Angel Beats! ~First Love~   作:ナナシの新人

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Episode23 ~意識~

 医務室が完備されている医局棟へ入ろうとした直前、熊耳(くまがみ)さんが立ち止まり、校舎の方へ顔を向けた。

 

「どうしたんすか?」

「人だ」

 

 彼が指を差した方を見る。暗くて顔は識別出来ないけど、着ている制服からSSS(スリーエス)の男子ということが分かった。うつむき加減で、疲労困憊しているようで重い足取りで歩いている。顔が認識出来る位置までやって来た。

 

竹山(たけやま)

「えっ? ああ......、熊耳(くまがみ)さんですか」

 

 やってきた男子は、先日から行方不明になっていた、おかっぱ頭の竹山(たけやま)さん。今起きている事情を説明し、一緒に医局棟に入る。

 

竹山(たけやま)。お前、今まで何処に居たんだ?」

「天使に飛ばされて、学園敷地外の外壁に激突して気を失っていました。目を覚ましてからは、いっさい飲まず食わずで森から脱出したてきたんです......」

 

 ひびの入ったメガネを、クイッと上げた。

 

「あと僕のことは、クラ――」

「あっ、着きました」

 

 (かなで)さんが運び込まれたという、医務室に到着。

 何かを言いかけていた気がしましたが、(かなで)さんの安否確認が最優先事項。横開きのドアをスライドさせて、室内へ入る。

 室内に居たのは、ゆりさんと音無(おとなし)さんの二人と。そして、ベッドで眠っている(かなで)さんの三人だけで、他の戦線メンバーは居ませんでした。

 

「ゆりさん」

「ああ、奈緒(なお)ちゃん。熊耳(くまがみ)くんも。それに、竹山(たけやま)くんじゃない」

「ゆり、何があった?」

 

 思い詰めた表情(かお)をしている二人を見て、熊耳(くまがみ)さんが聞いた。

 

「詳しいことは、本部で話すわ。音無(おとなし)くん」

「......俺は、(かなで)を看てる」

「そう。行きましょ」

 

 (かなで)さんが眠る医務室に音無(おとなし)さんを残し、医局棟を出る。本部へ向かいながら、今回の詳しい経緯を聞いた。ゆりさんの危惧していた通り、もう一人の天使は、既に冷酷な天使の分身を大量に量産し、ギルド内に配置していた。SSS(スリーエス)は、多くの犠牲を払いながらも到達したギルド最深部の爆心地で、(かなで)さんを奪還に成功。

 作戦通り、(かなで)さんに分身を強制的に元に戻すため「 harmonics(ハーモニクス)」を発動してもらい「absorb(アブソーブ)」が連動して発動。生み出された分身は全て、(かなで)さんの身体の中へ戻った。

 しかし、その代償は大きく、好戦的な分身の意識を大量に戻してしまったことにより、身体に壮大な負荷がかかり、再び意識を失ってしまった、と。

 

「なるほど、そんなことが......」

「あたしの判断ミスよ。竹山(たけやま)くんの捜索に尽力すべきだったわ」

「いや、お前は組織を守るため最善を尽くした。竹山(たけやま)が無事に帰還することが出来たのも、天使の分身が消えたからかも知れない」

 

 私たちは運良く遭遇しなかっただけで、熊耳(くまがみ)さんの言うように、天使はギルド以外にも分身を配置していた思われる。

 

「そう言ってくれると、少しだけ救われるわ。竹山(たけやま)くん。あなたは今から、天使エリアへ侵入して“guard(ガード)skill(スキル)”を全て消去、ログインパスワードも変更して」

「わかりました」

遊佐(ゆさ)さん」

 

 竹山(たけやま)さんに指示を出した後、トランシーバーに話しかけた。

 

『はい、こちら遊佐(ゆさ)です』

竹山(たけやま)くんを、天使エリアへ侵入させる。サポート役として、英語とピッキングが得意なメンバーを二名、女子寮前に待機させて。それから幹部全員を本部に招集。松下(まつした)くんとTK(ティーケー)は、天使の監視のために医務室へ配置」

『了解しました』

 

 用件を伝えて、交信を終えた。

 

「じゃあ竹山(たけやま)くん、よろしく」

「はい、お任せください。あと僕のことは、クライ――」

「行きましょ。奈緒(なお)ちゃん、熊耳(くまがみ)くん」

 

 食堂や学生寮があるエリアとを繋ぐ、第二連絡橋の手前で竹山(たけやま)さんと別れた私たちは、本部を構える校長室が入る教員棟へ向かった。本部のソファーに座って、幹部が集まるのを待ち、招集をかけた幹部全員が集まったところで臨時会議が開かれる。

 

「今までにない事態です。天使のあんな状態は初めてです」

 

 先ず話しを切り出したのは、報告役を務める高松(たかまつ)さん。

 

「このまま目覚めないということも、場合によってはあり得るやも知れません」

「それこそイレギュラーな事態よ、必ず目覚めるわ。いつか目覚めて、ただ寝過ぎたという結果に変わる......それだけのことよ」

 

 ゆりさんは、高松(たかまつ)さんの言葉を否定した。

 彼女の言うように、目覚めないなんてことはあり得ない。

 なぜなら、ここは誰も病まないし、誰も死なないのだから。

 

「その時の彼女は、どっちの彼女なんだ?」

 

 部屋の隅で話しを聞いていた椎名(しいな)さんが、疑問を口にした。しばしの沈黙の後――。

 

「おわぁっ! 椎名(しいな)が喋ったっ!?」

「これは、相当重要な問題だってことだよ!」

 

 などなど......、戦線メンバーからは驚きの声が上がる。

 ゆりさんは、彼らの反応を気にする様子もなく、椎名(しいな)さんの質問に答えた。

 

「まさにそう、そこが問題よ」

「で、どっちの天使なんだ?」

「それは、最初の天使だよ。僕たちと一緒に釣りをした」

「だが、俺たちを襲った意識は、全て好戦的で冷酷だった」

「数で言えば、100対1くらいの割合だぜ?」

「フッ、愚かな。天使が今、なぜ意識を失っているのか。それは、たぶん――」

 

 ゆりさんが「guard(ガード)skill(スキル)」対策の手を打っていたことを聞いた直井(なおい)さんは、総合的に判断して不安要素を述べるなど、冷酷な天使と(かなで)さんの意識を巡って様々な憶測が飛び交う。

 

奈緒(なお)ちゃんと熊耳(くまがみ)くんは、どう思う?」

 

 ゆりさんは、口出しせずに黙って聞いていた私と熊耳(くまがみ)さんにも意見を求めた。熊耳(くまがみ)さんを見ると、お前から話せと言いたげな視線を向けられた。

 

「そうですね。それほど深刻に捉える様な事案ではないかと思います」

「......なぜ、そう言いきれるの?」

 

 組んだ手にアゴを乗せて、眉をひそめながら聞き返してきた。

 

「なぜって。それは、あなたたちの方がよくご存じのはずだと思いますが?」

 

 幹部同士は、どういう意味だ? と顔を見合わせている。

 壁に寄りかかり腕を組んでいた熊耳(くまがみ)さんは「フッ......」と、澄まし顔で小さく笑みを浮かべた。どうやら、彼は気づいたようすね。

 

「なるほど、そう言うことか。よくよく考えれば確かに、大した問題ではないな」

「でしょ? それより、晩ごはんにしましょう。さすがに、お腹が空きました」

 

 時計の針は、20時を回っている。いつもなら、お風呂に入っている時間帯。

 

「よくこんな時に飯の心配なんて出来るなっ!」

 

 藤巻(ふじまき)さんは声を荒げ、ゆりさんは小さくタメ息をつく。

 

「まあ、いいわ。みんな、夕食にしましょ」

「マジかよ、ゆりっぺ?」

「このまま考えていても答えは出ないわ。結局は、その時が来ないことにはね。それにお腹が空いてると、いざという時に力も出ないし。天使が、いつ目覚めるかもわからない以上、備えは重要よ」

「ゆりっぺがそう言うのなら、俺はそれでいい」

「お前はブレないな、野田(のだ)

 

 日向(ひなた)さんが呆れ声で、野田(のだ)さんに言った。ということで、全員で校長室を出て大食堂に移動してから晩ごはんを食べ、各々自室で待機。

 

「うーん......、今日はシャワーで済ますかぁ」

 

 消灯時間が近いこともあって私は、部屋に備え付けのシャワールームで汗を流すことにした。タンスから着替えを用意して、玄関近くのシャワールームへ向かう。

 脱衣所のドアノブに手を伸ばしたところで玄関のドアがノックされた。

 

「はーい」

 

 着替えを持ったまま、ドアを開ける。廊下に居たのは、着替えを持ったゆりさんだった。

 

「あら。奈緒(なお)ちゃんも、ちょうどお風呂だったのね。一緒に行きましょっ」

 

 

         * * *

 

 

『はぁ~......気持ちいいわね』

『そうっすね~』

 

 部屋のシャワーで済ますつもりだったんですが、結局一緒にお風呂に入ることに。消灯時間間際ということもあって、大浴場には私たちを含めて十人以下の生徒しかいない。

 

『それで?』

『うーん?』

『何か話があるから誘ったんしょ?』

 

 ゆりさんは、パシャっと顔をお湯で流してから話を切り出した。

 

奈緒(なお)ちゃんの思っている通りよ、(かなで)ちゃんのこと。どうして、そんなに冷静でいられるの?』

『さっきも言いましたけど、ゆりさんなら、わかるはずですよ』

 

 勿体ぶらないで教えなさい、と目を細めた。

 

『ここは、死後の世界。誰も死なないし、誰も()()()()

『あっ、なるほど。そう言うことか......』

 

 気づいたみたいですね。この世界の仕組みを少し考えればわかること。

 

『この世界では死なないし、病まない。例えどんな絶望的な確率だったとしても、外的要因で精神を病んだりすることは絶対にない』

『はい、その通りです』

 

 分身(コピー)は、あくまでも分身(コピー)でしかない。例え、どれだけ好戦的で冷酷な残忍な性格の分身(コピー)だったとしても所詮は、まがい物。偽物(コピー)が、本物(オリジナル)に勝ることは絶対にあり得ない。

 

『どんなに時間がかかっても(かなで)さんは、あたしたちの知っている(かなで)さんとして目を覚ますに違いありません』

『はぁ......ホント、敵に回さなくてよかったわ。あなたも、熊耳(くまがみ)くんも......。さあ、髪を洗いましょ、手伝うわ』

 

 やや自虐的に乾いた笑顔を見せた。

 

『お願いしまーす』

 

 湯舟から上がって、シャワー前へ移動。

 先に髪を流してもらっていると、岩沢(いわさわ)さんが入ってきた。

 

『よう。ゆり、友利(ともり)も』

『あ、こんばんはー』

岩沢(いわさわ)さんも、今からお風呂?』

『ああ、部屋でシャワーでもよかったんだけど、何となくな。そうしたら、お前らが居て驚いた。仲いいのか?』

『うわっ! なんすか......』

 

 先程の自虐的な笑顔とは違い、ゆりさんはイタズラな笑みを見せると、後ろから抱きついてきた。

 

『見ての通り、仲良しよっ』

『そうか、それは良いことだな』

 

 純粋な岩沢(いわさわ)さんには、冗談が通じないみたい。

 三人一緒にお風呂を上がり、脱衣所で着替える。

 

岩沢(いわさわ)さん、その下着......」

「ああ、これか? 前に購買で、友利(ともり)たちと一緒に買ったんだ。変か?」

「いいえ、似合ってるわ、ステキよ。いい趣味ね」

「そうか、ありがと。そうだ、友利(ともり)

「はい、なんすか?」

 

 パジャマのボタンを止めながら聞く。

 

「“ZHIEND(ジエンド)”は、聴いてないよな?」

「心配しなくても聴いてませんよー」

「何の話し?」

「ああ、実は――」

 

 岩沢(いわさわ)さんは、図書館で起きた出来事をゆりさんに話した。ゆりさんは目を閉じて聞いたあと、ゆっくり目を開きまっすぐ真剣な表情(かお)で、私を見た。

 

奈緒(なお)ちゃん、“ZHIEND(ジエンド)”聴くの禁止!」

「............」

「言っておくけど、意地悪で言ってるんじゃないわよっ?」

「それは、わかりますけど......」

 

 楽しみを奪われる私は、どうすればいいんっすか......。

 ん? 新譜じゃなくて、アルバムなら聴いても平気かも......熊耳(くまがみ)さんに頼んでみますか。

 

 

         * * *

 

 

 翌日、朝一番に誰かが部屋を訪ねて来た。

 玄関のドアを明ける。訪ねて来たのは、(かなで)さんだった。

 

「おはよう」

「おはようございまーす。目覚めたんですね。意識の方は、大丈夫っすか?」

「うん、壮絶な戦いだったけど。奈緒(なお)に、話があるの」

 

 (かなで)さんの声と瞳は、とても真剣に感じた。

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