとさか)さんの質問――もし......お前が、“時空移動(タイムリープ)”を使えたら、いつに戻りたい? 私は――て、夢に真面目に答える必要なんてないっすね。急いで、(かなで)さんに会いに行きましょう。

 後ろをゆっくり歩く熊耳(くまがみ)さんを急かして、早足で医務室へ向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。